ロシアのウクライナに対する戦争 -現代のクラウゼヴィッツ戦争の複雑性- ⑬軍事作戦がロシアの政治的到達目標の変化に与える影響 ロシア・セミナー2024

前回の投稿「ロシアのウクライナに対する戦争 -現代のクラウゼヴィッツ戦争の複雑性- ⑫ウクライナとのハイブリッド戦争におけるロシアの戦略に向けて ロシア・セミナー2024」に続いてロシア・セミナー2024の論文集の第12弾(論文の番号は13)を紹介する。この論考は、政治と戦争との関係に関するものである。クラウゼヴィッツが言うように戦争は政治の手段であり、政治的到達目標のために戦争を行うものである。手段としての戦争の結果が政治の目的にかなうものでなければ、政治の側の修正が求められるのは必然である。一般にその責は政治にある者が負うものであろう。国内に対し巧みに政治の狙いを変え、そして国民に対しナラティブにより曖昧にしていく流れを、軍事作戦がロシアの政治的到達目標の変化に与える影響として通読し概観されたい。(軍治)

ロシアのウクライナに対する戦争 -現代のクラウゼヴィッツ戦争の複雑性-

Russia’s war against Ukraine -Complexity of Contemporary Clausewitzian War-

13_ウクライナにおける軍事作戦がロシアの政治的到達目標の変化に与える影響に関する一考察

13_ A STUDY OF THE IMPACT OF MILITARY OPERATIONS IN UKRAINE ON THE CHANGING POLITICAL GOALS OF RUSSIA

エマ・チンバンガ(Emma Chimbanga)とドミトロ・ジューコフ(Dmytro Zhukov)

エマ・チンバンガ(Emma Chimbanga)少佐は、軍用機搭載機器システム・複合体学修士、航空・ロケット・宇宙技術分野の専門家資格を有し、国家軍備・軍装試験認証科学研究所の軍備・軍装分野における国際軍事協力部部長。

ドミトロ・ジューコフ(Dmytro Zhukovは、法学修士、国際経済関係学修士、言語学学士、国立航空大学飛行アカデミー大学院生(航空輸送専攻)、司法省少尉、国家軍備・軍事装備試験認証科学研究所軍備・軍事装備分野国際軍事協力部員。

ロシア・セミナー2024におけるエマ・チンバンガ(Emma Chimbanga)とドミトロ・ジューコフ(Dmytro Zhukov)のプレゼンテーションは、フィンランド国防大学(FNDU)のYouTubeチャンネル(https://www.youtube.com/watch?v=5NofPSfLSSU&t=499s)2:57:35よりご覧いただける。

21世紀初頭のロシア・ウクライナ戦争における紛れもない侵略者であるロシア連邦(RF)指導部の軍事哲学的思考には、多くの思想や理論があり、国際法や社会全体が認める社会倫理的・政治的基盤に対する同様の侵害を阻止し、防止するためには、慎重な研究と分析が必要である。

戦争の哲学と、それが社会・政治的な到達目標や社会における関係に与える影響は、国内外の哲学者や学者によって多くの著作の対象となってきた。これらの基本的著作のひとつが、プロイセンのカール・フォン・クラウゼヴィッツ将軍の著書「戦争論(On War)」である。この著作は、軍事・政治分析と戦略に関する最も重要な論説のひとつであり、現在でも論争を巻き起こし、戦略的思考に影響を与え続けている。

本稿の執筆にあたり、筆者は第一に、ロシア連邦(RF)の武力侵略時におけるロシア軍および政治指導部の政治的到達目標と基本原則について、第二に、国家指導部の政治的到達目標と戦争との関係について研究した。

第一に、2021年7月2日にロシア大統領によって承認されたロシアの国家防衛戦略は、多くの矛盾と意見の相違を抱えた文書であることに留意すべきである。ロシア当局は西側諸国との緊迫した関係の責任を考慮せず、制裁は競争上の優位性の制限や市場アクセスの欠如と受け止められた。また、この文書は若い世代の意見を考慮しておらず、代わりに古いイデオロギーに焦点を当てている。

必要なデータを入手し、「政治的到達目標と戦争」の関係を理解するためには、軍事的な出来事とそれがロシア指導部の政治的決断に与えた影響を時系列に並べ、ロシアの政治的到達目標によるウクライナ領土での敵対行為の結果の変化の間に存在する関係を研究することが望ましい。こうして、ロシアのウクライナに対する公然たる軍事攻撃は2022年2月24日木曜日に始まった。この軍事作戦は、ロシア軍の長期にわたる増強、戦略的・後方支援的準備、主要な政治的到達目標と目標の明確化を経て開始された。2022年2月24日の時点で、これらの到達目標には、ウクライナにおけるロシアの政治的影響力の拡大を阻止し、特に欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)の一員になるというウクライナ指導部の方針に関して、同国の指導部を交代させるためのキーウへの短期的な軍事攻勢が含まれていた。

ロシアは軍事戦略の一環としてサイバー攻撃を行った。特に、明白な侵攻が始まる前の2月15日には、ウクライナの機関や銀行のウェブサイトを一時的に使用不能にした。マイクロソフト社によると、ロシア軍が陸、空、海から同国を攻撃している間、ロシア軍とインテリジェンス機関は破壊的攻撃とスパイ活動を行った。その主な到達目標は、ウクライナの政府・軍機構のリーダーシップやコミュニケーション機能を混乱させたり低下させたりするだけでなく、混乱を引き起こし、国民の信頼を損なうことだった。偽情報も紛争における重要な手段だった。ロシアは偽情報を使って世論に影響を与えようとした。これには、虚偽の情報(false information)を流したり、事実を歪曲したりして、出来事の理解を歪めることも含まれた。

2022年2月24日、ウラジーミル・プーチンは侵攻を正当化するための「特別軍事作戦」の開始を発表した。ロシア大統領は、「脱ナチス化(denazification)」や「非軍事化(demilitarisation)」の必要性、現代のウクライナはナチスと汚職官僚によって運営されているなど、ロシアのプロパガンダによって広められた理論を繰り返した。後者はウクライナを破産寸前まで追い込み、ロシアを支持する人々をあざ笑っているとされる。しかしプーチンは、ウクライナの国家はロシアによってのみ維持されていると、文明世界全体を説得しようとしている。

ウクライナの主権領土に侵攻した直後、ロシアは大きく前進したが、すぐに失速し、最終的には潜在的な攻撃力を失った。計画の失敗、ロシア軍の初級部隊の敗北、人員と装備の多大な損失を受けて、ロシア指導部は次の数日間で到達目標を変更することを決定し、「迅速で勝利的な戦争」というイデオロギー哲学の理論を適用した。この理論は、第一に、ロシア軍(以下、ロシア軍)の強さと力、軍事技術的・科学的独自性を示すために、第二に、ロシア軍と社会全体の道徳的・愛国的精神を高めるために利用することができた。当時、ソ連軍が強力で勝利に大きく貢献した第二次世界大戦の歴史と思想を想起させることが、絶え間ないプロパガンダの手法であった。

それどころか、本格的な侵攻開始から1カ月が経過した時点で、ロシア軍は到達目標と目標も達成できず、キーウやハリコフなどウクライナの主要都市を占領できなかったため、ロシア指導部は目標の変更を余儀なくされた。ロシア国防省のブリーフィングでは、1ヶ月間の敵対行為の結果について、国防省幹部は「特別作戦の第一段階」は完了し、すべての目標は達成され、主要な到達目標は達成されたと宣言した。ウクライナ軍の戦力は低下し、敵の軍事インフラと装備は破壊されたと主張した。安全保障当局の高官によれば、第2段階では、ロシアはいわゆるドネツク人民共和国(DPR)とルハンスク人民共和国(LPR)が主張する領土の「解放(liberating)」に重点を置くという。

ウクライナの「非ナチス化(denazification)」と「非軍事化(demilitarisation)」という考えは、ロシアの武力侵略の宣言と目的からほとんど完全に消えた。そして2022年3月25日、ロシア軍参謀本部のセルゲイ・ルドスキー(Sergei Rudsky)作戦本部長が公言した。 「特別作戦の主な到達目標は、8年間キーウ政権による大量虐殺(genocide)にさらされてきたドネツク人民共和国(DPR)とルハンスク人民共和国(LPR)の人々を助けることである。この到達目標を政治的手段で達成することは不可能だった。キーウはミンスク合意の履行を公然と拒否した」。キーウとウクライナの占領、政治指導者の交代、いわゆる「非ナチス化(denazification)」と「非軍事化(demilitarisation)」から、ドネツク人民共和国(DPR)とルハンスク人民共和国(LPR)の人々を助けるという政治的到達目標に変わった。これはいくつかの要因によって可能になったが、その中でも最も重要なのは、ほとんどすべての戦線におけるロシア軍の失敗、人員と装備の多大な損失、ロシアが緊急に接触線を減らし、主要地域への兵力の集中を高める必要があると認識したことである。

加えて、「特別軍事作戦」の論拠は、ウクライナへの全面侵攻後に劇的に変化した。これは、ウクライナへの軍事侵攻を迅速かつ正確に正当化し、支持者を動員し、批判者を黙らせる必要があったためである。こうして、2月24日以降の政治的議論に次のようなテーゼが加えられた。「ウクライナ侵攻を支持しないすべてのロシア人は裏切り者である」「ナチスはロシアに問題を引き起こし、ロシア人を馬鹿にしているため、ウクライナの非ナチ化に代わる選択肢はない」「かなりの数のウクライナ人がナチスを政権に引き入れた罪を犯しているため、彼らは処罰されるべきだ」「NATOはロシアに対する軍事衝突を煽るために他人の手を使おうとしている」。

ウクライナにおけるロシアの戦争犯罪や国際人道法違反を否定し、それを正当化する政治的到達目標や方法を変化させるピークは、ウクライナ軍が占領地を解放し、人員や装備の面でロシア側に大きな損失を与えた2022年4~5月、8~9月、11月に観察できる。

2022年の大半を通じてロシアが常に流していた偽情報は、化学兵器、生物兵器、核兵器、そして核廃棄物を使った「ダーティー・ボム(dirty bomb)」の使用で、ロシアの行動から注意をそらすために使われていた。たとえば、「ダーティー・ボム(dirty bomb)」の脅威に関する報道が情報空間に再び現れたのは、2022年10月、ロシアによって作られたザポリージャ原子力発電所をめぐる危機、発電ユニットの停止、IAEAミッションの作業の妨害、同発電所への軍事部隊の配備の最中であった。

キーウとハリコフの間で激しい戦闘が繰り広げられた後、ウクライナはヘルソン方面への欺瞞的な反攻を発表し、ハリコフ地方で効果的な反攻作戦を展開し、2022年9月6日から9日までの活動期間中に、占領地域のほぼ全域(ハリコフ地方の合計300の集落、3800km²の領土、15万人の人口)を解放した。当時、ロシア指導部は混乱しており、明確な計画や目標を欠いていた。敗北し、ハリコフ地方の支配権を失ったことを国民に説明する必要があったため、ハリコフ地方から撤退する政治的到達目標は、ロシアとの緊張を緩和し、和平と一定の合意を達成するために政治的譲歩をする意思を示すことだと述べたが、これは虚偽の発言だった。

それどころか、ロシアはイランから入手したドローンを使い、ウクライナのエネルギー・インフラを意図的に破壊する作戦を開始した。同時に、ロシアは新たなターゲットを特定し、設定するのに約2週間を要し、2022年9月21日に部分動員令を発表するに至った。部隊の展開:BBCによると、ロシア軍の97%がウクライナに展開した。同時に9月、ロシア指導部は占領地でロシアへの編入を問う住民投票を実施することを決定した。

ロシアにとって大きな打撃となったのは、ヘルソン地方におけるウクライナの反攻だった。11月11日現在、12の入植地が解放され、約1万平方キロメートルの土地がウクライナの支配下に戻り、西側の精密兵器がクリミアまで届くようになった。しかし、ロシアはまだヘルソン地方の約60%、アゾフ海沿岸を含むドニプロ川南部と東部を支配している。ヘルソンの占領解除は、ロシアが戦争中に大きな損失を被り、政治的到達目標を達成するために再び戦略の変更を余儀なくされた重要な出来事のひとつである。

2023年6月6日、カホフカ水力発電所が爆破された。おそらく混乱を引き起こし、インフラを破壊するロシアの軍事戦略の一環であろう。特にカホフカ水力発電所の場合、その破壊による環境的・経済的影響は、放射能汚染を伴わない5~10キロトンの戦術核兵器の使用による影響に匹敵すると、OSINT研究者は主張している。

爆発の結果、住民の避難、塩素、アンモニア、石油製品などの有害・有毒物質が使用された企業や施設の破壊、水・電力インフラの破壊、汚水、食糧・医療物流の崩壊、黒海生態系の汚染がもたらされた。また、カホフカ水力発電所の爆発事故が、この地域だけでなくウクライナ全体の生態系に大きな影響を与えたことも特筆すべきことである。少なくとも150トンのモーターオイルがドニプロ川に流出し、300トン以上が流出する危険性があった。このように、カホフカ水力発電所の爆発は、国の効果的な戦争遂行能力に影響を与えかねない大きな損害を与え、この地域での攻撃行動をしばらくの間不可能にし、ウクライナの指導者と社会の関心を新たな問題に集中させることを狙いとしていた可能性がある。

受け取った情報を分析した結果、ロシア・ウクライナ戦争中のロシアのプロパガンダの主なナラティブは次のようなものだったと結論づけることができる。ウクライナの「非ナチス化(denazification)」と「非軍事化(demilitarisation)」、ドネツク人民共和国(DPR)とルハンスク人民共和国(LPR)の友愛的な人々への支援、ロシアによって承認された領土の保全、ロシア語を話す住民の保護、NATOを含む西側の敵との戦い、神聖なロシアの宗教と教会、ウクライナの「非伝統的な」価値観と比較したロシア人の高い理想、ロシア国家の力の誇示、そして最後に、ソビエト連邦との戦争である。

さらに、この戦争におけるロシアの政治的到達目標は、ウクライナ領内での敵対行為の結果に明らかに依存している。したがって、敵対行為の激しさが増し、その結果損失が増大し、軍隊がその任務を果たせなくなるにつれて、ロシア当局は政治的到達目標を変更し、国民に対して新たなプロパガンダのナラティブを使わざるを得なくなる。

この情報は、戦争の狙いに関するロシアの政治的・軍事的エリートの主な演説の内容分析によって確認された。前述のように、プーチンは2月24日の声明で、ウクライナを「非ナチス化」し「非軍事化」する必要があると主張した。同時に、セルゲイ・ショイグ(Sergei Shoigu)ロシア国防相は、ロシア当局の主な到達目標は、ウクライナ国民をロシアに対する闘いに利用しようとする西側諸国の軍事的脅威からロシア連邦(RF)を守ることだと述べた。

ロシア軍参謀本部のセルゲイ・ルドスキー(Sergei Rudsky)作戦本部長は、この特別作戦の主な目的はドネツク人民共和国(DPR)とルハンスク人民共和国(LPR)の人々に支援を提供することだと公言した。

キーウ近郊を中心とするいくつかの重要地域でロシア軍が撤退した後、主要な軍事作戦をドンバスに集中させることが発表され、チェチェン共和国の指導者ラムザン・カディロフが強い反発を示し、そして、キーウの占領を継続する必要性について声明を発表した。

同時にロシア外務省は、戦争の目的は米国とNATOの影響力を弱めることだと言い続け、クレムリンのドミトリー・ペスコフ(Dmitry Peskov)報道部長は、交渉と戦争の早期終結への希望を表明している。

ロシア軍が目標を達成できなかったため、ロシアは民間インフラにロケット弾攻撃を仕掛けてウクライナ国民の士気を低下させようとし、7月14日、ロシアは将校の家とヴィニツィアの中央広場にロケット弾攻撃を仕掛けた。人の子ども(4歳の少女と7歳と8歳の少年)を含む27人が死亡し、200人以上が負傷した。7月28~29日、ロシアは、捕虜の生命と健康の保護を保障する国際人道法に違反して、捕虜となったウクライナ兵が収容されていたキャンプを攻撃した。占領軍によると、AFUの捕虜53人が死亡した。8月24日、ロシアはドニプロ地方のチャプリノ駅にロケット弾攻撃を仕掛けた。この攻撃でウクライナ人15人が死亡、約50人が負傷した。8月29日、ウクライナはハリコフ地方で前述の反攻を開始した。

9月21日、ロシア大統領は演説で、ロシア国内での部分的な動員を発表し、ウクライナの一時占領地域で住民投票を実施する意向を表明した。数日後の9月30日、プーチンはドネツク人民共和国(DPR)、ルハンスク人民共和国(LPR)、ザポリージャ(Zaporizhzya)、ヘルソン(Kherson)地域のロシア連邦(RF)への編入を発表した。これは、ロシアの損失が拡大し、すでにロシアに属しているとされる領土を保持するという無益な希望に反応したものである。この反動は、ハリコフ地方の支配権を失ったウクライナ軍の攻撃行動の成功によって可能になった。

冬の間、敵は積極的な攻勢行動を行わず、防衛に重点を置くことを決定し、反攻を弱め、交渉を強行することを期待して、ウクライナのエネルギー・インフラへのミサイル攻撃を開始した。ロシアによるウクライナの発電所へのミサイル攻撃は、ハリコフ火力発電所が被害を受けた9月16日には早くも始まっていたが、ロシア当局がエネルギー・インフラへのミサイル攻撃はウクライナのクリミア橋攻撃への対応だと主張し始めたのは10月に入ってからだった。その後、10月下旬にプーチン大統領は、民間インフラへの砲撃はセヴァストーポリの黒海艦隊の艦船に対するウクライナの攻撃への対応であると主張し、さらに後の12月8日には、ロシア大統領は、ウクライナのエネルギー・システムに対するロシアの攻撃は、ウクライナの一連の行動への「対応」であると述べた。クリミアの橋の爆発に加え、ドネツクへの断水を「大量虐殺(genocide)」と呼び、「クルスク原子力発電所からの送電線の爆破」にも言及した。

こうしてロシアは冬の終りまで、ウクライナのエネルギー・システムに対してミサイル攻撃を行った。実際には、第一にウクライナ軍の進軍を阻止するため、第二にできるだけ多くの物的損害を与えるため、第三に社会と国の指導者に心理的圧力をかけ、ウクライナに譲歩と交渉入りを迫るために行われた。

戦争におけるロシアの政治的狙い

到達目標を達成するためのナラティブの狙い

2022年2月24日
ロシアの到達目標には、勢力圏(sphere of influence)の拡大、ウクライナ政府の掌握、親ロシア政権への交代などが含まれていた。
「非ナチス化(denazification)」と「非軍事化(demilitarisation)」の実施、ナチズムと汚職との闘い、ロシアを支援するウクライナ住民の保護。
2022年2月25日から2022年3月24日
迅速で勝利的な戦争、ロシア軍の強さと力の実証、そしてクリミア自治共和国が陸路でロシアとつながること。
この時期、絶え間ないプロパガンダの手法は、第二次世界大戦の歴史と思想、勝利へのソ連軍の貢献、成功を繰り返す可能性を人々に思い出させることだった。
2022年3月25日
ドネツク人民共和国(DPR)とルハンスク人民共和国(LPR)の領土を征服し保持する目標に変更。
安全保障当局の高官によれば、ロシアは「第2段階」で、いわゆるドネツク人民共和国(DPR)とルハンスク人民共和国(LPR)が主張する領土の「解放」に焦点を当てる。特別作戦の主な到達目標は、ドネツク人民共和国(DPR)とルハンスク人民共和国(LPR)の人々に援助を提供することである。
2022年4-5月、8-9月、11月
ウクライナ政府と社会を脅迫し、ウクライナとパートナー諸国を脅迫し、ロシアの条件で交渉を始めるよう圧力をかける。
ウクライナによる化学兵器、生物兵器、核兵器の使用を奨励し、ザポリージャ原子力発電所周辺での「ダーティー・ボム(dirty bomb)」、ロシアによる発電ユニットの停止、IAEAミッションの作業の妨害、発電所敷地内へのロシア軍部隊の配備。
2022年9月6日から9日
ドネツクとルハンスク地域におけるロシア軍の防衛を強化し、攻撃能力を向上させる。
ロシア軍の撤退とハリコフ地域の領土の放棄。ドネツク州とルハンスク州におけるロシア軍の再配置とプレゼンスの強化。
2022年9月の終り
ロシア軍人の増加。ウクライナの重要なエネルギー・システムの損害と破壊。
2022年9月21日、部分動員に関する政令が発表された。
ミサイルやドローンによるウクライナのエネルギー・インフラ破壊の試み。
2022年12月‐ 2023年2月
2023年の攻勢行動の準備、同盟国の探索、ウクライナに交渉を迫る試み。
兵器と軍備の動員、生産、購入。
東部方面に取組みを集中する。
2023年1月7日
ロシアは、世界社会のあらゆる関係者に宗教的影響を与えることを狙いに、ウクライナ正教会の無意味さと完全な無用性を誇示しようとしている。
ウクライナ正教会は初めて、ラヴラ聖母被昇天大聖堂でクリスマス礼拝を行った。当時、ロシアのエリートたちは、典礼に出席したのは軍と報道陣だけだとメディアに伝えた。一方、「一般の信者(ordinary believers)」はモスクワ総主教庁の教会に通い続けている。
2023年2月‐4月
戦場での失敗を隠し、絶え間ない「勝利(victories)」を国民に信じ込ませようとする願望。
同盟国からウクライナに提供された兵器や軍備の非効率性と陳腐化。その故障、陳腐化、すでに「償却済み」とされる事実の主張。
パトリオット・ランチャーの撤去に関する絶え間ない話。
2023年4月23日‐24日
港湾インフラや穀物倉庫へのストライキを正当化しようとする試み。
ロシアの主なプロパガンダのナラティブは以下のようなものだった。
・ウクライナはクリミアを攻撃するために穀物取引を利用している
・ウクライナの穀物には毒が入っている
・穀物取引はウクライナの商業プロジェクトである。
2023年10月7日.
ウクライナに対する心理的圧力と、ウクライナに対する軍事援助やその他の援助の停止疑惑に関する情報をロシア社会に示すこと。
世界のメディアは中東に注目している。「イスラエルで起きていることは米国の責任だ」「米国がイスラエルを支援しているからウクライナは支援されていない」といった発言や、ロシアがEUを脅かしている移民問題の操作、「天国のエルサレム」の陰謀説など、この問題に関する分析が発表されている。
2023年11月
ウクライナの市民や国際社会のメンバーの間で、ウクライナの軍部や政治政府に対する不信感を募らせ、広報を悪化させる。
ロシアは、同国の政界と軍部の指導者が対立する可能性があるという報道を流している。ヴァレリー・ザルジニ(Valeriy Zaluzhnyi)とヴォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelenskyi)の対立が定期的に放送されている。
2023年11月から現在(2024年2月)
消耗の戦争(war of attrition)、ウクライナのエネルギー・インフラへの大規模なミサイル攻撃の準備。
ウクライナ側の戦場での失敗、人員と装備の大きな損失、ロシアによるミサイル兵器の増強についてメディアに伝える。

表1. ロシアの政治的狙いとナラティブ

上記の情報を分析した結果、国家の政治的到達目標が敵対行為の結果に常に依存していることが明らかになった。この結果とは、到達目標を達成しようとした際の人員や装備の損失と、一定期間後に達成された結果の比率である。ロシアのプロパガンダの基本的なナラティブを分析すると、前線の状況、世界の出来事、ロシア国内の出来事によって変化することがわかる。さらに、出来事とナラティブの出現には一定のタイムラグがある。

プロパガンダのナラティブの変化には、国家の政治当局が設定した敵対行為や到達目標との相互依存という同様の性質がある。この相互依存性を図式化すると次のようになる。

図1. 政治的到達目標、ナラティブ、敗北の相互依存関係。

今日に至るまで、ロシアの立場と政治的到達目標はウクライナ東部に集中している。2023年1月末、ウラジーミル・プーチンは、特別作戦の目的は、隣接する歴史的ロシア領土で生じる脅威から人々とロシア自身を守ることだと述べた。

接触線部隊での失敗は、到達目標とそれを達成するための戦略の変更を余儀なくされ、政策到達目標の変更は、それを達成するためのさまざまな方法の選択を余儀なくされる。到達目標やその達成方法の変更には、第一に、従属する要素の変更が伴うこと、第二に、反響を呼び起こし、これらの変更を実行に移すには一定の期間が必要であることが挙げられる。現在のところ、ロシアは到達目標達成に惨敗しており、自らにプラスになることはない。アナリストたちは、ウクライナ紛争は消耗の戦争(war of attrition)になりつつあると主張している。このシナリオが意味を持つようになったのは、ロシアが当初の到達目標達成に失敗した後に戦略を変更したときである。

ロシア指導部によれば、消耗の戦争(war of attrition)は比較的長期にわたる紛争を意味し、双方に大きな損失が生じる。その性質上、人員、兵器、装備、弾薬などの資源が豊富な方が勝者となる。ウクライナはロシアとの交渉の可能性を拒否し、占領地を放棄することは受け入れられないと考えている。ウクライナは、国境を回復するために政治的・軍事的手段を用いる用意がある。ウクライナ憲法が定め、世界が承認している領土からの自主的な撤退をロシアが拒否しているため、ウクライナには自国を防衛し、国際人道法に従って武力を行使する権利が残されている。

軍事衝突を終結させ、将来の再発を防止するために、ウクライナとそのパートナー国の課題のひとつは、ロシアの政治的到達目標と軍事行動との関係、反応に必要な時間、プロパガンダのナラティブ、変化、結果を分析・予測し、ロシアが戦争における到達目標を適時に達成することを妨げ、不可能にすることである。

この論文では、戦争の目標と、目標の変化が軍事的成果にどのように依存するかを時系列的に分析する研究方法を用いた。さらに、ロシアのプロパガンダのナラティブと敵対行為の結果との関係を検証した。ロシア連邦(RF)の指導者による演説も内容分析の対象とした。

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