米海兵隊人工知能実装計画 2025-30年(第1版)

今回紹介するのは、先般紹介した、米海兵隊の「米海兵隊人工知能戦略」の具体化のための計画である。これは、米海兵隊が人工知能を戦力として本格的に導入するための実行可能なロードマップを示したものといえる。本冊と付録Aから付録Kまで57ページにわたる文書であるが、ここでは、本文のみの紹介とする。(軍治)

米海兵隊人工知能実装計画

ARTIFICIAL INTELLIGENCE IMPLEMENTATION PLAN

Version 1.0

FY 2025 – 2030

2025.4.23

NAVMC 3000.1

United States Marine Corps

エグゼクティブ・サマリー

    1. はじめに
    2. 作戦上の必須事項
    3. アプローチ
    4. 実行
    5. 結論

略語リスト

用語の定義

エグゼクティブ・サマリー

米海兵隊(USMC)は、人工知能(AI)を、進化する現代戦の状況において意思決定の優位性を高めるための変革技術として認識している。米海兵隊のAI実装計画(AI IPlan)は、「戦術的末端部隊(tactical edge)における意思決定を強化するために人工知能の進歩を活用する」[1]という第39代米海兵隊総司令官の計画策定指針を実行するための重要な要素として、米海兵隊のAI戦略[2]の発表を受けて策定された。この計画は、フォース・デザイン[3]、海軍省(DON)が開発中のデータとAI兵器化戦略、国防総省(DoD)のデータ分析とAI戦略[4]、AIに関する大統領令14179[5]に概説されているものを含む主要な指示と一致している。

目的:AI実装計画(AI IPlan)は、米海兵隊のAI戦略を実装するための行動、主要責任室(OPR)、マイルストーンを特定する。この計画は、デジタル変革パイロット(DXP)プロジェクトを、短期的な実装手段とし、成功を測定・評価するための手段として確立する。この計画は、取組みの統一を達成するために活動を調整する統合文書としてデザインされている。戦略的指示に基づき、各到達目標と目標に関連する明確なタスクを特定する。

適用範囲:本文書は、艦隊海兵隊を主要顧客とする米海兵隊総軍に適用される。

アプローチ

  1. デジタル変革パイロット:デジタル変革とは、革新と効率化を通じて価値を高めるために、デジタル技術を採用し導入するプロセスである。この計画では、デジタル変革パイロット・プロジェクトを設立し、デジタル変革チーム(DXT)を配備し、成功した導入を支援・測定する。このパイロットは、以下に焦点を当てる。
  • デジタル、データ、分析、AIソリューションの提供。
  • プロセス最適化の提供。
  • デジタル、データ、AI運用の機会とリスクについてコマンドに助言する。
  • 既存のプロセスを検証し、データとAIの統合の機会を特定する。
  • 米海兵隊の整合と意思決定のためのデータおよびAIガバナンス構造によるレポーティング。
  1. AIの基盤としてのデータ:データ管理、ガバナンス、アーキテクチャは、効果的なAI導入に不可欠である。この計画は、米海兵隊のデータ実装計画(DIP)を更新するための現在進行中の戦略的取り組みを支援し、それに情報を提供するものであり、データ主導の意思決定へと文化をシフトさせるために、総司令官の検査プログラムに導入される検査可能項目の概要を示すものである。
  2. AIインフラ: AIインフラ運用計画策定チーム(OPT)は、ストレージと計算能力、リソース管理、開発セキュリティ運用(DevSecOps)、機械学習運用(MLOps)環境、米海兵隊全体(enterprise)および戦術的運用のための機会学習(ML)プラットフォームの要件を特定し、サイバーセキュリティを全体に組み込む。
  3. 労働力:この計画では、データとAIの戦略的到達目標を支援するために必要な労働力の変更を提案する。AIの実装に不可欠な3つの主要労働力グループがある。
  • AI能力を活用して作戦効果を高める米海兵隊員。
  • デジタル、データ、AIソリューションを構築、維持、改良する労働力。
  • AIやAI対応システム(AI-enabled systems)の利用について、リスクに関する意思決定を担うリーダーシップ。
  1. 訓練と教育: 適切な訓練と教育により、任務を成功させるための労働力を支援する。これには以下が含まれる。
  • 労働力のスキルアップのための即時教育の機会を開発し、利用できるようにする。
  • AIの労働力と総戦力を支援するために開発・制度化されたAI訓練・教育。
  1. 政策と政策阻害要因: 米海兵隊革新部隊(MIU)は、AI導入の障害となりうる既存の政策について評価を行い、提言を行った。米海兵隊革新部隊(MIU)は、検討すべき以下の分野を強調している。
  • 運用権限(authority to operate: ATO)プロセス
  • 既存のリスク管理のフレームワーク。
  • 米海兵隊全体でデータ管理が分断されている。
  • ソフトウェアの構築、配分、管理のための文化的アプローチ。
  1. 米海兵隊(USMC)デジタル変革センター: 米海兵隊(USMC)デジタル変革センター(CDX)の設立に関する評価が実施される。デジタル変革センター(CDX)は、健全なエコシステム、開発者コミュニティ、ユーザー基盤を支援し、成長させるようにデザインされたデジタル、データ、AIの知識ベースの製品を提供する。このセンターは、産学との強力なコネクションを通じて、AIを含む新興技術の軍種全体への展開を加速させる。
  2. AIガバナンス: AIガバナンスは、革新を奨励しつつ、コンプライアンス、リソースの調整、責任あるAI支援を保証する。この計画では、米海兵隊データ室(SDO)に、米海兵隊の全体の景観にわたる現行のガバナンス主体との統合の機会を特定することによって、AIガバナンスを確立することを課している。
  3. リソースのフレームワーク: この計画では、現在および将来の要件に対応する米海兵隊全体から末端部隊(enterprise-to-edge)の能力を支援するために、効果的なAIの実装と監視のために、米海兵隊全体でどのようにリソースを調整するかを説明している。

実行

タスクと主要責任室(OPR)は、効果的な実装を促進するために記載されている。各タスクには予想される主要業績評価指標(KPI)が含まれており、主要責任室(OPR)は本計画の公表後に主要業績評価指標(KPI)を改善する。主要責任室(OPR)は四半期ごとにAIワーキング・グループ(AIWG)にタスク実行の進捗状況を報告する。図1に、実装スケジュールとマイルストーンの概要を示す。

AI実装計画(AI IPlan)は、米海兵隊をAI対応軍に進化させ、即応性と有効性を高めて将来の紛争の課題に立ち向かう準備を整えるための道筋を描くことで、米海兵隊のAI戦略[6]を達成するための詳細なロードマップである。これは、AI技術の責任ある革新的な利用を通じて競争力を維持する米海兵隊の献身を示すものである。

実装スケジュール

図1. 米海兵隊 人工知能実装計画のマイルストーンと予定

本 文

1. はじめに

急速に進化する現代戦の状況において、情報を効果的に活用することは、あらゆるドメインと各用兵機能(warfighting functions)にわたる米海兵隊の成功にとって極めて重要である。このAI実装計画(AI IPlan)は、米海兵隊を21世紀の闘う部隊(fighting force)へと成熟させるための戦略的青写真であり、AIを各用兵機能(warfighting functions)とビジネス・プロセスに革新的に統合するものである。

AI実装計画(AI IPlan)は、米海兵隊がAIを採用し、活用し、統合するための実行可能で測定可能なタスクを概説している。任務の調整、スケーラブルな配備、責任あるAIガバナンス[7]、戦略的パートナーシップと協業、これらすべての狙いは、最も重要な要素である米海兵隊に権限を与えることである。フォース・デザイン[8]、海軍省(DON)が策定中のデータ・AI兵器化戦略、国防総省のデータ分析・人工知能導入戦略(Artificial Intelligence Adoption Strategy)[9]、AIに関する大統領令14179[10]と連携することで、米海兵隊のAI実装計画(AI IPlan)は、これらの戦略を実装するための構造化されたフレームワークを提供する。

1.1 目的

このAI実装計画(AI IPlan)は、米海兵隊のAI戦略[11]を実現するために必要な行動を特定する。これは、取組みの統一を達成するために活動を調整する統合文書としてデザインされている。概説された戦略的指示に基づいて、この実装計画は、具体的な到達目標と目標に沿った取組みの明確なラインを特定する。

タスク開発に加え、本書は付録B「リソーシング・フレームワーク」でリソースの調整、付録C「要件の整合」で要求事項の作成、付録F「AIリスク管理」でリスク管理、そして利害関係者の関与を取り上げ、実装プロセスのすべての側面が確実に実行され、測定されるようにしている。そうすることで、米海兵隊の様々な機能と作戦にAI技術をうまく統合するための基礎を築く。

1.2 問題提起

データ管理は米海兵隊におけるAIの導入に直面する重要な課題であり、現在のデータ情勢はAIソリューションの開発と拡張の課題であることを証明する。AI技術は急速に進化し続けており、ドクトリン、組織、訓練、装備、リーダーシップ・教育、人事、施設、政策開発(DOTMLPF-P)の分野で米海兵隊に機会を創出している。内在するデータの課題に対処するための現在進行中の並行した取り組みと歩調を合わせ、本計画は以下の点に焦点を当てる。

  1. AIと任務目標の不一致
  2. AIコンピテンシーにおけるギャップの拡大
  3. 米海兵隊全体(enterprise)から戦術的末端部隊(tactical edge)までのスケールでAIを展開することの難しさ
  4. 革新を阻害するレガシー・ガバナンスのフレームワーク
  5. 協業とパートナーシップの障壁

明確な実装ロードマップは、AIイニシアティブを任務の目標に沿って再編成し、AIの訓練と教育プログラムを強化し、革新を促進するためにガバナンスを合理化し、協業を拡大することによって、AIの能力を向上させる。

1.3 米海兵隊のAI運用に関する議論

インド太平洋軍を支援する第1海兵遠征軍(I MEF)は、5万人以上の米海兵隊員が広大な海域と沿岸域に分散して活動している。このような環境では、タイムリーな情報と効果的な意思決定が最も重要だが、分散したデータ、競合する電磁スペクトラム、限られた帯域幅によって複雑になっている。高度なAI能力は、第1海兵遠征軍(I MEF)がどのように任務を計画し、実行するかを変える可能性がある。

第1海兵遠征軍(I MEF) 能力強化概要

米海兵隊は前方指揮所において、多言語による傍受情報、センサー・データ、衛星画像を数秒で分析するために、AI対応能力(AI-enabled capabilities)を採用している。言語処理AIシステムは、意思決定者のために簡潔な要約を作成するのを支援し、コンピュータ・ビジョン・システムは、キル・チェーンを加速するために敵の位置や動きを特定するアナリストを補強し、指揮官が情報過多を受信するのではなく、作戦に集中できるようにする。

敵対的な妨害(jamming)や出荷の遅延によって状況が変化すると、兵站担当官は強化学習(reinforcement learning)による予測分析を活用して、重要な物資の流れを維持するために供給ルートを継続的に調整する。米海兵隊員は訓練と判断を活用し、AIが生成したコンテンツを肯定または拒否して、各行動が任務の意図に沿ったものであることを確認する。

アクセス可能なデータ、ハード化されたエッジ・コンピューティング、放射を統制された処理(emissions-controlled processing)は、競合するネットワークにおけるAIの統合に必要なコンポーネントのほんの一部に過ぎない。エンジニアは、予測が適切かつ正確であることを保証するために、劣化した条件下でモデルを監視し、継続的に訓練する必要がある。リーダーは、AIが成功と失敗の両方を拡大する可能性があることを十分に認識し、実行前にAIの責任ある使用のためのプロセスと手順が整っていることを確認する。

米海兵隊はAIを活用し、複雑な環境下での感知、判断、行動能力を高める。高度な技術を日々の作戦に組み込むことで、第1海兵遠征軍(I MEF)はスピード、精度、復元性を強化し、不確実性を決定的な行動に変えることができる。

図 2. 米海兵隊 AI 運用ヴィネットの情報フローの例

このヴィネットは、AIが第1海兵遠征軍(I MEF)内でどのように作戦を形成できるかを探るものであるが、同様のヴィネットは第2海兵遠征軍(II MEF)、第3海兵遠征軍(III MEF)、および米海兵隊全体の他のコマンドのために開発することができる。このヴィネットは、AIの学際的な性質、戦闘空間を再形成するAIを追求するデータ処理方法における信頼性の構築を理解する労働力の重要性を例証している。

1.4 範囲

このAI実装計画(AI IPlan)は、艦隊海兵隊を主要顧客とする米海兵隊総力戦に適用される。資源と活動を調整するための中核的文書として活用されるべきである。

2. 作戦上の必須事項

米海兵隊のAI戦略は、米海兵隊に高度なAI能力を付与し、決定的な情報優位性を支援するというビジョンを提示した。この文書は、必要な行動を示すことによって、そのビジョンを運用化するものである。AI戦略は、このAI実装計画(AI IPlan)に示された活動を支える原動力である。成功を収めるための作戦上の必須事項は、これらの活動の実行にかかっている。

2.1 指導原則

以下の指針は、米海兵隊全体にわたるAIの統合を支援するものである[12]。AIは、重要なシステムやインフラ、自律走行車、サイバー・フィジカル・システム、ITサービス、任務計画策定、画像分析などに影響を与える機能横断的な技術である。これらの指導原則は、このような多様な状況におけるAIの統合に適用することができる。

  1. 国防総省の「責任あるAI」の原則[13]に従い、意思決定と作戦の有効性を高めるための信頼できる洞察を提供するために、AIの統合を加速する
  2. AIを迅速に実装するために知識、スキル、ツールで米海兵隊に力を与える。そのためには、AIに精通した労働力(workforce)を育成し、既存および将来の課題に対する斬新なソリューションを模索する革新的な能力を発揮させる必要がある。
  3. AI能力を監督、採用、統合できるAI労働力(AI workforce)を育成する
  4. データの可視性、アクセス性、理解性、リンク性、信頼性、相互運用性、安全性(VAULTIS)[14]を確保するための条件と要件を設定する
  5. 戦略的パートナーシップを構築・強化し、学術界、産業界、統合パートナー、任務パートナーとの間で、適用を加速し、革新を促進し、相互運用性を高める。

図3. 米海兵隊の人工知能を支える指針となる原則。

3. アプローチ

このセクションでは、米海兵隊のAI戦略の到達目標と目標[15]を達成するために、AI実装計画(AI IPlan)を支援する構成要素の概要を説明する。各活動は、主要責任室(OPR)がプロジェクト計画を策定し、進捗報告を支援し、成功した実装を測定するための主要業績評価指標(KPI)を改訂することを要求する。進捗報告に関する期待事項については、本計画の公表後、追加的な連絡を通じて概説する。

3.1 デジタル変革パイロット・プロジェクト

デジタル変革とは、革新と効率性によって価値を高めるために、デジタル技術を採用し、導入するプロセスである[16]。デジタル変革は、分析とAIを活用することで、データを戦略的アセットとする。デジタル変革は、効果的なAIの導入に必要な全体的なアプローチであり、任務の整合性を確保し、不必要で過度に複雑なAIソリューションを追求するのではなく、シンプルで効果的で理解しやすく、手頃な価格のソリューションを特定することで、問題解決のジレンマを回避する。デジタル変革は永続的な行動であり、米海兵隊は当分の間、軍種のデジタル変革を継続する。

米海兵隊は、この計画の当面の手段として、デジタル変革パイロット(DXP)プロジェクトを通じてデジタル変革チーム(DXT)を設立する。デジタル変革パイロット(DXP)は以下を通じて実装を支援する。

  • プロセスのデジタル化と最適化、堅牢なデータ・パイプラインの確立、高度な分析の提供、業務効率を高めるAI主導型ソリューションの導入により、統合デジタル能力をコマンドに提供。
  • AI運用に伴う機会とリスクについて、指揮官とその部下に助言する。
  • 技術統合のための既存プロセスを検証し、デジタル・ソリューションの有効性と拡張性を評価する。
  • データとAI導入に関する重要な機会と課題について、最低でも四半期ごとにAIワーキング・グループ(AIWG)に概要と報告書を提供する。

デジタル変革チーム(DXT)は、軍種を最先端のデジタルとAIの能力を活用できるデータ中心の組織に変革する上で不可欠な役割を果たす。デジタル変革チーム(DXT)は、付録J「AIと分析的成熟モデル」のAI・分析成熟度モデル(AIAMM)を出発点として活用し、コマンドの成熟度レベルを理解することで、取組みとリソースの適切な集中を支援する。

デジタル変革パイロット(DXP)は、制度改革のためのドクトリン、組織、訓練、装備、リーダーシップ・教育、人事、施設、政策開発(DOTMLPF-P)プロセスの推進において、軍種を支援する。デジタル変革パイロット(DXP)は、米海兵隊のAI戦略[17]の全体的なビジョンと、この文書の実装アプローチを採用し、現在の任務の問題を解決し、軍種レベルの決定に情報を提供する重要なフィードバックを提供するために、即時の結果を達成することに重点を置く。

デジタル変革パイロット(DXP)の詳細は付録A「デジタル変革パイロット・プロジェクト」に記載されており、大規模で多様な米海兵隊全体(enterprise)にモジュール式でスケーラブルな導入を可能にしている。

3.2 AIの基盤としてのデータ

データは分析とAIの基盤である。米海兵隊データ室(SDO)は、データ・ライフサイクル管理、データ品質とガバナンス、スケーラブルで堅牢なデータ・アーキテクチャを含む既存のデータ課題に対処するため、データ実装計画(DIP)[18]を積極的に更新している。

  1. データ・ライフサイクル管理

データの生成、保存、変換、提供までのすべての段階をカバーする堅牢なフレームワーク。ライフサイクル管理により、AIモデルが開発され、システム内を継続的に流れる高品質なデータに基づいて訓練されることが保証される。

  1. データ品質とガバナンス

データがクリーンで、完全で、正確で、ポリシーや規制に準拠していることを保証するフレームワークを提供する。強固なデータ・ガバナンスとセキュリティ対策は、機密情報を保護し、信頼性の高いAIモデルのために高いデータ品質を維持するために不可欠である。

  1. スケーラブルで堅牢なデータ・アーキテクチャ

スケーラブルで弾力性のあるデータ・アーキテクチャは、米海兵隊全体(enterprise)のデータ環境を管理・保護するための鍵となる。ゼロ・トラストの原則[19]に沿ったこのアーキテクチャは、開発、セキュリティ、運用のパイプラインを合理化する。可視性、アクセス性、理解性、リンク性、信頼性、相互運用性、安全性(VAULTIS)[20]の原則を達成するためには、データ・ライフサイクル管理とデータ・ガバナンスとともに、適切なデータ・アーキテクチャが不可欠である。ハイブリッドなマルチクラウド組織として、AIモデルの開発に必要な大量のデータにアクセスし、モデルのライフサイクルを通じて継続的な学習を行うためには、データ・サイロを管理し、マイクロサービスベースのエコシステムを推進するためのデータ・アーキテクチャが不可欠である。技術が急速に変化する中、データ・アーキテクチャは柔軟性と機動性(maneuverability)を最大限に高めなければならない。

  1. 変化の管理

このフレームワークの導入には大きな変革が伴うため、変化に対する抵抗が生じ、革新が阻害される可能性がある。そのため、付録E「変更管理」に詳述されているように、効果的な変更管理が不可欠である。これによって、組織への広範な導入が保証され、安全かつ効率的な方法でAIソリューションの開発、展開、拡張性が支援される。

すべてのデータを戦略的に重要視し、用兵データ(warfighting data)を成熟したデータとして明確に扱うというこの統合的アプローチは、米海兵隊全体(enterprise)の分析と運用能力の両方を強化する信頼性の高い革新的なAIソリューションの中核となるデータ要件を示している。

3.3 AIインストラクチャ

米海兵隊内でAI対応能力の開発、配備、統合を加速するには、よくデザインされた米海兵隊全体(enterprise)のAIインフラが不可欠である。インフラは、データ駆動型技術を構築するための基盤を提供する。AIが戦略、作戦、戦術の意思決定に急速に影響を及ぼす中、現代の複雑な課題に対応できる信頼性の高いシステムを持つことが最も重要である。インフラは、政府のアプリケーション開発、統合サービスソリューションの採用、業界ソフトウェアの統合を支援しなければならない。

  1. ストレージと計算能力
  • AIモデルは、学習と推論に大量のデータと膨大な処理能力を必要とする。これらのリソースをオンデマンドで拡張できる、十分に計画されたインフラは、任務の成功に不可欠である。
  1. 開発環境
  • 開発セキュリティ運用(DevSecOps)と機械学習運用(MLOps)を統合するには、セキュアで統合された開発環境が必要だ。
  • この環境は、コード開発、継続的インテグレーション、継続的開発、テスト、展開を支援し、同時にモデルの訓練、検証から展開、モニタリングまでの機械学習ライフサイクルを管理しなければならない。
  1. リソース管理
  • 効率的なリソース管理は、AIワークロードのリソースを最適化し、適切なチームが適切なタイミングで利用できるようにする必要がある。
  1. 機会学習(ML)プラットフォーム
  • データ管理、モデル訓練、実験、展開を支援可能なエコシステムに統合するために、統一された機会学習(ML)プラットフォームが必要である。
  • 機会学習(ML)プラットフォームには、モデル開発、モデル・ストア、フィーチャー・ストア、ベンダー統合を支援するツールが含まれていなければならない。

今日は最先端でも、明日はレガシーになる。AIのインフラは柔軟で可逆的であり、技術の進歩に伴う機動性を支援するために疎結合であることが不可欠である。

3.4 労働力

導入を成功させるには、デジタルとAIのスキルを全軍に普及させ、複雑なデータ、分析、AIの課題を解決できる専門的な米海兵隊員をスキルアップさせる必要がある。重要なのは主に3つのグループである。

  • AI能力を活用して作戦効果を高める米海兵隊員。
  • 高度なデジタルおよびAIソリューションを構築、維持、改良するAI労働力
  • AI使用に関するリスク決定を任されたリーダーシップ。

米海兵隊員はこれらのシステムの受動的なユーザーではない。むしろ、システムの能力と限界を理解し、出力が不正確であることを認識し、左右の限界を理解しなければならない。指導者は、AIシステムを使用して任務上重要な決定を下すことに伴うリスクの全容を理解しなければならない。

これを達成するため、包括的なAI訓練・教育が開発されている。これは、AIやAI関連分野で米海兵隊員を訓練・教育する既存のプログラムと統合され、米海兵隊員が任務を達成するために適切なスキルとリソースを確保できるようにする。米海兵隊は今後も、プロセスのデジタル化、データ標準の支援と徹底、AIシステムの効果的な活用を進めていく。

3.5 デジタル運用が支えるAI労働力

AIシステムの効果的な開発と使用には、複雑なデータ、分析、AIの課題を解決できる専門的な米海兵隊員のスキルアップが必要である。デジタル業務を行う米海兵隊員は、AIイニシアティブを構築・維持するための重要な基盤となり、効果的なAI統合に必要なデジタル・エコシステムを構築する。

このアプローチの中心は、将来のデータおよびAI労働力の米海兵隊員のキャリアパスを提供するための一連の軍事職業専門職(MOS)の開発を評価することである。これらのキャリアパスは、ソフトウェア開発、データ分析、プロセス最適化、AIシステムに熟練した米海兵隊員を生み出すだろう。これらの米海兵隊員は、アナログ・プロセスをデジタル化し、データ・パイプラインを管理し、AI対応ソリューションを開発する。デジタル運用能力を作戦部隊に組み込むことで、デジタル変革が任務のニーズや作戦の現実に沿ったものとなる。さらに、指導的役割を担う米海兵隊員や技術主導型の軍事職業専門職(MOS)が基礎的なAI知識を確実に習得できるよう、正式なAI訓練や教育など、短期的な訓練の機会を優先する。

米海兵隊ソフトウェア・ファクトリー(MCSWF)は、米海兵隊全体のデジタルおよびAI構想に軍事職業専門職(MOS)ガバナンス、標準、運用支援を提供するアプローチの1つである。米海兵隊全体の一貫性と品質を確保するため、高度な能力、スキルの標準化、ベストプラクティスのハブとして機能する可能性がある。この訓練・パイプラインには、米海兵隊員がAIの基礎を理解し、AIの開発と実装に集中できるようにするため、AIに特化したモジュールとAIに特化したトラックが含まれる。

米海兵隊戦術システム支援活動(MCTSSA)デジタル・ソリューション部門は、軍種へのAIソリューションの開発と提供の経験を持つ、任務資金を提供されたソフトウェア開発チームである。米海兵隊戦術システム支援活動(MCTSSA)は、米海兵隊の中でも数少ない、業界パートナーとの共同研究開発協定を結んでいる組織であり、米海兵隊員を業界をリードする専門家や技術に触れさせている。米海兵隊戦術システム支援活動(MCTSSA)は、海軍研究局(Office of Naval Research)の技術活動と国防総省(Department of Defense)の科学技術改革研究所(Science and Technology Reinvention Laboratory)の指定を受けており、政府所有のAIソリューションを開発し、デジタル変革試験(Digital Transformation Pilot)に不可欠な支援を提供し、米海兵隊ソフトウェア・ファクトリー(MCSWF)で訓練されたソフトウェア開発者が米海兵隊でのキャリアを通じて成長するのを支援する。

デジタル運用を制度化することで、米海兵隊は現在および将来のAI技術を可能にする持続可能で適応力のある能力を構築する。効果的なAI統合への道は、デジタル運用にかかっている。

3.6 米海兵隊のデジタル変革センター

米海兵隊のデジタル変革センターは、政策、指針、標準、ベストプラクティスなどの知識ベースの製品の開発に貢献する。これらは、健全なエコシステム、開発者コミュニティ、強力なユーザー基盤を支援するために不可欠である。この組織は、AIの進歩やその他の新たな技術と歩調を合わせるために必要な知識ベースの製品を提供する。アジャイル・ソフトウェア・デリバリーに必要な作業を加速させることで、AIイニシアティブを直接強化する。

知識ベースの支援に加え、デジタル変革センターは、軍種全体に先進的な技術ソリューションを迅速かつ効果的に提供する。このセンターは、デジタル変革チームを支援し、新たな能力の発見、テスト、プロトタイピング、実用化を加速するようにデザインされた集中的な構造を提供することで、デジタル業務と統合する。海軍大学院(NPS)、米海兵隊大学、米海兵隊戦闘研究所科学技術(MCWL S&T)などのパートナーとの緊密な協力を促進することにより、デジタル変革のための米海兵隊センターは、革新がサイロ化、重複、遅延しないように、学術的専門知識、研究人材(research talent)、最先端の技術リソースを活用する。

このプログラムは、フォース・デザインのいくつかの重要課題に取り組んでいる。

  • 戦術的決心優位性(tactical decision advantage)のためにAIの導入を加速。
  • 情報戦能力の強化。
  • スタンド・イン・フォース(stand-in force)の有効性の向上。
  • 技能人材(technical talent)育成を強化。
  • 艦隊海兵隊への迅速な能力配備。

成功の指標は、作戦上の影響、技術的実現可能性、資源効率に重点を置く。各フェーズには、明確な成果物と終了基準が含まれ、コンセプトから展開までの責任ある進行を保証しなければならない。

米海兵隊のデジタル変革センターのその他の側面には、モデル開発、データおよびモデルのカタログ化、困難なソリューションを特定し提供するデジタル変革チームを支援する高度に専門化されたチームの配備が含まれる。

情報担当海兵隊副司令官(DC I)の米海兵隊データ室(SDO)は、デジタル変革のための米海兵隊センターを立ち上げるための支援の実現可能性評価を実施する。

3.7 AIガバナンス

情報担当海兵隊副司令官(DC I)の米海兵隊データ室(SDO)は、米海兵隊のAIの政策、ガバナンス、監督を担当する担当室として指定されており、軍種にAIを提供するための要件を通知する[21]。米海兵隊データ室(SDO)が議長を務めるAIワーキング・グループ(AIWG)は、米海兵隊の総兵力に影響を与える政策、資源調達の決定、倫理的で責任あるAIの原則の調整を提供するAIガバナンス[22]のための米海兵隊レベルの組織である。AIワーキング・グループ(AIWG)は重要な基盤であり、追加のガバナンス・プロセスと構造は、本計画を通じて開発・実装される。

3.8 政策と政策の阻害要因

AI実装計画(AI IPlan)の策定にあたり、米海兵隊革新部隊(MIU)はAI導入を制限する可能性のある障害物の評価を依頼された。付録H「AI導入の障害評価」の評価は、現在の状況の概要と、効果的な導入のための推奨される政策変更を示している。デジタル技術は動きが速いことで有名であり、民間部門にますます統合されつつある。付録H「AI導入の障害評価」は、新興技術に対する米海兵隊の現在の姿勢の限界の評価と、以下のトピックを含む推奨行動を示している。

  1. 運用権限(ATO)プロセス
  2. 既存のリスク管理フレームワーク(RMF)
  3. 軍種全体にわたる断片的なデータ管理
  4. ソフトウェアの構築、展開、管理のための文化的アプローチ

タスク4.2.1を通じてこれらの課題に取り組むことで、米海兵隊は新たなユース・ケースを支援するAIソリューションをより効果的に形成することができる。この説明では、米海兵隊がAI技術を賢く採用し使用するようになるために必要なステップを検討し、運用の改善、状況認識の強化、意思決定への情報提供の可能性を活用する一方、産学と協力して最新のAIの進歩に対応する。

3.9 リソースの調整

AIは横断的であり、多くのプログラム、アプリケーション、規律に関わる。付録B「リソーシング・フレームワーク」は、AI技術を調整するためのリソースのフレームワークを概説しており、付録C「要件の整合」は、本実装計画のいくつかの目標に合致する既存の要件を概説している。本計画の結果明らかになった新たなギャップが特定され、年次ギャップリストに含まれ、要件に書き込まれることを確実にするために、本計画の公表後にギャップ分析が必要である。この文書に沿った要求事項の総体は、この実装に不可欠な資源資金を支えるものである。

4. 実行

4.1 役割、責任、進捗報告

この計画の実装は、軍種全体の行動にかかっている。調整は、付録K「エンタープライズ・タスク管理ソフトウェア・ソリューション(ETMS2)人員配置概要」で特定されているように、本計画に全面的に同意する将校レベルで行われた。この調整は、米海兵隊のAI戦略の戦略的到達目標を達成するために必要な主要責任室(OPR)の任務を支援する。主要責任室(OPR)は、四半期ごとにAIワーキング・グループ(AIWG)に進捗状況と課題を報告する責任を負う。報告のテンプレートは、本計画の公表後に調整される。

役割と責任

  • 情報担当海兵隊副司令官(DC I)の米海兵隊データ室(SDO): 実装が順調に進んでいることを確認し、情報担当海兵隊副司令官(DC I)に進捗状況を報告する監督権限と責任。このAI実装計画(AI IPlan)[23]の実行に全体的な責任を負う。
  • AIワーキング・グループ(AIWG):AI実装計画(AI IPlan)に概説されている目標とタスクの達成を促進するため、AIガバナンス[24]と調整に責任を負う軍種レベルの部門横断組織。AIワーキング・グループ(AIWG)は、必要に応じて次の部隊階層に提言を行う。
  • 主要責任室(OPR): 割り当てられた目標と関連するタスクの全体的な達成に責任を負う。

4.2 到達目標、目標、タスク

このセクションでは、到達目標を構成要素となる目標とタスクに分解することで、AIを実装するための戦略を明確にしている。各目標について、調整のために割り当てられたタスクの成功裏の完了について米海兵隊データ室(SDO)に責任を負う主要責任室(OPR)が指定されている。

主要責任室(OPR)の責務には以下の要素が含まれる。

  1. 行動計画とマイルストーン: 目標を達成するためのステップを記載した行動計画を作成する。これには、計画に対する進捗を測定するためのチェックポイントとして、具体的なマイルストーンが含まれる。マイルストーンは期限付きで達成可能なものとし、戦略が軌道に乗るようにする。
  2. タスクの優先順位付け: 資源配分の優先順位付けを行い、重要な目標が最初に取り組まれるようにする。これにより、取組みを合理化し、最も必要なところに注意を集中させる。
  3. リスクと課題の特定: 技術的制約、資源的制約、文化的障壁、相互運用性の問題に関連し、目標達成の妨げとなりうる潜在的なリスクと課題を特定すること。

進捗状況は、少なくとも四半期ごとにAIワーキング・グループ(AIWG)に報告される。これには、実装スケジュールの変更、不必要なプログラムの重複の特定、および関連する緩和措置が含まれる。

以下のセクションでは、目標レベルの主要責任室(OPR)を特定し、主要タスクのハイレベルなビューを提供し、関連するタイムラインの概要を示す。これらのタスクは、AIを効果的に導入し、採用するための構成要素であり、同時に、新たな技術の飛躍的進歩と進歩に備えた軍種の態勢を整えるものである。

図4. 米海兵隊人工知能戦略的実装フレームワーク

戦略的到達目標①:AI任務の整合

目標1-米国防総省指示
  • 所掌部署:情報担当海兵隊副司令官(DC I)
  • 時間枠:最終日:2026年2月まで
  • タスク:1.1:情報担当海兵隊副司令官(DC I)は、米海兵隊システム・コマンド(MCSC)司令官およびプログラム執行室デジタル・アンド・エンタープライズ・サービス(PEO-DES)と連携し、関連するすべてのネットワーク・エンクレーブ上で、少なくとも以下を伝達するための集中型エンタープライズ・ポータルの開発を促進する: 訓練・教育リソース、利用可能なAI能力、AI政策・指針。
目標2-米海兵隊の能力
  • 所掌部署:戦闘開発・統合担当副司令官(DC CD&I)
  • 時間枠:継続
  • タスク:2.1: 戦闘開発・統合担当副司令官(DC CD&I)は、情報担当海兵隊副司令官(DC I)と連携して、軍種全体の緊急ニーズ声明を継続的に見直し、それらを能力要件に分解し、要件文書に移行する。予測される最新能力に基づいて、主要性能パラメータ、目標値、および閾値を更新し、該当するプログラムおよび各用兵機能(warfighting functions)全体で使用するための標準要件語彙を開発する。
  • タスク:2.1:戦闘開発・統合担当副司令官(DC CD&I)は、取得コミュニティと連携して、投資対効果の高いイニシアティブの移行計画を策定する。移行計画は、あらかじめ定義されたスケジュールで能力を採用するための、ドクトリン、組織、訓練、資材、指導・教育、人員、施設(DOTMLPF)を適用する。
目標3-戦術的革新
  • 所掌部署:情報担当海兵隊副司令官(DC I)
  • 時間枠:最終日:2026年5月まで
  • タスク:3.1:情報担当海兵隊副司令官(DC I)は、戦闘開発・統合担当副司令官(DC CD&I)と連携し、ターゲットとする行動を実装するために、各用兵機能(warfighting functions)全体、全階層からAIを適用するためのコンセプトを収集、評価、優先順位付けするユース・ケース・プロセスを開発する。ユース・ケースの収集を通じて、革新とAI導入の加速に大きな影響を与える政策、労働力、インフラにおける主要な障害物を特定し、変化を通じて緩和する。
  • タスク:3.2:情報担当海兵隊副司令官(DC I)は、付録A「デジタル変革パイロット・プロジェクト」に記載されているように、デジタル化、データ、分析、AIを各コマンド全体に導入し、取り入れる司令官を支援するデジタル変革パイロットの設立を監督する。デジタル変革チームをデータとAIのガバナンスに組み込み、リソースの調整、監督、軍種レベルの決定を行う。

戦略的到達目標②:AIに精通した労働力

目標1 – 基礎的な訓練と教育
  • 所掌部署:訓練・教育コマンド司令官(CG TECOM)
  • 時間枠:終了日:2026年3月まで
  • タスク:1.1: 訓練・教育コマンド司令官(CG TECOM)は、国防総省と産業界全体で利用可能な学習ツール、リソース、現在の使用事例を特定し、これらのリソースを積極的な学習のためのリポジトリに一元化する。
  • タスク:1.2: 訓練・教育コマンド司令官(CG TECOM)は、艦隊海兵部隊(FMF)の能力および既存の認定事業(PoR)と整合させながら、米海兵隊以外の外部訓練リソースのライセンスを取得するためのコストと要件を特定し、長期的な実行可能性と資金を決定するための共有資金と迅速な取得を可能にする。
目標2 – AI人材の近代化
  • 所掌部署:情報担当海兵隊副司令官(DC I)
  • 時間枠:終了日:2025年11月までに
  • タスク:2.1: 人員・予備役担当副司令官(DC M&RA)は、AI労働力の育成と定着を支援する、最低限、金銭、ビレット優遇、確立されたキャリア進展の機会を含む、キャリア維持補償の機会を分析する。
  • タスク:2.2: 情報担当海兵隊副司令官(DC I)は、DOTMLPFプロセスによる検討のため、デジタル運用コンセプトを支援するコンセプト・プロスペクタスを開発し、提出する。
目標3 – AIに対応できる労働力
  • 所掌部署:情報担当海兵隊副司令官(DC I)
  • 時間枠:終了日:2026年3月まで
  • タスク:3.1: 米海兵隊サイバースペース・ワークフォース・エンタープライズ・プログラムを実装・指導し、情報開発研究所などの開発リソースを拡大し、データ分析への支援を強化する。
  • タスク:3.2: 人員・予備役担当副司令官(DC M&RA)は、情報担当海兵隊副司令官(DC I)の支援を受け、情報関連の民間労働力をAI労働力近代化に確実に含める。民間情報関連労働力セグメントにおける投資収益率を最大化する方法、将来の民間労働力ニーズの予測を標準化する方法、ポジション記述を改善する方法、雇用を迅速化する方法、人材管理(talent management)イニシアティブのために民間労働力データをより利用しやすくする方法を分析する。
  • タスク:3.3: 訓練・教育コマンド司令官(CG TECOM)は、AI労働力と総軍を支援するために不可欠な訓練と教育の要件を開発し、制度化する。

戦略的到達目標3:AIの大規模な展開

目標1 – データ文化
  • 所掌部署:情報担当海兵隊副司令官(DC I)
  • 時間枠:終了日:2026年4月まで
  • タスク:1.1: 情報担当海兵隊副司令官(DC I)では、毎年検査されるすべてのレベルの検査プログラムにデータ中心主義を取り入れ、進捗を測定するためのデータ文化のベースラインを確立する。これには、総司令官検査プログラム、その他のサービスおよび海兵遠征軍レベルの検査プログラムが含まれるが、これらに限定されるものではない。
  • タスク:1.2: 情報担当海兵隊副司令官(DC I)では、米海兵隊戦術文書3-30B情報管理を更新し、情報管理におけるデータ中心化とAI技術の力学の変化を取り入れる。
目標2 – データ管理
  • 所掌部署:情報担当海兵隊副司令官(DC I)
  • 時間枠:終了日:2025年12月まで
  • タスク:2.1: 情報担当海兵隊副司令官(DC I)は、戦闘開発・統合(CD&I)および米海兵隊システム・コマンド(MCSC)司令官と連携し、データ標準、アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)ベースのサービス、AIソリューションを採用したエンタープライズ・データ・ソリューションを確立するための要件策定および調達プロセスに情報を提供するデータ・アーキテクチャ・フレームワークを確立する。
目標3 – AIインフラとツール
  • 所掌部署:情報担当海兵隊副司令官(DC I)
  • 時間枠:終了日:2026年12月まで
  • タスク:3.1: 情報担当海兵隊副司令官(DC I)では、AIワーキング・グループ(AIWG)の構成要素としてAIインフラ運用計画策定チーム(OPT)を設置・調整し、クラウド、オンプレミス、戦術的アプリケーションのための当面のインフラ要件を特定・加速する。また、この運用計画策定チーム(OPT)は、レガシー・システムについても、売却対象として特定する。この運用計画策定チーム(OPT)のアウトプットは、軍種レベルの決定のためにAIワーキング・グループ(AIWG)に提示され、機械学習の運用を可能にするための以下の分野に関する勧告を含む。
    • ストレージと計算能力
    • 開発環境
    • リソース管理
    • 機械学習プラットフォーム
  • タスク:3.2: 情報担当海兵隊副司令官(DC I)では、本計画を実装するための将来年度防衛計画(FYDP)にわたる費用見積もりを作成する。
目標4 – 統合と展開
  • 所掌部署:戦闘開発・統合担当副司令官(DC CD&I)
  • 時間枠:終了日:2026年9月まで
  • タスク:4.1: 米海兵隊システム・コマンド(MCSC)司令官は、情報担当海兵隊副司令官(DC I)の支援を受け、施設・兵站担当副司令官および戦闘開発・統合(CD&I)と連携して、米海兵隊の科学技術再発明研究所(STRL)である米海兵隊戦術システム支援活動(MCTSSA)において、指揮・統制・コンピューティング・通信・サイバー・諜報・監視・偵察・ターゲティングの各能力の実験・試験・エンジニアリング・統合を、最高機密/機密情報/特別アクセス・プログラム・レベルまでのあらゆる分類レベルで行えるよう、研究所環境を改修する要件を確立する。
目標5 – サイバーセキュリティ
  • 所掌部署:情報担当海兵隊副司令官(DC I)
  • 時間枠:終了日:2027年9月まで
  • タスク:5.1: 情報担当海兵隊副司令官(DC I)では、リスク管理フレームワークを改革し、自動化を受け入れ、管理上のオーバーヘッドを削減する。改革がAIシステムを考慮し、AI関連能力のタイムリーな承認を支援するようにする。
  • タスク:5.2: 情報担当海兵隊副司令官(DC I)は、データ中心のセキュリティとゼロ・トラストを可能にするデータ・セキュリティ姿勢管理ソリューションを提供する。
  • タスク:5.3: 米海兵隊サイバースペース・コマンド(MARFORCYBER)司令官は、AI対応システムを防衛するための防勢的サイバースペース作戦(DCO)とサイバーセキュリティ機能を有効化し、調整する。

戦略的到達目標④:AIガバナンス

目標1 – 責任あるAIガバナンス
  • 所掌部署:情報担当海兵隊副司令官(DC I)
  • 時間枠:終了日:2025年9月まで
  • タスク:1.1: 情報担当海兵隊副司令官(DC I)は、AIワーキング・グループ(AIWG)を通じて、軍種全体のリソースを調整するために、安全、安心、倫理的、責任あるAIのためのガバナンスを確立する。このガバナンスは無駄がなく、かつ効果的であり、コンプライアンスを確保しつつ革新を奨励する。適用可能なAIガバナンスの要件を、執行と監視のために、司令官の即応性検査に組み込む。
目標2 – 政策と指針
  • 所掌部署:情報担当海兵隊副司令官(DC I)
  • 時間枠:終了日:2025年9月まで
  • タスク:2.1: 情報担当海兵隊副司令官(DC I)では、政策分析を行い、ギャップ、非効率性、現在の政策が戦略的到達目標と整合していない箇所を特定する。分析から決定された方針と指針を策定する。

戦略的到達目標⑤:パートナーシップと協業

目標1 – 統合および任務パートナーの相互運用性
  • 所掌部署:情報担当海兵隊副司令官(DC I)
  • 時間枠:終了日:2026年9月まで
  • タスク:1.1: 情報担当海兵隊副司令官(DC I)では、3年間の米海兵隊(USMC)センター・フォー・デジタル変革パイロットの計画を策定する。
目標2 – アカデミック・パートナーシップ
  • 所掌部署:戦闘開発・統合担当副司令官(DC CD&I)
  • 時間枠:終了日:2026年4月まで
  • タスク:2.1: 戦闘開発・統合担当副司令官(DC CD&I)は、米海兵隊システム・コマンド(MCSC)、人員・予備役担当副司令官(DC M&RA)、および訓練・教育コマンド司令官(CG TECOM)と連携して、AI問題セットに関連する大学付属研究センター、学術機関(海軍大学院など)、および連邦政府出資の研究開発センターとの組織的関係を評価し、その拡大を図る。
  • タスク:2.2: 訓練・教育コマンド司令官(CG TECOM)は戦闘開発・統合担当副司令官(DC CD&I)を支援し、隣接するサービス・アカデミア・パートナーシップを評価し、関係を拡大する。
目標3 – 産業界のパートナーシップ
  • 所掌部署:米海兵隊システム・コマンド(MCSC)司令官
  • 時間枠:終了日:2025年12月まで
  • タスク:3.1: 米海兵隊システム・コマンド(MCSC)司令官は、AIの開発と導入のための協力協定と契約手段を確立する。
  • タスク:3.2: 米海兵隊システム・コマンド(MCSC)司令官は、関連技術の認識と採用に貢献する情報共有と能力デモンストレーションのための、業界を中心とした定期的なイベントを立ち上げ、調整する。

図5. 実装計画タスク・タイムライン

 

5. 結論

このAI実装計画(AI IPlan)は、5つの主要な到達目標を通じて、米海兵隊の作戦にAIを統合するための構造化されたアプローチを提供する。 5つの主要な到達目標は、「AI任務の整合(AI Mission Alignment)」、「AIに精通した労働力(AI Competent Workforce)」、「AIの大規模な展開(AI Deployment at Scale)」、「AIガバナンス(AI Governance)」、「パートナーシップと協業(Partnerships and Collaboration)」である。また、デジタル変革パイロット・プロジェクトを導入の最先端として概説し、デジタル変革センターの潜在的な必要性を評価し、デジタル運用を制度化することの重要性を強調している。

AI活動を任務要件に合致させ、労働力育成(workforce development)を進め、インフラを近代化し、責任あるガバナンスを確立し、パートナーシップを強化することで、米海兵隊は進化する技術に適応し、作戦の有効性を維持できる体制を整える。この計画は、データとAIインフラの開発を促進し、永続的な情報優位性を確保するためにAIの責任ある利用を促進する。今後の活動は、主要能力の拡大、ガバナンス構造の正式化、AIに焦点を当てた訓練の拡大、データ実践の運用化、継続的な進歩のための協力関係の拡大に重点を置く。

米海兵隊は、このような慎重な措置を通じて、新たな課題に対応し、任務の成功へのコミットメントを維持する態勢を確保する。

なお、付録をご希望の方は kawazu.rv@gmail.com にメールされたい。

略語リスト

AI                             Artificial Intelligence

AI IPlan                     Artificial Intelligence Implementation Plan

AIWG                         Artificial Intelligence Working Group

DXT                           Digital Transformation Teams

ATO                           Authority to Operate

C5ISRT                      Command, Control, Computing, Communications, Cyber, Intelligence, Surveillance, Reconnaissance and Targeting

DC                             Deputy Commandant

DCIPS                        Defense Civilian Intelligence Personnel Support

DEVSECOPS               Development Security Operations

DIWF                         Defense Intelligence Workforce Framework

DoD                           Department of Defense

DON                          Department of the Navy

DOSC                         Digital Operations Support Center

DOTMLPF-P               Doctrine, Organization, Training/Education, Materiel, Leadership, Personnel, Facilities and Policy Development

ETL                           Extract, Transform, and Load

FAM                          Functional Area Manager

FDM                          Functional Data Manager

FDWG                        Functional Data Working Group

FFRDC                       Federally-funded Research and Development Centers

FYDP                          Future Years Defense Plan

GRETR                        Governable, Responsible, Equitable, Traceable, & Reliable

IAS                             Intelligent Autonomous Systems

IATT                           Interim Authority To Test

KPIs                            Key Performance Indicators

LLM                            Large Language Models

MCCDX                      Marine Corps Center for Digital Transformation

MCIEE                        Marine Corps Information Environment Enterprise

MCO                          Marine Corps Order

MCSWF                      Marine Corps Software Factory

ML                              Machine Learning

MLOps                       Machine Learning Operations

MOS                           Military Occupational Specialty

NLP                            Natural Language Processing

OCRs                          Offices of Coordinating Responsibility

OPRs                          Offices of Primary Responsibility

POM                           Program Objective Memorandum

PORs                          Programs of Records

RAI                             Responsible Artificial Intelligence

RPA                            Robotic Process Automation

RMF                           Risk Management Framework

STRL          Science and Technology Reinvention Laboratory

SDO                            Service Data Office

TEVV                          Test, Evaluate, Validation, and Verification

UARC                         University-affiliated Research Centers

VAULTIS    Visible, Accessible, Understandable, Linked, Trustworthy, Interoperable, and Secure

用語の定義

用語 定義
人工知能

Artificial Intelligence

「人工知能」または「AI」という用語は、合衆国法典第15編第9401条(3)に定義されている意味を有する。

人間が定義した一連の目的に対し、現実環境または仮想環境に影響を与える予測、推奨、または意思決定を行うことができる機械ベースのシステム。

人工知能システムは、機械および人間による入力を用いて現実環境および仮想環境を認識し、自動化された分析を通じてそれらの認識をモデルに抽象化し、モデル推論を用いて情報または行動の選択肢を策定する。

AIモデル

AI Model

統計に基づく計算のためのAIアルゴリズムを用いて、回帰、クラスタリング、予測、分類、強化学習などの手法を実行し、与えられた入力セットから出力を生成する情報システムの構成要素。これには、合成コンテンツの生成も含まれる。
AIシステム

AI System

AIを使用して全体的または部分的に動作するデータ・システム、ソフトウェア、ハードウェア、アプリケーション、ツール、またはユーティリティ。
AI労働力

AI Workforce

AIの実装に不可欠な主なグループは3つある。

AI能力を活用して運用効率を高める米海兵隊員、高度なデジタルおよびAIソリューションを構築、維持、改良するAI労働力、そしてAIの使用に関するリスク決定を担当するリーダーシップである。

データ・アーキテクチャ

Data Architecture

多様で複雑な米海兵隊全体(enterprise)およびマルチクラウド環境全体に消費燃料を供給するパイプ
データ中心性

Data Centricity

データとアプリケーションを分離し、セキュリティ・ドメイン内外の幅広いツールや分析ツールでデータを活用することで、改良・強化(enrichment)と発見を可能にする安全な環境を実現するアーキテクチャ・アプローチ。この環境は、データの共有、発見、アクセス、理解、取得、保護を確実にすることで、インテリジェンス統合に対するより規律のあるアプローチを採用している。
データ文化

Data Culture

組織内の人々が、任務と業務の成果の向上のためにデータ活用を重視し、実践し、奨励する集合的な振舞いと信念。その結果、データ中心性のポリシー、プロセス、標準、ツール、そして手法が、組織の戦略、分析、運用、そして意思決定に織り込まれる。
データ・ファブリック

Data Fabric

データの統合されたレイヤー(ファブリック)として機能し、インターフェースとサービスを通じて情報を共有し、あらゆるアプリケーション、ドメイン、階層、セキュリティレベルにわたるパートナーとデータを検出、理解、交換するための接続プロセスとして機能するデザイン・コンセプト。

注: デザイン・コンセプトの実装では、少なくともカタログ作成、データ・イベント・メッセージング、インターフェース管理、およびアクセス管理能力をサポートする必要がある。

データ・ガバナンス

Data Governance

責任、役割、機能、および実践から構成される分野であり、権限、ポリシー、および意思決定プロセス(計画策定、ポリシーの設定、監視、適合、および施行)によって支援される。これらが連携してIC要素全体のデータと情報アセットを管理し、データが組織の任務と業務のパフォーマンスの目標に沿った重要なアセットとして管理されるようにする。
データ漏洩

Data Leakage

機械学習におけるデータ漏洩は、モデルが予測時には利用できない情報を訓練中に使用した場合に発生する。データ漏洩が発生すると、予測モデルはユース・ケースに展開されるまでは正確に見えるものの、ユース・ケースに展開されると不正確な結果となり、不適切な意思決定や誤った洞察につながる。
データ管理

Data Management

確立された規律と機能に従って専門技術者が主導または実行する、ライフサイクル全体にわたるデータ・アセットの価値の取得、制御、保護、強化のための計画、ポリシー、プログラム、実践(4P)の開発と実行。
データ・パイプライン

Data Pipeline

ソースから宛先へのデータの移動、変換、最適化を自動化または可能にするツールとプロセスのセット。
データ成果物

Data Products

データ成果物は、信頼性が高く、再利用可能で、消費可能なデータ・アセットである。ドメイン固有の業務成果を解決するためにデザインされた、製品化されたデータ・セットと承認済みメタ。データおよびドメイン論理の厳選された収集物である。
データ・セキュリティ

Data Security

データリソースを不正な発見、アクセス、使用、改ざん、破壊から保護する能力。安全なデータ共有は、データの識別、分類、ラベル付け、権限管理、ポリシー設定といった主要な機能に依存する。

注:データ・セキュリティはデータ保護の構成要素である。

データベース

Database

一般的にはコンピュータ・システムに保存され、そこからアクセスできるデータ・セットの整理された収集で、これによりデータの検索、操作、更新が簡単に行える。
機械学習

Machine Learning

データに基づいてタスクのパフォーマンスを向上させるためにAIアルゴリズムを訓練するために使用できる一連の技法。
予測分析

Predictive Analytics

新しいデータと履歴データの両方を使用してパターンを特定し、将来の結果と傾向を予測する高度な分析形式。
強化学習

Reinforcement Learning

アルゴリズムを訓練し、行動過程において報酬を最大化することで適切な行動をとるようにする手法。このタイプの学習は、ゲームプレイなどのシミュレーション環境で実行できるため、現実世界のデータの必要性が軽減される。
責任あるAI

Responsible AI

AI能力のデザイン、開発、展開、利用に対する動的なアプローチ。国防総省(DoD)のAI倫理原則を実装し、AI能力の信頼性を高める。責任あるAI(RAI)は、効果的で復元性があり、堅牢で信頼性が高く、説明可能なAIを構築するための技術的成熟度の必要性を強調するとともに、倫理、説明責任、リスクに関する助言を行う学際的なチームの価値を認識している。
テストベッド

Testbed

AIやプライバシー強化技術(PET)などのツールや技術の厳格で透明性が高く、再現可能なテストを実施し、それらのツールや技術の機能、使いやすさ、パフォーマンスを評価するための施設またはメカニズム。

ノート

[1] 39th Commandant’s Planning Guidance, Aug 2024

[2] USMC Artificial Intelligence Strategy, Jul 2024

[3] Force Design 2030

[4] Department of Defense Data, Analytics, and Artificial Intelligence Adoption Strategy

[5] Executive Order on Removing Barriers to American Leadership in Artificial Intelligence

[6] USMC Artificial Intelligence Strategy, Jul 2024

[7] Implementing Reasonable Artificial Intelligence in the Department of Defense

[8] Force Design 2030

[9] Department of Defense Data, Analytics, and Artificial Intelligence Adoption Strategy

[10] Executive Order on Removing Barriers to American Leadership in Artificial Intelligence

[11] USMC Artificial Intelligence Strategy, Jul 2024

[12] USMC Artificial Intelligence Strategy, Jul 2024

[13] U.S. Department of Defense Responsible Artificial Intelligence Strategy and Implementation Pathway, Jun 2022

[14] Department of Defense Data, Analytics, and Artificial Intelligence Adoption Strategy

[15] USMC Artificial Intelligence Strategy, Jul 2024

[16] Department of Defense Data, Analytics, and Artificial Intelligence Adoption Strategy

[17] USMC Artificial Intelligence Strategy, Jul 2024

[18] DC I Data Implementation Plan (DRAFT)

[19] USMC Zero Trust Implementation Plan, Jul 2024

[20] Department of Defense Data, Analytics, and Artificial Intelligence Adoption Strategy

[21] USMC Artificial Intelligence Strategy, Jul 2024

[22] MCO 5231.4, Marine Crops Data and Artificial Intelligence

[23] Department of Defense Compliance Plan for Office of Management and Budget Memorandum M-24-10

[24] MCO 5231.4, Marine Crops Data and Artificial Intelligence