米陸軍プロジェクト・コンバージェンス

米陸軍では、「マルチドメイン作戦」のコンセプトを、単にコンセプトにとどまらず具体的な戦いの方法や装備につなげていく作業が行われている。かつて、米陸軍が20世紀後半に米陸軍のトランスフォーメーションのためにフォース21部隊実験を行った。陸自もデジタル化の進展に伴う「戦い方」の創造のためにC4ISR部隊実験を行った。単純に過去にさかのぼって研究し答えが導かれるものでもない、新たな技術の投入を伴い、単一軍種を超え、更に複数のドメインにわたる戦いを描き、関係するもので共有できるように文書化していくためには、多くの試行錯誤の繰り返しが必要となるであろう。

最近、米陸軍に関連するサイトには「Project Convergence」という言葉がよく見られる。広がり行く戦場―マルチドメイン作戦の重要な基本的事項で紹介したように、「マルチドメイン作戦」のコンセプトは、これまでの戦場の概念を遥かに上回る空間の広がりを前提としている。そして、このコンセプト文書で使用されている「Convergence」は、「マルチドメイン作戦(MDO)の3つの信条のうち、収束(convergence)が最も議論され、誤解されることが多いことが証明されている。それは、今日行われた一体化され同期化された統合諸兵種連合作戦といくつかの遺産を共有するが、それらの作戦と収束(convergence)の間の違いは基本的である。実際、「収束(convergence)」という言葉は、同期(synchronization)と一体化(integration)の現在の概念(notion)から要件を区別するために明示的に選択された。これは重要なことである。すべての読者は、この考えを検討するために立ち止まり、収束(convergence)は同期(synchronization)の同義語ではないことを理解する必要がある」と米陸軍将来コマンドの米陸軍将来コンセプトセンター(FCC)長の米陸軍中将エリックJ.ウェスリーが述べているように、理解の困難が伴うものである。ここで紹介するのは、「Convergence」を過去の部隊実験のように米陸軍以外の軍種を巻き込みながら、実環境での検証を重ねていこうとする「Project Convergence」についての、米国議会調査局のレポートである。このレポートによると「Project Convergence」は米陸軍が「campaign of learning」と呼んでおり、短期的な取り組みではなく、長期にわたり、学びながら新たなものを構築していくプロセスであり、統合レベルの用兵コンセプトにつながるものであることがわかる。(軍事)

米陸軍プロジェクト・コンバージェンス:The Army’s Project Convergence

2020年10月8日

米陸軍のプロジェクトコンバージェンスとは何か?:What Is the Army’s Project Convergence?

プロジェクトコンバージェンスは、米陸軍が「学習のキャンペーン(campaign of learning)」と呼んでいるものであり、米陸軍を統合部隊にさらに一体化するようにデザインされている。これは、米陸軍が統合全ドメイン指揮統制(Joint All Domain Command and Control:JADC2)の一部となることを計画している方法であり、国防総省(DOD)は、米空軍、米陸軍、米海兵隊、米海軍、米宇宙軍のすべての軍種、同様に特殊作戦部隊(SOF)からのセンサーを単一のネットワークに接続する計画である。これは、理論的には、より効果的で低コストになる可能性がある。伝えられるところによると、2020年9月29日、米陸軍と米空軍は、複合した統合全ドメイン指揮統制(JADC2)の開発に協力し、将来の統合部隊の訓練、演習、およびデモに影響を与える2年間の合意に署名した。

兵士、兵器システム、指揮統制、情報、地形の5つの中核となる要素を中心にデザインされた米陸軍将来コマンド(Army Futures Command:AFC)は、プロジェクトコンバージェンスを年間サイクルで実行することを計画している。年間を通じて技術、装備、兵士のフィードバックを頻繁に使用して目的を達成し、毎年の演習またはデモンストレーションで最高潮に達するものである。基本的に、米陸軍は「将来の戦い(future warfare)のために陸軍種の大きなアイデアを取り入れ、現実の世界でそれらをテストしたいと考えている」と伝えられている。米陸軍は、何が機能し、何を修正する必要があるかを把握し、変更を加える方がはるかに安価な場合は、できるだけ早い段階で把握したいと考えている」

プロジェクトコンバージェンス2020(PC20 ):Project Convergence 2020 (PC20)

プロジェクトコンバージェンス2020(Project Convergence 2020:PC20)は、2020年8月11日から9月1日までアリゾナ州ユマ試験場(Yuma Proving Ground)で開催され、約500人のスタッフが参加し、以下についての意思決定を支援するための経験を提供することを意図している。

  • 米陸軍が戦闘のために組織する方法を形作ることによって、米陸軍が戦う方法を変更する。
  • 作戦プロセスを最適化する機会を強調する。
  • 米陸軍が敵の脅威を視覚化し、説明し、決定し、行動する方法を進化させる。 そして
  • 新しい技術に対する兵士とリーダーの信頼を築く。

プロジェクトコンバージェンス2020(PC20)は、戦術ネットワークがより迅速な意思決定を促進できるように、最低の作戦的次元で新しい実現技術を一体化することにより、米陸軍が「近接戦闘(close fight)」と呼ぶものに集中した。部隊レベルでは、プロジェクトコンバージェンス2020(PC20)は旅団戦闘チーム(Brigade Combat Teams:BCT)、戦闘航空旅団(Combat Aviation Brigades:CAB)、および遠征通信大隊強化型(Expeditionary Signal Battalion-Enhanced:ESB-E)に焦点を合わせた。システムレベルでは、プロジェクトコンバージェンス2020(PC20)には、米陸軍のMQ 1Cグレイイーグル無人航空機(UAV)、多目的ヘリコプター発射システムである空中発射装置(Air Launched Effects:ALE)、および戦術ネットワークが含まれている。戦術ネットワークは、米陸軍が戦闘で使用する指揮、統制、通信、インテリジェンス、およびコンピューターシステムである。

図1.演習の作戦シナリオの再現

(2020年9月10日に、米議会調査局に提供された米陸軍の説明資料から)

プロジェクトコンバージェンス2020(PC20)での実験の1つには、低軌道衛星とグレイイーグルUAVを使用して空中ターゲットの検知を実行し、同時に地上でターゲットを検出することが含まれていたと報告されている。2つのシステムからのデータは、ワシントン州の統合基地ルイスマコードの組織に戻され、そこでターゲットが処理された。

次に、データはターゲットと交戦するため、ユマ試験場のシステムに戻された。そのシステムは、現在開発中の拡張射程カノン砲(Extended Range Cannon Artillery:ERCA)システムなどの自走砲システム、グレイイーグル、または別の地上プラットフォームのいずれかである。この実験全体はおそらく20秒以内に完了した。

米陸軍のプロジェクトコンバージェンス2021(PC21)および2022(PC22)の計画:The Army’s Plans for Project Convergence 2021 and 2022 (PC21 and PC22)

米陸軍はプロジェクトコンバージェンスを「学習のキャンペーン(campaign of learning)」および毎年恒例のイベントにすることを意図しているが、現在、米陸軍は計画策定情報を2021年と2022年のみを公開している。

プロジェクトコンバージェンス2021(PC21):Project Convergence 2021(PC21)

米陸軍によると、2021年に彼らは米陸軍専用の作戦から移行し、他の軍種や不特定の政府機関と一体化することを計画している。米陸軍は、米海軍、米空軍、米海兵隊、およびインテリジェンスコミュニティからの参加を約束していると言われている。米陸軍は統合部隊から約1,000人の要員がプロジェクトコンバージェンス2021(PC21)に参加することを計画している。米陸軍がプロジェクトコンバージェンス2021(PC21)のシステムに重点を置いているのは、旅団戦闘チーム(BCT)から師団およびマルチドメインタスクフォース(MDTF)レベルに移行して、階層でより迅速に意思決定を行うことである。プロジェクトコンバージェンス2021(PC21)はまた、2020年12月に公開される予定の米国防総省(DOD)の統合用兵コンセプト(Joint Warfighting Concept)の側面を一体化することを計画している。

プロジェクトコンバージェンス2021(PC21)のドラフト目標には、以下のデモンストレーションが含まれている。

  • 適切なデータを適切な場所に適切なタイミングで配信するクラウドベースのネットワーク。
  • ターゲットの検知、認識、および優先順位付けにおける条件付きの自律性。
  • 長距離火力の射程と致死性の増加。
  • 戦場での視覚化、理解、操作を強化する人工知能(AI)能力。
  • 交戦を通じての、センサー検知からキューイングまでの統合防空およびミサイル防衛(AMD)の一体化。
  • 米陸軍と統合システム間の相互運用性により、統合全ドメイン作戦(Joint All Domain Operations)を可能にする。
  • 争われた電磁スペクトラム(EMS)環境での作戦。

プロジェクトコンバージェンス2022(PC22):Project Convergence 2022 (PC22)

プロジェクトコンバージェンス2022(PC22)では、米陸軍は同盟国とパートナーを含めることを計画している。オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国などの緊密な同盟国と安全保障のパートナー国に焦点を当てている。このプロジェクトは、複合した統合任務部隊(Combined Joint Task Force:CJTF)レベルに拡大し、より多くの技術とアセットを戦場に持ち込むことである。最終目標は、紛争を通した競争から演習し、紛争の競争レベルに戻ることである。複合した統合任務部隊(CJTF)(軍団および師団レベル)に加えて、米陸軍はプロジェクトコンバージェンス2022(PC22)にマルチドメインタスクフォース(MDTF)、旅団戦闘団(BCT)、連合国およびパートナーのミッションコマンドの要素(Mission Command Elements)を含めることも計画している。

議会からの予想される問い:Potential Issues for Congress

プロジェクトコンバージェンスは米陸軍の戦力構造と近代化の取り組みにどのような影響を及ぼすか?:How Might Project Convergence Affect Army Force Structure and Modernization Efforts?

米陸軍は、プロジェクトコンバージェンスを、1940年と1941年に全米で実施された米陸軍のルイジアナ演習と比較した。ルイジアナ演習は、米陸軍が第二次世界大戦を組織し、装備し、闘った方法に大きな役割を果たしたものである。

・この場合、どのような正式なメカニズムまたはプロセスによって、プロジェクトコンバージェンスの観察/発見は、議会の決定だけでなく、米陸軍の戦力構造と近代化の決定に情報を提供するのか?

・これは米陸軍将来コマンドの専管事項の機能か?

・戦闘軍(Combatant Command)などの他のエンティティは何か役割を果たすのか?

・プロジェクトコンバージェンスの結果は、米陸軍の計画策定、事業計画、予算、実行(PPBE)プロセスにどのように反映されるか?

・プロジェクトコンバージェンス2021(PC21)とプロジェクトコンバージェンス2022(PC22)が計画から実行に移行するとき、米陸軍はどのように議会とやり取りする予定か?

ほかの軍種からの合意はどれくらいなのか?:How Much “Buy In” Is There from the Other Services?

前述のように、プロジェクトコンバージェンス2021(PC21)は他の軍種からの関与を拡大する予定である。

・米海軍、米空軍、米海軍、米宇宙軍、および米特殊作戦部隊(SOF)の関与は、新しい統合用兵コンセプト(Joint Warfighting Concept)におけるその役割を洗練するよう努める米陸軍に利益をもたらす可能性があるが、他の軍種および米特殊作戦軍にとっては、プロジェクトコンバージェンスから派生する「価値」はどれくらいあるのか?

・彼らは単なるカジュアルな参加者であり、彼らは同様の軍種固有のデモンストレーションまたは実験が計画または進行中なのか?

・それとも、プロジェクトコンバージェンスを統合レベルに「高める」ことに価値があるのか?

そのような統合の努力は、国防総省の新しい統合用兵コンセプト(Joint Warfighting Concept)を真にテストするかもしれない拡大された軍種の参加をもたらすかもしれない。さらに、このような統合プロジェクトコンバージェンスにより、各軍種と国防総省の予算を節約できる可能性がある。

同盟国とパートナー国の関わり:Involvement of Allies and Partners

前述のように、プロジェクトコンバージェンス2022(PC22)は、選択した同盟国およびパートナー国からのミッションコマンド要素の(MCE)を含めて、ネットワークにシームレスに接続し、米軍との共通作戦図(common operating picture:COP)を確立できるようにすることを計画している。このような相互運用性は連合の作戦に不可欠であると見なすことができるが、これは、国防総省に提供されるリソースと技術が不足している一部の同盟国やパートナー国にとってはとらえどころのないものになる可能性がある。

・これを考慮して、米陸軍は、能力の低い同盟国とパートナー国を新しい統合用兵コンセプト(Joint Warfighting Concept)で想定されている作戦に一体化するための代替手段をテストすることを計画しているか?

・あるいは、代わりに、彼らは「追いつく(catch up)」ことを期待され、そうでなければ、おそらく将来の連合作戦への参加から彼らを除外するのであろうか?

プロジェクトコンバージェンス:拒否された電磁スペクトラム(EMS)環境内の作戦とシグネチャ管理:Project Convergence: Operations in a Denied Electromagnetic Spectrum (EMS) Environment and Signature Management

プロジェクトコンバージェンスの基本的な目標であるセンサーとシューターを一体化して、近距離と遠距離のターゲットをより迅速に識別して交戦させることを検討すると、この最終目標の達成は電磁スペクトラムへの無制限のアクセスに依存することが明らかになる。前述のように、プロジェクトコンバージェンス2021(PC21)の目的の1つは、競合する電磁スペクトラム(EMS)環境での作戦の遂行を成功させることであり、将来のプロジェクトコンバージェンスはこの実力(ability)を引き続き強調する可能性がある。これは、電磁スペクトラム(EMS)が「争われる(contested)」代わりに「拒否される(denied)」場合、米陸軍がどのように機能するかという問題を提起するものである。

・たとえば、米国の宇宙ベースのアセットが攻撃され、大幅に損傷または破壊された場合のように、電磁スペクトラム(EMS)の大部分が「拒否された(denied)」場合はどうなるであろうか?

・空中または宇宙のアセットがキネティックな行動または電子戦(electronic warfare)やサイバー攻撃などの他の手段によって利用できなくなった場合に、米陸軍が視界外(beyond visual range)のターゲットを検知して交戦する方法に対処するために、将来のプロジェクトコンバージェンス中にテストするために想定される冗長性(システムまたはプロセス)はあるか?

もう1つの関連する問題は、開発中の米陸軍のネットワークとシステムのシグネチャ管理の問題である。この文脈では、シグネチャ管理とは、システムが放出するさまざまなシグネチャ(視覚、赤外線、レーダー、音声、電磁)をすべて指す。潜在的な敵は、プロジェクトコンバージェンスが試みているのと同様の方法で、これらのシグネチャを迅速に検出し、米国のシステムに交戦して破壊する可能性もある。シグネチャ管理は、システムの検知可能性と攻撃に対する脆弱性を統制および削減しようとするものである。

・シグネチャ管理の重要性を考えると、ネットワークとシステムに関連するシグネチャ管理に対処するための将来のプロジェクトコンバージェンスの取り組みに対する米陸軍の目標は何なのか?

担当:アンドリュー・フェイケルト、軍事地上部隊のスペシャリスト