米陸軍のミッション・コマンドへのアプローチを再活性化する – Reinvigorating the Army’s Approach to Mission Command - その2
米陸軍のミッション・コマンドへのアプローチを再活性化する – Reinvigorating the Army’s Approach to Mission Command - その1に続いて、その2を紹介する。
その2では、米陸軍の辿った歴史の中から「ミッション・コマンド」が教範に明文化されていない時代においても、「ミッション・コマンド」を実践した例を取り上げ、2019年7月末に改訂された「ADP 6-0 Mission Command :Command and Control of Army Forces」の中に記述されている「ミッションコマンドの7つの原則」を引き出している。
以下、7‐8月号の内容である。
Leading by Mission Command (Part 2)ミッション・コマンドによるリード
July-August, 2019 Military Review
Gen. Stephen Townsend, U.S. Army[1]
Maj. Gen. Gary Brito, U.S. Army[2]
Maj. Gen. Doug Crissman, U.S. Army[3]
Maj. Kelly McCoy, U.S. Army[4]
これは戦争を始めるのに最適な場所である。ここから始めよう。
Theodore Roosevelt Jr.米陸軍准将 1945年6月6日ウタビーチで
1944年6月6日のノルマンディー海岸の混沌の中、ヘルメットの後ろに白い縞模様を付けた男性が最前線の部隊の間ではっきりと見え、命令を叫び、向かう先を先導していた。このシーンはクリスマスの日にGeorge Washington将軍がトレントンの英国軍陣地を攻撃するために氷で満たされたデラウェア川を渡る準備をしている間、全ての将校に、彼ら自身を区別するために白い紙を彼らの帽子に入れたという命令を思い起こさせるものである[5]。Dディの場合、将校と下士官は、戦いの渦中にある兵士がどこにいてもリーダーを見つけられるようにという意図をもって、これらの白い縞模様を塗った。第一派で達着した米国の最上級のリーダーは、Theodore “Ted” Roosevelt Jr.米陸軍准将であった[6]。上陸すると、Rooseveltは、彼の師団が目標から2千ヤード離れていることに気付き、命令の過ちを取戻すためにすぐに決定的な行動を取り、部隊を海岸から移動させた。前線からリードするという彼の関与は混乱を大幅に軽減し、ノルマンディー海岸の連合軍の最初の上陸がドイツ軍の打撃から防ぐことになった。
前線からリードすることは、米陸軍におけるリーダーシップの決定的な特徴である。ボートの先頭、滞留状態や巡回地点の先頭に限らない。戦時と同様に、前線からのリードは駐屯地と訓練に適用される。それはあなたの兵士達がいる場所にいて、あなたが能力を有していることを示し、あなたが彼らに何をするかを意思表示することを意味する。良きリーダー達は、全ての文脈で適応性があり効果的な哲学的アプローチを継続的に適用している。
我が米陸軍では、そのアプローチはミッション・コマンドである。ミッション・コマンドによるリードには、言葉だけでなく行動への関与が求められる。有能さを開発し、相互信頼を確立し、共有された理解から作戦することを学ぶことは、野戦での始まりではない。それは明確な指揮官の意図を伴って部隊の地域で始まるものである。ミッション・オーダーとリスクの受容を伴って作戦で試験され刷新され、規律ある主導性を伴う行動に至る。成功したリーダーは、ミッション・コマンドによってリーダーシップの文化を吹き込み、彼らの部隊は日々その文化で生活する。
それらは下位のリーダーに頻繁な繰り返しの機会を与え、計画の行き詰まりや予期しない機会が生起し、兵士達の命が危ない場合の戦闘における払うべき配当の、すべての文脈での繰り返しの機会を与えることになる。
では、リーダーは実際にこれらの原則をどのように適用しているのだろうか?彼らは前線からリードし、例を示すという関与の仕方でそうする。ミッション・コマンドに関与するリーダーは、自信と謙虚さのバランスをとる。一人一人が、すべての最高の考え方やあらゆる決心を下すのに必要なすべての情報を独占しているわけではない。自信のある指揮官は、チームワークと部隊団結の文化を育み、チームのすべてのメンバーに信頼と自信を築く。自信のある謙虚なリーダーはまた、部下のリーダーの主導性を開発し、意思決定とリスクの受容を強化するために、個人的な時間とエネルギーを捧げる。そうすることで、指揮官は、任務を達成するためにリーダーの統制と部下の主導性の組み合わせを常に管理しながら、部下のリーダーが可能なように定期的に権限を下位へ押し下げる条件を設定する。
リーダーの統制は、ミッション・コマンドの基本である。彼らの創意工夫、本能的なやる気、主導性、そして行動へのバイアスを考えると、よく訓練された米兵は分権化された環境で自然に逞しく成長する。ただし、適切な監督と統制はマイクロマネジメントではない。それらはリーダーの義務である。リーダーは、彼らが提供するガイダンスの量と、関係する特定の条件と関係する人に対して行使する統制を適正にする。これは、小隊指揮官を育成する中隊指揮官または大隊指揮官を育成する師団指揮官に等しく適用されるものである。分隊長は、新たな地位と分隊のブラボーチームリーダーに、より高いレベルの統制を合法的に適用する。同じ分隊長はアルファチームリーダーに低いレベルの統制を適用する。アルファチームリーダーは、分隊と共に多くの訓練を反復し、タスクを完了する際に有能さ、主導性、および肯定的な結果を一貫して実証する経験豊富なチームリーダーである。反復した訓練を通して、分隊長は任務を達成し、ブラボーチームリーダー内の信頼と自信を構築するために適用される統制のレベルを調整する。
リーダーは、適切な接続性と状況認識を確立するために、指揮・統制システムを適用するときにこの同じアプローチを適用する。指揮・統制に対するこのアプローチは、ミッションを達成するために継続的なコミュニケーションやリーダーの相互作用を必要としない。よく訓練された部隊は、問題に最も近い兵士の主導性を保護するために、これらのシステムの使用を訓練する。ミッション・コマンドのリーダーは、そうするためのツールを持っているという理由だけで、不必要に統制を強化したり、「リーチダウン」する誘惑を避ける。この関与は指揮官から始まるが、指揮官の意図を達成するために決定的に行動する有能な部下のリーダーによって共有される。
最も効果的なリーダーは、定期的に失敗の閾値までの反復した訓練を可能にする。彼らは、部下のリーダーの善意の過ちを引き受けて学習を促進することでこれを達成し、将来の反復した訓練と戦闘の即応性のための有能さを構築する。ミッションを達成し、米兵とその部下のリーダーの自然な強さを最大化するために、最下位レベルに行使される統制のレベルを適正にすることがリーダーの目標である。
米陸軍の指揮と統制に対するリーダーシップのアプローチを支える7つの原則のうち、1つはさらなる検討に値する、リスクの受容である。リーダーがリスクを受容しようとする意欲は、ミッション・コマンドの基本である。リスクの受容に関する一般的な恐怖は、リーダーのリスクの受容と主導性の適用の結果が不足すると、リーダーが批判または非難されることである。我々のミッション・コマンドアプローチが働くためには、リーダーは部下のリーダーが指揮官の意図を達成するために彼らの主導性を使用し、そうしようとする時にリスクを測りそして受容することを奨励しなければならない。
1776年、Washingtonと彼の軍隊がデラウェア川の渡河に失敗し、またはトレントンの会戦で失敗した場合、大陸陸軍の終わりを加速させた可能性がある。ただし、すべての選択肢が高いリスクを持っていたために、これらの話は依然として主導性とリスク受容の良い例として役立っている。一連の敗北にもかかわらず、Washingtonは戦略的な優位性を獲得し、ニュージャージーを保護しようとする英国の試みを混乱させる機会を見た。彼の新しい計画は、奇襲と敵の自信過剰の機会を利用したのである。
彼の選択は明確だった。(1)弱くて士気の低い米陸軍の行進を継続し、より良い機会を期待する、(2)デラウェア川を渡河し戦略的優位をつかむ、または、(3)デラウェア川を渡河し失敗する。この場合、より良い機会を待つために行進することは、恐らく米独立戦争の悲惨な終末を保証したであろう。敵対者に対する優位性を獲得するリスクを受容することにより、Washingtonは主導性を取り戻し、米国の士気を高め、ほぼ5年後に来る勝利の条件を設定し始めたのである。リスクを受容するには、戦場で始まらない発想が求められる。指揮官は、駐屯地と訓練の両方でリスクを受容する機会を探すことが重要である。そうして初めて、リスク受容を実践し、それを組織の文化の中に築き上げることができるのである。
このシリーズの最初の記事(ミリタリーレビュー、2019年5〜6月)で説明したように、ミッション・コマンドのアプローチは、米陸軍の文化に十分に根付いていない。リーダーの育成に適応し続けることによって、ミッション・コマンドを再活性化することは本質的なステップの1つである。リーダーは、直接的および間接的に、彼ら自身の自己開発と彼らの部下の育成に個人的に責任を負っている。リーダーは、彼らの知識を拡げ、新しい作戦運用環境と将来のリーダーシップの機会に備えるために読んで勉強する。自己啓発はまた、部下との発展的な関係を確立するために必要なリーダーの自己認識と対人スキルを改善させる。直接的なリーダーシップ開発は、学校教育、課題、特定の訓練の機会(つまり、状況に応じた訓練演習)、コーチング、およびカウンセリングを含む継続的なプロセスである。間接的なリーダーシップ開発には、オープンな対話、批判的思考、主導性、リスクテイク、失敗からの学習、および例による指導を促進する文化の育成が含まれる。
リーダーが行うことはすべて、2つのことを達成することである。手元のタスクを達成し、他の人に例を提供する。その文脈では、Dwight D. EisenhowerとGeorge S. Patton Jr.は、戦間期の中隊や第一線の将校として、夕方に頻繁に集まって、飲みながら今日戦術的決心ゲームと呼ばれる短い挿話における戦いの問題と解決策について議論していた。これらの会合は、彼らと仲間に反復した経験的な学習を提供し、彼らの部下を育成する責任を遂行する準備となった。
1962年、米陸軍歩兵学校は、小部隊のリーダーシップの基本的な問題と呼ばれる挿話の小冊子を発行した。その後、1975年、当時第9歩兵師団の指揮官だったHoward Stone米陸軍少将は、「今度はなんだ、中尉」と呼ばれる指導力育成の挿話の小冊子を委託した。これらの小冊子は両方とも、直接的なリーダー育成のための優れたガイドとして役に立った。それらは読みやすく、安価でありながら、小規模部隊のリーダーが駐屯地、訓練、または戦闘で遭遇する可能性がある問題と同様の問題で反復した意思決定の場を獲得するための非常に効果的なツールであった。これらのアプローチは今日でも重要である。
また、リーダーシップ開発の議論を駆動するための歴史的または架空の挿話が不足することはない。たとえば、米陸軍教訓センター(CALL)は、現在および将来の戦闘に関連する戦術的、道徳的、および倫理的な挿話のコレクションを増やし続けている。また、軍事史の研究は、軍事的問題を通じて彼らの方法「もし、起こったならば」へのリーダーの本来の能力を促進し、意思決定と解決策への理解を広げることができる。そのような目的のための歴史的なケーススタディの一例は、「ソビエト歩兵に対する戦闘で獲得した経験[7]」である。
ミッション・コマンドは、駐屯地、訓練中、または世界中の作戦のために配備されているかどうかにかかわらず、米陸軍の指揮・統制への米陸軍のアプローチである。有能さ、相互信頼、ミッション・オーダー、指揮官の意図、共有された理解、規律ある主導性、およびリスク受容の原則は、それぞれの特定の文脈での適用における判断を必要とする。良きリーダーは日々ミッション・コマンドを実践し、チームの全員にとって原則を第二の本質にするための基礎となる反復を最大化するために、彼らの部隊が行うすべてのおいてその原則を継続的に適用している。彼らは、指揮官の意図を達成するための部下の意思決定と主導性を開発し権限を与えるために、自信と謙虚さのバランスを取るのである。彼らは敵に対する優位獲得し任務を達成するためのリスクを受容する意欲を促進する。すべての指揮階層で、ミッション・コマンドによる指導には、彼ら自身と彼らの部下を育成するためのリーダーの時間と自己学習の多大な投資が求められる。
ミッション・コマンドは、勝利する米陸軍を導く唯一の方法である。今こそ、我々全員がこのアプローチを再び活性化する専門的な責任を負っている。さもないと、軍は次の最初の戦いに勝つために必要な方法で戦う準備ができていない。
ノート
[1] 米陸軍訓練ドクトリンコマンドの司令官であるStephen J. Townsend米陸軍大将は、6つの主要な戦闘作戦を支援するために中隊レベルから軍団レベルにおいて兵士を率いて従事した。彼の直近の任務は、統連合任務部隊指揮官-生来の決意作戦-第18空挺軍団の指揮官である。
[2] Gary Brito米陸軍少将は、米陸軍機動COEの司令官である。彼は、ルイジアナ州フォートポークにある統合即応性訓練センターの司令官としての勤務経験を有する。彼はイラクとアフガニスタンの両方に従軍した。
[3] ミッション・コマンドCOEの責任者であるDouglas C. Crissman米陸軍少将は、イラク、アフガニスタン、およびシナイ半島での戦闘および平和維持活動を支援するために多国籍部隊、連合部隊、統合部隊、および陸軍部隊においての兵士を率いて従事した。
[4] Kelly McCoy米陸軍少将は、米陸軍訓練ドクトリンコマンド配属の戦略家である。彼は米陸軍、統合部隊、米国省庁でさまざまな計画策定チームを率いてきた。彼は、イラクとアフガニスタンでの戦闘作戦を支援するために複数の勤務経験を有する。
[5] David Hackett Fischer著「ワシントンの渡河作戦」 (New York: Oxford University Press, 2004), 208.
[6] 軍事史センター「ユタ海岸からシェルブールへ」 (6-27 June 1944) (1948; repr., Washington, DC: CMH, 1990), 45–47, 2019年5月20日アクセス, https://history.army.mil/html/books/100/100-12/CMH_Pub_100-12.pdf; William M. Hammond, Normandy著「第2次世界大戦の米陸軍の戦役」 (Washington, DC: CMH, 1994), 27–28, 2019年5月20日アクセス, https://history.army.mil/html/books/072/72-18/CMH_Pub_72-18.pdf.
[7] https://www.armyupress.army.mil/Portals/7/Hot-Spots/docs/Experience-Soviet-Infantry.pdf
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