軍事的情報力とは何か

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米国の統合参謀本部が2018年7月に情報環境における作戦の統合コンセプト(Joint Concept for Operating in the Information Environmentというコンセプト文書を発出した。これは、情報作戦(Information Operations)という情報を駆使した作戦が、主たる作戦の補助的な役割を持つ一形態としての位置づけから一歩踏み出そうという取り組みの一つとして考えられる。この背景にはインターネットやデジタル手段の社会全般に広がる中で国家にとっての安全保障環境の認識を変えていかざるを得なくなったことがある。このことは、米国防総省が2016年6月に発出した情報環境における作戦のための戦略(STRATEGY FOR OPERATIONS IN THE INFORMATION ENVIRONMENTという指針文書に遡ることが出来る。

米軍の各軍種は、情報作戦(Information Operations)でさえ、軍種として十分に咀嚼し、一つの作戦として認知され、大いに効果を発揮してきたとはいいがたいものがあったのであるが、上記の指針文書に述べられた環境の変化の認識は、現在では当たり前になったサイバースペースや電磁スペクトラムといわれる領域での脅威に直面している今、受け入れるしかない現実であると受け止めたと考えられる。

米軍の軍種の中で、いち早く「情報環境における作戦(Operation in the Information Environment:OIE)」の検討を始めたのが米海兵隊である。米海兵空地任務部隊の情報環境作戦の適用のコンセプト(Marine Air Ground Task Force Information Environment Operations Concept of Employmentとして2017年7月に発行している。

ここでは、この新たな環境の認識を国力(national power)の一手段である情報力(Information Power)の観点から、他の手段である軍事力(Military Power)との関連で考察した米海兵隊のガゼットに掲載された論文を紹介する。(軍治)

軍事的情報力とは何か –ポスト産業時代の情報環境– What is Military Information Power? -The post-industrial information environment

エリックX.シャナー[1]

Marine Corps Gazette • April 2020

 

対等な競争者はまた、徐々に強制的な曖昧な活動の適用をとおして、米国の影響力と米国のパートナー国に挑戦している(写真:ネイサン・レイズ米海兵隊伍長)

 

情報は長い間、国力(national power)の4つの手段の1つとして理解され用いられてきた。国力(national power)の外交的、軍事的、経済的手段とともに、情報は、国家が利用できる総てのリソース(total resources)を包含している。これらのリソースは、国益(national interest)を含む戦略目標(strategic objectives)と政策的狙い(policy aims)を達成するために使用される。この記事は、「軍事的情報力の理論」を導き出すために、国力(national power)の情報的手段(informational instrument)とポスト産業化時代の情報環境の変化という古典的な概念をもって描こうとするものである。

The Theory of Military Information Power:軍事的情報力の理論

ポスト産業化時代における情報のグローバル、即時、そして永続的な性質は、グローバルな安全保障の景観を再形成した。時には情報化時代とも呼ばれるこの新しい時代は、侵略者(aggressors)に社会的機関の効果的な機能に必要な情報の基礎となるデータとネットワークを直接標的とする機会を生み出す。

これは、銀行、医療、製造、輸送、エネルギー、貿易、商取引などの機関に依存しているために可能であり、すべての政府機能には、デジタルデータのほか、サービスを提供する高度なコンピューティングアルゴリズムとネットワークを有している。

情報化時代はまた、侵略者(aggressors)が個人や個人のグループを直接標的にして、彼らの現実の知覚(perception of reality)を変えるために誤った情報(misinformation)や偽情報(disinformation)を送る機会を作り出している。これが可能なのは、人々がインターネット、ソーシャルメディア、デジタルコミュニケーションに依存して、社会的な交流、計画や調整を行い、ニュースや情報を受け取る度合いが高いためである[2]

最近のRAND研究所の研究では、上記の現象を仮想社会戦争と呼ばれる新しい形態の紛争の特性として言及している。この形態の紛争は、重要な社会機関データへの攻撃と、人々の社会的現実と真実の知覚を変えるために伝統的なメディアやソーシャルメディアを介した標的化した欺瞞的なメッセージを組み合わせて侵略者(aggressors)によって実行される[3]

社会的情報依存とそれに続く脆弱性の増加傾向は、米海兵隊を含む情報時代の軍隊が共有する問題である。産業化時代、技術の優位性により、世界で唯一の軍事大国として米国がしっかりと確立された。超大国のステータスの定義される特徴は、地球上のどこにでも戦闘力をもたらすための情報への確実なアクセスと情報の使用であった。

情報への確実なアクセスの結果として、戦闘力が相手を上回ることを仮定することはできない。米国の対等な競争者は、米国が現在戦闘力を生み出し、活用するために依存しているデータと情報のネットワークを直接標的とする能力を開発している。対等な競争者はまた、攻撃的なナラティブや宣伝に裏打ちされた、次第に強制的で曖昧な活動の活用を通じて、米国の影響力と米国のパートナー国に挑戦している。この種の課題は、伝統的な米軍の対応を避けるために、意図的に武力紛争のしきい値を下回ったままである。

これは軍事的情報力の理論へ導くものである。この理論は、国力(national power)の軍事的手段を拡張した見方であり、戦闘力と軍事的情報力という2つの相互に強化する要素で構成されている。(図1を参照)

図1.国力の道具

統合ドクトリンによれば、戦闘力は「特定の時点で相手に対して軍事部隊/編成を適用できる崩壊的および/または破壊的な戦力の合計手段」と定義されている[4]。米軍は、武力紛争や通常戦(general warfare)での戦闘力を投射している。戦闘力のコンセプトを拡張するために、米海兵隊は最近、軍事的情報力という用語を定義する統合覚書を発行した。この覚書は、2020年1月に情報担当副司令官と戦闘開発・統合担当副司令官によって署名された。

覚書は軍事的情報力を次のように定義した。

致死性、残存性、運動性、または影響力を強化するために関連する行為主体に対して適用できる部隊または情報能力を総計した手段[5]

覚書は、ドクトリンの開発を知らせるための公式の暫定指針としてこの用語を確立した。この新しい用語は、国力(national power)の軍事的手段と連続した競争全体にわたるその適用性についての拡張された思考を支えている。

軍事的情報力は競争と戦争に広く適用可能であり、それは戦闘力を相互に支える必要な要素である。対抗する軍事システムの意思決定と基本的な機能に求められる情報を操作、拒否、または破壊する実力(ability)を有する側は、相手が同様のことを行うことを防ぎながら、戦闘力の優位性を含む大きな優位性を達成する。軍事的情報力の本質は、情報の生成、保存、拒否、または投射を通じて相手に自身の意志または影響力を発揮する実力(ability)である。

Information Generation:情報の生成

情報の生成とは、情報環境における我々の潜在的競争力を高めるために行われる準備活動を指すものである。これにより、あらゆる作戦ドメインで何らかの効果を達成するためにこの優位性を活用する。活動には、“脅威、友好的、中立的、物理的な環境の観点から情報環境を分析すること”、“特定の行動方針の計画策定と準備”、“特定の行動を実行する権限の獲得”、そして、“データベース、通信ネットワーク、ソーシャル・ネットワーク、主要なリーダー、信頼できるインフルエンサーなどを含む、相手の情報環境へのアクセスの獲得”を含むものである。

Information Preservation:情報の保存

情報の保存とは、競争して会戦に勝利するために求められる情報とデジタルコミュニケーション上で、我々が持つ依存関係と脆弱性に復元性力を構築することを指す。

情報の保存には、“強力なサイバーセキュリティ手段の実装”、“防御的または攻撃的なサイバースペース作戦”、または“我々のネットワークを防護するための物理的な攻撃”、“電磁スペクトラムの使用を効果的な管理”、“効果的な作戦保全と認証管理の実行”が含まれる。また、我々の任務と目標に対する働きである、否定的なニュース、宣伝、ナラティブ(ソーシャル・メディア・ナラティブを含む)に対する復元力の構築も含まれる。この要件は、すべての階層の指揮官にとってますます主要な関心事になっている。

Information Denial:情報の拒否

情報の拒否とは、死活的な情報を彼らから否定することで相手に対して優位性を確保するためにに利用可能な手段の使用と説明されるものである。これには、相手が感知し、理解し、行動するために必要な情報を操作、崩壊、または破壊することが含まれる。積極的な情報の拒否には、サイバー攻撃、電子攻撃、指向性エネルギー攻撃、物理的攻撃などが含まれる。相手の重要な情報を拒否する受動的な手段には、友軍部隊から発せられる物理的およびデジタル署名を選択的に変更または抑制することが含まれることもある。これには、作戦保全手段、通信の規律、偽装、強力なサイバーセキュリティ手段の実装も含まれる。

Information Projection:情報の投射

情報の投射とは、観測者(競争者や敵国の人々、政府、軍など)に通知し、影響を与えたり、だましたりするためにあらゆる種類の情報を送信することを指す。米海兵隊は、ラジオ、テレビ放送、印刷メディア、携帯電話通信、ソーシャル・メディアなどの直接通信を含む多くの方法で情報を投射することができる。情報は、彼らが観察可能であることを知って物理的な行動をとる、そして、そのような行動がどのような情報への影響を与えるかを知ることによって、投射されもする。情報の投射の方法と目標は、常に情報の拒否とともに考慮すべきである。図2は、軍事的情報力の要素を、上記の議論に基づいて、情報の生成、保存、拒否、および予測の組み合わせとして示し、要約している。

図2.軍事的情報力

 

Conclusion:結論

軍事的情報力の理論は、米海兵隊が優位性を獲得し目標を達成するために、情報を生成、保存、拒否、および投射する方法についてのより実践的な議論の理論的基盤を提供するものである。これを実現するために、米海兵隊は、海兵遠征軍(Marine Expeditionary Force :MEF)情報グループの設立を通じて、情報環境における作戦のコンセプトを進化させてきた。海兵遠征軍(MEF)情報グループは、上記の理論を海兵空地任務部隊(Marine Air-Ground Task Force:MAGTF)全体で実践に移すための槍の先端にある組織である。

ノート

[1] エリックX.シャナー氏は、米海兵隊司令部副司令官(情報担当)の情報計画および戦略部(IPS)で勤務

[2] マイケルJ.マザール、ライアン・マイケル・バウアー、アビゲイル・ケーシー、サラ・アニタ・ハインツ、およびルークJ.マシューズ著「仮想社会戦争の新たなリスク:変化する情報環境における社会的操作」(サンタモニカ、カリフォルニア:R AND、2019)< https://www.rand.org/pubs/research_reports/RR2714.html >

[3] 前掲

[4] 統合参謀、統合出版物3-0「統合作戦(変更1を組み込み済み)」(ワシントンDC:2018年10月)< https://www.jcs.mil/Portals/36/Documents/Doctrine/pubs/jp3_0ch1.pdf >

[5] 統合参謀、統合覚書、「情報関連用語の定義」(ワシントンDC:米海兵隊司令部、2020年1月)< https://mca-marines.org/wp-content/uploads/Definitions-for-Information-Related-Terms-JOINT-MEMORANDUM-22-JAN-2020.pdf >