米海兵隊のドクトリンを読む⑥ MCDP8 Information その4

MCDP 8 Information

U.S. Marine Corps

21 June 2022

はじめに:FOREWORD.

第1章.情報の本質: The Nature of Information.

第2章.情報の理論:The Theory of Information.

第3章.情報の効果的な使用:Effective Use of Information.

第4章.情報の制度化:Institutionalizing Information.

情報戦機能の差別化:DISTINGUISHING THE INFORMATION WARFIGHTING FUNCTION..

情報とその他の用兵機能:INFORMATION AND THE OTHER WARFIGHTING FUNCTIONS.

計画策定プロセスにおける情報:INFORMATION IN THE PLANNING PROCESS.

情報の優先順位付け:PRIORITIZING INFORMATION..

あらゆる能力、同盟国やパートナーのネットワークを活用する:LEVERAGING ALL CAPABILITIES, AND ALLY AND PARTNER NETWORKS

実世界での効果のための訓練演習の使用:USING TRAINING EXERCISES FOR REAL-WORLD EFFECT.

情報環境における規律の実践:PRACTICING DISCIPLINE IN THE INFORMATION ENVIRONMENT.

コマンド・ナラティブと軍種のナラティブ:COMMAND AND SERVICE NARRATIVE.

ドクトリン、訓練、そして教育:DOCTRINE, TRAINING, AND EDUCATION..

戦力開発と戦力デザイン:FORCE DEVELOPMENT AND DESIGN..

結論:CONCLUSION..

 

 

第4章.情報の制度化:Institutionalizing Information

「機動戦(maneuver warfare)は、敵の防御力を消耗させるのではなく、防御力を迂回させて敵のシステムに侵入し、そのシステムを破壊しようとするものである」[1]

—米海兵隊ドクトリン文書(MCDP)1「用兵(warfighting)」

我々の用兵の哲学(warfighting philosophy)は、情報を用兵機能(warfighting function)として、また機動戦(maneuver warfare)の道具としてどのように制度化するかを考えさせるものである。我々の用兵の哲学(warfighting philosophy)は、敵の強みを組織的に消耗させるのではなく、敵のシステムに入り込み、内部から引き裂くことを指示している。我々の哲学の目標は、敵の道徳的、精神的、物理的結束を打ち砕くことによって、敵の抵抗を不可能にすることである。

したがって、情報を制度化するということは、情報を機動戦(maneuver warfare)の主要な道具にするということであり、競争相手や戦闘中の敵よりも効果的に情報を生成、保護、拒否、投射できるようにするということである。

情報戦機能の差別化:DISTINGUISHING THE INFORMATION WARFIGHTING FUNCTION

情報用兵機能(information warfighting function)の制度化は、その機能の明確な目的を理解することから始まる。全用兵機能(all warfighting functions)は、別個のものであると同時に、相互に支援し合うものである。繰り返しになるが、情報用兵機能(information warfighting function)の目的は、我々の目標を可能な限り効果的に達成する手段として、3 種類の情報の優位性(information advantages)を創造し、活用することである。これらの利点とは、システム・オーバーマッチ(systems overmatch)、優勢なナラティブ(prevailing narrative)、戦力の復元性(force resiliency)である。

情報用兵機能(information warfighting function)の目的は、我々の情報理論に由来し、他者の振舞い、意志、またはあらゆる状況における事象の経過に影響を与えるために、情報の力(power of information)を活用することに重点を置いている。情報の優位性(information advantages)の創造または活用を支援するために、他の用兵機能(other warfighting functions)を適用しなければならない。このような場合、これらの他の機能は相互に支援する機能である。

さらに、情報は米海兵隊の用兵機能(warfighting function)として確立され、指揮官と参謀に、情報の普及性、軍事的有用性、軍事作戦の範囲にわたるその適用について考え、理解し、活用するための枠組みを提供する。この機能は、米海兵隊員に情報の生成、保護、拒否、投射を一体化する能力を与えるとともに、すべての軍事活動に内在する情報的側面を活用して目標を達成し、望ましい最終状態を達成することを可能にする[2]

情報用兵機能(information warfighting function)は、作戦の全局面で、他のすべての他の用兵機能(other warfighting functions)と情報を意図的に一体化することを可能にする。情報は、全用兵ドメイン(all warfighting domains)に浸透し、指揮官の仕事であり、有利・不利の重要な源泉であるため、米海兵隊員は情報が他のすべての戦力とどのように関係しているかを理解しなければならない。

情報とその他の用兵機能:INFORMATION AND THE OTHER WARFIGHTING FUNCTIONS

各用兵機能(each warfighting function)は、指揮官が作戦を計画し、同期させ、一体化し、指示するために重要な能力を提供するタスクとシステムのグループである。米海兵隊員は、計画策定や作戦の際にこれらすべての機能の能力を活用し、それらの目標を達成する。

指揮・統制:Command and Control

指揮・統制機能(command and control function)は、任務を達成するために活動する配属・付着部隊に対して指揮官が権限と指示を与えるものである。この権限と指示は、作戦の計画策定、準備、監視、評価に不可欠な施設、設備、通信、参謀の機能と手順、人員からなる指揮・統制(command and control)システムを通じて行使される。指揮・統制(command and control)システムは、部隊が上位、支援、および下位の司令部との通信を維持し、現在の作戦のあらゆる側面を統制すると同時に、将来の作戦を計画策定することを可能にする。

指揮・統制機能(command and control function)は、指揮官が指揮の技術と統制の科学のバランスを取り、他の用兵機能(other warfighting functions)を一体化することを可能にする[3]。効果的な指揮・統制(command and control)には、指揮の決心とフィードバックを容易にするため、信頼できるタイムリーで適切な情報への確実なアクセスが必要である。通信と情報の流れの混乱に対する復元性(resiliency)は、ミッション・タイプ・オーダー(mission-type orders)と指揮官の意図と相まって、米海兵隊員が戦場特有の不確実性を克服し、テンポを維持することを可能にする。信頼は、どのような指揮・統制(command and control)方法においても重要な要素である。米海兵隊員が暗黙のうちに、あるいは明示的なコミュニケーションに基づいて意思決定を行うにせよ、彼らの決心の根拠となる情報や、指揮官と部隊間のコミュニケーションに用いられるシステムに対する信頼が必要である。

機動:Maneuver

機動とは、敵に対して優位性を獲得するために、火力と情報を組み合わせた移動によって、作戦区域内の部隊を運用することである[4]。作戦区域内に部隊と能力を展開し、作戦区域内で兵力を配置して、重要な地形にアクセスし、必要に応じて支配するなど、作戦目標を支援するために作戦を有利に進めることである。

部隊の機動には、効果を生み出す固有の情報的側面があり、計画策定と実行の間に説明されなければならない。これには、敵のシステム内に混乱と無秩序を引き起こすための、意図の表示、能力の示威、テンポの促進が含まれる。さらに、敵の情報を獲得することの目的のために作戦を行うこともある。このような場合、環境を刺激し、敵に行動を起こさせ、敵を観察することができるように作戦を行う。

火力:Fires

火力用兵機能(fires warfighting function)は、情報能力と同様に兵器システムを使用して、友軍の目標を支援する効果を生み出す。火力は、目標または目標システムに物理的(機能的)または認知的効果をもたらすことができるあらゆる能力を集団的かつ協調的に使用することである。我々の機動戦(maneuver warfare)のドクトリンでは、指揮官は物理的効果よりも認知的効果(敵の意志に影響を与えること)のために火力(致死性および非致死性)を使用するよう求めている。そのため、米海兵隊員は、敵の重要な指揮・統制(command and control)ノードやシステムをターゲットにして破壊することで、敵の重要な情報を拒否し、疑念と混乱を招くなど、いかなる用兵ドメイン(any warfighting domain)で有利な状況を作り出すために致死性火力を使用することができる。

火力は、戦闘空間を形成し、戦闘における決定的な行動のための条件を設定するために、機動と連動して使用される。しかし、情報の投射や拒否を目的とした非致死性の火力は、人々の振舞いや行為に影響を与えるという重要な役割を果たすこともある。作戦行動や戦術行動と同様に、火力によってメッセージを送り、心理的影響(恐怖、麻痺)を与えるために火力が計画、実施されることが多い。この結果、他のタイプの競争力または戦闘力の優位性を利用することができる。

インテリジェンス:Intelligence

友軍の統制が及ばない状況の側面を理解し調整する必要性は、すべての軍事作戦の基本である。インテリジェンス機能は、敵の意図、能力、脆弱性、予想される行動などを指揮官と参謀に知らせるのに役立つ。また、友軍、中立、脅威の情報ネットワークと情報システム、情報の受信、送信、処理の方法、情報が敵の意思決定にどのように影響するかを理解するのにも役立つ。

この理解により、指揮官は敵の意思決定サイクルの中で方向付け、決心し、行動することができる。インテリジェンスの成果物は、関連する行為者の意思決定プロセス、規範、信念、力の構造、知覚(perceptions)、態度、およびその他の振舞い要因に関する洞察を提供することができる。また、敵対者が情報を利用して、自軍の情報ネットワークやシステムの脆弱性を突いたり、情報を利用して友軍部隊の振舞いの特定の要因に影響を与えたりする可能性も明らかにすることができる。

インテリジェンス作戦はまた、戦闘空間における情報の効果を理解するために不可欠な、戦闘評価の要件も支援する。情報活動へのインテリジェンス支援は、他のすべての作戦で使われるのと同じ全情報源インテリジェンス・サイクルに従うが、その支援に必要な固有のデータ、文脈、その他の属性に重点を置く。効果的な指揮・統制(command and control)と同様に、効果的なインテリジェンスには、信頼できる、タイムリーで適切な情報への確実なアクセスが必要である。

兵站:Logistics

兵站は、任務の達成と再展開を通じて作戦を行うために必要な資源を備えた軍事部隊を計画、移動、維持するために必要なすべての活動を包含している。戦闘力をどのように提供し維持するかを決定することにより、兵站用兵機能(logistics warfighting function)は戦略、作戦、および戦術のデザインと実行に大きく影響する。さらに、指揮官がどの程度の期間、戦闘力を提供し維持できるかを決定することで、兵站はこの戦闘力の限界を正確に把握することができる。このように、兵站は作戦上可能なことの外側の限界を設定する[5]

他の機能と同様に、効果的な兵站機能には、作戦を支援しテンポを維持するために、信頼できる、タイムリーな、適切な、正確な情報への確実なアクセスが必要である。したがって、兵站部隊指揮官は、兵站システム内の情報をどのように保全するかに関心を持たなければならない。彼らは、兵站情報とその通信ネットワークを保護し防御するために、利用可能なすべての能力を考慮しなければならない。

別の見方をすれば、後方支援活動や足跡は非常に目につきやすく、友軍部隊の能力や意図を露呈する可能性がある。これらの兆候は、友軍部隊の目標に有害または有益であることを示す可能性がある。保護措置として、兵站計画者および要員は作戦保全および部隊防護(force protection)を支援するためにシグネチャを減らすよう努める。さらに、兵站計画者および要員は、意図的に可視性(シグネチャ)を管理し、情報の優位性(information advantages)の創造または活用を支援するために、情報の機能を適用する。

部隊防護:Force Protection

部隊防護(force protection)は、適切な時と場所で適用される戦力の潜在能力を維持するために必要な集団的行動と措置を包含する[6]。これには、敵から確実に身を守るための能動的・受動的な防御手段の使用、安全基準の維持、友軍火力のリスクを減らすための手順の採用、健康上の脅威、事故、自然災害に対する緊急管理・対応の強化が含まれる。

情報は、いくつかの点で、適切な部隊防護(force protection)を確保するために不可欠である。友軍の情報を保護することは、能動的および受動的な方法を含む重要な防衛手段である。友軍の情報を保護し、敵に渡さないための標準的な方法には、シグネチャ管理、サイバーセキュリティ、作戦保全がある。

さらに、目に見える防御手段(例えば、障壁の建設)は、潜在的敵対者(adversaries)に決意のメッセージを伝えるために用いられ、目に見えない防御手段は、友軍の重要な脆弱性を隠し、減らし、あるいは排除するために用いられる。効果的な部隊防護(force protection)には、兵力に対する脅威(偽情報(disinformation)やプロパガンダなどの敵や敵対者(adversary)の悪意ある振舞いを含む)について、信頼できる、タイムリーで正確かつ適切な情報への確実なアクセスも必要である。有害または敵対的な情報活動から部隊を保護することは、戦力の復元性(force resiliency)に大きく貢献する。

計画策定プロセスにおける情報:INFORMATION IN THE PLANNING PROCESS

利用可能なすべての能力を最も効果的に活用するために、計画策定プロセスには、機能的かつ詳細な情報計画策定に関する考察を含める必要がある。計画策定は、指揮・統制(command and control)という広い分野で不可欠なものである。計画策定は、指揮官と参謀が状況と任務の目的を理解するのを助け、意思決定を支援する。計画策定は、意図を明らかにし、実行の詳細を説明することにより、実行を支援する。

どのような情報計画策定が適切であるかは、状況と任務の性質によって決まる。情報計画策定の重要な出発点は、司令部内のあらゆる部隊や要素が、特定の効果を生み出し、特定の目標を達成するために、情報の生成、保護、拒否、投射に使用できることを理解することである。情報は、米海兵隊の計画策定プロセスにおいて、他の用兵機能(other warfighting function)と同様に深く浸透していなければならない。

情報の優先順位付け:PRIORITIZING INFORMATION

グローバルな情報環境は、曖昧さ、不確実性、摩擦を生み出し、それを活用する機会を無数に生み出す。また、世界や軍の指導者が互いに、あるいは関係する人々とコミュニケーションをとるための経路も数多く提供されている。どのような状況であっても、指揮官はその役割の性質上、情報への配慮を第一に考えた活動を優先させなければならない。

例えば、防衛戦略のある一面を、敵、敵対者(adversaries)、競争者(competitors)、同盟国のいずれにも伝えたとする。戦略の存在を伝えるだけで、潜在的敵対者(adversary)から特定の反応を引き出すことができるのである。

さらに、戦略ナラティブが目に見える軍事部隊の展開、動き、態勢、および示威された即応性と一致するとき、我々の行動に込められた意図と決意を伝え、戦略メッセージを強化することができる。戦闘力の行使と誇示は、もしあれば、我々の意図をさらに強化することになる。

戦術的レベルでは、指揮官が特定の情報効果を生み出す部隊に任務を与え、情報に優先順位をつけることが求められる状況もあり得る。この部隊と、その部隊に課せられた効果が、全体的な主たる取り組みとして機能することもあり得る。また、敵の特定の情報へのアクセスや使用を拒否することが、部隊の取組みの焦点となる場合もあり得る。

欺瞞作戦は、このような情報重視の取組みの典型例である。戦闘力の適用が最も効果的なのは、敵に関連情報を与えないようにすると同時に、敵部隊に我々の意図が我々の意図するところとは別のところにあると納得させる時である。

さらに、部隊運用における情報の優先順位付けには、部隊のメッセージや行動が周囲の住民、敵対勢力、その他関連する個人や集団に及ぼす影響を意図的に監視することも含まれる。このフィードバックに基づき、指揮官は友軍のナラティブと目標を支援するために、指揮行動を調整することができる。

あらゆる能力、同盟国やパートナーのネットワークを活用する:LEVERAGING ALL CAPABILITIES, AND ALLY AND PARTNER NETWORKS

情報効果を生み出すためには、同盟国やパートナーを通じて利用できる能力を含め、すべての能力を活用しなければならない。米海兵隊の計画立案者や指導者は、同盟国やパートナーから与えられる配置、アクセス、権限を活用するための基礎を築き、計画を策定しなければならない。繰り返しになるが、競争者(competitors)の狙いは、我々を同盟国やパートナーから分断し、引き離すことである。

パートナーシップを強化し、利用可能な能力を活用することで、我々は具体的な諸兵科連合のメリットを得るだけでなく、我々の競争者(competitors)の戦略的狙いに直接対抗することができる。米海兵隊員は、我々の対等な競争者(competitors)が課す課題に対応するため、パートナーシップの考え方を身につけることが極めて重要である。さらに、我々のパートナーが開発したものを含め、新しい技術が開発されれば、それを常に把握し、可能な限り部隊と作戦に取り入れることが重要である。

また、米海兵隊員は創造力を発揮し、新しい技術と従来の能力を組み合わせて最大の効果を上げるための革新的な方法を見つけなければならない。これは特に、サイバースペース、電磁スペクトラム作戦、宇宙を基盤とする能力など、急速に変化するハイテク分野において顕著である。これらの能力を火力、機動、関連するパートナーの活動と組み合わせ、諸兵科連合と機動戦の哲学(maneuver warfare philosophy)を堅持するのは、指揮官と参謀次第である。同盟国や他の米国機関と強力なパートナーシップを築くことで、米海兵隊員はこれらの補完的な能力と自国の能力を斬新な方法で組み合わせ、情報の優位性(information advantages)を創造し、活用することができるのである。

実世界での効果のための訓練演習の使用:USING TRAINING EXERCISES FOR REAL-WORLD EFFECT

ハイパー・コネクテッドな現代社会では、訓練は新たな意味を持つようになった。グローバルな可視化により、競争者(competitors)や敵対者(adversaries)は、どのような演習場所でも、各米海兵隊部隊の訓練中の部隊を容易に観察することができる。これは、利用すべき機会や克服すべき脆弱性を生み出す可能性がある。

実世界での効果のために訓練演習を使用するには、指揮官はまず、特定の競争者(competitor)や敵対者(adversary)がどのように演習を観察する可能性が高いかについて理解を深める必要がある。これには、敵対者(adversary)の様々な収集方法とタイミング(例:上空の衛星収集の窓、地上の観察者)を理解することが含まれる。

この理解に基づいて、指揮官は演習を計画し、メッセージを伝達し、敵対者(adversary)の観測を妨害し、指揮官の情報目標を達成するために、意図的に演習を使用する必要がある。これを達成するために、指揮官は可視、行政、電磁波、デジタル・シグネチャを選択的に保護、変更、抑制することができるあらゆる利用可能な手段を検討する必要がある。また、本国と派遣先の両方で、演習のタイミングと場所を検討する必要がある。

さらに、訓練イベントに関する情報を一般の聴衆と共有することで、競争者(competitors)、敵対者(adversaries)、同盟国を含む幅広い聴衆にコミュニケーションをとる道が開かれる。パブリック・コミュニケーションの領域(realm)では、訓練は常に、そしてこれからも、戦略的なナラティブを強化するために利用され続ける。

海外演習、特にパートナー国や同盟国との演習は、競争者(competitors)が常に注視しているため、他の戦術的任務と同様に扱うべきである。同盟国やパートナーとの演習は、即応性や能力指標を選択的に抑制または増幅するユニークな機会を提供する。また、重大な作戦保全や部隊防護(force protection)のリスクも大きい。国際的なパートナーとともに海外で行われるイベントに参加する部隊は、米国内の自国基地で訓練する場合よりも、多くの困難と機会に直面する。

同盟国やパートナーと共に海外での演習に参加する友軍部隊のリスクが高まるのは、少なくともその一端が、慣れない環境に身を置くことで、外国からの収集や影響のターゲットとなりやすくなるためである。さらに、演習相手の文化的、社会的、組織的規範は、競争者(competitors)が米海兵隊や米国、演習相手の信用を落とす可能性のある、多くの利用可能な機会を生み出す。

演習が終了した後も、我々の敵対者(adversaries)はしばしば、演習の画像を利用して、さまざまなメディアで偽のナラティブを作り、自分たちのナラティブやプロパガンダ戦役(propaganda campaigns)を支援することで、演習を有利に利用しようとすることがある。敵対者(adversary)が彼らの影響力戦役(influence campaigns)で、我々の演習の画像を利用して影響力を行使するのを防ぐことはできないが、持続的なプレゼンス、部隊の履歴の正確な記録、情報環境における協調的な取組みを通じて、彼らの取組みに対する復元性(resiliency)を開発し、その影響を軽減することは可能であろう。

情報環境における規律の実践:PRACTICING DISCIPLINE IN THE INFORMATION ENVIRONMENT

情報環境が戦いのレベルを圧縮していることを知った上で、米海兵隊員は個人の振舞いと行為が任務と米海兵隊に大きな影響を与える可能性があることを忘れてはならない。したがって、米海兵隊員が情報環境(さまざまなデジタル・メディアなど)に関与するときは常に、そのコミュニケーションや目に見える行動が意図しない結果を招く可能性がないか、慎重に評価しなければならない。また、米海兵隊員はデジタル・メディアを使用する際、作戦保全を保護し、不注意にも友軍部隊の情報を実際の潜在的な敵や潜在的敵対者(adversary)に漏らさないために、高い意識を維持しなければならない。

要は、情報環境において、米海兵隊員は常に規律を守らなければならないということである。米海兵隊員は、どこにいても、自分のコミュニケーションや行動が及ぼす2次的、3次的な影響を考慮しなければならない。米海兵隊員が行うすべての行動は、何らかの形で、意図的であろうとなかろうと、知覚(perceptions)や態度に影響を与える可能性があり、任務に利益をもたらすことも損害を与えることもあり得るのである。

コマンド・ナラティブと軍種のナラティブ:COMMAND AND SERVICE NARRATIVE

米海兵隊の指揮官は、優勢なナラティブ(prevailing narrative)を達成するために、信頼できるコマンド・ナラティブを確立し、維持する必要がある。コマンド・ナラティブは、指揮官の意図とは異なるものである。指揮官の意図はナラティブ形式で表現することができるが、指揮官のナラティブは、単一の作戦に対する指揮官の意図よりも広いものである。コマンド・ナラティブは、部隊が行うすべての広報活動、演習、作戦を支え、導くものである。さらに、コマンド・ナラティブは、内部および外部の聴衆の両方に使用することができる[7]

効果的なコマンド・ナラティブは作戦を支え、信頼性を高め、部隊の存在と任務について、より深い理解と文脈を提供する。うまくいけば、コマンド・ナラティブは友人や同盟国の信頼を高め、競争者(competitors)や敵対者(adversaries)を抑止し、弱体化させることができる[8]

指揮官は、まず米国の戦略的なナラティブと関連する上位指揮官のナラティブを特定することで、コマンド・ナラティブを開発する[9]。ナラティブの開発は、問題設定から始まる参謀プロセスである。これは計画策定や作戦デザインと同時に行われる。すべての計画策定目標は、コマンド・ナラティブとより上位のナラティブを念頭において策定される。

指揮官は、米国やより上位のナラティブに加え、広報のガイダンスを参照し、何が伝えられ、何が伝えられないのか、一般的に理解する必要がある[10]。コマンド・ナラティブを作成した後、指揮官と参謀は支援するテーマとメッセージを作成する。戦略的レベルから戦術的レベルに至るまで、ナラティブを入れ子にすることで、より広範なサービス、国防総省、米国政府のナラティブとの連続性を確保する。

第3米海兵遠征軍のコマンド・ナラティブ

公式の 第3米海兵遠征軍(III MEF)のコマンド・ナラティブにはこうある。「第3海兵遠征軍は、常時配備されている唯一の海兵遠征軍として、国家防衛戦略のグローバル・オペレーティング・モデルで想定されているコンタクトレイヤーの内部で生活し、活動している。第38軍司令官の計画策定指針は、第3米海兵遠征軍(III MEF)を軍団の取組みの焦点とし、西太平洋で最初に闘う「スタンド・イン(stand-in)」部隊として明確に位置づけている。

この空間で成功するために、第3米海兵遠征軍(III MEF)は軍事作戦の全スペクトラムにおいて最高レベルの即応性を維持すると同時に、新たな脅威に対応するための近代化と変革を行っている。さらに、自由で開かれたインド太平洋を維持するために、地域のパートナーや同盟国から、あるいは同盟国とともに、影響力、アクセス、支援を求めて日々しのぎを削っている[11]

第3米海兵遠征軍(III MEF)のコマンド・ナラティブは、太平洋における米海兵隊の全体的な目的と、国益の確保に対する貢献度を誰もが理解できるよう、永続的な文脈を提供するものである。このコマンド・ナラティブは、全米海兵隊員の内部での意思疎通を図るとともに、インド太平洋地域の戦闘軍指揮官、他の部局、同盟国やパートナーを含む外部の関係者に対し、第3米海兵遠征軍(III MEF)の価値を伝えるために作成されたものである。

また、ナラティブは、競争者(competitors)や潜在的敵対者(adversaries)に対しても、決意のメッセージを伝えることができる。このナラティブは、軍種や戦闘軍のナラティブの下に組み込まれ、すべての米海兵遠征軍(MEF)の計画、作戦、本国および海外の我が米海兵隊員の日々の活動を支えている。

米海兵隊の観点からは、国家への奉仕を成功させるために、ナラティブは不可欠である。米海兵隊が情報の優位性(information advantages)を獲得するためには、あらゆる戦いのレベルにおいて、目標を達成するための説得力と信頼性のあるナラティブの力を活用する必要がある。

米海兵隊は、組織として、米国民との関連性を維持し、米海兵隊員が自分たちは何者で、何をし、なぜそれをするのかについて、共通のつながりを育むために、部隊のナラティブを育成し続ける。米海兵隊は、他のナラティブの支持や反対を受けながらも、常に自分たちのナラティブが主流となるよう関与している。指揮官は、米海兵隊のナラティブを支援するために、コマンド・ナラティブを発展させなければならない。

ドクトリン、訓練、そして教育:DOCTRINE, TRAINING, AND EDUCATION

ドクトリンは、我々がどのように競争し、闘うかについての全体的な哲学と実践的な枠組みを提供するものである[12]。訓練は、ドクトリンに従って、すべての軍事行動の成功の基礎となる戦術的・技術的な熟練を身につける[13]。教育は、効果的なリーダーシップに必要な理解力、創造力、軍事的判断力、背景知識を養うものである[14]

米海兵隊の情報ドクトリンは、我々の機動戦の哲学(maneuver warfare philosophy)を基礎としている。この哲学は、米海兵隊のすべての機能および作戦に関連するすべての戦術、技術、手順(TTP)の基礎となる。本書やその他の情報ドクトリン・訓練文書は、訓練と教育を通じて、情報との競争と闘いに必要な知識と技能を備えた新しい世代の米海兵隊員の育成を支援するものである。

米海兵隊の訓練プログラムは、日々、あらゆる場面で応用できる健全な技術力を育成しなければならない。情報訓練プログラムには、2つの主要な重点分野がある。一つは、全米海兵隊員に共通する訓練で、情報と情報システムの保護、ナラティブの理解と支援、脅威の認識、あらゆる形態の情報の混乱に対する復元性(resilient)など、あらゆる米海兵隊員が知り、適用しなければならない基本的なスキルである。2つ目の重点訓練分野は、情報能力を応用したり、特定の情報活動を行ったりするために特定の技術的スキルを必要とする米海兵隊員を対象としたもので、優位性を創出または活用するための訓練である。

教育プログラムでは、我々が日常や戦闘で直面する情報の争いを理解した米海兵隊員や指導者を育成しなければならない。我々はまず、社会的・世界的規模で米国を弱体化させようとする競争者(competitors)が、情報や技術をどのように利用しているか、米海兵隊員を教育することから始めなければならない。

競争者(competitor)の戦略的アプローチを理解した上で、教育プログラムでは、我々の競争者(competitors)が統合部隊、特に米海兵隊に対して情報の優位性(information advantages)にを達成するために用いる技術的・社会的手段を理解させる必要がある。米海兵隊員と米海兵隊が情報環境に最も強く、効果的に対処できるのは、我々の情報の脆弱性と、それを利用して優位に立とうとする相手の動きを完全に理解したときである。

戦力開発と戦力デザイン:FORCE DEVELOPMENT AND DESIGN

米国と国家および非国家主体との間の永続的な戦略的競争は、将来の安全保障の展望の特徴であり続けるだろう。競争が続く一方で、競争的な情報環境の特徴は、ダイナミックで急速に変化し続けるだろう。米海兵隊は、情報用兵機能(information warfighting function)を最も効果的に発揮するため、このダイナミックな環境において機敏に行動しなければならない。

技術の絶え間ない進歩と、真実の知覚(perceptions)を操作し、人々を大量に動員し、軍隊の指揮・統制(command and control)能力を妨げる情報の利用は、従来保持してきた軍事的優位性に引き続き挑戦していくだろう。さらに、長距離精密兵器で武装した相手と、それを情報能力と一体化する能力は、永続的な課題である。

これらの課題に対応するため、我々の取得プログラムは絶え間ない変化に対応しなければならない。米海兵隊は、新技術を迅速に取得・一体化し、敵対勢力に打ち勝たなければならない。また、米海兵隊は、あらゆる用兵ドメイン(every warfighting domain)で新技術や戦術、技術、手順(TTP)を学び、活用するために、新しいアイデアやアプローチを継続的かつ積極的に試験、実験、ウォーゲーム(wargame)する必要がある。

結論:CONCLUSION

米海兵隊が統合部隊の貢献者として競争力を維持するためには、米海兵隊員は情報用兵機能(information warfighting function)を計画策定、訓練、教育の中核的要素に据えなければならない。また、現代の情報環境がもたらすグローバルな可視性により、特に同盟国やパートナーとの演習や訓練のすべてを活用して、最大の効果と影響力を発揮することが求められていることを認識する必要がある。

そのためには、情報との競争と闘いについての考え方を変える必要がある。これには、情報を全用兵機能(all warfighting functions)と一体化すること、コマンド・ナラティブを維持すること、情報を計画策定の中心に据えること、変化し続ける情報環境、新しい技術、急速に進化する脅威と歩調を合わせること、などが含まれる。

ノート

[1] MCDP 1, Warfighting, p.73.

[2] MCDP 1-0, Marine Corps Operations, w/change 1,2,3, p. B-4.

[3] JP-1 Doctrine for the Armed Forces of the United States, (25 March 2013, Incorporating Change 1, 12 July 2017), p. 1-18.

[4] JP 3-0, Joint Operations, (17 January 2017, Incorporating Change 1, 22 October 2018), p. III-38.

[5] MCDP-4, Logistics, p. 27-28.

[6] MCDP 1-0, Marine Corps Operations, w/change 1,2,3, p. B-3.

[7] William Marcellino, Christopher Paul, Elizabeth L. Petrun Sayers, Michael Schwille, Ryan Bauer, Jason R. Vick, Walter F. Landgraf III, “Developing, Disseminating, and Assessing Command Narrative, Anchoring Command Efforts on a Coherent Story,” RAND Corporation, p. ix

[8] JP 3-61, Public Affairs, (17 November 2015, Incorporating Change 1, 19 August 2016), p. I-11.

[9] Ibid., p. 4.

[10] Ibid.

[11] III Marine Expeditionary Force Communication Strategy, (7 December 2020), p. 3.

[12] MCDP 1-3, Tactics, p. 113.

[13] Ibid.

[14] Ibid.