ウクライナは既に機能する「統合全ドメイン指揮・統制(CJADC2)」技術を有しているのか? (CSIS)

昨年末投稿の「AI駆動型のデータ管理によるミッション・コマンドの非対称的な優位性 (Parameters)」では、AI適応の時代に即した米陸軍の指揮・統制の在り方を米陸軍のドクトリン文書の「ADP 3 13 Information」を基礎として理論的に展開した内容だった。この論稿の中に出てくる軍のためのAI、つまりNATOを含む米軍主体のMaven Smart Systemとウクライナ軍のDELTAには、その出自に違いがあると言える。

前者は「統合全ドメイン指揮・統制(CJADC2)」という作戦コンセプトを実現させるために誕生した軍事へのAI適用(包括的とは言えない)であり、後者は予期もしなかったロシアの侵略への対応の中で戦場からの要求から起こった軍事へのAI適用といえる。言い換えれば前者は「コンセプト主導型」であり、後者は「実戦要求主導型」といえる。

今回紹介するのは、「実戦要求主導型」のAIともいえるウクライナ軍の「DELTA」に関する戦略国際問題研究所(CSIS)の論稿で2024年12月に投稿されたものである。

日本の自衛隊にもAIをという中にあって、「Maven Smart System」と「DELTA」のそれぞれの開発の経緯などを踏まえながら、迅速にAI実装を進めるためには大いに参考になる内容があると考える。(軍治)

ウクライナは既に機能する「統合全ドメイン指揮・統制(CJADC2)」技術を有しているのか?

Does Ukraine Already Have Functional CJADC2 Technology?

Report by Kateryna Bondar

Published December 11, 2024

戦略国際問題研究所(CSIS)

写真  TSViPhoto/Adobe Stock

カテリーナ・ボンダール(Kateryna Bondar)は、ワシントンD.C.の戦略国際問題研究所のAI・先端技術ワドワニセンターの研究員である。

はじめに

数十年にわたり、米国防総省(DOD)は「統合全ドメイン指揮・統制(CJADC2)」のビジョンの実現に向けた有意義な進展に苦戦してきた。一方ウクライナでは、「Delta状況認識システム(Delta situational awareness system)」が急速に進化し、「統合全ドメイン指揮・統制(CJADC2)」コンセプトに極めて近いプラットフォームへと発展した。「Delta」はソフトウェア定義型戦(software-defined warfare)の典型例であり、戦場管理に対する実用的かつ機敏なアプローチを提供する。

国防総省(DOD)の「統合全ドメイン指揮・統制(CJADC2)」についてのビジョンが、全軍種および国際パートナーを横断するデータ・フローと作戦を統合する中央管理型戦略というトップダウン型であるのに対し、「Delta」はボトムアップ型ソリューションとして始まった。当初は単一の極めて効果的なアプリケーション、すなわち状況認識(situational awareness)のためのデジタル・マップに焦点を当てていた。この初期能力は、最前線の要員から上級指揮官に至るまで、ウクライナ軍ほぼ全体を支えるソフトウェア・アプリケーションの包括的なエコシステム(comprehensive ecosystem)へと拡大した。

「Delta」の開発は、Amazonのアプローチと比較することができる。ジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)の当初の到達目標は「あらゆるものを扱う店(the everything store)」と呼ばれるものを創ることだったが、彼は書籍のみの販売から始めた。時を経て、Amazonは徐々に品揃えを拡大し、幅広い製品を取り扱うようになった。同様に、「Delta」も単一の特化したアプリケーションから始まり、段階的に機能を追加していった。

本論文は「Delta」の技術的進化と能力に関する分析を提供し、国防総省が「統合全ドメイン指揮・統制(CJADC2)」およびより広範な人工知能(AI)変革の取組みに適用可能な教訓を結論として提示する。

現代戦(modern warfare)はますます複雑化しており、指揮官は広大な地理的地域にわたる数多くの要因について、理想的にはリアルタイムで状況認識(situational awareness)を維持する必要がある。ウクライナが実施している軍事作戦の規模は、同規模の国(a nation of that size)としては前例のないものである。

ウクライナ軍は、地理的範囲(geographical reach)と計画策定と実行の複雑さの両面において、大規模な軍事任務を遂行することで脅威に対応している。こうした活動の好例として、2024年5月にウクライナがウクライナの東約900マイルに位置するバシコルトスタン共和国のロシア製油所を攻撃したこと、そして2024年7月に約1,200マイル北に位置するオレニャ空軍基地を攻撃したことが挙げられる。これらの距離は、シアトルとサンディエゴ間の距離にほぼ匹敵する。

これらの攻撃が明らかにしたのは、ウクライナがデータ収集・分析、包括的な状況認識(situational awareness)の提供、戦場での意思決定するようにデザインされたソフトウェア・システムを開発してきたことである。「Delta」の進化の全容やそれに伴う官僚的な課題の詳細は本分析の範囲外だが、「Delta」が2016年にボランティア組織「アエロロズヴィドカ(Aerorozvidka)」によって開始されたことは特筆に値する。

2023年に同システムは国防省に移管され、2024年8月までにウクライナ国防部門により正式に採用された。この部門には、ウクライナの主権を守る責任を負う全ての軍事・防衛機関及び部隊が含まれる。具体的には、ウクライナ軍、国家警備隊、国境警備隊、国家警察などが該当する。

本稿の分析では、組織的および技術的な観点を取り入れ、世界中の軍隊内で同様のプロジェクトを実施する際に貴重な教訓を提供できる可能性のあるシステム開発への主要なアプローチに焦点を当てる。

「Delta」の組織的構造

「Deltaエコシステム」を支える組織的構造は比較的単純明快である。「Delta」は、ウクライナ国防省内のイノベーション・防衛技術センターによって管理、開発、保守されている。前述の通り、同センターは2023年にNGO「アエロロズヴィドカ(Aerorozvidka)」から「Delta」を引き継いだ。「アエロロズヴィドカ(Aerorozvidka)」のエンジニアは、ドンバス(Donbas)の戦闘員を支援するために2016年に「Delta」の開発を開始した。2023年以降、同センターの主なタスクは、ユーザー・ベースの拡大、より多くのデータ・ソースの統合、他のシステムや国際パートナーとの相互運用性の向上を通じて、「Deltaシステム」の進化を図ることである。

「Delta」の情報は、前線全域に点在する8都市の「状況認識センター(situational awareness centers)」によって統合される。これらのセンターは技術ハブとして機能し、ドローン、衛星、固定カメラ、センサー、そして最前線の偵察部隊など、多岐にわたる情報源から得られる情報を統合・調整する。

「Delta」は、戦術部隊から戦略指導部に至るまで、ウクライナ軍のあらゆる兵科と指揮レベルで使用されている。地上部隊はスマートフォンやタブレットなどのモバイル・デバイスを介して、そして軍の上級指導部も同時にアクセスでき、リアルタイムの状況認識(situational awareness)を提供し、迅速かつ情報に基づいた意思決定を可能にする。アクセスは階層化されており、指揮のレベルに応じて異なる権限とシステム・データへのアクセス権限が付与される。効果的な利用を確保するため、モバイル・トレーニング・チームが各部隊を巡回し、ユーザーのスキルを最新の状態に保つ。

「Delta」の国有化には、防衛機関全体での公式導入による単一の運用環境の構築など、いくつかの優位性があるものの、このアプローチには課題も伴う。政府機関による管理は、ソフトウェア・エンジニアの雇用、規制の更新、ソフトウェアとその開発者双方のセキュリティ上の懸念への対応において、典型的な官僚主義的制約をもたらす。

しかしながら、状況認識(situational awareness)および指揮・統制におけるイノベーションの実装は、「Delta」が「アエロロズヴィドカ(Aerorozvidka)」のみによって運営されていた頃よりも、また他軍の同様のプログラムと比較しても、著しく速いペースで進められている。このスピードは、ウクライナが戦時緊急事態に効果的に対応する必要性を切実に感じていることと、闘いのあらゆるドメインと次元において技術の優位性が決定的な要因となるという広範な信念によって推進されてきた。

技術的アーキテクチャ

本稿では、システムの技術的アーキテクチャを探る中で、「Delta」のデータと、それを収集、処理、活用するためにデザインされたソフトウェア・アプリケーションについて検証する。これらのアプリケーションは、ユーザーが様々なインターフェースを通じてデータにアクセスできるようにし、情報に基づいた意思決定に必要な機能を提供するとともに、軍隊およびより広範な防衛セクターにおける作戦的支援も提供する。

データ

「Deltaシステム」は、多様なデータ・ソースから情報を収集し、包括的な状況認識(situational awareness)を提供し、ウクライナ軍の作戦能力を強化する。これらの情報源は、効果的な戦場管理を支援する「Delta」のアプリケーション・エコシステムの基盤を形成している。「Delta」が使用する主要なデータ・ソースの概要を図1に示す。

ウクライナでは、「Delta」に加えて、他の状況認識システム(situational awareness systems)および戦闘管理システム(battle management systems)も使用されている。そのようなシステムの一つが「Kropyva」で、当初は砲兵部隊で人気を博した。国防省の調査によると、「Delta」と「Kropyva」はウクライナ軍で最も多く使用されている戦闘システムのトップ3に数えられている。「Delta」と「Kropyva」は、異なる作戦状況において様々な指揮のレベル間でデータを共有することで相互に補完し合っているが、両システムは完全に統合されていない。

「Deltaシステム」の注目すべき特徴の一つは、クラウドベースのアーキテクチャである。すべてのデータはクラウド上に保存・処理され、外国(foreign countries)に設置されたサーバーを介して処理されるため、ロシアによるサーバーへの攻撃に対して耐性がある。しかし、クラウド・インフラへの依存は、インターネット接続が制限されている地域のユーザーにとって課題となる可能性がある。この問題は、最前線で信頼性の高いインターネットアクセスを提供しているStarlinkの活用によって軽減されている。

アプリケーション

「Delta」がデータを収集するにつれ、エンド・ユーザーがデータを効果的に操作するためのインターフェースが必要になる。これらのインターフェースは、ウクライナの専門用語で「プロダクト(products)」と呼ばれるアプリケーションを通じて提供され、「Delta」のエコシステムの主要コンポーネントとして機能する。

興味深いことに、「Delta」のエコシステム全体は、本質的にはデジタル・マップである、元祖かつ基盤となるアプリケーションから進化を遂げてきた。この地図は、ドンバス前線の兵士の状況認識(situational awareness)を向上させるためにボランティアによって開発された最初の「プロダクト(products)」であり、敵の部隊と装備の位置と動きを示していた。現在「Deltaモニター(Delta Monitor)」と呼ばれるこのアプリケーションは、「Deltaエコシステム」の中心であり、ますます多くのソースからのデータを表示している。

時間の経過とともに、戦争の本質と課題の変化を反映して、追加のアプリケーションが有機的に開発され、「Delta」に統合された。この拡張により、「Delta」は状況認識(situational awareness)のみに焦点を当てたシステムから、より包括的なプラットフォームへと変化した。現在では、NATOがISTAR(インテリジェンス、監視、ターゲット捕捉、偵察)コンセプトと呼ぶもの、および米国で使用されているC4ISR(指揮、統制、通信、コンピューター、インテリジェンス、監視、偵察)フレームワークに沿った機能をサポートしている。

ウクライナの開発者はこれらのコンセプトに従うことを狙ったが、同時に「Delta」を「統合全ドメイン指揮・統制(CJADC2)」に近いものへと進化させてきた。本稿の次の節では、「Delta」のコア・アプリケーションを検討し、この変革がどのように展開しているかを示す。

1. Deltaモニター

「Deltaモニター」は、「Delta」システムの主要かつ基盤的なアプリケーションであり、情報を複数のレイヤーで表示するインタラクティブ・マップとして機能する。Webブラウザー、iOSおよびAndroidデバイス用のモバイル・アプリケーションからアクセスできる。

このインタラクティブ・マップでは、ドローン、対戦車障壁、塹壕、電子戦基地(electronic warfare stations)の位置など、特定の種類の情報をフィルター処理して表示できる。「Delta」からデータが削除されることはなく、ユーザーは時間の経過に伴う展開を追跡し、戦場の動向を分析できる。

軍人は毎月60万個を超える敵のオブジェクトに関する情報を提供しており、そのうち合計400万個が戦闘員によって計画策定目的で確認されている。マップ上の各オブジェクトには、分類、画像、およびソースに関する情報が含まれており、ユーザーは敵のオブジェクトまたは部隊の位置を報告した人に直接連絡して詳細を問い合わせることができる。

「Delta」の管理パネル(Delta administration panel)には、ユーザー管理セクションと「Delta」インテリジェンス・セクションがあり、後者は収集されたデータと画像のリポジトリとして機能する。システム開発チームは現在、初期偵察、分析、偵察データの明確化、交戦、ターゲット破壊の確認をカプセル化し、あらゆるターゲットに対する射撃交戦サイクル全体を調整するためのソフトウェアを開発している。

2. ミッション・コントロール

前線での無人航空システム(UAV)の数が増加するにつれ、戦争の初期には友軍の妨害、無線周波数の競合、および任務の重複を避けるための飛行管理が緊急に必要になった。この戦場でのニーズに応えて、「Delta」チームは同期マトリックスとしても知られる「ミッション・コントロール」アプリケーションを開発した。

Excelスプレッドシートに似たこのアプリケーションは、主にドローン・オペレーターが時間、ターゲットの場所、およびミッション・タイプ(ISR、攻撃、または砲兵補正など)を指定して無人航空システム(UAV)ミッションをスケジュールするために使用される。毎月、ドローン・オペレーターは「ミッション・コントロール」の助けを借りて、約106,000のミッションを計画している。

「ミッション・コントロール」は、無人航空システム(UAV)のパフォーマンスに関する膨大な量のデータを自動的に生成する。さらに、戦闘員は敵の電子戦活動の観察を含む任務の詳細を手動で追加することがよくある。この貴重なデータは、適切に管理および分析されると、軍事の計画策定を大幅に改善する可能性を秘めており、これは「Deltaエコシステム」の将来の開発計画の一部である。

3. UA DroneID

UA DroneID」アプリケーションは、「Deltaシステム」における無人航空システム(UAV)飛行管理の自然な拡張である。航空機に使用されている敵味方識別(IFF)システムと同様に機能し、ドローンを「友軍か敵か」を識別するために特別にデザインされている。この機能は「Delta」に統合されており、ウクライナのドローンによる友軍誤射事故(friendly fire incidents)を防ぐとともに、敵のターゲットに対するドローンの有効性を高める。

4. Delta Tube

無人航空システム(UAV)および地上の戦場カメラの増加に対応するため、エンジニアは「Delta Tube」を開発した。これにより、ユーザーはこれらのカメラやその他のソースから高解像度ビデオ(フルHD)をライブ・ストリーミングできる。ストリーム所有者は、自分のストリームにアクセスできるユーザーを完全に制御できるため、認証されたユーザーのみが映像を視聴できる。この能力は、偵察部隊から攻撃部隊へのインテリジェンスの伝達が迅速化されると同時に、アクセス権の完全な制御も維持される。

5. Vezha

2024年、「Vezha」外部アプリケーションが「Deltaシステム」に統合され、ビデオ分析およびストリーミング機能を強化した。「Vezha」は、リアルタイムのドローン映像や、ドローン・クルー、砲兵、指揮センター間のやり取りをストリーミングする戦場ビデオ分析プラットフォームである。「Vezha」により、ウクライナ軍は数百機の無人航空システム(UAV)からのビデオを分析し、毎日4,000を超える偵察のオブジェクトを識別および分類できる。音声通信、統合ビデオ復号化、パフォーマンス監視などの機能は、ウクライナ軍の迅速な行動に不可欠だった。

この統合は、外部アプリケーションが「Delta」の機能を強化する方法の良い例である。「Vezha」はもともと領土防衛軍の第411独立大隊「Yastruby」によって当初開発され、その後、国防省のイノベーション・センターによって改良され、統合された。「Vezha」のモバイルバージョンも無人航空システム(UAV)「ミッション・コントロール」アプリケーションにリンクされており、戦場での調整に大きく貢献している。

6. アベンジャーズ

「アベンジャーズ(Avengers)」はAI駆動型プラットフォームで、戦場のビデオ分析を向上させる次のステップである。これは、AIを利用した敵部隊とターゲットの検出を強化するために国防省のイノベーション・センターによって開発された。このソフトウェアは、オブジェクトがカモフラージュされていたり森林に隠れていたりしても、ドローンと固定カメラから同時に送信される何千ものビデオ・ストリームでオブジェクトを識別し、ターゲットを検出できる。「アベンジャーズ(Avengers)」はデコイと実際のターゲットを区別することもできる。

9月に国防省は、「アベンジャーズ(Avengers)」が無人航空システム(UAV)と地上カメラのフィードを分析することで、毎週約12,000個の敵の装備を自動検出したと報告した。この能力により、作戦的効率(operational efficiency)が大幅に強化され、より高速で正確なデータ処理が可能になり、人的エラーが削減される。「アベンジャーズ(Avengers)」の開発は現在も改善を続けており、AIモデルはますます多くのデータでトレーニングされている。このAI対応ソフトウェアを無人航空システム(UAV)に直接統合する計画もある。

7. メッセージング・サービス

通信(communication)は、指揮・統制を成功させる上で不可欠である。このニーズに応えるため、「Deltaエコシステム」内に、暗号化された通信と部隊間の連携を可能にする安全なメッセージング・アプリケーションが開発された。戦略国際問題研究所(CSIS)との会話の中で、システム開発者は、「Delta」の「メッセージング・サービス」はさまざまなシステム機能をリンクさせ、ユーザーが特定のゾーンまたはオブジェクト・タイプに対してアラートを設定できるようにし、関連する変更が発生するとこれらのアラートによってリアルタイムの通知がトリガーされることを明らかにした。これにより、部隊は制御ゾーンの変更や敵の活動に迅速に対応できるようになる。

「Delta」の「メッセージング・サービス」は通信(communication)の中心になりつつあり、一部の部隊では、これを中心に対話フレームワーク全体を構築している。ただし、アプリケーションの使いやすさと拡張性に関する技術的な問題が残っており、安全なデザインにもかかわらず、広範な採用が制限されている。より効果的なチャット機能を備えた「Delta」の更新バージョンが間もなくリリースされる予定である。

8. モバイル・デバイス管理(MDM)

ウクライナ軍の戦闘員は、階級を問わず、個人所有または寄贈されたスマートフォンやタブレットを使用することが多く、これらはセキュリティ上の脅威に対して脆弱である。こうした脆弱性にもかかわらず、戦闘員はこれらのデバイスで毎日軍事アプリケーションを使用しており、そのやり取りは保護されなければなりません。この状況に対応して、「Delta」チームは、ウクライナ軍内でアプリケーションを配布するために使用されている、App StoreやPlay Marketに似た、軍が管理する安全なプラットフォームである「モバイル・デバイス管理(MDM)」を開発した。

「モバイル・デバイス管理(MDM)」は、ユーザーのデバイス上に暗号化された隔離された環境を構築し、軍事アプリケーションや機密データを安全にインストールすることを可能にする。強力な認証方法などの厳格なセキュリティ基準を適用し、デバイスのセキュリティ侵害や紛失時にはリモートデータ消去を可能にする。このプラットフォームは、軍の要件に合わせてデザインされた厳選された68種類のアプリケーションへのアクセスを提供しており、そのうち14種類は運用ニーズに合わせて特別に開発されている。「モバイル・デバイス管理(MDM)」の導入は現在任意であるが、デバイスのセキュリティ侵害は生命に関わる問題となる可能性があるため、戦闘員による「モバイル・デバイス管理(MDM)」の利用はますます増加している。

9. 分析プラットフォーム

当初、「Delta」の開発者は、データを徹底的に分析するのではなく、継続的に収集するコア・システムの構築に重点を置いていた。戦争がより複雑化し、技術的に進歩するにつれて、軍人からの包括的な分析とデータに基づく洞察に対する需要は飛躍的に高まっている。

そのため、「Delta」チームにとって次の大きな飛躍は、特にテキスト情報の処理においてAI対応機能を備えた分析プラットフォームの開発となる。テキストから意味要素を抽出し、マップオブジェクトとして表現できる構造化されたメッセージに変換することが求められている。戦略国際問題研究所(CSIS)との会話の中で、イノベーション・センターで作業している開発者は、ウクライナ語を話すChatGPTに似たツールにも取り組んでおり、これによりテクニカル・サポート・サービスとのコミュニケーションが簡素化されるとのことである。

「Deltaシステム」は、ウクライナで進行中の戦争のダイナミックな需要に対応するため、継続的かつ迅速な開発が進められている。「Delta」の成功の重要な要素の一つは、その反復と更新のスピードである。2022年には、「Delta」は40以上の新機能を実装した。これは、軍事基準だけでなく、ビジネス分野の開発サイクルと比較しても大きな成果である。「Delta」の主任開発者であるアルチョム・マルティネンコ(Artem Martynenko)によると、このシステムは2022年に30回以上のソフトウェア・アップデートを含むリリースを実施した。これらの頻繁なアップデートにより、システムは軍事作戦の調整を支援するためのタイムリーで検証済みのインテリジェンスを求める軍のニーズを満たすことができた。

「Delta」の今後の開発では、ユーザー数を10万人に増やし、「ネットワーク中心の戦い(network-centric warfare)」の原則に機能をさらに適合させることを目指している。特に、リアルタイムのデータ統合、情報精度の向上、ユーザーの利用可能性(user accessibility)の向上に重点を置く。

同盟国との統合と相互運用性

現在の任務および将来の統合作戦における包括的な状況認識(situational awareness)を確保するためには、ウクライナのシステム、特に「Delta」が同盟国のシステムと相互運用可能であることが不可欠である。この要件により、ウクライナの開発者は同盟国のプラットフォームとの統合とデータ共有を優先するようになった。本節では、これらの取り組みを簡単に検証し、ソフトウェアの相互運用性の現状を概観する。

2023年、「Delta」はNATOが開発した3つのシステムを含む、10カ国15種類の状況認識・指揮・統制システムとの互換性を実証した。さらに、2023年には、F-16戦闘機やその他の最新兵器とのデータ交換を可能にするNATOプロトコルであるLink 16を使用した情報交換能力も確認した。これにより、「Delta」の高度な協調戦闘ネットワークにおける作戦的統合(operational integration)が向上した。

「Delta」は、2024年7月にNATO CWIX24(Coalition Warrior Interoperability eXploration, eXperimentation, eXamination, eXercise)で相互運用性のテストを受けた。ウクライナ・チームの到達目標は、西側諸国の兵器がウクライナに提供される前にデータ交換における技術的な問題を特定して対処し、国内の指揮・統制(C2)プロセスへのスムーズな統合を可能にすることだった。

「Delta」は、13の重点分野(focus areas)にわたる5つの標準のテストを受けた2019年のCWIX演習では、1つの重点分野に1つの標準のみだった)。ウクライナ・チームはまた、航空、海上、陸上、サイバー、宇宙、医療、兵站のデータを含む完全な作戦状況図(operational picture)を同盟国およびNATOシステムと交換する「Delta」の能力を実証した。ウクライナ・チームはCWIX24で大きな関心と賞賛を受け、ロシアの進行中の戦争の課題の中での彼らのプロフェッショナリズムに代表者たちは感銘を受けた。

「Delta」と西側諸国の指揮・統制(C2)システムとの統合における注目すべき事例として、ポーランドの砲兵火力統制システム「TOPAZ」との統合が挙げられる。2024年7月、ウクライナ国防省は、ウクライナで現在運用されているKRAB榴弾砲とRAK自走迫撃砲に使用されている「TOPAZ」に「Delta」が統合されたと発表した。NATOのCWIX24演習では、「Delta」は友軍の位置データを含む情報を効果的に収集、更新、補足し、ポーランドの「TOPAZ」システムに送信した。この統合は、「Delta」がアクセス制限されたデータを安全に伝送する能力を実証し、戦場における包括的な状況認識(situational awareness)を提供した。

「Delta」は優れた状況認識(situational awareness)を可能にするだけでなく、「ミッション・コントロール」の運用管理にも不可欠である。この「Delta」の機能のこの側面は、2024年9月にポルトガルで開催されたNATO主導の演習「REPMUS 24」でテストされた。これは無人システムを対象とした史上最大規模の演習である。この演習では、NATO加盟国との相互運用性を実現するために、複数のドメインにまたがる無人プラットフォームと指揮システムを統合することに重点が置かれた。演習の範囲には、対潜水艦戦、機雷対策、重要な水中インフラの防護が含まれていた。

「REPMUS 24」は、ウクライナ海軍が初めて参加した演習だった。ウクライナ海軍は「Deltaシステム」を用いて50機以上の無人プラットフォームを調整し、水中、水上、地上、そして航空機の完全な相互運用性を実現した。「Deltaシステム」は、ラインメタル社が開発した四足歩行ロボット「Robotics-L」との連携にも成功し、様々なプラットフォームへの適応性を示した。「Deltaシステム」は他の指揮・統制システムとも統合され、データ交換、敵味方識別(“friend or foe” identification)、そして参加部隊間の連携強化を実現した。

結論

ウクライナは3年近くにわたり激しい戦争の震源地となっており、この期間を通して、ウクライナの状況認識(situational awareness)へのアプローチと指揮・統制能力の変遷を観察することができた。この間、ウクライナは戦場のダイナミックな要求に適応する能力を示してきた。ウクライナ軍は、民間セクター、ボランティア団体、そして政府パートナーからの技術ソリューションを効果的に統合し、状況認識(situational awareness)と全体的な戦闘効果を向上させてきた。ウクライナ軍の進化において極めて重要な役割を果たす「Delta」は、機敏かつ革新的な防衛技術の開発における啓発的なケース・スタディを提供している。

この分析の主な結果は次のとおりである。

  1. 「Delta」は、状況認識ツールから、ウクライナ軍の全部門にサービスを提供する統合された指揮・統制システムへと進化した。この変革は、システム開発におけるボトムアップ・アプローチを示すものであり、拡張前に強固な基盤能力を構築することの重要性を浮き彫りにしている。「Delta」の進化により、「Delta」は最前線部隊から戦略的指導部に至るまで、軍のあらゆるレベルに効果的にサービスを提供できるようになった。
  2. 「Delta」は、地図ベースの中央インターフェースを中心に構築されている。新しいアプリケーションはこのインターフェースに統合され、統一されたプラットフォーム上でデータを表示する。このアプローチにより、単一のユーザー・インターフェースで同期される新しいツールや機能を追加することで、システムを段階的に拡張することができた。その結果、意思決定者は包括的な量のほぼリアルタイムの情報に一箇所でアクセスできるようになった。
  3. 「Delta」は、複数のソフトウェア・アプリケーションとインターフェースを合併することで進化を遂げ、スタンドアロン・ツールから動的なソフトウェア・ソリューションのエコシステムへと進化した。このアプローチにより、「Delta」は単一の状況認識ツールから、インテリジェンス、監視、偵察からターゲット認識、指揮・統制に至るまで、軍事作戦を強化する広範なソフトウェア・アプリケーションのエコシステムへと生まれ変わった。
  4. 「Delta」の開発プロセスは、戦場からの直接的な要求と、進化する軍事課題に対応するための新しいアプリケーションの迅速な統合によって推進されている。「Delta」は常に変化し続ける戦場の状況に対応し、技術面および運用面のニーズに常に適応している。ドローン調整のための「ミッション・コントロール」やドローン識別のための「UA DroneID」といったアプリケーションの統合は、最前線における無人システムの増加に対応して「Delta」のソフトウェア・エコシステムがどのように進化してきたかを示している。
  5. ウクライナは、米国およびNATOの兵器および指揮・統制システムのソフトウェアを「Delta」に直接統合することに成功した。この統合により、軍事作戦に不可欠な西側諸国とウクライナのシステム間のシームレスなデータ・フローが実現した。「Delta」と西側諸国のシステムとの互換性を示す顕著な例として、F-16戦闘機とのデータ共有を可能にするLink 16戦術通信システムの使用が挙げられる。また、ポーランドの「TOPAZ」砲兵火力統制システムとの統合は、戦場における統合的な状況認識(situational awareness)を支援するために作戦データを同期させる能力を実証している。
  6. 「Delta」に統合されるデータ・ソースは拡大を続け、軍の指導部と最前線要員にほぼリアルタイムの状況認識を提供している。「Deltaシステム」は現在、ドローン、衛星、固定センサー、偵察部隊など、多様なソースからのデータを統合し、包括的な作戦状況を提供している。「Delta」の開発チームは、ドローンのライブ・ストリーミングやチャットボット経由で民間人から提供される情報の分析といった機能を通じて、追加のデータ・ソースを統合し、データ同化速度を向上させることで、システムの機能を継続的に強化し、リアルタイムのデータの関連性を高めている。
  7. 「Delta」は、将来のAI活用機能の基盤を築くため、AI駆動型アプリケーションを導入している。ビデオ分析プラットフォームである「アベンジャーズ(Avengers)」は、「Delta」がAIの活用を拡大している一例である。「アベンジャーズ(Avengers)」は、数千もの同時ビデオ・ストリームからターゲットを自動的に識別し、軍事作戦の効率を向上させる。このような機能により、手動監視に伴う作業負荷とエラーが軽減される。AIのさらなる導入は、「Delta」の分析機能の強化に不可欠である。

ウクライナの技術者たちが採用したアプローチ、すなわち効果的なツールを基盤として統合された全ドメイン状況認識システムと戦闘管理システムの構築は、非常に効果的であることが証明されている。「Delta」はウェブおよびクラウドベースの技術を活用することで、頻繁なアップデートと反復作業を可能にし、システムが常に運用ニーズに適合していることを保証している。米国を含む西側諸国の軍隊は、自国の大規模な指揮・統制システムの改良を進める上で、ウクライナの経験を参考にすることで大きな利益を得ることができるだろう。