過去の長い影を乗り越えて -日本の防衛AI- (Defense AI Observatory)
人工知能に関する話題が様々に報道され、ロシア・ウクライナ戦争に関する報道でも、米国の人工知能のサービス企業がウクライナ軍にインテリジェンスの分野で貢献していると取り上げられたりしている。最近刊行された図書「ドローンが変える戦争」でも人工知能とドローンの関係を取り上げて説明している。
今回紹介するのは、長年サイバーセキュリティの研究に従事されていた慶応義塾大学教授の「土屋大洋(つちやもとひろ)」氏が関わるDefense AI Observatoryが行っている活動成果の内、2024年に公表された日本の防衛に関する人工知能の現状についての調査報告である。
人工知能そのものにやや消極的ともいえる態度であった日本が逐次人工知能の研究などに取り組んでいった状況や、防衛分野への人工知能適用についての遅まきながらの取組みについて触れられている。日本独特の学術界の軍事に関するアレルギーなどが少なからずブレーキになったとの分析も述べている。
日本国内の文献に基づく調査研究であり、世界に向けた「日本の防衛AIに関する現状報告」としての位置づけにあると考えられる。日本人であっても防衛省をはじめとする機関が公表した資料等を体系的に整理された内容を知ることは、今後の防衛用のAIの取組みに関わる方には良い参考になると考えるところである。(軍治)
過去の長い影を乗り越えて
日本の防衛AI
Overcoming the Long Shadow of the Past
Defense AI in Japan
Motohiro Tsuchiya
DAIO Study 24|23
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防衛AI監視所(DAIO)について:About the Defense AI Observatory
ハンブルクのヘルムート・シュミット大学にある国防AI監視所(DAIO)は、軍隊による人工知能の使用を監視・分析している。 防衛AI監視所(DAIO)は、相互に関連する3つの仕事の流れで構成されている。
- 軍事革新の文脈における文化、コンセプト開発、組織変革
- 現在および将来の紛争図、紛争ダイナミクス、特に新興技術の使用に関連する作戦経験
- 特に新興技術が技術産業エコシステムの性質と特徴に与える影響に焦点を当てた国防産業ダイナミクス
防衛AI監視所(DAIO)はGhostPlayの不可欠な要素であり、速いペースの防衛作戦(defense operations)を支援するためのコンセプト駆動型およびAI強化型防衛意思決定のための能力・技術開発プロジェクトである。GhostPlayはドイツ連邦軍デジタル・テクノロジー研究センター(dtec.bw)の資金援助を受けています。dtec.bwは欧州連合(EU)の資金援助を受けている。
著者について:About the Author
土屋大洋(つちやもとひろ)博士は、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。2021年8月より慶應義塾大学副学長(グローバル・エンゲージメント・情報技術担当)。
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)准教授を経て現職。情報革命が国際関係に与える影響、電気通信とインターネットに関する規制、グローバル・ガバナンスと情報技術、サイバーセキュリティに関心がある。 著書に『サイバーセキュリティと国際関係』(千倉書房、2015年)、『黙示録の時代』(KADOKAWA、2016年)、『サイバー・グレート・ゲーム』(千倉書房、2020年)、共著に『サイバーセキュリティ:公共部門の脅威と対応』(Boca Raton, FL: CRC Press, 2012, 英語)など40冊以上、『日本における情報ガバナンス:新しい比較パラダイムに向けて』(SVNJ eBook series, Kindle Edition, 2016)など40冊の共著がある。彼は、慶應義塾大学で政治学の学士号、国際関係論の修士号、メディアとガバナンスの博士号を取得。
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1. 要約:Executive Summary
第二次世界大戦後、日本は本格的な軍隊を持たず、専守防衛を目的とした自衛隊しか持たなかった。社会、特に学術界には、軍事転用可能な技術を研究開発することへのためらいが存在する。このため、世論、戦略文化、産学エコシステムが、防衛技術に直接取り組まないよう相互に補強し合うという、過去の長い影を作り出している。
しかし、昨今の日本を取り巻く安全保障環境の悪化に伴い、そのような躊躇も弱まりつつあり、米国や英国などのパートナーとも協力しながら、防衛に応用可能な技術の研究開発が進められている。防衛目的の人工知能(AI)に関する議論は2022年頃から本格化し、政府や防衛省の文書にも記述が見られるようになり、予算計上も始まった。しかし、予算規模はごくわずかであり、防衛AIのための特別な組織も存在しない。
また、防衛AIを本格的に防衛作戦(defense operations)に活用する計画はなく、広く注目されている技術のひとつという位置づけにすぎない。自衛隊員のAIに対する知識を深める試みは、まだ始まったばかりだ。
2. 防衛AIについて考えること:Thinking About Defense AI
日本のビジネス・パーソンに最も読まれている日本経済新聞(日経)のデータベースを検索してみると、「人工知能(AI)」と「防衛(defense)」という言葉が同時に登場する最初の記事は2014年5月12日である[1]。 その後、防衛装備品やサイバー防衛へのAI活用に関する報道が散見される。
このような一般的な報道とは逆に、航空・宇宙科学雑誌ではもっと早くから防衛AIについて論じられていた。1983年、防衛庁技術研究本部第三研究所の坂本保は、「人工知能の探索手法を用いた航法について」と題する論文を発表した[2]。 しかし、この論文が書かれた当時は、まだディープラーニングは使われていなかった。同じような観点の論文が1990年に発表されている。曾我章と中島英雄の論文では、「エキスパート・システムを含む人工知能応用システムは、戦略的計算プログラム(SCP)などにより、米国を中心とする海外で研究・開発が進められている。一方、日本では産業用途を中心に研究開発が行われる傾向にある」[3]。
この論文は、有人航空機に使用されるシステムに焦点を当てており、現在の無人航空機を制御するための自律型AIの使用については検証していない。日本の防衛政策は「専守防衛(exclusively defensive defense)」と呼ばれる。第二次世界大戦後の日本国憲法は、日本が本格的な軍隊を持つことを認めておらず、日本国家は平和志向の外交にしがみついている。吉田茂首相にちなんで命名されたいわゆる吉田ドクトリンは、日本の外交、防衛政策、経済政策の基本であった。
このドクトリンは、日米安全保障条約に基づく核の傘の下で、防衛費を抑える一方で、経済により多くの資源を配分するよう日本政府を導いた。このような政策の組み合わせにより、日本は第二次世界大戦の破壊から早期に立ち直ることができた。この状況は、外部からの事件によって脅威認識が変化するにつれて、一歩一歩変化している。しかし、防衛のための技術利用には、過去の長い影が色濃く残っている。
第二次世界大戦後、軍事関連技術の研究を避けるという一般的な認識が生まれた。その結果、日本はAIを含む新技術の軍事利用について議論することに消極的になってきた。日本学術会議は戦後間もない1949年に設立された。
翌1950年には 「戦争目的の科学研究には決して従わないという決意表明」を、1967年には「軍事目的の科学技術は一切認めないという声明」を発表した。このような第二次世界大戦後の雰囲気は、大学を含む学界が戦争に動員されたという反省に基づいていた。
しかし、1950年に朝鮮戦争が勃発すると、連合国軍総司令部(GHQ)は日本の非武装政策を変更することを決定し、1950年8月、GHQによって日本警察予備隊(Police Reserve Corps)と海上警備隊(Coastal Safety Force)という準軍事組織が設立された。警察予備隊は1952年に保安隊(National Safety Forces)に改組され、1954年には陸上自衛隊に改組された。
同時に、海上警備隊(Coastal Safety Force)は海上自衛隊となり、航空自衛隊が新設された。3つの自衛隊は他国のような完全な軍隊ではなく、専守防衛(exclusively defensive defense)を目的とした憲法に基づく組織であった。自衛隊を所管する防衛庁が2007年に防衛省として発足するまでに53年の歳月を要した。
その後、冷戦の緊張が高まるにつれ、軍事費ではないが防衛費は増加し、防衛装備の充実が叫ばれるようになった。しかし、日本学術会議や大学の反応は弱く、専守防衛(exclusive defensive defense)のためとはいえ、積極的に協力しようという雰囲気はなかった。マルタ首脳会談で冷戦が終結し、1989年のベルリンの壁崩壊、1991年のソビエト連邦解体により、防衛産業の拡大を求める声は弱まった。
しかし1998年、北朝鮮が発射したテポドン・ミサイルが日本の領土上空を通過したことで、北朝鮮の軍事的脅威は急速に認識され、「テポドン・ショック (Taepodong Shock)」と呼ばれるようになった。同時に、中国が徐々に軍備を増強していることも問題視され始めた。
その頃には、日本社会では自衛隊の存在を否定する声は弱まり、むしろ適切な規模の防衛力の整備が不可欠と考えられていた。とはいえ、防衛費はGDPの1%に抑えるべきだという政治的コンセンサスがあり、これは最近まで維持されていた。
しかし、2012年に第2次安倍晋三政権が発足すると、北朝鮮や中国による脅威が顕在化し、安倍政権は防衛政策として「積極的平和主義(proactive pacifism)」を掲げた。2013年12月、安倍政権は防衛計画の大綱(National Defense Program Guidelines :NDPG))を閣議決定した。この文書にはこう記されている。
安全保障の観点から、技術開発関連情報等、科学技術に関する動向を平素から把握し、産学官の力を結集させて、安全保障分野においても有効に活用し得るよう、先端技術等の流出を防ぐための技術管理機能を強化しつつ、大学や研究機関との連携の充実等により、防衛にも応用可能な民生技術( デュアルユース技術) の積極的な活用に努めるとともに、民生分野への防衛技術の展開を図る[4]。
しかし、2013年の防衛計画の大綱には、AIに関する記述はなかった。しかし、政府や学界で防衛技術へのシフトが進む一方で、人工知能をめぐる議論も徐々に重なっていった。AIに言及した初の防衛大綱は、同じく安倍政権下の2018年12月に発表され、次のように示されている。
軍事技術の進展により、現在では、様々な脅威が容易に国境を越えてくるものとなっている。さらに、各国は、ゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術を活用した兵器の開発に注力するとともに、人工知能(AI)を搭載した自律型の無人兵器システムの研究にも取り組んでいる[5]。
また、人材基盤の強化策のひとつとして、「人工知能等のゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術を始めとする重要技術に対して選択と集中による重点的な投資を行う[6]」としている。
2018年防衛計画の大綱を受けて、防衛省はAIを導入し、サイバー防衛の自動化、軍事・防衛関連データの翻訳、装備品の管理(修理箇所や部品交換の必要性の判断)などに活用する計画を示した[7]。防衛計画の大綱(National Defense Program Guidelines)は、4年後の2022年12月に発表されたときに国家防衛戦略(National Defense Strategy)と改名された。以下の文中にAIへの言及がある。
さらに 、科学技術の急速な進展が安全保障在り方を根本的に変化させ、各国は将来の戦闘様相を一変させる、いわゆるゲーム・チェンジャーとなり得る先端技術の開発を行っている。その中でも中国は「軍民融合展戦略」名の下に、技術のイノベーションの活発化と軍事へ応用を急速に推進しており、特に人工知能(AI)を活用した無人アセット等を前提とした軍事力の強化を加速させている。こうした動向によって 従来の軍隊の構造や戦い方に根本的な変化が生じている[8]。
2022年の国家防衛戦略とともに発表された「防衛力整備計画(Defense Buildup Program)」には、AIについてより踏み込んだ記述が見られる[9]。まず、認知領域(cognitive domain)を含む情報戦への対応として、同計画は次のように述べている。
さらに、各国等の動向に関する情報を常時継続的に収集・分析することが可能となる人工知能(AI)を活用した公開情報の自動収集・分析機能の整備、各国等による情報発信の真偽を見極めるためのSNS上の情報等を自動収集する機能の整備、情勢見積りに関する将来予測機能の整備を行う[10]。
指揮・統制・情報関連機能に関しては、「ネットワークの抗たん性を強化しつつ、人工知能(AI)等を活用した意思決定を迅速化」を目指している。約10年後には、「人工知能(AI)等を活用し、情報収集・分析能力を強化しつつ、常時継続的な情報収集・共有体制を強化[11]」と報告書は続けている。
陸上自衛隊でサイバー防衛に携わった伊東寛1等陸佐は、AIは今後あらゆる兵器に活用されるだろうと指摘する[12]。 AIは人間の知的能力を人間の補助として拡張し、人間に代わって冷静に対応する役割を果たすだろう。現在、AIには5つの利点があると指摘する。
- 学習できる
- 多種多様で大量のデータを扱うことができる
- 処理速度が速い
- 学習したことを他のAIと共有できる。
- ヒューマン・エラーがない
その行き着く先は無人戦場だという。しかし、自律型兵器には懸念があり、彼はこの技術の発展を形作るための法律、倫理、政策についての早急な議論を訴えている。この議論は、2023年11月に日本の国連大使が強調したように、AIが人間の能力を制御したり支配したりするのではなく、高める「人間中心(human-centric)」のものであるべきだ[13]。
この立場に沿って、日本は「AIと自律性の責任ある軍事利用に関する政治宣言」に署名し、2023年11月に防衛AIを規制する米国主導のイニシアチブに参加した[14]。政府はまた、「民間AI技術が軍事目的に転用されるリスクを含むAIの安全保障問題を探求する [15]」ための新組織を2024年に設立することを決定した。
2023年版防衛白書では、AIについて19回(見出しを含む)言及している。AUKUS、オーストラリア、中国、インド、米国、ロシアの防衛政策記述で言及されている。最もAIに言及しているのは、第1部「わが国を取り巻く安全保障環境」第4章「宇宙・サイバー・電磁波の領域や情報戦などをめぐる動向・国際社会の課題など」の第1節「情報戦などにも広がりをみせる科学技術をめぐる動向」である。
約半分のページを使って、様々な国や国際的なAIの防衛利用について説明されている。しかし、日本独自のAIの防衛利用に関する説明はほとんどない。「防衛力整備計画」で示された事項を繰り返した後、「情報分析(Intelligence Analysis)機能等の強化に向けた取組」の項で次のように述べられている。
今後、より一層、戦闘様相が迅速化・複雑化していく状況において、戦いを制するためには、人工知能(AI)を含む各種手段を最大限に活用し、情報収集・分析などの能力をさらに強化していくことを通じ、リアルタイムで情報共有可能な体制を確立し、これまで以上に、わが国周辺国などの意思と能力を常時継続的かつ正確に把握する必要がある[16]。
2023年8月25日、日本政府は 「総合的な防衛体制の強化に資する研究開発及び公共インフラ整備に関する関係閣僚会議[17]」の初会合を開催した。 民生用の研究開発のうち、AIやサイバー攻撃対策など9分野を防衛体制の強化に資する「重要技術課題(key technology issues)」と位置づけ、省庁横断的に取り組む方針を確認した(表1)。
その席上、座長の松野博一官房長官は、「我が国全体の資源と能力を効率的に活用するため、府省間の縦割りを打破し、総合的な防衛体制の強化を図っていく」ことの重要性を強調した[18]。
表1:重要技術課題
分野 | 内容 |
エネルギー | 新たなエネルギー源、高性能なエネルギー貯蔵、高出力エネルギーの投射等 |
センシング | 高精度な測位・航法・測時手法の確立、人、もの、環境等を高精度にセンシング、従来よりも高性能なセンシング(量子センシング、バイオセンシング等)等 |
コンピューティング | 高速・高効率な新原理コンピューティング(量子、光、脳型等)、膨大なデータの高効率な演算処理等 |
情報処理 | 高精度な将来の予測、高度な人工知能、認知能力の向上・強化(医療含む)等 |
情報通信 | 高速・大容量の通信、安全性の高いセキュアな通信、高性能な情報通信デバイス技術の確立(宇宙等で利用可能な通信デバイス等) |
情報セキュリティ | 効率的・常時継続的なサイバー攻撃の検知・防御・対処、サイバーレジリエンスの強化、高度な暗号(量子暗号、高機能暗号等)等 |
マテリアル | 新材料・素材の創製(医療含む)、高度な製造・加工手法の確立等 |
無人化・自律化 | 機械の無人化・自律化、高度なヒューマン・マシン・インターフェース、多種・有人機・無人機間の群制御・分散制御等 |
機械 | 高機能・高性能な機械構造、極超音速飛しょう技術の確立、長時間・長距離航行等 |
資料1-1 総合的な防衛体制の強化に資する取組について(研究開発)
3. 防衛AIの開発:Developing Defense AI
日本政府の防衛政策は、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の3つの防衛文書に示されている[19]。防衛省はこれらの実施に責任を持つが、技術的な側面については防衛装備庁(ATLA)が責任を持つ。防衛装備庁(ATLA)の技術戦略部は、新技術短期実証事業を実施している。
これは、「民間で実用化されるレベルの先端技術を、民間の技術者や運用者が結集して、部隊の抱える問題を迅速に解決し、実用化を促進するために、3年程度の短期間でその有効性を実証する」プロジェクトである。また、「このプロジェクトの成果を民間市場等で活用することにより、防衛製品の価格や維持コストの低減を図る[20]」ことも狙いとしている。
表2は、この枠組みで開始されたAI関連プロジェクトの概要である。
表2:防衛装備庁によるAI事業
実施課題 | 年度 | 落札者 | 契約額 |
人工知能を用いた船舶自動識別装置解析ツールの構築 | 2018 | 不明 | |
人工知能等を用いたシステム維持管理業務の効率化 | 2019 | 不明 | |
人工知能による衛星画像類識別のための学習データの自動生成 | 2020 | 株式会社IHIジェットサービス | 600万円以下(約38,000ユーロ) |
人工知能を活用した航空気象観測の全自動化 | 2020 | 株式会社日立製作所 | 4,400万円(約277,000ユーロ) |
人工知能を用いた演習シナリオ作成支援システムの構築 | 2021 | 株式会社日立製作所 | 約1,000万円(約63,000ユーロ) |
出典:防衛装備庁「入札結果に関する情報」
防衛装備庁(ATLA)は2015年度から、公募で研究開発費を募集し、資金を提供する「安全保障技術研究推進制度」をスタートさせた[21]。この制度の開始は大きな波紋を呼んだ。というのも、日本の学界はこれまで軍事転用可能な技術の研究開発に消極的だったが、防衛省と防衛装備庁(ATLA)はその流れを断ち切り、防衛力につながる技術に独自の研究開発費を提供することを決めたからである。
2017年度は109件の応募があり、内訳は大学等58件(53%)、公的研究機関22件(20%)、企業29件(27%)[22]。
しかし、「安全保障技術研究推進制度」への応募がマスコミ報道で物議を醸したため、2016年度の応募件数は44件に減少し、内訳は大学23件(52%)、公的研究機関11件(25%)、企業10件(23%)となった[23]。しかし、2017年度は104件と増加に転じた[24]。
このプログラムによるAIの研究は、2018年度に初めて登場した。三菱重工業株式会社の松波夏樹氏が、「極少数の人間とAIの協働による課題対処に関する基礎研究」を受賞した[25]。三菱重工業は日本最大級の防衛関連企業である。
2019年度には、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の内部英治氏が受注した「潜在脳ダイナミクス推定法の開発と精神状態遷移の解明と制御」に、人間の状態を理解するAIの開発が盛り込まれた[26]。その後、防衛AIに関する研究は計11件開始されている(図1)。
図1:セキュリティ技術研究推進制度におけるAI関連研究数 出典:「安全保障技術研究推進制度」 |
応募数はわずかであったが、防衛装備庁(ATLA)はAI関連の研究に強い関心を示している。2023年度の公募では、防衛装備庁(ATLA)から31の研究テーマがリストアップされ、そのうち、タイトルや説明文に直接AIに言及しているのは以下の12テーマである[27]。
- 未知環境において信頼構築が可能な逐次意思決定AIアーキテクチャに関する基礎研究
- あらゆる情報から正確な予測を実現するAIに関する基礎研究
- 未知環境における頑健性を持ったAIアーキテクチャに関する基礎研究
- 脳科学による認知及びコミュニケーション機能の向上に関する基礎研究
- 複数無人機操作や制御を実現する人間の認知能力支援に関する基礎研究
- コグニティブ・セキュリティに関する基礎研究
- 無線通信への未知攻撃防御やサイバーキルチェーン分断を自動化するセキュリティに関する基礎研究
- 磁気センサ技術に関する基礎研究
- 地中又は海底における物質・物体把握技術に関する基礎研究
- 船舶・水上、水中無人航走体の性能を大幅に向上させる基礎研究
- 航空機・無人機の性能を大幅に向上させる基礎研究
- 車両・無人機の性能を大幅に向上させる基礎研究
重要なのは、これらの募集やそれぞれのプロジェクトは、いずれも直接的に兵器に関連するものではないということである。軍事関連の研究に対する嫌悪感がまだ残っているため、研究者たちは直接軍事技術の研究に携わることに消極的である。このような背景から、軍事的な性質は弱いが防衛に応用可能な技術の公募が行われている。
このような外部研究への資金提供に加え、防衛装備庁(ATLA)内部でも開発が行われている。同局の技術シンポジウム2019では、16の口頭セッションのうち3つ、23のポスター・セッションの概要でAIが言及され、特に以下のトピックが取り上げられた。
- 「研究開発ビジョン 多次元統合防衛力の実現とその先へ」片山泰介
- 「艦船設計への人工知能(AI)導入の試み(消磁装置ぎ装設計)」大久保 正隆
- 「合成開口レーダ画像からの目標類別」上谷俊郎、佐野裕香、濱野健二
大久保の報告によれば、熟練技術者が行っていた作業をAIに置き換えることで、数千万件の検証を3~4時間で行えるようになり、大幅な時間短縮につながったという。上谷の報告では、レーダー画像の分類にAIを使う可能性を検討した[28]。これらの報告は、防衛装備庁(ATLA)内でも実際の防衛ニーズに合わせて活用されている。
日本の防衛AI開発の優先順位はまだ明らかになっていないが、自衛隊はC4ISTAR[29]、無人システム、サイバーセキュリティ[30]の防衛AIに主な関心を持っているようだ。 これらすべての分野において、自衛隊の将来の防衛AIのニーズを満たすソリューションを開発するためには、防衛産業の専門知識が重要である。
日本の防衛関連企業[31]は、必ずしも防衛装備品のためではないが、AIに取り組んでいる。日本の防衛企業の需要は、主に民間部門からもたらされる。AIはそうした民需のために開発されているのであり、必要に応じてそうした技術や知識が防衛装備品に応用される可能性は高い。
さらに日本は、新興技術やAIを開発するための国際協力にも注目している[32]。2023年8月、米国防総省のクレイグ・マーテル(Craig Martell)最高デジタル・AI担当官は日本、シンガポール、韓国を訪問し、「データ、分析、AIの責任ある配備に関連する協力の深化[33]」の機会について話し合った。 これらの協議は、デュアル・ユース技術協力を共同で進めるという、長年にわたる二国間の関心を反映したものである[34]。
この目的のため、両国は2023年12月下旬に、グローバル・コンバット・エア・プログラム(GCAP)と並んで「忠実なウイングマン(loyal wingman)」の役割で使用される無人航空機(UAV)用のAIを共同開発する「プロジェクト同意書(project arrangement)」に調印した[35]。日米防衛AI協力は、日本がAUKUS枠組みにおけるオーストラリアおよび英国との三国間協力に参加することになれば、さらに関連性を増す可能性がある[36]。
最近、日本とオーストラリアが機雷探知に無人水中ビークルを使用する共同研究について合意したことも、この解釈を裏付ける指標となるだろう。そしてこのプロジェクトは、AI共同研究の扉を開く可能性もある[37]。
米国との技術協力と並行して、東京とロンドンも技術提携を拡大している。2023年5月、両国は戦略的技術パートナーシップの概要を示す「広島合意(Hiroshima Accord)」を採択し、イノベーションと新技術で協力するための科学技術協定を更新した[38]。
グローバル・コンバット・エア・プログラム(GCAP)に関するイタリアとの三国間協力や、日本の戦略的環境における最近の動きを考慮すると、科学技術協力の拡大は適切である。英国戦略軍司令官のジム・ホッケンハル大将は最近、「日英双方の産業基盤を活用することで、(両国は)抑止のアプローチの一翼を担う、より大きく、より優れた能力を生み出すことができる[39]」と強調した。
加えて、日本はフランスともAIで協力している。防衛装備庁(ATLA)によれば、二国間の研究協力には地雷対策技術も含まれ、AIは「地雷探知機によって得られた画像からターゲットを特定する[40]」ために使用されている。
AIやその他の新技術の助けを借りて新たな防衛能力を開発する観点から、国防総省と経済産業省は、日本の活気あるテクノロジー・エコシステムの活用に真剣に取り組んでいるようだ。2023年半ば、両省の代表はAI、サイバーセキュリティ、宇宙アプリケーションを扱う約200の新興企業の専門家と会談した。その後の会合も予定されているという[41]。このイニシアチブは、自衛隊の防衛ソリューションにおけるAIに取り組む新興企業を巻き込む共同イニシアチブの立ち上げを目指した、以前の取り組みに基づくものである[42]。
4. 防衛AIを組織化する:Organizing Defense AI
2016年、日本政府は安倍晋三首相の指示により、産学官の英知を結集し、組織の縦割り(organizational silos)を排除する「AI技術戦略会議」を設置した[43]。
2017年3月31日、同協議会は「人工知能技術戦略(Artificial Intelligence Technology Strategy)」を発表し、3段階のアプローチを示した:第一に、2020年頃までに各領域でデータ駆動型のAI活用が進むこと、第二に、2025年頃までに各領域の枠を超えてAIやデータの一般活用が進むこと、第三に、2030年頃までに各領域が複合的につながり、エコシステムが形成されること、である[44]。
その2年後、審議会は「人工知能技術戦略行動計画[45]」を発表した。 総務省、文部科学省、経済産業省、内閣府、厚生労働省、農林水産省、国土交通省など多様な省庁が参加し、AIの普及を目指したこの行動計画は、AIの産業利用を主なターゲットとしており、防衛のためのAIは考慮されていなかった。
この戦略に基づき、AI研究は3つの国立研究所で実施されることになった。
- まず、2017年4月に情報通信研究機構(NICT)がAI科学研究開発推進センター[46])を設立した。ただし、NICTは総務省所管の研究機関であり、サイバーセキュリティを除けば防衛関連の研究は行っていない。
- 二つ目は、産業技術総合研究所の人工知能研究センター(AIRC)である[47]。同センターでは、製造、サービス、医療・介護、セキュリティ分野への人工知能の応用を研究している。しかし、防衛や軍事への応用に焦点を当てた研究はないようだ。セキュリティ分野への応用としては、映像の自動説明機能や災害時の避難誘導などが挙げられている[48]。
- 第三は、理化学研究所(理研)の先端知能プロジェクト研究センター(AIP)である。同センターには、汎用技術研究グループ、目標指向技術研究グループ、社会における人工知能研究グループの3つの研究グループがある[49]。しかし、これらのグループは防衛に直接関係する研究を行っているようには見えない。
2019年6月11日、日本政府は総合イノベーション戦略推進会議を通じて、「AI戦略2019:人・産業・地域・政府のためのAI」を発表した[50]。同文書は教育と産業に焦点を当てており、今回も防衛への応用は考慮されていない。
その2年後の2021年6月、日本政府は「AI戦略2021」を発表したが、ここでも防衛省の取り組みは明示されなかった。このAI戦略2021を受けて、AI戦略実行会議は「新AI戦略検討会議」を設置した。「AI戦略2022」は、安全保障との関連でAIに言及した最初のキャップストーン文書で、次のような記述がある。
複雑化する国際情勢や社会経済構造の変化を踏まえ、経済安全保障の観点からAIをはじめとする重要技術について様々な取り組みが検討されている。そのため、政府全体として効果的に優先順位をつけられるよう、関連施策を調整する必要がある[51]。
しかし、これは軍事的安全保障ではなく、経済的安全保障(あるいは地理経済学)を指している。
また、次のような記述もあった。
日本独自の課題([1]健康・医療・介護、[2]農業、[3]インフラ・防災、[4]交通インフラ・物流、[5]地域活性化、[6]ものづくり、[7]安全保障)に対し、AIと日本の強みの融合を図る[52]。
2022年戦略に添付された「AI戦略2022の取り組み一覧」の中に、防衛省は「日本の防衛に資するAI技術の応用研究の推進」という項目を盛り込んだ[53]。これはAIと防衛を結びつけた初めての文書であり、日本政府がこの問題に取り組む意識を高めていることを強調している。
2023年4月に発表されたAI戦略2022の進捗報告によると、防衛省は外部から専門家を招き、訓練の取り組みを強化することで、防衛AIに取り組んでいる。さらに同省は、自衛隊が使用する装備品の探知・識別能力も強化する方針だ[54]。
2023年5月11日、日本政府は有識者によるAI戦略会議の初会合を関係閣僚とともに開催した。第1回会合には岸田文雄首相が出席した。その約2週間後、同会議は再び会合を開き、いくつかのテーマや問題について議論した。なかでも、以下の声明は注目に値する。
また、安全保障や防災、地球温暖化対策など、グローバルな課題においてもAIは重要なツールであり、わが国は志を同じくする国々と技術革新に取り組む必要がある[55]。
安全保障関連でもAIの活用が重要だという議論があるが、情報管理の必要性に応じて専門部署の議論に委ねるなど、柔軟に対応すべきだ[56]。
一般的に、日本のAIの焦点は産業応用と教育への取り組みにある。防衛AIを推進するための研究は、2022年に始まったばかりである。防衛省内にAIに取り組む専門機関はまだ設置されていないが、2022年国家安全保障戦略では、防衛省が「軍事情報を集約するメカニズムを確立する」意欲を示しており、情報(Intelligence)部門と政策立案部門に「情報管理分析を強化する」よう促している[57]。
5. 防衛AIの資金:Funding Defense AI
日本政府のAI予算の概要データは公表されていない。日本経済新聞[58]によると、日本政府は2024年度予算の概算要求で、生成AI関連の政策について基本方針と予算をまとめた。
政府は、スーパー・コンピューターや質の高いデータなど、AI開発のためのインフラ整備に注力し、AI開発の海外依存度を下げるため、日本国内での研究開発基盤を構築する。
政府全体のAI関連予算は、2023年度当初予算で約1,000億円(6億3,000万ユーロ)だった。2024年度には2,000億円(12.6億ユーロ)に倍増させることを検討している。基本方針は、スーパーコンピュータを備えたデータ・センターの整備、質の高いAI学習データの開発、科学研究に活用できる生成AI(generative AI)の創出など、生成AI(generative AI)の研究開発基盤の強化を3本柱としている。
2023年3月、防衛省は防衛AIに関する項目を予算に盛り込んだ[59]。防衛AIに使われる全体の金額は65億8,000万円(4,144万ユーロ)で、2023年度の防衛予算総額68億2,900万円(429億ユーロ)の約0.096%にあたる。防衛AI予算には以下の項目が含まれる。
- AIを活用した公開情報の自動収集・分析機能の開発:22億円(139億ユーロ)
- AIを活用した意思決定の迅速化に関する研究:43億円(2700万ユーロ)
- AI導入のための部外力の活用:50百万円(0.32百万ユーロ)
- AI訓練課程の提供によるAI人材の育成3,000万円(0.19億ユーロ)
これに加えて、「防衛装備品等の生産基盤強化のための体制整備事業」の一部(363億円、2億2600万ユーロ)が、「3Dプリンター技術やAI技術等の先端技術の導入による防衛装備品製造工程等の効率化の実施」に充てられる。
そのため、国防AI予算の正確な規模は公表されておらず、他の予算、例えばサイバーセキュリティ予算におけるAIへの支出も考慮する必要がある。
6. 防衛AIの導入と運用:Fielding and Operating Defense AI
2022年4月、防衛省は「防衛省におけるAIの取り組み」と題したプレゼンテーションを開催した[60]。その資料には、次のように書かれている。
国防の分野では、より迅速で効率的な情報処理、状況判断、作戦立案、無人航空機を使った高度な捜索・救助などにAI技術の活用が期待されている。中国や米国を含む多くの国は、AI技術が戦いの未来を変える可能性があるとして、AI技術関連の研究開発に積極的に投資している。
防衛省はまた、AI技術はゲーム・チェンジャーになり得ると考えており、集中的な投資を行い、防衛用途への実装を早急に実現する必要があると考えている。この点に関して、同文書では、自衛隊が関心を寄せる模範的な取り組みラインを示す2つの実践例も示している。
- 最初の例は、AIを用いた電波画像識別技術に関する研究である。この研究は、常時継続的な情報収集・警戒監視活動を効率的に行うために、AIを用いてレーダー画像の識別を自動化する技術を研究するものである。熟練を要するレーダー画像の解読・識別を自動化することで、部隊の負担軽減や任務の効率化が期待できる。
- 二つ目の例は、無人潜水監視機の構成要素の研究である。これには自律監視技術とセンサー・システムの研究が含まれる。計画では、長期監視に使用される水中ビークルの挙動に関する判断にAI技術を応用する。
同省のプレゼンテーションでは、これら2つの例に加え、表3にまとめたその他の取り組みについても触れている。
表3:日本の防衛省におけるAIの取り組み
具体目標 | 取組 | 取組の詳細 |
AIによる利活用の基礎となるデジタル・ツインの構築 | 装備品等の研究開発におけるDXの推進 | 装備品等の研究開発において、設計、数値解析、実験等の各段階においてデジタルツイン、デジタルスレッド等の導入及びその運営に必要な体制強化を図る。 |
ヒューマン・デジタル・ツインを教育訓練・診断に活用するための研究開発の推進 | 行動・神経系のデータと神経科学的知見に基づいてヒトのデジタル・ツインを構築し、教育訓練や診断治療への応用のための研究開発を推進する。 | |
政府機関におけるAIの導入促進に向けた推進体制の強化と、それによる行政機能の強化・改善 | AIアドバイザー(役務)によるAI活用検討の支援を行い、自衛隊の活動へ寄与 | AI活用促進のため、役務支援によりAIアドバイザーを契約し、各機関のAI活用方針、運用・検証体制、事業計画等に助言を行うとともに、AI活用に係るガバナンス、人材、データなどに関する方針検討を行う。 |
自衛隊の活動へのAI活用推進のためAI基礎講習を実施 | AI活用促進のため、各機関の職員に対し、ITリテラシ−、AI、データサイエンスに関する基礎講習や、AIの画像処理等の実務講習を実施する。 | |
我が国ならではの課題に対処するAIと我が国の強みの融合の追求 | 我が国の防衛に資するAI技術の適用に関する研究の推進 | 自衛隊、装備品等の能力強化を図るため、指揮統制、探知・識別、自律化、後方支援等の分野へのAI技術の適用に関する研究を行う。 |
7. 防衛AIのための訓練:Training for Defense AI
防衛省・自衛隊が防衛AIの登場に備えてどのような訓練を行っているかを示す直接的な資料は見つからなかった。しかし、自衛隊は上級職の公募を行っており、2023年8月に発表された表4に示された例のように、現在の募集要項でAIについて言及している。
表4:自衛隊におけるAI関連の求人状況
自衛隊 | 分野 | 適用部署 | 要旨 |
海上自衛隊 | 航空機 | 航空機器(水中音響/非音響システム)/人工知能 | 水中音響システム/非音響システムの研究開発。企業等のAI・技術指導・監督。 |
技術的情報分析 | 人工知能 | AIに関する研究開発、技術指導、企業への監督など。 | |
航空自衛隊 | 気象 | 研究開発 | AI技術、数値シミュレーション等による気象予測技術の研究開発、気象予測・気象政策等に関する監督指導。 |
出典:海上自衛官及び航空自衛官の募集要項。
防衛省が2022年12月に出した公告では、人材育成に関するAI基礎研修の実施に向けた競争入札が示された[61]。この取り組みは、防衛省が民間から教官を募り、防衛省や自衛隊の訓練に役立てようとする努力の一例である。
また、多くの自衛官を養成する防衛大学校情報工学科では、選択必修科目としてAIを開講している[62]。佐藤浩准教授は、進化計算と人工知能の研究・教育活動を専門としている[63]。
より一般的なレベルでは、航空自衛隊の研究機関である航空研究センター運用理論研究室に所属する上高原健志2等空佐が最近、訓練に関連する別の側面、すなわちデータ不足について触れた。防衛装備品に関連する機械学習(machine learning)を利用する観点から、彼は「できるだけ多くのデータを収集し、そこから質の高いデータを抽出する[64]」必要性を強調した。
別の論文では、AIと防衛シミュレーションに焦点を当て、「防衛シミュレーションのAIは、シミュレーション結果に基づいて下される決定が極めて重要であるため、技術的に最も困難な分野であると考えられている[65]」と論じている。
8. 結論:Conclusion
日本は技術的に最も進んだ国の一つとして認識されることが多いが、防衛目的での技術利用にはまだ強いためらいがある。大学やその他の研究機関は、防衛用途の研究開発に必ずしも積極的ではない。
一方、AIへの関心は他の国と同様に高まっている。しかし、その関心は教育用と産業用に偏っている。防衛産業は横断的にAIに取り組んでいるが、日本の防衛産業は民需の割合が大きく、必ずしも防衛用ではない側面もある。必要であれば防衛用途にも応用されるが、防衛用AIとして積極的に推進されることはない。
2022年12月以降に公表されたAIに言及する公開文書の数が増えていることからもわかるように、防衛省は徐々にAIに関心を示し始めている。まだ小規模ではあるが、AIに対する国防費は増加傾向にある。
一般的に、日本は国際的な防衛AIの成長シーンでは後発組であり、まだ大きな成果は見えていない。しかし、日本を取り巻く安全保障環境は悪化の一途をたどっており、中国の軍事費の増加は著しい。中国もAIを軍事目的に利用し、取り込んでいくと指摘している。
このように、日本が戦略的周辺事態に対応するためには、防衛力を拡充するための次世代技術が不可欠である。その意味で、AIなどの技術は戦略的に重要である。 そうすることで、防衛装備庁(ATLA)は防衛AIを開発する日本の中核組織となる。防衛装備庁(ATLA)は、首相官邸や防衛省の戦略的思考を反映した防衛AIの取り組みを推進すべきである。これに対し、国立・私立大学を含む学界と民間企業は連携を深めるべきである。
第二次世界大戦後の日本特有の政治環境も無視できない。戦争への道を避けるべきであり、現在および将来の脅威を抑止するためには、新技術の恩恵を受けるための研究開発の取組みを強化することが不可欠である。
ノート
[1] “FY2012 AI Budget, Focus on Development Infrastructure: 200 Billion Yen, Doubled (24年度AI予算、開発インフラに重点 倍の2000億円視野).”
[2] Sakamoto, “On Navigation Using Artificial Intelligence Search Methods.”
[3] Soga/Nakashima, “Application of Artificial Intelligence to Aircraft Navigation Devices and Problems.”
曽我/中島「航空機用航法機器への人工知能の応用と問題点」
[4] National Defense Program Guidelines for FY 2014 and beyond, p. 28.
[5] National Defense Program Guidelines for FY 2019 and beyond, pp. 3-4.
[6] Ibid., p. 24.
[7] “Expanding AI Deployment for Cyber Defense in Equipment Repair (サイバー防衛にAI導入拡大 装備品補修で).”
[8] National Defense Strategy.
[9] Defense Buildup Program.
[10] Ibid., p. 15.
[11] Ibid., p. 51.
[12] Ito, “New Battlefield Brought About by the Latest Weapons and their Impact on International Politics,” pp. 68-70.
[13] Ishikane, “Statement at the event for the Political Declaration on Responsible Military Use of Artificial Intelligence and Autonomy.”
[14] Dominguez, “Japan joins U.S.-led effort to regulate military use of AI.” For more on Japan’s approach to AI regulation, see also: Habuka, “Japan’s approach to AI regulation and its impact on the 2023 G7 Presidency” and Hinata-Yamaguchi, “Military AI in Japan and South Korea,” pp. 208-210.
[15] Yasoshima/Hirosawa/Nagao, “ChatGPT, other AI to be studied for military risk by new Japan body.”
[16] Defense White Paper 2023, p. 308.
[17] “The First Meeting of the Council of Ministers Concerned with Research and Development and Public Infrastructure Development that Contribute to Strengthening the Comprehensive Defense Systems,” 2023.
[18] Ibid.
[19] National Security Strategy; National Defense Strategy; and Defense Buildup Program.
[20] “Short-term Demonstration Project for New Technology.”
[21] “Security Technology Research Promotion System.”
[22] 2015 Security Technology Research Promotion Program Overview of Applications.
[23] 2016 Security Technology Research Promotion Program Overview of Applications.
[24] 2017 Security Technology Research Promotion Program Overview of Application.
[25] Fiscal Year 2018 Newly Adopted Research Projects.
[26] FY2019 Security Technology Promotion System (Secondary Recruitment) Application/Adoption Overview.
[27] “About Research Themes Related to Public Offerings in 2023.”
[28] “ATLA Technology Symposium 2019.”
[29] C4ISTAR: Command, Control, Computers, Communication, Intelligence, Surveillance, Target Acquisition, and Reconnaissance.
[30] Hinata-Yamaguchi, “Military AI in Japan and South Korea,” p. 205.
[31] For an in-depth assessment of the difficulties currently Japan’s defense industry, see also: Ouq/Ogi/Inoue, Comparative Study of Defense Industries, pp. 5-9.
[32] In this context it is also important to understand that the Japanese government eased existing arms export regulations in December 2023. For more, see: Reuters, “Japan prepares missile shipments after easing arms export curbs.”
[33] Vincent, “Pentagon’s digital and AI chief works to deepen US tech ties in visits to Singapore, South Korea and Japan.”
[34] Tajima, “Japan, US to promote cooperation on dual-use technologies.”
[35] Kadidal/Kumar, “Japan to develop AI with US for ‘Loyal Wingman’ UAVs.”
[36] For more on this, see also: Warren/Hunt/Warren, “AI cooperation between Australia, Japan, and the United States.”
[37] “Japan, Australia agree on joint research on mine-detecting UUV.”
[38] “The Hiroshima Accord;” Evenstad, “UK renews tech and science deal with Japan.”
[39] Kitado, “Cutting-edge tech key to deter Taiwan conflict: UK military officer.”
[40] Majumdar, “Smart forces,” p. 25.
[41] Prosser, “Japan aims to boost defense industry with 200 startups.”
[42] Hinata-Yamaguchi, “Military AI in Japan and South Korea,” p. 203.
[43] “Strategic Council for AI Technology.”
[44] Artificial Intelligence Technology Strategy.
[45] Strategic Action Plan for Artificial Intelligence Technology.
[46] Kidawara, “AI Science Research and Development Promotion Center.”
[47] For more information, see: https://www.airc.aist.go.jp/en/ (last accessed 30 January 2024).
[48] For more information, see: https://www.airc.aist.go.jp/en/utility/ (last accessed 30 January 2024).
[49] For more information, see: https://www.riken.jp/en/research/labs/aip/ (last accessed 30 January 2024).
[50] AI Strategy 2019: AI for People, Industry, Region, and Government.
[51] AI Strategy 2022, p. 3.
[52] Ibid., p. 27.
[53] List of AI Strategy 2022 Initiatives.
[54] Progress of AI Strategy 2022.
[55] “Provisional Argument of Issues Concerning AI,” p. 6.
[56] Ibid., p. 16.
[57] Majumdar, “Smart forces,” p. 25.
[58] “FY2012 AI Budget, Focus on Development Infrastructure: 200 Billion Yen, Doubled (24年度AI予算、開発インフラに重点 倍の2000億円視野).”
[59] Defense Programs and Budget of Japan (1); Defense Programs and Budget of Japan (2).
[60] AI Initiatives in the Ministry of Defense.
[61] “Implementation of Basic Training for AI (Artificial Intelligence) Human Resource Development.”
[62] “Department of Computer Science.”
[63] For more information, see: https://www.nda.ac.jp/~hsato/ (last accessed 30 January 2024).
[64] Kamitakahara, “Challenges in Applying Artificial Intelligence to Defense Equipment: Especially Machine Learning (人工知能の防衛装備品への適用における課題―特に機械学習について―).”
[65] Kamitakahara, “Challenges in Applying Artificial Intelligence to Defense Simulations: Limitations of Applying Machine Learning to Strategic Simulations (防衛用シミュレーションへの人工知能の適用に関する課題―戦略シミュレーションへの機 械学習適用の限界―).”