米海兵隊のドクトリンを読む⑥ MCDP8 Information その2

MCDP 8 Information

U.S. Marine Corps

21 June 2022

はじめに:FOREWORD.

第1章.情報の本質: The Nature of Information.

第2章.情報の理論:The Theory of Information.

情報的力INFORMATIONAL POWER..

情報と戦争の属性:INFORMATION AND THE ATTRIBUTES OF WAR..

情報の優位性とは何か?:WHAT IS AN INFORMATION ADVANTAGE?.

情報の各機能:FUNCTIONS OF INFORMATION..

軍事目標の認知的構成要素および機能的構成要素:THE COGNITIVE AND FUNCTIONAL COMPONENTS OF MILITARY OBJECTIVES

情報と欺瞞:INFORMATION AND DECEPTION..

結論:CONCLUSION..

第3章.情報の効果的な使用:Effective Use of Information

第4章.情報の制度化:Institutionalizing Information

 

 

第2章.情報の理論:The Theory of Information

他のものに比べれば具体的ではないが、アイデアや情報の力は本物であり、過小評価するべきではない[1]

—米海兵隊ドクトリン文書(MCDP) 1-1「戦略(Strategy)」

米海兵隊員は、戦闘において、時には敵の情報を得るために戦うことがあることを知っている[2]

—米海兵隊ドクトリン文書(MCDP) 1-1「競争(Competing)」

情報の本質と、我々の競争者(competitors)がどのように情報にアプローチしているかについての共通理解を得た上で、我々は情報の理論を構築することができる。この理論が土台となり、我々は情報の優位性(information advantages)を創造し、活用することで、可能な限り効果的に目標を達成し、最終的には我々の意志を貫くことができるのである。

情報的力:INFORMATIONAL POWER

情報環境が社会に与える影響と、それが国際関係の性格やグローバルな安全保障環境を形成していることは、誇張してもしすぎることはない。現代の情報環境は、高度な通信・メディア技術にアクセスできるあらゆる個人または集団の手に情報の力(power of information)を握らせる。この情報は、影響力を行使しようとする個人、国家、非国家的政治主体に力を与える。

戦争は、あらゆる形態の競争と同様に、基本的に意志の競い合いを通じて力の分配と再分配を行うものである[3]。力は、貨幣の経済力のような物質的手段や、強制や国防のための物理的手段(例えば、兵器や武装した人員)の所有に相当することがある。また、力は、法的、宗教的、科学的権威、知的または社会的名声、あるいはカリスマ的な個人の興奮や説得の能力によって現れることもある[4]

情報的力(informational power)とは、国益増進と国家目標達成のために、情報、ナラティブ、技術的手段を用いることである[5]。情報的力(informational power)を活用する目的は、政治関係者や国家目標に不可欠と考えられる利害関係者の知覚(perceptions)や決心に影響を与えることである。また、政府機関、企業、産業、重要なインフラ、サービスを情報の混乱から守る。

米海兵隊の情報理論は、情報が力の一形態-情報的力(informational power)-であり、わが国が外交力、軍事力、経済力と連携して、国益を支えるために事象に影響を与え、成果を上げるために活用するという考えから生まれている。

米海兵隊の情報的力(informational power)に関する考え方は、武力紛争の閾値の下でも上でも、競争連続体(competition continuum)に広く適用されるものである。つまり、情報と戦闘力(ある時点で敵にもたらすことのできる破壊力または撹乱力の総和)には特別な関係があるのである[6]。相手の軍事システムの基本的な機能または意思決定に必要な情報を操作、拒否、または破壊する能力を持ち、かつ相手が同じことをするのを阻止できる側が、戦闘力の優位性を含め、大きな優位性を獲得するのである。

しかし、任務によっては、戦闘力を行使することが好ましくない場合もある。このような状況でも、米海兵隊員は他者の知覚(perceptions)、決心、振舞いに影響を与えることで、情報の力(power of information)を利用することができる。こうした行動には、重要な交戦を通じた現地指導者の説得、現地メディアによる敵対者(adversary)の悪意ある振舞いの暴露と強調、偽情報(disinformation)やプロパガンダを流すための敵対者(adversaries)の通信網の妨害などが含まれる。

米海兵隊員が情報理論を理解するためには、情報が競争や戦争でおなじみの属性とどのように関連しているかを考えることが重要である。多くの点で、これらの属性は情報中心であり、それを理解することは、米海兵隊員がそれを優位性のために利用する方法を考案するのに役立つ。武力紛争の閾値が低かろうと高かろうと、我々の情報理論には、情報の優位性(information advantages)を創造し、活用することによって、情報の力(power of information)を活用することが含まれるということがポイントである。

情報と戦争の属性:INFORMATION AND THE ATTRIBUTES OF WAR

曖昧さ、不確実性、摩擦:Ambiguity, Uncertainty, and Friction

曖昧さと不確実性は、競争と戦争に蔓延する、摩擦を引き起こす不可分の属性である。米海兵隊員は、情報を収集・融合して状況を把握し、タイムリーな決心を行うことで、不確実性を管理可能なレベルまで低減しようと努めている。しかし、敵は曖昧さを兵器に、我々の意思決定プロセスに不確実性を持ち込もうとする。彼らの到達目標(goal)は、我々に躊躇させ、主導権を奪うことである。

米海兵隊員は、相手に曖昧さと不確実性を与え、防御しながら摩擦を引き起こす方法を、あらゆる角度から検討しなければならない。例えば、米海兵隊員は、敵の空域管制センターに対するサイバースペース攻撃を実施または調整し、敵の航空写真に不確実性を持たせることができる。この攻撃の意図は、我が国の航空機からどのように領空を守るかについて、優柔不断という形で敵に摩擦を引き起こすことである。この優柔不断さが、結果的に我々の攻撃経路となり、空のドメインにおける空間的・時間的優位性を作り出す。

複雑性、流動性、無秩序:Complexity, Fluidity, and Disorder

摩擦や不確実性と同様に、複雑性、流動性、無秩序は競争や戦争の特性である。すべての争いの特徴は、複雑な条件、つかの間の機会、不測の事態の独特な流れによって形作られる。この流動性には、思考の柔軟性と、急速に変化する状況や条件への適応が必要である。複雑さと流動性に対処できない部隊は、すぐに無秩序に陥るか、状況を理解できるまでテンポが遅くなる。

複雑さ、流動性、および無秩序は、状況理解にも影響を与える。複雑で流動的な状況では、原因と結果の関係を見極めることができないことが多く、その結果、さらに曖昧さや不確実性が増すため、このような理解が影響を受ける。競争や戦争に参加するすべての要素は、友軍と敵、より大きな全体の一部である。それぞれが任務を達成するためにシステム内で協力しなければならず、システム内のあらゆるレベルで摩擦、不確実性、および無秩序に対処しなければならない。

人間の次元:The Human Dimension

戦争は人間の意志の争いであるため、人間の次元が極めて重要である[7]。意志というコンセプトは人間の心の中にのみ存在し、各人の意志はその状況に特有の多くの肉体的、精神的、道徳的要因に左右される。情報の優位性(information advantage)を創出し、活用する究極の狙いは、相手の意志に影響を与え、我々の目標に有利な行動を取らせることである。

さらに、戦争は社会現象である[8]。武力紛争(armed conflict)以下の競争行動を論じるにせよ、本格的な戦争(full-scale war)を論じるにせよ、相互作用的な社会的プロセスとして考えるのである。米海兵隊員は、あらゆる状況において、人間の振舞いの多くの側面と推進力を考慮しなければならない。文化、伝統、言語、プライド、宗教の影響から、恐怖、怒り、疲労、窮乏まで、人間の次元は競争と戦争に無数の物理的、道徳的、精神的要因を注ぎ込む。

競争連続体(competition continuum)におけるすべての操作と活動は、人間の振舞いの特徴である複雑さ、矛盾、特殊性に左右される。これらすべてが、曖昧さ、複雑さ、流動性、無秩序の原因となっているのだ。

物理的、道徳的、精神的要因:Physical, Moral, and Mental Factors

すべての人間の努力と同様に、戦争は物理的、道徳的、および精神的要因の相互作用に支配される[9]。物理的特性には、装備の能力、補給品、兵力比、部隊と人員、および姿勢が含まれる。これらは、意志、リーダーシップ、恐怖、士気、団結心(esprit de corpsなど、目に見えにくいが非常に評価できる道徳的特性と相互作用する。

さらに、複雑な戦場の状況を把握し、正確な見積りや計算を行い、意思決定を行い、戦略、計画、戦術を考案する能力など、無形の精神的特性を理解する[10]。米海兵隊員にとって、情報と戦争における物理的、道徳的、精神的特性との関連性を理解することは重要である。

まず、米海兵隊員は、すべての軍事行動は物理的に検知・観察可能であり、故意か無意識かにかかわらず、メッセージを伝えることができることを認識しなければならない。これらのメッセージは、観察者の道徳的・精神的要素、例えば、知覚(perception)、態度、恐怖、敵意などに影響を与える。最も重要なことは、我々の行動によって伝達されたメッセージは、それまでその問題に関心を持たなかった人々に影響を与え、彼らが我々の活動をどう解釈するかによって、その争いに加わることを決意する可能性があるということである。

戦争の目に見えにくい道徳的・精神的特性も、指揮官にとっては同様に重要な考慮事項である。決意、リーダーシップ、士気、団結心(esprit de corpsは戦闘力に貢献し、敵のターゲットとなる。我々は、情報という有形の手段を用いて、道徳的・精神的要因に対する直接的または間接的な攻撃に対抗する。例えば、友軍部隊をターゲットとした敵の偽情報(disinformation)やプロパガンダ戦役(propaganda campaigns)に対抗するため、サイバースペース攻撃や物理的な攻撃を行うことができる。

情報の優位性とは何か?:WHAT IS AN INFORMATION ADVANTAGE?

情報の優位性(information advantage)というコンセプトは、戦いの戦略的レベルから戦術的レベルにまで及ぶ。戦略的レベルでは、国家と非国家の主体が、優位性を求めて継続的に競争することで、自らの利益を保護し前進させようとする[11]。米国は、重要な情報および情報に依存する制度、インフラ、サービスを混乱や攻撃からうまく守ることによって、情報の優位性(information advantages)を獲得する。

我々は防衛すると同時に、情報およびその他の形態の力を用いて、関連する指導者や個人を説得し、国家政策の目標に向けて好ましい知覚(perceptions)、決心、振舞いを強制する。

米海兵隊は、米国が世界で最も選ばれる戦略的パートナーであるというナラティブに貢献することで、国家が戦略的レベルで情報の優位性(information advantages)を達成することを支援する。米海兵隊の前方展開、発揮される能力、専門性、行動は、潜在的な敵対者(adversaries)を抑止し、同盟国やパートナーを安心させることで、このナラティブを促進する。この特別な情報の優位性(information advantage)を維持することは、特定の軍事目標を達成するために実施する軍事演習、戦役(campaigns)、作戦を活用する国家的取組みの不可欠な要素である。

戦いの作戦的レベルと戦術的レベルでは、情報の優位性(information advantage)とは、ある行為者が他の行為者よりも効果的に情報を生成、保護、拒否、投射する能力から生じる利用可能な状態である(すべての戦いのドメインと電磁スペクトラムで)。

具体的には、目標を達成し、最終的に我が意志を課す手段として、システム・オーバーマッチ(systems overmatch)、優勢なナラティブ(prevailing narrative)、戦力の復元性(force resiliency)という3種類の情報の優位性(information advantages)を生み出し、活用しようとするものである。米海兵隊員は、迅速で柔軟な日和見主義的機動により、これらの情報の優位性(information advantages)を、その他の意思決定、時間的、空間的、心理的優位性とともに達成する[12]

戦略的競争者(strategic competitor)に対する影響力を高めるための同盟国やパートナーとの作戦や演習の実施から、決意の表明や通常戦に至るまで、米海兵隊員は幅広い目標の達成を求められている。これらの目標を最も効果的に達成するには、我々の戦役(campaigns)や作戦で、1種類以上の情報の優位性(information advantage)を活用する必要がある。図2-1は、情報の生成、保護、拒否、投射に関する情報の優位性(information advantage)のドクトリン全般の論理をまとめたものである。

図2-1.米海兵隊の情報の優位性のドクトリン上の論理

 

システム・オーバーマッチ:Systems overmatch

システム・オーバーマッチ(systems overmatch)とは、一方が他方に対する技術的優位性を指し、火力(fires)、インテリジェンス(intelligence)、機動(maneuver)、兵站(logistic)、部隊防護(force protection)、指揮・統制(command and control)の面で優位性をもたらす。全用兵機能(all warfighting function)、および軍事作戦の範囲にわたってこれらの機能を実行するために使用するシステムは、信頼できる情報への確実なアクセスに依存している。

敵や敵対者(adversaries)、それぞれの機能やシステムについても同じことが言える。兵器システムや指揮・統制(command and control)システムなど、敵のシステムに流れる、あるいはシステム内の情報を否定、劣化、操作、破壊することで、米海兵隊員は敵の心(mind)に疑念や混乱をまき散らし、あるいは敵の凝集機能を混乱させることができる。

情報システムに立ち向かい、破壊することは、システム・オーバーマッチの会戦(battle for systems overmatch)における継続的な攻撃と防御の行動を伴う。これらの行動は、偽情報(disinformation)、欺瞞、および支援行動と相まって、軍事的に大きな利点をもたらすことができる。システム・オーバーマッチの会戦(battle for systems overmatch)については、第3章で詳しく説明する。

優勢なナラティブ:Prevailing narrative

ナラティブは、一連の事実に意味を与えるものであり、あらゆる作戦や活動にとって不可欠な基盤である[13]。信頼性の高いナラティブが最も効果的である。優勢なナラティブ(prevailing narrative)とは、信頼性が高く、想定される聴衆の心に最も響くナラティブのことを指す。制作者の到達目標(goal)は、我々の存在、使命、目標に対する信頼、信用、信憑性を引き出すことで、世論や知覚(perception)の優位性をもたらす優勢なナラティブ(prevailing narrative)を達成することである。

2つの対立者間に存在する優勢なナラティブ(prevailing narrative)は、説得力があり、真実でない場合もあり、一方が他方より成功または失敗する可能性がある。例えば、米国のベトナム戦争への関与について、いくつかの否定的な通説があり、米国の民衆の支持を損なった。民衆の支持の喪失は、米国の戦術的、作戦的成功を損ない、最終的に米国のベトナム戦争からの撤退につながった。優勢なナラティブ(prevailing narrative)をめぐる競争については、第3章でより詳しく説明する。

ウクライナにおけるロシアのナラティブを先取りする

2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵略した。これは、2014年のロシアによるクリミア併合に始まったロシアとウクライナの武力紛争(armed conflict)が大きくエスカレートしたことを意味する。

侵略前の数週間から数カ月間、米国と同盟国はロシアの軍備増強と侵略の意図について国内外の聴衆に知らせるため、意図的な情報戦役(information campaign)を展開した。この情報戦役(information campaign)は、ウクライナでの軍事行動を正当化するために必要な誤った口実を否定することによって、ロシアのナラティブを先取りした。

情報戦役(information campaign)では、ロシアの能力、体質、プロパガンダ、意図を暴露するために、広く利用可能なオープン・ソース情報と組み合わせて、選択的なインテリジェンス公開を着実に行うことが必要だった。

この情報戦役(information campaign)では、米国高官がロシアの非正規戦のプレイブックと、このプレイブックに基づいてロシアが行う具体的な行動を公開した。例えば、米国高官は、ロシアが侵略を正当化するために使うであろう「偽旗(false flag)」作戦とグラフィック・フィルムに関するインテリジェンスを公開した[14]

その結果、この情報戦役(information campaign)は、北大西洋条約機構(NATO)がロシアに対して迅速かつ統一的な声を上げて行動するための土台となった。ロシアの行動を先制的に暴露し、信用を失墜させる取組みは、ロシアの侵略を阻止することはできなかったが、ロシアが正当化し、奇襲(surprise)の要素を否定するものであった。

結果として生まれた優勢なナラティブ(prevailing narrative)は、侵略の開始時にロシアに対して働き、ロシアの行動に対する世界的な非難を活気づけるのに役立った。これは、今度は、ウクライナにおけるその目標を追求するロシアの能力をより困難にした。

戦力の復元性:Force resiliency

復元性(resiliency)は、あらゆる米海兵隊員を特徴づけるものである。米海兵隊員は、逆境で成功するために訓練する。我々は適応し、克服する。道を切り開く。立ち上がり、任務を遂行する。我々は決して諦めない。これらの特徴は、初日からあらゆる米海兵隊員に刻み込まれ、キャリアを通じて、また米海兵隊勤務後の人生においても、我々に影響を与え続けているのである。

情報の観点から見ると、復元性(resiliency)はこれらの特性を具体化したものであり、敵や敵対者(adversary)の偵察、技術的混乱、誤った情報(misinformation)、偽情報(disinformation)、プロパガンダなどの悪質な活動に抵抗し、対抗し、勝利する米海兵隊の能力によって推進される。つまり、米海兵隊員は、我々のシステムと精神をターゲットとするあらゆる脅威に抵抗し、対抗し、打ち勝つのである。

したがって、指揮官は、情報の混乱や攻撃に対して、おなじみの「待ち伏せによる攻撃(assault through the ambush)」のメンタリティーを開発し、浸透させなければならない。また、部隊や個人の行動訓練を開発し、敵や攻撃的な敵対者(adversaries)に対応する訓練を部隊開発の通常の部分とすることで、これをフォローしなければならない。戦力の復元性(force resiliency)の構築については、第3章でより詳しく説明する。

その他の情報を基盤とする優位性:Other Information-Based Advantages

システム・オーバーマッチ(systems overmatch)、優勢なナラティブ(prevailing narrative)、戦力の復元性(force resiliency)は、米海兵隊員が情報用兵機能(information warfighting function)を適用して達成しようとする3つの主要な情報の優位性(information advantages)を示している。これらの優位性と情報の創造的利用は、決心速度の向上、奇襲(surprise)、ターゲティング・サイクルの高速化、作戦テンポの向上、心理的優位など、他の情報を基盤とする優位性(information-based advantages)につながる可能性がある。

情報の各機能:FUNCTIONS OF INFORMATION

米海兵隊員は情報用兵機能(information warfighting function)を応用して、情報の優位性(information advantages)を創造し、活用する。具体的には、システム・オーバーマッチ(systems overmatch)、優勢なナラティブ(prevailing narrative)、戦力の復元性(force resiliency)などである。情報用兵機能(information warfighting function)は、情報が持つ広範な性質、その軍事的利用、そして競争連続体(competition continuum)と軍事作戦の範囲にわたるその応用を理解し、活用するための枠組みを提供するものである。

さらに、すべての軍事活動に内在する情報的側面を活用しながら、情報の生成、保護、拒否、投射を一体化し、それらの目標を達成するために必要な文脈と方法を米海兵隊員に提供する。

指揮官と計画立案者は、取組みの統一性を確保するために、全用兵機能(all warfighting function)にわたって情報能力と活動を調整する。情報用兵機能(information warfighting function)により、指揮官と計画立案者は、用兵ドメイン(warfighting domains)、情報環境、および電磁スペクトラムを相互に関連し争われた空間として見ることができる。以下の情報の機能は、相互に支援し、相互に補強し、多くの場合、重複しているため、常に組み合わせて計画、使用されなければならない。

情報の生成:Information Generation

情報生成(Information generationとは、米海兵隊員が情報環境へのアクセスを獲得・維持するために適用する情報の機能であり、情報に基づく脅威、脆弱性、機会に対する認識を高め、システムを危険にさらし、作戦を計画・実施するのに必要な情報を作成することである。米海兵隊員は、自国での活動であれ、海外展開であれ、常に情報環境と接触しているのである。

情報生成(information generation)とは、情報環境における永続的な存在と、その関連するすべての側面を理解するための強固な取組みとを結びつける情報の機能である。この状況認識(situational awareness)を維持することで、利用・追求すべき機会を特定し、活用するための基礎となる。

したがって、情報生成(information generation)には、システムへの物理的または仮想的なアクセスの獲得、タスク、命令、その他の指揮・統制(command and control)情報の発行、インテリジェンス・サイクルを供給するための生データの収集、計画と友軍部隊の状態情報の作成が含まれる。

本質的に、情報生成(information generation)とは、計画策定や作戦を円滑にするためにアクセス、保有、作成されるすべての情報のことである。また、将来使用する可能性があるために保持する情報製品を作成することも含まれる。情報生成(information generation)の例としては、ラジオ放送を録音して保存し、競争者のデジタル・メディア戦役(digital media campaign)のスクリーンショットを撮影して将来使用することなどが挙げられる。

暗号解読とミッドウェー海戦

第二次世界大戦中の日本の主な目標の一つは、東アジアと南西太平洋の島々で領土を得るために、太平洋の大国としての米国を排除することであった。日本は、米太平洋艦隊を撃破し、ミッドウェー島を基地としてこの地域の支配を確保することを望んでいた[15]

1941年12月の真珠湾攻撃は、米太平洋艦隊の大部分を崩壊させ、空母航空の威力をあらためて知らしめた。真珠湾攻撃の損失は大きかったが、それでも米海軍は空母を維持した。

1942年6月、ミッドウェーでの運命的な出来事は、日本海軍の終わりの始まりを見た。1942年初頭、米海軍の暗号解読者たちは、日本の通信暗号を部分的に解読していた。暗号解読は情報生成(information generation)の一形態で、米国は日本の作戦に対する洞察力を養うことができた。

特に、日本の連合艦隊が 1942 年 6 月 4 日か 5 日にミッドウェー島に対する大規模な攻撃を行うつもり であることを分析者が突き止めることができたのである[16]。タイムリーな暗号解読は、米海軍に日本軍の攻撃に備えた計画を立てる機会を提供した。

6月4日早朝、日本の空母4隻の航空機がミッドウェーにある米軍基地を攻撃し、大きな損害を与えた。しかし、日本軍は米空母部隊が島の東側で待機し、戦闘態勢(ready for battle)に入っていることを知らなかった。

日本軍の航空機は最初の攻撃を受けた後、日本軍の航空機は、米海軍が日本軍と会戦で交戦したとき、再武装と燃料補給のために空母へ戻っていった。米海軍は奇襲(surprise)の要素を利用することで、この会戦に勝利し、日本軍に決定的な打撃を与えることができた。ミッドウェーは、太平洋戦争の流れを米国に有利にした重要な会戦として、歴史家の間で評価されている。

情報の保護:Information Preservation

情報の保護(Information preservationとは、米海兵隊員が内外の脅威に対して計画策定や友軍の作戦を円滑に行うために使用する情報、システム、ネットワークを保護・防衛するために使用する情報の機能である。情報を保護するための闘いは継続的で、ネットワーク作戦、サイバーセキュリティ、防御的サイバースペース作戦、電磁スペクトラム作戦、物理的セキュリティ対策などの活動が含まれる。

情報の保護(information preservation)には、歴史的記録の構築と維持のための活動も含まれる。このプロセスには、部隊の歴史や歴史的出来事を正確に文書化し、コマンド・ナラティブやより広範なナラティブの信頼性を裏付けることが含まれる。ナラティブが時間の経過とともに互いに競合することが多いことを考えると、歴史的記録の事実を保存し、再び紹介することで、相手側に自軍のナラティブよりも友軍のナラティブを受け入れるように仕向けることができる。

情報の保護(information preservation)のもう一つの重要な要素は、誤った情報(misinformation)や偽情報(disinformation)を認識し、それを払拭することである。そのためには、信頼できない情報源を見分け、自分の潜在的な認知バイアスがいかに操作されやすいかを理解するための批判的思考スキルの訓練が必要である。こうしたスキルを持つ米海兵隊員は、友軍のナラティブを支え、維持するための行動やコミュニケーション方法を本能的に知っている。

全体として、情報の保護(information preservation)は、敵や敵対者(adversary)の情報操作、拒否、混乱から、我々の情報、システム、ネットワーク、ナラティブ、そして最終的には我々の人々を保護し、防御するために利用可能な能力を使用することを説明する。

情報の拒否:Information Denial

情報の拒否(Information denialとは、相手が状況を理解し、意思決定し、協調して行動するために必要な情報を混乱させ、破壊するために、米海兵隊員が適用する機能である。これには、相手の情報収集能力を失わせることも含まれる。相手の脆弱性を利用し、重要な情報を与えないことを第一の手段として、これを達成することができる。

情報の拒否(information denial)には、攻撃的サイバースペース作戦、電磁波攻撃、指向性エネルギー攻撃、物理的攻撃などの活動が含まれる。また、相手からの不正なアクセスを防ぐことも情報拒否の手段である。

全体として、情報の拒否(information denial)は、相手が求める情報を隠蔽、妨害、または破壊することによって、相手に対して優位性を獲得するために利用可能な能力を使用することを説明する。相手から重要な情報を奪う受動的な方法は、友軍部隊から発せられる視覚、電磁気、デジタル・シグネチャを選択的に変更または抑圧することである。これには、作戦保全措置、通信規律、カモフラージュ、カウンターインテリジェンス、シグネチャ管理などの実施が含まれる。

情報の投射:Information Projection

情報の投射(Information projectionとは、米海兵隊員があらゆる種類の情報を伝達、送信、または配信して、観察者やターゲットシステムに情報を与え、影響を与え、または欺くために使用する情報の機能である。これは、同盟国や米国民に情報を提供するための公式コミュニケーションから、敵を欺くためのさまざまな創造的手法まで、幅広い範囲に及ぶ。

米海兵隊は、ラジオやテレビ放送などの直接通信、印刷物、携帯電話通信、対面通信、各種デジタル・メディアなど、さまざまな方法で情報を投射している。

ウクライナにおけるデジタル・メディア、カリスマ性、復元性

2022年2月24日にロシアがウクライナに侵略したことは、第二次世界大戦以降ヨーロッパで見られなかったレベルの暴力と破壊を引き起こし、世界に衝撃を与えた。ロシアの戦略は、ウクライナ全土の主要なターゲットに対して持続的かつ広範囲な砲撃を行い、ウクライナを迅速に制圧することであった。

ロシアのプーチン大統領とその軍部指導者は、砲撃による迅速な圧倒的な力で、ウクライナ政府と軍部を速やかに降伏させることを想定していた。そうすれば、ロシアはウクライナに有利な傀儡政権(puppet government)を樹立し、ウクライナとロシアの国境に集結している約20万人のロシア軍を「平和維持(peacekeeping)」部隊として進駐させる機会を得ることができるだろう。

プーチンが想定していなかったのは、北大西洋条約機構の統一、圧倒的な国際的非難、そしてヴォロディミル・ゼレンスキー・ウクライナ大統領の力であった。米国と北大西洋条約機構のインテリジェンス公開により、ロシアが軍事行動を正当化するための誤った口実を与えなかったことと相まって、ゼレンスキー大統領はこの危機において、その行動が世界に影響を与えるカリスマ的指導者として登場することになった。

デジタル・メディアを巧みに使い、人々を鼓舞するメッセージ(情報投射の一形態)は、世界中の人々や指導者を集めただけでなく、最も重要なことは、ウクライナ国民の立ち上がりと戦いの意志を呼び起こしたことだ。ゼレンスキー大統領の行動、言葉、そしてメディアを効果的に使って国民を鼓舞したことは、プーチン大統領がロシア国内で行った情報統制の取組み(情報拒否の一形態)とは全く対照的である。

国内でのナラティブの統制のために、ロシア当局は厳しい検閲を行い、デジタル・メディアへのアクセスを遮断し、抗議者を逮捕し、放送や印刷の前にすべてのニュース記事を承認した。ロシア側の反対意見やロシアが国内で情報統制に努めていることが一般に知れ渡り、ウクライナの士気と復元性を高めることにつながった。

また、観察されることを承知で物理的な行動を起こすことで、意図的に情報を投射し、特定の情報効果を生み出すこともできる。この手法の例としては、軍事的なデモンストレーションを行うことで、決意のメッセージを増幅させることができる。このほかにも、目立つ訓練を行ったり、戦略的な場所で航行の自由作戦を行ったりすることもできる。情報投射(information projection)の方法と目標は、常に情報拒否を考慮し、調整する必要がある。

軍事目標の認知的構成要素および機能的構成要素:THE COGNITIVE AND FUNCTIONAL COMPONENTS OF MILITARY OBJECTIVES

不確実で混沌とした流動的な環境で勝利するための米海兵隊のドクトリンは、迅速、柔軟、日和見的な機動に基づく[17]。米海兵隊ドクトリン文書(MCDP)1「用兵(warfighting」では、「作戦の本質は、我々の目標を可能な限り効果的に達成する手段として、敵に対する何らかの優位性を生み出し、それを利用するために行動を起こすことである」と述べている[18]

目標とは、「作戦が方向付けられる、明確に定義された、決定的で、達成可能な目標」である[19]。劣勢な軍隊が望ましい時間と場所で決定的な優越(decisive superiority)を達成できるのは、あらゆる次元の作戦行動を通じてである[20]

情報の観点から、我々は全用兵ドメイン(all warfighting domains)と電磁スペクトラムで、軍事目標の認知的(人間)および機能的(機械)構成要素を利用することにより、目標を達成するために機動する。すべての目標には、直接的または間接的に有利になるような認知的・機能的構成要素がある。

認知的構成要素の活用:Exploiting the Cognitive Component

認知的構成要素を利用することは、知覚(perceptions)、意思決定、そして最終的には競争や闘いの意志といった相手の思考プロセスを直接狙うことで可能となる。人間の認知は、操作や欺瞞の影響を非常に受けやすい。米海兵隊員は、情報の量、速度、伝達媒体、提示のスタイルなどの情報属性を操作し、活用して、相手が環境とどのように関わり、現実を知覚し、意思決定を行うかに影響を与える。

さらに、米海兵隊員は、特定の任務や環境に関連する物理的、精神的、道徳的要因を利用し、相手の知覚(perceptions)、信念、士気、決心を操作し、こちらに有利になるよう変更するあらゆる機会を探し求めている。

認知的構成要素の活用とは、相手が状況や環境について感じ、知覚し、考えることを意図的に操作したり、影響を与えたりすることである。これを達成するためには、相手のシステム(人間と機械の相互作用)がどのように情報を受け取り、処理し、使用するかを理解することが重要である。この理解によって、相手の知覚(perceptions)を形成し、状況や相手の振舞いをこちらに有利なものにするために必要な戦術や能力を開発することができるのである。

特定の目標のために認知的構成要素を利用することは、直接的な方法と間接的な方法のどちらでも可能である。直接法では、人間の知覚(perceptions)や決心を有利にするような情報を提示する。例えば、敵のレーダー・オペレーターが本当のターゲットではなくデコイを誤認識した場合、そのオペレーターはまだ闘う意志を持っているが、彼らの現実の知覚(perception)は変わってしまっている。ヒューマン・マシン・インターフェース(レーダー・ディスプレイ)を操作し、オペレーターに正確な情報を与えないことで、オペレーターがシステムを効果的に利用することを妨げているのである。

同じレーダー・オペレーターを間接的に利用する場合、より精神的・道徳的な要因に焦点が当てられる。例えば、レーダー・オペレーターはプロパガンダや偽情報(disinformation)の影響を受けて、任務や大義に自責の念を抱き、戦意を喪失してしまうかもしれない。家族への心配や敵への恐怖に押しつぶされたオペレーターは、もはや任務を効果的に達成することはできない。この例では、直接的アプローチが知覚(perceptions)と闘う能力を利用するのに対し、間接的アプローチは戦いにとどまるために必要な精神的、道徳的要素を利用するものである。

機能的構成要素の活用:Exploiting the Functional Component

機能的構成要素の活用は、兵器システムそのものや支援システムなど、相手の非思考プロセスを直接狙う場合に可能である。認知的構成要素の攻略が人物に焦点を当てるのに対し、機能的構成要素の攻略はシステムの機能性に焦点を当てる。このアプローチでは、米海兵隊員はシステムが必要とする情報と情報処理に焦点を当てる。このアプローチでは、友軍のシステムを攻撃から守り、敵対者(adversary)のシステムを混乱させたり破壊したりするために、情報とシステムの対決と破壊に取組み、システム・オーバーマッチ(systems overmatch)につなげる。

システムの機能的構成要素を悪用する直接的アプローチは、オペレーターの使用を拒否する。レーダー・オペレーターの例を再び用いると、操作者がシステムを使用できないように、システムを損傷または破壊することを目指す。これは、物理的な攻撃、指向性エネルギー、攻撃的なサイバースペース操作、電磁波攻撃など、さまざまな方法で達成することができる。

間接的アプローチでは、レーダー送受信機が機能するために必要な支援能力または資源を選択することができる。例えば、米海兵隊員はサイバースペース攻撃でレーダー・システムの指揮・統制(command and control)リンクを破壊し、機能遂行に必要な重要情報を拒否することができる。

米海兵隊員が敵対者(adversary)のシステムを攻略し、情報を処理する方法を説明するために、多くの例を挙げることができる。重要なのは、すべての目標には、情報の利用を必要とする認知的・機能的構成要素があることを理解することである。米海兵隊員は、任務を達成するために、それぞれの要素を直接的または間接的に利用することができる。

表2-1は、本節で使用するレーダー・オペレーターの例である。この例と表は、米海兵隊員の思考と議論を促進し、あらゆる米海兵隊員が任務目標を認知的構成要素と機能的構成要素の観点から検討することを奨励するものである。

表2-1. 認知的構成要素と機能的構成要素の活用

目標: 敵のレーダー・システムを防空支援不能にする。

認知的構成要素 機能的構成要素
直接的アプローチ 狙いと望ましい効果:ヒューマン・マシン・インターフェース(レーダー・ディスプレイ)で騙される人間のオペレーター 狙いと望ましい効果:レーダー送受信機(トランシーバー)が動作不能になった。
行動:偽のレーダー・リターンを発生させるデコイを使用する。 行動:トランシーバーへの電磁波攻撃により、システム回路がオーバーパワー(焼損)する。
間接的アプローチ 狙いと望ましい効果:人の心を操り、その結果、使命や大義に疑念を抱かせる。 狙いと望ましい効果:C2ノードが故障し、レーダー情報を提供できない。
行動:ダイレクトメッセージ(メール、携帯メール)による誂えられたプロパガンダ。 行動:サイバースペースを利用したサービス拒否攻撃。

情報と欺瞞:INFORMATION AND DECEPTION

孫子の「すべての戦いは欺瞞に基づく[21]」という格言は、政治的主体間の継続的な闘争や会戦状態にある敵同士についての我々の競争者(competitors)の考え方の中心をなしている。また、米海兵隊員が競争や戦争について考える際にも、欺瞞が中心となっている。これは特に、米海兵隊員があらゆる作戦で奇襲(surprise)の要素を実現するために計画し訓練する、戦いの戦術的レベルにおいて言えることである。

欺瞞を通じた奇襲(surprise through deception)の達成とは、敵や敵対者(adversary)に、我々が実際に行おうと計画策定していることとは違うことをすると信じ込ませる技術である[22]。したがって、欺瞞(deception)は情報活動であり、人間の心、人間が依存する機械、またはその両方を欺こうとするものである。曖昧さと戦争の霧を利用するとき、欺瞞(deception)は最も効果的である。

我々は、利用可能なあらゆる能力を駆使して、我々の位置や能力、意図を隠すだけでなく、敵や敵対者(adversary)の心(mind)に誤った印象を与え、特定の敵や敵対者(adversary)の行動や不作為につながるようにするのである。米海兵隊員が知っておくべき欺瞞活動には、戦術的欺瞞、統合の軍事的欺瞞、作戦保全の支援における欺瞞の3つのカテゴリーがある。

戦術的欺瞞:Tactical Deception

戦術的欺瞞とは、どの米海兵隊部隊も奇襲(surprise)などの優位性を得るために行うことができる欺瞞的な活動を指す。奇襲を実現することで、部隊が任務を成功させる可能性が高くなる[23]。戦術的欺瞞は、敵や敵対者(adversary)が我々の策略や罠にどれだけ時間と資源を割くかに基づいて、不釣り合いな優位性を生み出す[24]

一般に、奇襲(surprise)が大きければ大きいほど、任務達成に必要な兵力は小さくなり、兵力が被る犠牲も少なくなる[25]。したがって、すべてとは言わないまでも、ほとんどの作戦で戦術的欺瞞を計画策定することは、指揮官にとって最大の関心事でなければならない。

米海兵隊員は、カモフラージュやデコイを使用して敵や敵対者(adversary)の感知や意思決定を挫くことに加え、陽動(feints)、示威行動(demonstrations)、策略(ruses)、誇示(displays)など幅広い戦術的欺瞞作戦を行い、敵や敵対者(adversary)を我々の主戦場から引き離す。最小単位レベルでは、米海兵隊の狙撃兵はステルス、隠蔽、奇襲(surprise)を最大限に活用するために欺瞞を用いる。

同様に、米海兵隊はどのレベルであれ、待ち伏せの囮になるために欺瞞技術を使うことができる。要は、どんな種類の、どんな規模の欺瞞でも、ほとんどすべての状況においてコスト(時間と人員)に見合うものであるということだ。したがって、米海兵隊員は、戦闘時だけでなく、武力紛争の閾値以下の競争的行動においても、「待ち伏せの考え方(ambush mindset)」を採用し、適用しなければならないのである。

統合の軍事的欺瞞:Joint Military Deception

戦術部隊が軍事的優位を得るために計画・実施できる戦術的欺瞞作戦とは異なり、統合の軍事的欺瞞活動は作戦的レベルの戦役(campaigns)と目標を支援するために実施される[26]。米海兵隊員は、特定のターゲットや意思決定者を欺くために、特定の行動を取ったり、特別な技術能力を用いたりして、統合の軍事的欺瞞活動を支援する。

これらの活動は機密を扱うものであり、常に承認された権限と許可の範囲内で実施され、任務の目標と、米海兵隊や米国の信頼性に対する二次的、三次的な影響の可能性とのバランスを取らなければならない。

理想的には、米海兵隊員は、敵が正確に照準を合わせた戦闘力を発揮するのを制限するため、統合軍事欺瞞活動を支援する。軍事的欺瞞は、攻撃的および防御的な目標を支援する。

軍事的欺瞞と連合軍の欧州侵略

1944年6月6日、連合国はドイツから占領下のフランスを解放するため、史上最大の水陸両用作戦を開始した。連合国軍のヨーロッパ北西部への侵略であるオーバーロード作戦は、最終的にナチス・ドイツの崩壊とヨーロッパにおける第二次世界大戦の終結につながる西部戦線を開いたのである。

侵略を可能にするため、連合国は1943年7月から1944年6月6日まで、コードネーム「ボディガード(Bodyguard)」と呼ばれる大規模な欺瞞作戦を実施した。この欺瞞作戦の目標は、連合軍の侵略時期と場所をドイツ軍に誤認させることであった[27]。ボディガード(Bodyguard)の主要な要素である不屈の南方作戦は、特に連合軍の上陸が実際の上陸予定地であるノルマンディーではなく、パ・ド・カレーで行われるとドイツ軍に信じ込ませることを狙いとしていた。

「南方不屈」では、効果を上げるためにさまざまな形の情報投射が行われた。これには厳選された情報のリーク、意図的な戦力集中のイギリス全土への分散、ダミー車両、デコイ戦車や装備の採用、レーダー欺瞞技術による偽符号の作成などが含まれる。また、連合軍がカレーに上陸するとドイツ軍に信じ込ませるために、偽の通信を放送するなどの欺瞞も行われた。

オーバーロードの成功は、囮などを効果的に使って虚勢を張るだけでなく、計画そのものをドイツ軍に知られないようにすることにかかっていた。そのため、作戦保全(情報拒否の一形態)は計画の成功に不可欠であった。不屈の南方作戦は、近代史上最も成功した軍事欺瞞の一つと称され、ドイツ軍にフランス西岸に兵力を分散させることに成功した。

オーバーロードが始まると、アドルフ・ヒトラーとドイツ上層部は、ノルマンディー上陸は陽動作戦であると確信し、北からのパンツァー師団の派遣を数週間遅らせた。結局、「南方不屈」はドイツ軍に最も重要な時と場所での戦力配分を誤らせ、ヨーロッパにおける連合軍の成功に大きく貢献したのである。

参謀の一体化は、公式および非公式のコミュニケーション活動を調整し、同期化し、共通の目標に向かって活用するために不可欠である。どのレベルの参謀であっても、より高度な軍事欺瞞計画に一体化することができる。これを効果的に行うには、統合の軍事欺瞞の実行方法に関する教育、権限の所在、およびそのような行動を調整するために必要な厳格なセキュリティ管理を理解することが必要である。

作戦保全の支援における欺瞞:Deception in Support of Operations Security

欺瞞と作戦保全は補完的な活動である。作戦保全の支援における欺瞞は、外国インテリジェンス機関が入手できる情報を操作し、友軍の作戦、人員、プログラム、装備、その他の資産に関する重要情報を収集したり、正確に分析したりする能力全般を制限するものである。

作戦保全の支援における欺瞞は、情報拒否の一形態である。他の2つの欺瞞のカテゴリーと異なるのは、外国のインテリジェンス機関のみを対象とし、特定の敵または敵対者(adversary)の行動または不作為を引き起こすことに焦点を当てない点である。作戦保全の支援における欺瞞の意図は、複数の誤った、混乱させる、または誤解を招くような指標を作成し、友軍部隊の意図を外国インテリジェンス機関に解釈させにくくすることである。

結論:CONCLUSION

情報は力である。競争と戦争は、基本的に意志の争いによる力の分配と再分配に関わるものである。情報的力(informational power)とは、我が国の利益を増進し、組織の目標を達成するために、情報、ナラティブ、技術的手段を利用することを指す。我々の情報理論は、戦闘やその他の多くの状況を含むあらゆる状況において、他者の振舞いや意志、あるいは事象の進展に影響を与えるために、情報の力を活用する方法を教えてくれる。

指揮官が適用する情報理論の核心は、競争連続体(competition continuum)にまたがる目標を達成するために、情報の優位性(information advantages)を創造し、活用することにある。情報は、競争や戦争でおなじみの属性に固有のものである。曖昧さ、不確実性、複雑さ、流動性といった属性は、状況理解、知覚(perception)、振舞いに影響を与えるため、情報に関連している。米海兵隊員は、情報環境を通じてこれらの属性を利用し、敵や敵対者(adversary)に摩擦や混乱を引き起こすことができる。

米海兵隊員は情報用兵機能(information warfighting function)を応用し、脅威システム(人間と機械)の認知的構成要素と機能的構成要素を活用することで、競争と戦争の特性を生かし、相対的な優位性を生み出す。我々は、システム・オーバーマッチ(systems overmatch)、優勢なナラティブ(prevailing narrative)、戦力の復元性(force resiliency)という3種類の情報の優位性(information advantages)を生み出し、利用することを目指す。米海兵隊員はこれらの優位性を利用して、環境や他者の振舞いに影響を与え、自らの意志を押し通すのである。情報の優位性(information advantages)は、ある行為者が他の行為者よりも効果的に情報を生成、保護、拒否、投射する能力によってもたらされる。

ノート

[1] MCDP 1-1 Strategy, p. 49.

[2] MCDP 1-4, Competing, p. 1-20.

[3] Geoffrey Blainey, The Causes of War (New York: The Free Press, 1973) p. 114.

[4] MCDP 1-1, Strategy, p. 10.

[5] Ibid, p.48. The description of the informational instrument of national power was modified by replacing the “and” in between “formation” and “ideas” with a comma, by adding “, and technical means” after “ideas,” and by replacing “objectives of the Nation.” with “the Nation’s objectives.” The informational instrument of national power in the modern strategic environment goes beyond the use of information and ideas to influence the perceptions and attitudes of allies, adversaries, and interested observers. It also now includes all of the technical means of securing the Nation’s critical information- dependent infrastructures and services. This involves the widespread use of cybersecurity and defensive cyberspace operations practices to secure governmental functions, the defense industrial base, commercial sector services and products, and all critical infrastructure from persistent attack by adversaries and criminal organizations.

[6] Combat power: “The total means of destructive and/or disruptive force that a military unit/formation can apply against the opponent at a given time.” (DOD Dictionary of Military and Associated Terms)

[7] MCDP-1, Warfighting, p. 13.

[8] Ibid., p. 19.

[9] Ibid., p. 15.

[10] Ibid., p. 39-40.

[11] MCDP 1-4, Competing, p. 1-3.

[12] MCDP-1, Warfighting, P. 72.

[13] MCDP 1-4, Competing, p. 2-15.

[14] Jessica Brandt, “Preempting Putin: Washington’s campaign of Intelligence disclosures is complication Moscow’s plans for Ukraine,” Brookings, February 18, 2022, https://www.brookings.edu/blog/order-from-chaos/2022/02/18/preempting-putin-washingtons-campaign-of-Intelligence-disclosures-is-complicating-moscows-plans-for-ukraine/

[15] “The Battle of Midway,” National World War II Museum, New Orleans, Accessed March 14, 2022 https://www.nationalww2museum.org/war/articles/battle-midway#:~:text=The%20United%20States%20was%20aware,communication%20codes%20in%20early%201942.

[16] Ibid.

[17] MCDP-1, Warfighting, P. 72.

[18] Ibid.

[19] JP-5, Joint Planning, p. I-19.

[20] MCDP-1, Warfighting, P. 72-73.

[21] Sun Tzu, The Art of War, trans. Samuel B. Griffith (NY: Oxford University Press, 1963), p. 66

[22] MCDP-1, Warfighting, p. 43

[23] Barton Whaley, contributing author, Information Strategy and Warfare, A guide to the theory and practice, edited by John Arquilla, Douglas Borer (Routledge, NY), 2007, p. 127.

[24] Ibid.

[25] Ibid. p. 128.

[26] Military deception—Actions executed to deliberately mislead adversary military, paramilitary, or violent extremist organization decision makers, thereby causing the adversary to take specific actions (or inactions) that will contribute to the accomplishment of the friendly mission. Also called MILDEC. (DOD Dictionary of Military and Associated Terms)

[27] Paul Pattison, “D-Day Deception: Operation Fortitude South,” English Heritage, Accessed March 14, 2022, https://www.english-heritage.org.uk/visit/places/dover-castle/history-and-stories/d-day-deception/.