米海兵隊のドクトリンを読む⑥ MCDP8 Information その1

2022年4月1日掲載の米海兵隊機関誌ガゼットの記事『米海兵隊ドクトリン刊行物-8「情報」 – MCDP 8 Information –』で紹介した「MCDP 8 Information」が刊行されているので、全文を章ごとに掲載する。(軍治)

MCDP 8 Information

U.S. Marine Corps

21 June 2022

 

はじめに:FOREWORD.

第1章.情報の本質: The Nature of Information.

情報の説明:INFORMATION EXPLAINED..

「情報」はどのくらい重要か?:HOW IMPORTANT IS INFORMATION?.

情報環境の特質:CHARACTERISTICS OF THE INFORMATION ENVIRONMENT.

競争者の情報へのアプローチの方法:HOW COMPETITORS APPROACH INFORMATION..

情報システムの対立と破壊:Information Systems Confrontation and Destruction.

結論:CONCLUSION..

第2章.情報の理論:The Theory of Information

第3章.情報の効果的な使用:Effective Use of Information

第4章.情報の制度化:Institutionalizing Information

はじめに:FOREWORD

「情報(information)」はすべての人間の相互作用の基礎である。情報は、我々がどのように環境を感じ、理解し、相互作用するかの基礎となるものである。急速に進化する現代の技術は、情報を処理し、保存し、伝達する我々の能力を、これまで想像もできなかったようなテンポと規模で加速・拡大させている。

グローバルに相互接続された世界は、我々の情報への依存度を高め、情報の取り扱い、保管、送信の方法にわずかな脆弱性があれば、米海兵隊員とその家族、そして我々が守ると誓ったすべてのものを危険にさらすことになりかねない。敵対する意志と和解できない意志の間の争いの中で、情報は我々の軍事兵器に匹敵するほど強力な手段である。したがって、情報はわが米海兵隊の将来にとって不可欠なものである。

第29代米海兵隊総司令官アルフレッド・M・グレイ(Alfred M. Gray)米海兵隊大将は、米海兵隊ドクトリン文書1『用兵(Warfighting』の序文で、「戦争そのものと同様に、我々の用兵へのアプローチも進化しなければならない。もし、我々がこの専門職を磨き、拡大し、向上させることを止めれば、時代遅れとなり、停滞し、敗北する危険性がある」と書いている。

我々の競争者(competitors)や敵対者(adversaries)は、情報をターゲットとして、また兵器として利用することで、世界的な技術的・社会的脆弱性を食い物にし、我々のシステム、ネットワーク、パートナーシップを不安定にし、それによって互いや制度に対する信頼を損なわせているのである。我々は、部隊のあらゆる指揮階層レベルにおいて日常的に関与することを含む、用兵(warfighting)への進化的アプローチでこの脅威に対応しなければならない。

情報(Information」の目的は、情報用兵機能(information warfighting function)を理解し、採用するためのコンセプト上の枠組みを導入し、米海兵隊員が全用兵ドメイン(all warfighting domains)で、競争連続体(competition continuum)のすべての段階において、作戦アプローチに柔軟性を高めることである。

本書は、米海兵隊員に情報用兵機能(information warfighting function)を紹介する一助として、一連の挿話を使用して、我々の最新の用兵機能(newest warfighting function)を構成する永続的な理論と原則を説明している。本書内の挿話は、重要なアイデアを強調するために現在の出来事を使用し、出来事が展開し、結論に至るまで、将来の変更が必要となる可能性を想定して、現在の状況を提供することができる。

情報用兵機能(information warfighting function)の理論と原則は今後も存続するが、刻々と変化する情報環境の特徴に対応するため、その適用を継続的に検討し、適応させなければならない。

したがって、本書は適切な頻度で更新される必要がある。本書はチェックリストではないし、すべての答えが載っているわけでもない。全米海兵隊員にとってベースラインを提供するために、隅から隅まで読む必要がある。

この基盤をどのように活用するかは、全米海兵隊員の創造性、創意工夫、先見性によってのみ制限され、彼らは皆、このページ内で議論されている理論やアプリケーションを実践する者である。あらゆる米海兵隊員は、情報の中で役割を担っている。したがって、あらゆる米海兵隊員は、指揮官、計画策定者、分隊員など、本書で説明されている自分の役割に焦点を当てるべきである。

情報のための、そして情報との闘いは、絶え間ない競争である。情報は専門家の領域(realm)ではない。情報は我々の一部であり、我々のアプローチは、毎日、あらゆるレベル、あらゆる物事において、このメンタリティーを反映したものでなければならない。この取組みの一環として、我々は従来の戦闘能力をどのように活用するかを考え直さなければならない。

効果的に競争し、闘うためには、あらゆるドメインで進化する必要がある。日常的に戦闘を行わなければ、我々の敵対者(adversaries)に優位性を譲ることになる。我々は、あらゆる場面で競争者(competitors)や敵対者(adversaries)に挑み、我が国が勝利するために、あらゆる米海兵隊員が一丸となって取り組むことを期待している。

米海兵隊総指揮官 米海兵隊大将 デビッド・H・バーガー

 

第1章.情報の本質: The Nature of Information

機動の神髄は、目標をできるだけ効果的に達成する手段として、敵に対して何らかの優位性を生み出し、それを利用するための行動をとることである[1]

-米海兵隊ドクトリン文書(MCDP)1「用兵(warfighting

米海兵隊の用兵哲学(warfighting philosophy)にあるこの言葉は、米海兵隊員が情報をどのように考えるべきかの骨格をなすものである。この言葉は、情報を「活用できる利点の源泉」と「克服すべき欠点の潜在的源泉」という2つの視点から理解するための出発点となるものである。

情報は、米海兵隊員が行うあらゆる活動において重要な役割を果たす。情報は、インテリジェンス、指揮・統制(command and control)、状況理解、意思決定、そしてあらゆる振舞いの形態の基礎となるものである。すべての社会、政府、組織が機能するための中心的存在である。また、情報は国力(national power)の手段でもあり、外交、軍事、経済の手段と連携して、戦略的結果に影響を与え、我々の意志を押しつけ、その他の政策目標を達成するために用いられる。

20世紀半ばから、一連の情報と技術の進歩は、情報を世界的な現象にした。その後、競争者(competitors)や敵対者(adversaries)はこの現象を巧みに操り、利用するようになり、冷戦期からその直後にかけて米国が保持していたいくつかの優位性に挑戦するようになった。情報化時代と呼ばれる現代は、米国の情報を基盤とする優位性(information-based advantages)の持続という前提を根本的に覆すものである。

米海兵隊員は、特定の情報の優位性(information advantage)を情報のために競争し、闘わずに、その恩恵を受けると決して考えてはならない。機動戦(maneuver warfare)の考え方で情報に取り組まなければならない。米海兵隊ドクトリン文書(MCDP)1、「用兵(Warfighting」には、「劣勢な部隊が必要な時と場所で決定的な優越(decisive superiority)を達成できるのは、あらゆる次元での機動によるものである」と書かれている[2]

情報の観点から見ると、作戦の本質は、あらゆる次元、用兵ドメイン(warfighting domains(陸、空、海、宇宙、サイバースペース)、および電磁スペクトラムで行動を起こし、情報の優位性(information advantages)を創造し、活用することである。これらの行動は、あらゆる競争的な交戦や戦争形態に適用される。

米海兵隊ドクトリン文書(MCDP)1-4「競争(Competing」は、米海兵隊員が戦争をしていないときでも、競争状態にあることを述べている。米海兵隊の存在そのものが競争行為であり、潜在的な敵対者(adversaries)に、国家が戦争してでも守るべき重要な海洋権益があることを知らせるものである[3]

したがって、あらゆる米海兵隊員は、米海兵隊のナラティブを強化したり、損なったりすることで、国の競争に貢献したり、妨げたりする可能性を持っている。米海兵隊員は、その行動、言動を通じて、大胆な行動、プロ意識、高い能力を備えた米海兵隊という評判を高めることも傷つけることもできる[4]

我々は、一兵卒から将校まで、競争と戦争で成功するために情報を活用している。米海兵隊の評判を高めるために慎重な行動を取るにせよ、メッセージを送るために能力を選択的に明らかにするにせよ、重要な情報ネットワークを防御または攻撃するために技術的な洞察力を発揮するにせよ、米海兵隊員は任務を遂行するために情報を活用する方法を知っていなければならず、決定的な時間と場所で最終的に我が意志を押し通す必要があるのである。

本書の目的は、情報用兵機能(information warfighting function)を通じて情報の力(power of information)を活用するための基礎理論を説明し、米海兵隊員が任務達成のための主要手段として情報を考えるための指針とすることである。

情報の説明:INFORMATION EXPLAINED

情報という言葉は、その使い方によってさまざまな意味を伝える。しかし、情報用兵機能(information warfighting function)を最も効果的に活用するためには、この言葉の他の関連する用法を理解することが不可欠である。

国力の手段としての「情報」:Information as an Instrument of National Power

国力(national power)の外交、情報、軍事、経済的手段は、米国が潜在的な競争者(competitors)を評価し、安全保障環境を説明するために用いる枠組みを提供するものである。戦略的レベルでは、競争と戦争は、ある政治集団が他の政治集団に対して行使するあらゆる力の道具を使うことになる。国際的な行為主体は、戦略的レベルにおける情報を、主に2つの方法で利用する。

第一に、政治家、組織、その他のグループ、あるいは戦略目標に不可欠と思われる個人の知覚(perceptions)や態度に影響を与えるために、コミュニケーション活動を同期化させようとすることである[5]。第二に、戦略的レベルにおける情報の収集、活用、処理、投射の手段を含む重要な情報能力の保護と確保に努める[6]。米海兵隊は、情報という手段を用いて米国の利益を増進する上で、支援的な役割を果たす。

指揮・統制の中の「情報」とインテリジェンス:Information in Command and Control and Intelligence

情報は指揮・統制(command and control)とインテリジェンスの基礎となる要素である。しかし、指揮・統制(command and control)とインテリジェンス分野では、情報という言葉の使い方が異なる。米海兵隊ドクトリン文書(MCDP) 6「指揮・統制(Command and Control」では、情報を「…一方では生の信号から、他方では知識と理解に至るまで、あらゆる種類の記述または表現」と表現している[7]

米海兵隊ドクトリン文書(MCDP) 6「指揮・統制(Command and Control」によると、情報の種類はデータ、つまり未処理の信号から、記号、インテリジェンス報告、アイデアなど、意味のある知識と理解に評価され一体化された、より高度な形態まで多岐にわたる。

米海兵隊ドクトリン文書(MCDP) 2「インテリジェンス(Intelligence」では、情報とは「評価されていないあらゆる種類の資料…(インテリジェンスを導き出すための)原材料として使用されるもの」と説明されている[8]。この観点から、情報とは、処理し、理解可能な形にすることができるデータである。これは知識と理解の基本的な構成要素であり、インテリジェンスにとって不可欠なものである。インテリジェンスの生産は一般に、敵や環境に関する情報をあらゆる情報源から集め、それを合成して意思決定に役立つ有意義な知識にすることを含む。

米海兵隊員は日常的にこのような情報という観点に遭遇することになる。情報という言葉がどのような文脈で使われているかを認識し、混乱や誤解を招かないようにしなければならない。

情報環境:Information Environment

米海兵隊は、情報環境(information environmentという用語を、すべての作戦が情報に依存する、用兵ドメイン(warfighting domains)にまたがるグローバルな競争空間を指すために使用している[9]。情報環境には、情報そのものと、戦力の運用に影響を与え、指揮官の意思決定に影響を与える社会的、文化的、心理的、技術的、物理的なすべての関連要因が含まれる。情報は物理的環境と不可分であるため、指揮官は全用兵ドメイン(all warfighting domains)で作戦を計画・実施し、情報の優位性(information advantages)を創出または活用することができる。

情報環境が作戦だけでなく、広く社会や国際関係に与える影響は、いくら強調してもし過ぎることはない。グローバル・コミュニケーション、インターネット、デジタル・メディアは、誰もがほぼ瞬時に他の誰とでもコミュニケーションできるようにすることで、世界をより小さな場所にしている。ハイパー・コネクテッドな現代社会は、現代のコミュニケーションとデジタル・メディア技術にアクセスできるあらゆる個人の手に、グローバルな広がりを持つ情報の力(power of information)を効果的に与えているのである。

情報の優位性:Information advantages

米海兵隊員は、競争者(competitors)や敵対者(adversaries)に対して優位に立ち、それを最大化するために我々の機動戦の哲学(maneuver warfare philosophy)を適用する。情報の優位性(information advantage)とは、ある主体が他の主体よりも効果的に情報を生成、保護、拒否、投射する能力によってもたらされる活用可能な状態を指す。米海兵隊員は、迅速、柔軟、かつ機略的な機動によって、システム・オーバーマッチ(systems overmatch)、優勢なナラティブ(prevailing narrative)、戦力の復元性(force resiliency)という3種類の情報の優位性(information advantage)を生み出し、利用することを目指す。

競争者(competitors)と敵対者(adversaries)は、既存の情報の優位性(information advantages)を利用し、新たな優位性を創造して利用するために競争する。彼らは情報を使って世論を形成し、パートナーを引き付け、競争者の同盟を弱め、人々の間に不和をもたらすことによって、これを行うのである。第2章と第3章では、情報の優位性(information advantages)についてより詳しく説明する。

用兵機能としての「情報」:Information as a Warfighting Function

情報は、米海兵隊の用兵機能(warfighting function)である。すべての用兵機能(warfighting function)と同様に、情報機能は作戦の計画策定と実行を支援する類似の活動のグループを包含する。米海兵隊員が情報用兵機能(information warfighting function)を適用して求める結果(その目的)は、他の用兵機能(other warfighting functions)と区別されるものである。

米海兵隊員は、任務の目標を達成するために、情報用兵機能(information warfighting function)を活用して情報の優位性(information advantages)を創造し、活用する。これは、米海兵隊員が情報用兵機能(information warfighting function)と他の機能とを検討し、一体化して、作戦の焦点と取組みの統一を達成するときに、最も効果的に達成される[10]

全米海兵隊員は、軍事作戦の本質的な側面として、情報を活用する方法を知る必要がある。あらゆる米海兵隊員は、任務を遂行するために情報を消費し、情報を伝達し、情報を頼りにしている。情報の優位性(information advantages)でより効果的に競争し、闘うためには、情報環境の重要性と特徴、そして我々の競争者(competitors)がどのように情報にアプローチしているかを理解することが不可欠である。

「情報」はどのくらい重要か?:HOW IMPORTANT IS INFORMATION?

「知識は力なり(knowledge is power)」という格言があるように、工業化時代には、土地、労働力、資本、物質などの価値生産資源を活用するノウハウに優れた先進国が、情報によって競争優位性(competitive advantage)を獲得した。

工業化時代には情報が重要だったが、情報化時代には情報が生活の中心になっている。この変化は、先進社会が情報に依存していることと、ポスト工業化時代を象徴する情報技術やデジタル通信の革命が進行していることに起因している。依存は潜在的な脆弱性をもたらし、脆弱性は、我々の目標を達成し、我々の意志を押し付けるために、情報の優位性(information advantages)をつかむ機会をもたらす可能性がある。

情報への依存に伴う脆弱性を理解するために、我々は国土を見渡す必要がある。銀行、医療、製造、輸送、エネルギー、貿易、商業、そしてすべての政府機能など、すべての社会的機関はデジタル情報に依存している。機能の制度的能力(institutional ability)は、デジタル・データベース、通信ネットワーク、高度なデジタル・コンピューティング・システムとアルゴリズムに依存しているのである。

競争者(competitors)は、国境という聖域から高度な通信とグローバル・ネットワークを使用して、我々の組織を暴露することができる。このような現実は、データの保存、処理、通信が局所的な手作業で行われていたため、これらの機関が外部の脅威から隔離されていた工業化時代とは大きく異なる点である。

システムの脆弱性を突いて混乱を引き起こすだけでなく、我々の競争者(competitors)は常にデジタル・メディアを使って偽情報(disinformation)を流し、人々や指導者、あるいは大きな集団の間に分裂を引き起こしたり、激化させたりしている。このように、国民の心(mind)と振舞い、ひいては米海兵隊員の心をつかむための絶え間ない競争には、たゆまぬ警戒と復元性(resiliency)が必要である。

この課題は、工業化時代には不可能であった、継続的な敵対的社会操作の形態について述べている。このような敵意の形態(form of hostility)は、人工知能や、魅力的ではあるが人工的に作られた画像や映像が改良され、時間の経過とともに兵器化されるにつれて、ますます懸念され、重大な意味を持つようになるだろう[11]

社会の情報依存は、情報化時代の軍隊に共通する脆弱性である。20 世紀後半、米国の技術的優越(technological superiority)は、グローバルな展開と相対的な情報の優越(information superiority)に貢献した。この優越(superiority)は、情報を収集し、処理し、何らかの効果を上げるために利用できる数多くの方法、例えば、世界中のいつでもどこでも迅速かつ正確に戦闘力を発揮できるようにすることで明らかになった。

しかし、産業革命以降の情報環境の特性として、我々は決して、競争や争いをすることなく、固有の情報の優越(information superiority)から利益を得ていると考えてはならないのである。

情報環境の特質:CHARACTERISTICS OF THE INFORMATION ENVIRONMENT

即時かつ永続的なグローバルな可視性:Instant and Persistent Global Visibility

光速のデジタル・ワイヤレス通信とメディア・技術は、情報への即時、グローバル、持続的なアクセスを可能にする。情報環境は、これらの技術にアクセスできる事実上すべての人に、ほとんどの地理的・政治的境界を越えて出来事を観察し、影響を与える能力を与えている。

ある出来事や新しいアイデアが生まれた瞬間、それは瞬時に世界中の人々に伝わる。グローバルな情報環境におけるハイパー・コネクティビティは、我々の行動が予期せぬ2次、3次効果を生み出す可能性を高めているのである。

あらゆる米海兵隊員の行動や言葉が、ローカルに、地方に、そしてグローバルに可視化される可能性が出てきたのである。野外での訓練、作戦行動、休暇中のネットへの写真投稿など、米海兵隊員は自分の行動や発言が数時間以内にトップニュースになる可能性があることを忘れてはならない。このような可視化は、作戦保全、即応性、友軍のナラティブ、戦力の復元性(force resiliency)に大きな影響を与える。

グローバルな可視性の要求は、言葉だけでなく、個人や部隊の行動を通じて、明示的・暗黙的に発信されるすべてのメッセージについて、鋭い認識を維持しなければならない。このような意識を持つことで、米海兵隊員は、自国や作戦地域外の関係者からターゲットとされ、影響を受ける可能性があることを認識しなければならない。

圧縮された戦いのレベルと戦闘空間:Compressed Levels of Warfare and Battlespace

情報の即時性、グローバル性、持続性により、戦いのレベル(levels of warfare)が圧縮され、ローカルな行動がグローバルな影響を与える可能性が高くなる。情報が容易に世界中を行き交うようになったことで、人々はグローバルな規模で起きているローカルな出来事を継続的に監視することができるようになった。この現象は情報化時代に特有のものである。政治的主体(国家または非国家)、利益団体、そして個々の人々が、地球上のローカルな出来事をスキャンし、自分たちの大義やナラティブを強化するためにそれを利用できるため、強力なのである。

このような情報へのアクセスと、我々の敵対者(adversaries)がさまざまなメディアを通じて事象に関する情報を歪曲・操作することが比較的容易であることが相まって、あらゆる戦術的行動は、たとえローカルの住民にとって有益または無害であっても、地域または世界を混乱させる可能性を持つことになるのである。したがって、米海兵隊員は、自分たちの行動が世界各地で暴露され、伝達され、敵対者(adversaries)によって歪曲・操作されて、不釣り合いな、あるいは世界的に重大な影響を与えることを想定しなければならない(図1-1参照)。

図1‐1.情報は戦いのレベル(levels of warfare)を圧縮する

このような圧縮を踏まえ、指揮官は、どのような戦術的行動が作戦や戦略に影響を与えうるかといったことを、さらに考慮しなければならなくなった。指揮官や計画策定者は一般に、部隊の2つ上のレベルを考えるが、今では地理的、政治的境界を越えて作戦の戦略的意味を考えなければならなくなった。

指揮官は米海兵隊員に対し、自分たちの司令部と任務について信頼できるナラティブを推進し、敵対者(adversaries)が状況を歪めて主導権を握るのを可能な限り困難にするよう、行動を訓練しなければならない。指揮官はまた、作戦とより大きな米海兵隊や上級のコマンド・ナラティブを支えるため、さまざまなメディアを通じた司令部の公式情報の活用を優先させなければならない。

グローバルな可視性が世界を小さくし、戦いのレベル(levels of warfare)を圧縮するように、戦場空間のコンセプトにも同様の縮小効果が見られる。情報環境は、従来の多くの階層的なコミュニケーション・チャンネルを回避し、しばしば従来の監督・管理された流通手段を迂回する。このため、我々の競争者(competitors)は従来の戦域の境界を離れた場所から侵入し、我々の関心、影響、作戦の領域全体にわたって情報を混乱させ、歪め、操作する機会を得ることができるのである[12]

たとえ情報が不正確であったり、文脈を欠いたりしても、その即時伝達は世界中の個人、集団、そして米海兵隊の作戦に影響を与える可能性がある。また、競争者(competitors)が米海兵隊の活動に対する国内の支持に影響を与える可能性さえある時代であり、指揮官と個人の職務上および職務外の行動がより一層重視される。21世紀には、指揮官は戦場における情報の流れと、それが国境を越えた友軍・敵・中立の集団にどのような影響を与え、あるいは受けるかを理解する必要がある。

米海兵隊員は、グローバルな効果や戦略的効果を生み出す行動を(単独で)行うことはないが、特定の作戦地域に関連するグローバルな情報環境の特徴と影響を理解しなければならない。つまり、米海兵隊員は自分の作戦地域を、関心・影響力のある地域とグローバルな情報環境とが結びついた空間として知覚する必要があるのである。米海兵隊員は、身近な環境を超えて考え、境界を越えて近くて遠い脅威に対応し、それらの目標を達成するための備えをしなければならない。

真実、信頼、信念:Truth, Trust, and Belief

社会、文化、組織は、コミュニケーションとコラボレーションを通じて結束力を高めていくが、人々が互いに直接コミュニケーションをとることはますます少なくなっている[13]。個人が重要な出来事を経験し、通信技術の助けを借りずに自分のすぐそばにいない他者と直接関わることはまれである。ニュースやその他の情報を受け取るために技術に依存するには、その技術に対する高度な信頼が必要である。例えば、オンライン・バンキングの場合、人々は画面に表示される内容が正確であり、取引が意図したとおりに進行していることを信頼する。

情報と情報源に対する信頼は、何かが真実であるか嘘であるかを信じるための第一の根拠である。人々が出来事や事実に関する情報を選択し、選別し、閲覧するために通信技術に依存すればするほど、その技術はその人の現実の知覚(perceptions)を形成する上でより重要になる。このような依存関係から、ヒューマン・マシン・インターフェースの重要性が浮き彫りになり、このインターフェースをターゲットにして知覚(perceptions)に影響を与えることが可能になる。米海兵隊員は、今日の複雑な技術とメディアを駆使して士気と部隊の結束を守る必要があり、自分たちを狙うさまざまな誤った情報(misinformation)や偽情報(disinformation)の発信源を見分ける能力が必要である。

誤った情報(misinformation)とは、意図的に害を及ぼすことを意図していない虚偽の情報(false information)のことである。このタイプの虚偽の情報(false information)は、一般的に、個人が無意識のうちに真実だと信じている虚偽の情報(false information)を共有することによって広まる。一方、偽情報(disinformation)とは、意図的に害をもたらしたり、影響を与えたりすることを意図した虚偽の情報(false information)である。偽情報(disinformation)は、敵対者(adversaries)がプロパガンダを流し、個人またはターゲットとする集団の間に不確実性や不和をまき散らすために使用される。

「情報」の量、速度、価値:Information Volume, Velocity, and Value

情報は管理・操作可能であることを認識した上で、情報の所有者や発信者が意図しないものも含め、多くの目的に情報が使用・利用される可能性があることを受け入れなければならない。例えば、会戦中の2人の敵は、効果的な決心を行い、テンポを速め、相手を打ち負かすために、相手側が関連する信頼できる情報にタイムリーにアクセスする必要があることを知っている。

彼らは、ある種の情報が逆効果になることを理解している。多すぎる情報、少なすぎる情報、遅い情報、あるいは誤解を招いたり、パニックを引き起こしたり、自責の念に駆られるような情報は、一方に勝利をもたらし、他方に敗北をもたらすことがある。

情報の優位性(information advantages)を得るには、一方が他方に対していかに迅速かつ効果的に状況理解を行い、維持できるかが重要である。理解を生成する目的のために情報を取得し、処理し、活用する速度が速い側が、より速く、より良い決心を下し、テンポよく進めることができる。真実、信頼、信念に加え、情報の量、速度、価値といった情報の特性は、情報の優位性(information advantages)を創造し、活用するための具体的な目標達成の手段(tangible levers)を提供する。

情報量とは、保存、処理、通信される情報の量のことである。速度とは、情報が移動または伝達される速度と方向を指す。情報の移動または伝達の速度は、情報量と通信経路の容量(帯域幅)および通信経路を妨害する抵抗や干渉(ノイズ)の関係で決まる。

ユーザーは、情報の価値を、それが目前の意思決定、タスク、または任務にどのように貢献するかに照らして判断しなければならない。情報の価値は、状況理解、タイムリーで効果的な意思決定、パートナーの獲得と維持、または何らかの優位性の活用に貢献するときに発揮される。情報の価値は、タイミング、正確さ、状況との関連性、文化的背景、信頼など、多くの要因の関数である。米海兵隊員は、情報を基盤とする優位性(information-based advantages)を追求するために、これらの要素を保護し、活用し、利用する方法を見つけなければならない。

思考と非思考の情報プロセス:Thinking and Non-thinking Information Processes

情報環境は、日常生活の中に複雑に浸透している要素である。政治指導者、人口、コンピュータや機械、あるいは対立する軍事組織の振舞いは、情報の処理方法によって理解することができる[14]。行動と反応の相互作用がいかに単純であろうと複雑であろうと、すべての情報プロセスは、思考プロセスと非思考プロセスの2つに還元することができる[15]

我々は、思考プロセスを人間の知覚、認知、意思決定、振舞いと関連付けられ、非思考プロセスはあらかじめプログラムされた、「ハードウェアで実現されている(hard-wired)」またはアルゴリズムによる意思決定や振舞い(機械やコンピュータが行う単純または複雑なタスクなど)と関連付ける。

人間の複雑な思考プロセスの身近な軍事的例としては、計画策定、指揮の決心とフィードバック、インテリジェンス分析と作成、直感による決心、交戦による主要指導者の説得、外国世論の予測と影響力などがある。複雑な非思考プロセスの身近な軍事的例としては、自動防空・火器管制、フライ・バイ・ワイヤーの飛行制御、位置決め、航法、タイミング、戦場表示、無線通信、あらゆる形態のコンピュータ処理などがある。

思考プロセスと非思考プロセスを区別することで、情報が両者への実質的な入力であることを確立することができる。このアプローチは、人間の知覚、認知、意思決定、振舞い、意志に直接影響を与えるため、あるいは情報依存システムの基本機能に影響を与えるため、あるいはその両方に影響を与えるために、情報をどのように利用、操作、あるいは否定できるかを理解するための枠組みを構築するものである。その結果、情報環境において事実上2つの「アプローチの道(avenues of approach)」が生まれ、任務に求められる効果を生み出すための能力と具体的な行動の計画策定を支援することができるのである。思考プロセスと非思考プロセスの関係は、戦いにおける情報の競争者理論(competitor theories of information in warfare)の中核をなすものである。第 2 章と第 3 章では、この点についてさらに詳しく説明する。

競争者の情報へのアプローチの方法:HOW COMPETITORS APPROACH INFORMATION

競争者(competitors)がどのような方法で情報にアプローチするかによって、情報環境の特徴は大きく変わる。我々は一般的に、国際的な規範に反し、米国の利益と衝突するような競争的手法を用いる政府や非国家主体を指して、競争者(competitorsという言葉を使うことがある[16]。競争者(competitors)とは、権威主義的な政府を持つライバル国や、過激なイデオロギーに従う非国家主体であることが多い[17]

21世紀の安全保障環境における競争者(competitors)は、情報を自分たちの戦争方法の中心に据えている。平和と戦争の分断をあいまいにし、情報へのアクセスを統制し、ナラティブやプロパガンダで情報環境を形成し、システム対決や破壊を通じて紛争時に相手の情報を拒否するなど、彼らの取組みはあらゆる分野に及んでいる。

平和と戦争の境界を曖昧にする:Blurring the Divide between Peace and War

競争者(competitors)が彼らの優位性のためにどのように情報を使うかを米海兵隊員が理解するためには、まず競争者(competitors)と米国の平和と戦争に対する考え方の違いを強調することが有効である。この違いを説明するために、米国と旧ソ連との冷戦時代に適用された政治戦のコンセプト(concept of political warfare)を使う。冷戦の初期、米国の外交官ジョージ・F・ケナン(George F. Kennan)は、国家間に働く普遍的な競争原理を説明するために政治戦(political warfare)を導入した。ケナンは「政治戦(political warfare)」を「国家目標を達成するために、戦争に至らず、国家の指揮下にあるすべての手段を用いること」と定義した[18]

戦争に至らない競争では、競争者(competitors)は戦略的レベルから戦術的レベルに至るまで、あらゆる力の要素を組織化することによって、政治的な成果を追求する。ケナンの研究は、冷戦の黎明期である1948年当時、米国が平和と戦争の間に人為的な隔たりを見出す傾向にあるというハンディキャップを負っていることを浮き彫りにした。このような考え方は、今日でも根強く残っており、我々は依然として、わが国を「平和な状態(condition at peace)」か「戦争している状態(condition at war)」のどちらかにあると考える傾向がある[19]

この見方は、自らを常に闘争や戦争の状態にあると考える一部の競争者(competitors)とは異なる。たとえば、中華人民共和国が戦争をどのように見ているかを理解するために、毛沢東の言葉を引用しておこう。「・・・政治は流血のない戦争であり、戦争は流血のある政治である(. . . politics is war without bloodshed while war is politics with bloodshed)」[20]。ここで戦争(war)という言葉は、政治的競争者(competitors)の間の永続的な関係を表している。この関係は決して暴力を伴わないかもしれない。このような永続的な闘争の考え方は、非国家主体を含む他の競争者(competitors)にも共通しており、平和と戦争の間の永続的な性質と曖昧な境界について同様の見解を持っている。

米海兵隊員は、我々の競争者(competitors)が平和と戦争のコンセプト(concepts of peace and war)を表現するために使うさまざまな言葉を理解し、それを我々の競争環境の捉え方と比較する必要がある。例えば、米海兵隊は、競争者(competitors)間の絶え間ない相互作用を表現するために、競争連続体(competition continuumという言葉を使っている。この相互作用は、武力紛争の閾値の下でも上でも可能なあらゆる行動に及んでおり、戦争そのものが競争の一形態となっている[21]

競争連続体(competition continuum)の意味を理解するために、競争連続体(competition continuum)のどの点においても、我々が行動を起こしている現実または潜在的な競争者(competitor)、敵対者(adversary)、または敵を指す「相手(opponent)」という言葉を導入している。要は、競争連続体(competition continuum)とは、米国が様々な相手と常に競争状態にあることを表す米国の用語である。また、米海兵隊員がその連続体の中で、ある行動がどのように適用されるかを判断するために使用できるモデルでもある。

競争者(competitors)が情報の優位性(information advantages)を獲得しようとする方法は、平和と戦争に関する彼らの理論や記述、そして彼らの行動に影響を与える文化的、経済的、法的パラダイムと深く関わっている。競争者(competitor)の視点はさまざまだが、情報がそれらの目標達成の中心的な役割を果たすことを説明するために、共通の特徴を説明することが役に立つ。以下の節では、競争者(competitors)がどのように情報と技術を使って平和と戦争の分断をあいまいにし、相対的な情報の優位性(information advantages)を追求しているかを説明する。

非制限戦と非正規戦の方法:Unrestricted and Irregular Methods of Warfare

競争者(competitors)は、米国や同盟国と競争する上で共通の目標を持っている。それは、「闘わずに勝つ(win without fighting)」ことである。この目標は、競争において勝利を得ながらも武力紛争(armed conflict)を避け、強制的な漸増または日和見的な突進によって目標を達成することを好む競争者(competitors)の理論を明らかにするものである[22]

これらの戦略は、平和と戦争の境界を意図的にあいまいにして、相手に曖昧さ、不確実さ、ためらいを生じさせるだけでなく、それらの到達目標(goals)を達成するために非制限戦と非正規戦の方法を用いる。これらの方法は、情報-言葉、イメージ、プロパガンダ、心理戦-を顕著に利用し、我々の意思を強制し、説得し、弱め、競争者(competitors)の利益に有利な行動をとらせようとするものである。

非制限戦と非正規戦の方法とは、我々の競争者(competitors)が、自分たちに有利になるように協定を利用しない限り、既存の国際協定や規範に拘束されるとは感じていないことを示す振舞いを観察することである[23]。例えば、競争者(competitors)は、国際関係の現状を変えるために攻撃的な情報行動(攻撃的サイバースペース作戦、他国の内政干渉、偽情報(disinformation)など)をとることが容認されると考えている[24]

中華人民共和国があからさまな紛争によらない目標を達成するために用いる主要な無制限戦略の1つは、「三戦(Three Warfares)」と呼ばれるものである。米海兵隊員は、「三戦(Three Warfares)」を、世論・メディア戦、心理戦、法律戦の3本柱を含む中国の戦略的競争への包括的アプローチと理解すべきである。三戦の全体的な目標は、中国の目標を推進する一方で、競争者(competitors)の対応能力を阻害する方法で、ナラティブを支配し、知覚(perceptions)に影響を与えることである[25]

南シナ海での「三戦(Three Warfares)」戦略

中華人民共和国は、南シナ海の重要な海域の支配を、近隣諸国や米国からの強い反応や紛争を引き起こすことなく主張するための戦役戦略(campaign strategy)として、「三戦(Three Warfares)」を採用している。2013年以降、中国は国際的な非難にもかかわらず、南シナ海に多くの人工島を建設し、軍事化した。

このため、中国が領土の既成事実を追求することに反対する近隣諸国の心理的能力は、事実上低下している[26]。中国は、周辺国に疑念と混乱を招くため、海上民兵を中心とする準軍事組織を用いて自国の主張を強化し、軍事的反応を防いでいる[27]。中国は、海軍の戦闘機で国際船にあからさまな軍事行動を起こさないことで、係争水域での活動、領有権の行使、天然資源の開発の自由を実質的に無抵抗に保っている。

さらに、中国は地域的・世界的な新聞記事やデジタル・メディアを通じて積極的なメディア・メッセージを発信し、正当な歴史的主張のナラティブを広めてきた[28]。このナラティブは、国際社会のほとんどの政治指導者には受け入れられていないにもかかわらず、一貫しており、常態化してしまっている。

南シナ海で観察された中国の振舞いは、中国の時間を稼ぐための民軍の態勢、プロパガンダ、および法的な難読化を組み合わせた方法としての「三戦(Three Warfares)」の実際的な適用を示している。これは、中国の立場をさらに強化し、近隣諸国による対抗措置を防ぐのに役立つ[29]

心理戦や偽情報(disinformation)を積極的に利用する方法を採用している政治的主体は、中華人民共和国だけではない。ロシアの競争に対するアプローチは、中国の無制限なアプローチに似ており、非正規の戦法に高度な思考が含まれている。ロシアの政治戦略は、平和と戦争の境界をあいまいにし、利用可能なあいまいさを作り出すために、国家はもはや宣戦布告すべきではないと主張している[30]

平和と戦争の分断を曖昧にするこのコンセプトは、宣言されていない非正規戦の形態に従事する要素を動員するものである。これは、演習や平和維持活動という建前やナラティブの下で行われる攻撃的な軍事行動を伴うこともあれば、歴史的な主張を伴うこともある。

ロシアが非正規戦に関与する方法の1つは、特殊作戦部隊の想像力豊かな活用である。これらの部隊は、ロシアの正規軍だけでなく、民間人、破壊工作員、外国の代理人とも協力している。このような非正規戦の形態では、ロシアの到達目標(goals)を達成するために、民間人が非正規・通常軍事部門と積極的に連携している。

この民軍融合には、ロシアの企業経営者、メディア組織、政治指導者が、組織化された政治的ナラティブと目標の下、ロシア軍や治安部隊と一体となって活動している。

ロシアの非正規戦の根底にあるのは、反射的統制のコンセプト(concept of reflexive control)である。米海兵隊員は、反射的統制(reflexive control)を、混乱と麻痺を引き起こし、競争者(competitor)や敵対者(adversary)の振舞いに影響を与えるために、知覚(perceptions)と行動を操作することに根ざした情報中心の理論として理解するべきである[31]

反射的統制(reflexive control)は、戦略的レベルでは地政学的な競争者(competitors)から、戦術的レベルでは戦場の敵までに応じて対応できるコンセプトである。

ロシアのクリミア併合

2014年のロシアのクリミア併合は、情報を使って作戦の条件を整えた見事な例だった。

2014年2月、キーウで親ロシア派のウクライナ政権が失脚し、ウクライナ全土で抗議運動が広がり、不安定な状態になった。クリミアでは、暫定政権への抗議や親ロシア派の分離主義者によるデモが広まった。

ロシア軍はこの混乱に乗じて大量の軍隊を投入した。その際、光ファイバー通信回線の切断、電話やラジオの妨害、サイバースペースでの作戦により報道機関やウェブサイトの機能が著しく低下し、事実上の情報遮断状態に陥った。

ロシア軍は識別マークを付けずにクリミアに入り、政府の重要なインフラを迅速に統制した。彼らはロシア軍の侵略と認識されるどころか、単にロシアから来た「リトル・グリーン・メン(little green men)」と呼ばれるようになった。

ロシアの情報の対する統制は疑心暗鬼を生み、ウクライナ人の意思疎通と意思決定の能力(ability)を遅らせ、ウクライナ軍の組織化と抵抗の能力を妨げた。やがて、ウクライナ軍の大規模な降伏が起こり、ロシアはクリミアを掌握した[32]

中国の「三戦(Three Warfares)」のコンセプトと同様に、ロシアの競争に対するアプローチは、競争者(competitor)の社会、政府、軍事組織をターゲットにした偽情報(disinformation)、メディア、心理戦に強く重点を置いている。イランやアルカイダ、ヒズボラなどの非国家主体など、米国の他の競争者(competitors)も、同様の理論やコンセプトを利用して、情報の優位性(information advantages)を獲得し、より強い勢力に対抗して存続または勝利している。

重要なのは、情報が我々の競争者(competitors)の戦争に対するアプローチの中心的な側面であるということである。この中心性は、戦争における情報の利用を促進する文化的態度によって増幅され、その結果、情報の利用に対する制約が米国で認められているものよりはるかに少なくなっている。したがって、米海兵隊員は、競争者(competitors)が自分たちだけでなく、わが国の政府、制度、社会全体に対して積極的な情報行動を取ることを期待することができる。

米海兵隊員は、戦場において武力紛争法を順守しているのと同様に、米海兵隊は、民主主義の範囲内で敵対者(adversaries)に勝つ方法を見つけなければならない。そのためには、情報技術の絶え間ない進歩によって、競争者(competitors)がどのように目標を達成するのかを考えなければならない。

情報システムの対立と破壊:Information Systems Confrontation and Destruction

20世紀末には、技術的優越(technological superiority)によって、米国は世界唯一の超大国として確固たる地位を築いた。信頼できる情報への確実なアクセスは、米国が地球上のどこにでも戦闘力を行使できることに貢献した。21世紀には、米国はもはや、信頼できる情報への確実なアクセスが戦闘力の優位をもたらすと考えることはできない。

先に述べた競争者(competitor)理論や戦いのコンセプトは、高度な情報システムや技術の果てしない発展と普及を利用することで、米国に挑戦するのに適しているのである。ここでいう情報システムとは、影響力と力の投射(power projection)の要素として、世界中の情報を収集し、利用し、中継する技術の構造を意味する。

米海兵隊員は、競争者(competitors)が情報システムの対立と破壊に関与し、戦略的競争環境を形成し、武力紛争の閾値の下または上にある競争連続体(competition continuum)のすべてのポイントで重要な通信へのアクセスを操作または拒否することを予期する必要がある。

我々の競争者(competitors)は、情報システムや高度な情報技術を駆使して、3つの主要な目標を達成している。第一に、彼らの競争者(competitorsに対して決心の優位性(decision advantage)を獲得するために技術を利用する[33]。これらの技術には、環境を理解するためのツールや、政治的行為者の意思決定を支援するためのツールが含まれる[34]

第二に、彼らの競争者(competitorや敵対者(adversaryの内部に混乱を引き起こすための技術を使用する。これは、情報の流れを混乱させ、知覚(perceptions)を操作し、力の投射(power projection)を拡大するためのツールである[35]。最後に、敵の機能または意思決定能力を破壊するために技術を使用する。これらのツールには、麻痺を与えることによって会戦中の敵を倒すために使用される技術的手段が含まれる[36]

決心の優位性の技術:Technologies of Decision Advantage:

決心の優位性の技術は、我々の競争者(competitors)が米国とその国力(national power)の要素を研究し、米国の優位性の継ぎ目や相殺を見つけるのに役立つ[37]。これらの技術を使用する到達目標(goal)は、戦略的奇襲(strategic surprise)を防ぎ、適切なタイミングでの政治的・軍事的決心を支援することである[38]

我々の競争者(competitors)は、公的機関や民間企業を組み合わせてインテリジェンスを収集し、意思決定者に情報を報告している[39]。さらに、中華人民共和国などの競争者(competitors)は、グローバルな監視のために商用デュアル・ユースの通信ネットワークとメディア技術を使用している。

これらのネットワークは世界中に張り巡らされているため、米海兵隊員は米国領土内の駐屯地での訓練中も含め、どこで活動しようと重大な脅威となる。米海兵隊員は、こうした商業用デュアル・ユース・ネットワークを通じて、自分たちの位置や行動が潜在的敵対者(adversaries)から観察可能であることを忘れてはならない。

混乱の技術:Technologies of Disruption

混乱の技術(technologies of disruption)は知覚(perceptions)に影響を与え、それを形成し、最終的には有利な優勢なナラティブ(prevailing narrative)を育てることができる。ナラティブは、一連の事実に意味を与えるため、競争者(competitors)間の競争において重要な役割を果たす[40]。事実の一般的な意味は、民衆の支持、個人、政治、軍事的決心、および意志に大きな影響を与える。

競争者は、偽情報(disinformation)、マスプロモーション、プロパガンダ、検閲に経済的インセンティブや懲罰的手段を組み合わせることで、意見を形成し、ナラティブを統制するために積極的な影響力戦役(influence campaigns)を行っている。

影響力戦役(influence campaigns)には、高度な通信・メディア技術に依存した積極的なスキームが含まれる。我々の競争者(competitors)はこれらの技術を利用して、特定の振舞いにインセンティブを与えたり、抑止したりすることで、人々が特定のナラティブを採用したり、自己検閲したりするよう条件付ける[41]。このような技術は、人々の言動を監視し、特定の個人、グループ、政治家に影響を与えるために情報を発信するのに必要なリーチを競争者の行為主体(competitor actors)に与えている。この仕組みの典型的な例が、中国の社会信用システムである。この制度は、国民の言動を監視し、報奨し、罰するものである。

米海兵隊員は、我々の競争者(competitors)が混乱の技術(technologies of disruption)を利用して影響力戦役(influence campaigns)を行う方法を理解する必要がある。米海兵隊員は、これまでも、そしてこれからも、外国の影響力行使(influence schemes)のターゲットにされ続けるだろう。

破壊の技術:Technologies of Destruction

戦場で米軍を破るための競争者(competitor)のコンセプトは、破壊の技術(technologies of destruction)に重点を置いている。つまり、武力紛争を行う競争者(competitors)は、意思決定や兵器システムの機能に必要な情報の流れをターゲットにする。1990~91年の湾岸戦争での米国の勝利は、圧倒的な情報の優越(information superiority)と技術的優越(technological superiority)が、そのまま圧倒的な戦闘力と迅速で決定的な勝利につながることを世界に示した。

湾岸戦争以来、米国の競争者(competitors)は技術の近代化に多額の投資を行い、機械化戦争から情報化戦争に移行するために用兵ドクトリン(warfighting doctrines)を更新してきた。したがって、米海兵隊員は、競争者(competitors)が、指揮・統制(command and control)ネットワークやシステム、インテリジェンス・監視・偵察システム、兵站システム、兵器システムなど、重要な情報依存システムや機能を積極的にターゲットにすることを予期しなければならない。情報の流れを遮断・阻害する目標は、敵の凝集力を崩壊させ、麻痺させ、破壊することであり、最終的には敵の戦意を喪失させることである。

結論:CONCLUSION

情報は、すべての人間の相互作用の基本的な構成要素である。情報は、インテリジェンス、指揮・統制(command and control)、状況理解、意思決定、そしてあらゆる振舞いの形態の核となる要素である。すべての社会、政府、組織が機能するための中心的な要素である。また、情報は国力(national power)の手段でもあり、外交、軍事、経済の手段と協調して戦略的結果に影響を与え、国の政策の到達目標(goals)を達成するために使われる。

情報の特性は進化している。現代のグローバルな情報環境における情報の浸透性は、戦いのレベル(levels of warfare)と戦闘空間を圧縮し、局所的な行動がグローバルな影響を及ぼす可能性を増大させる。

情報環境は、インターネットにアクセスできる人なら事実上誰でも、地理的・政治的な境界を越えて出来事を観察し、影響を与える能力を与えている。したがって、情報は米海兵隊員が行うあらゆる活動において重要な役割を果たす。我々は、一兵卒から将校に至るまで、競争と戦争で成功するために情報を活用する方法を理解する必要がある。また、情報の落とし穴にどう対処するかも知っておく必要がある。

21世紀の安全保障環境における我々の競争者(competitors)は、情報を彼らの戦争方法に不可欠なものとして重視している。平和と戦争の分断をあいまいにし、情報へのアクセスを統制し、ナラティブやプロパガンダで情報環境を形成し、武力紛争ではシステム対決や破壊によって敵の情報を拒否するなど、彼らの取組みはあらゆる範囲に及んでいる。

有能な競争者(competitors)は、米国を情報面で不利な立場に追い込もうと抗争している。米海兵隊員は、情報のために競争し、闘わずに、固有の情報の優位性(information advantage)から利益を得られると決して考えてはならない。このため、機動戦(maneuver warfare)の考え方で情報に取り組まなければならない。米海兵隊が情報用兵機能(information warfighting function)を採用した理由もここにある。指揮官と全米海兵隊員は、用兵機能(warfighting function)を作戦に適用して、情報の優位性(information advantages)を創造し、活用する方法を知っていなければならない。

ノート

[1] MCDP-1, Warfighting, p. 72.

[2] Ibid., p. 72-73.

[3] MCDP 1-4, Competing, p. 1-2.

[4] Ibid., p 2-15.

[5] The Joint Staff, Joint Doctrine Note 1-18, Strategy, 25 April 2018, p. II-6.

[6] Ibid.

[7] MCDP-6, Command and Control, p. 66.

[8] MCDP-2, Intelligence, p.1-7.

[9] Michael Schwille, Jonathan Welch, Scott Fisher, Thomas. M. Whittaker, Christopher Paul, “Handbook for Tactical Operations in the Information Environment,” RAND Corporation, 2021, p. 1.

[10] MCDP 1-0, Marine Corps Operations w/change 1,2,3, p. B-2.

[11] Michael J. Mazarr, Ryan Michael Bauer, Abigail Casey, Sarah Anita Heintz, and Luke J. Matthews, “The Emerging Risk of Virtual Societal Warfare: Social Manipulation in a Changing Information Environment” RAND Corporation, 2019, p. 88.

[12] MCDP 1-0, Marine Corps Operations, w/change 1,2,3, p. 3-6.

[13] Information and Society, Michael Buckland, MIT Press, Cambridge, MA, 2017, p. 12.

[14] Nic Stacey, dir., Story of Information (2012; London, UK, British Broadcasting Corporation, 2012), television broadcast.

[15] Ibid.

[16] MCDP 1-4, Competing, p. 4-2.

[17] Ibid.

[18] George F. Keenan, The Inauguration of Organized Political Warfare, Office of the Historian of the State Department, 1 May 1948.

[19] MCDP 1-4, Competing, p. 4-5.

[20] Mao Tse-Tung, Selected Military Writings of Mao Tse-Tung, (Foreign Language Press), Peking, People’s Republic of China, 1963, p. 277.

[21] MCDP 1-4, Competing, p. 1-10.

[22] Ibid., p. 4-13.

[23] Ibid., p. 4-8.

[24] Ibid.

[25] “The PLA’s Latest Strategic Thinking on the Three Warfares,” Elsa B. Kania, China Brief, Jamestown Foundation, Vol. 16, Issue 12, 2016. p. 10.

[26] “China’s ‘Three Warfares’ in Theory and Practice in the South China Sea,” Doug Livermore, Georgetown Security Studies Review, accessed 30 November 2021, https://georgetownsecuritystudiesreview.org/2018/03/25/chinas-three-warfares-in-theory-and-practice-in-the-south-china-sea/#_edn3

[27] Ibid.

[28] Ibid.

[29] Ibid.

[30] “The Evolving Nature of Russia’s Way of War,” Lt. Col. Timothy Thomas, U.S. Army, Retired, Military Review, July-August, 2017. p. 36.

[31] “Russia’s Renewed Military Thinking: Non-Linear Warfare and Reflexive Control.” NATO Defense College, Can Kasapoglu, accessed 15 September 2021, http://www.jstor.com/stable/resrep10269.

[32] The gray box titled “Russian Annexation of Crimea” is derived from “Russian Information Warfare: Lessons From Ukraine,” Margarita Jaitner, accessed 29 November 2021, https://ccdcoe.org/uploads/2018/10/Ch10_CyberWarinPerspective_Jaitner.pdf.

[33] Ainikki Riikonen, “Decide, Disrupt, Destroy: Information Systems in Great Power Competition with China,” Strategic Studies Quarterly, Winder, 2019. p. 124.

[34] Ibid.

[35] Ibid. p. 130.

[36] Ibid. p. 135.

[37] MCDP 1-4, Competing, p. 4-8.

[38] Ainikki Riikonen, “Decide, Disrupt, Destroy: Information Systems in Great Power Competition with China,” Strategic Studies Quarterly, Winder, 2019. Pg. 124.

[39] Ibid. p. 125.

[40] MCDP 1-4, Competing, p. 2-15.

[41] Ainikki Riikonen, “Decide, Disrupt, Destroy: Information Systems in Great Power Competition with China,” Strategic Studies Quarterly, Winder 2019. Pg. 132.