米陸軍フィールド・マニュアル3-0「オペレーション」の復活 (MILITARY REVIEW November-December 2017)

2022年10月1日付で米陸軍はFM 3-0 Operations」の2022年版を公表している。この新しい「FM 3-0 Operations」については、米陸軍協会(AUSA)の2022年総会で米陸軍参謀総長ジェームズ・マッコンビル(James McConville)米陸軍大将もマルチドメイン作戦を作戦マニュアルとして取りまとめたことについて述べていると米陸軍協会(AUSA)HPの記事「NEW DOCTRINE IS HERE, MCCONVILLE ANNOUNCES」で取り上げている。

また、陸上自衛隊は「陸上自衛隊の領域横断作戦と、米陸軍のマルチ・ドメイン・オペレーションの連携をより一層具体化し、深化させていく」必要性については、陸上自衛隊の広報用サイトの「陸上幕僚長より皆さまへ」で触れられているとおりで、陸上自衛隊としても米陸軍のドクトリンの変更については関心をもっていることと推察される。

陸上自衛隊教育訓練研究本部のHPには早速一研究員の記事として「202210月に発出された米陸軍FM3-0の主要変更点について」が掲載されている。陸上自衛隊教育訓練研究本部のHPには、「米陸軍がマルチドメイン・オペレーションというコンセプトに至った背景に関する論文」も掲載されている。

ここで紹介するのは、「202210月に発出された米陸軍FM3-0の主要変更点について」で触れられている2022年版の「FM 3-0 Operations」以前のすなわち2017年版の「FM 3-0 Operations」に関するMilitary Review (November-December 2017)の記事「The Return of U.S. Army Field Manual 3-0, Operations」である。

イラクやアフガニスタンでの戦いを念頭に置いて策定されたと考えられる2010年8月の「米陸軍の作戦コンセプト」が前提とする作戦環境の認識は、大きく認識の変更せざるを得ないとの考えに至っている。その作戦環境の変化が米陸軍に及ぼす致命的な危機感をもって新しい作戦コンセプト策定に取り組んだのは、ドナルド・トランプ政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたハーバート・レイモンド・マクマスター米陸軍中将であるとされる。マクマスター米陸軍中将は、米陸軍訓練ドクトリンコマンド隷下の米陸軍能力一体化センター(Army Capabilities Integration Center:通称ARCIC)の司令官2014年当時に「The U.S. Army Operating Concept : Win in a Complex World 2020-2040」を起案されたとされる。

そのコンプと文書の中で、特に、ロシアと中国に関して次のように記している。「(2014年に生起した)クリミア半島のロシアの併合、そして、ウクライナでの在来型と非在来型の陸上部隊の使用は、ロシアはその領域を拡大して、ユーラシア大陸でその力を示すことを決心したことを示唆する」とし、そして、「中華人民共和国は短期的には隣国と米国の安定した関係でコミットし続けるけれども、中国は長期的な高烈度な地域の不測の事態に戦い勝利するための部隊の処理能力を改善するような包括的な軍事近代化プログラムを追求し続けている」との記述がある。

このような作戦コンセプトを受けて作成された作戦ドクトリン文書が、2017年10月6日公表の最新の米陸軍の作戦ドクトリンである「FM 3-0 Operations」である。2017年当時、米陸軍訓練教義コマンド(TRADOC)が進めるマルチドメイン・バトル・コンセプトが与える影響力が米陸軍内外の随所に現れつつある中で、本コンセプトの完成までにはかなりの年数が必要とされると言われていた。新たなコンセプトを検討する契機となった米陸軍が考える米陸軍と対等かほぼ対等(near peer)の脅威は、将来の脅威であるとともに正に現在でも対応する必要のある脅威とも云える。その脅威に対抗するために求められているものの中に大規模な地上戦闘能力があるが、これまでの2008年版の「FM 3-0 Operations」では大規模な地上戦闘を想定したものにはなっていない。また、米陸軍のフィールド・マニュアルの上位に位置し共通のコンセプトを示す米陸軍ドクトリン出版物(ADP:Army Doctrine Publication)では、2011年発行の作戦に関するADP 3-0 Unified Land Operationsがあり、2016年にADP 3-0 Operationsと呼称を変更していたものの、十分に大規模な地上戦闘に耐えうるものにはなっていなかった。

2017年当時、新たに策定された「FM 3-0 Operations」は、300ページを超える大著であり、米陸軍軍人であっても中々フィールド・マニュアルを変更した意図やその内容を窺い知ることは大変であっただろう。ドクトリン発行の責任を持つ米陸軍諸職種連合センター司令官のマイケル・ランディ(Michael Lundy)米陸軍中将と、直接「FM 3-0 Operation」の編さんに当たったとされる諸軍種連合ドクトリン部局の責任者のリチャード・クリード(Richard Creed)米陸軍大佐の書いたこのMilitary Reviewの記事は、新たなドクトリン発行の意図を知るうえで大いに参考になったと考える。

更に、新版の「FM 3-0 Operation」は、新たに検討されているマルチドメイン・バトル・コンセプトの検討内容を踏まえたうえで、現行の米陸軍の編成をもって可能な機能と能力の範囲内でサイバースペースや宇宙などを含めた作戦的枠組みの拡大、それに伴い変化していく米陸軍部隊の各階層組織の役割の変化、イラクやアフガニスタンでは馴染みの薄かった大規模な近接戦闘の重要性が展開されており、マルチドメイン・バトル・コンセプトの実現に向けて米陸軍全体が同盟国を含めてソフト・ランディングするための処方箋とも云えた。

この記事で、今日の作戦環境の課題として3つのカテゴリーに区分して述べているが、この課題はマルチ・ドメイン・バトル・コンセプトの背景にある課題そのものであった。その課題解決に向けて、米陸軍部隊の部隊での適用がなされる「FM 3-0 Operations」を発行を契機に部隊に浸透させることで、少しずつではあろうが米陸軍が進化を遂げていき、2022年10月1日の新しい「FM 3-0 Operations」につながったと言ってよいだろう。

先ず、今回の米陸軍のドクトリン変更に繋がった2017年版の「FM 3-0 Operations」とは何かを知る記事と言える。(軍治)

 

米陸軍フィールド・マニュアル3-0「オペレーション」の復活

The Return of U.S. Army Field Manual 3-0, Operations

Lt. Gen. Mike Lundy, U.S. Army[1]

Col. Rich Creed, U.S. Army[2]

MILITARY REVIEW ● November-December 2017

2011年に米陸軍フィールド・マニュアル3-0(FM 3-0)「オペレーション」を取り止め、米陸軍ドクトリン出版物3-0(ADP 3-0)「ユニファイド・ランド・オペレーション(Unified Land Operations)」を出版した時は、今とは全く違った世界であった。対等な能力を持つ敵に対する大規模な地上戦闘の見込みなどは、予想もしていなかった。ロシア軍が地上部隊で2008年にジョージアに介入したが、彼らが更なる物理的に攻撃的行動で交戦するという徴候はほとんど無かった。南シナ海での中国軍の海上での主張は、米陸軍の懸念とはほとんど無関係のようだった。朝鮮半島は緊張していたが、1953年の休戦以来、他のどの時代よりも戦争が再び起こる可能性があるよう状況ではなかった。ドイツ駐留の米陸軍の残りの2個装甲旅団戦闘チームは米大陸に帰還を指示され、韓国で同様に米陸軍の縮小化を図りながら、陸軍部隊の重大な部分をローテーションにする決心に向けて勢いを増していた。

戦略的環境は、それ以降かなり変化した。ウクライナに対するロシアの侵攻と北朝鮮とイランによるますます好戦的な行動はその適例である。米陸軍は、急速に近代化している中国軍は、アルカイダ、イラクの武装勢力とタリバンよりかなり有能な敵対者に対する大規模な地上戦闘の急速な高まりの可能性に適応する必要があるという感覚を増した。その結果、米陸軍は大規模な戦闘作戦のために、ミッション・コマンド訓練計画演習と、10年間の中断を経て「汚れた(dirt)」戦闘訓練センターで訓練を開始した。そして、また、大規模な戦闘作戦のための我々の現在の戦術的ドクトリンが不十分であるということに気付いた。

2016年には、米陸軍参謀総長は訓練教義コマンド(TRADOC)に自国の軍事能力と対等な軍事能力との大規模な地上戦において勝利するためのドクトリン上の基礎を与える作戦マニュアルを作成するよう指示した。米陸軍は、大きい戦争で戦うことに関連したいくつかのドクトリンを有している一方で、現代的な脅威に対して大部隊の戦術に焦点を置いた単一で、最新の統一したドクトリン上のマニュアルはない。それらは、紛争の連続性に沿って米陸軍の作戦に取り組む決定的な必要性と、敵対者が世界中の多様な地域で現状に挑戦してくるにつれ、米陸軍が統合部隊のために成し遂げる役割もある。

以前のバージョンのFM 3-0「作戦」、そして、その前のFM 100-5には、現在の問題に関連して役立つ考えが含まれているが、今日の作戦環境の課題すべてに対応したものではない。論理的で知的な専門職は深刻な課題について議論できるかもしれないが、それらが三つの一般的なカテゴリーに分類されることに同意するだろう。最初のカテゴリーであり、おそらく最も重要となるのは、米陸軍の文化を変える必要があるということである。旅団戦闘チームと上級司令部の標準化されたスケジュールでの予定通りの展開と、制限された軍事的能力を伴う敵に対して各固定の基地からの対反乱作戦(COIN)の遂行を支援する部隊の関心は、対等な脅威に対する大規模な戦闘の現実性と一致しない地上戦闘の見方を作り出していた。対等の脅威に対して訓練又は戦った重要な経験を持ったリーダーは、今の戦術編成の中にはほとんど残っていない。そして、更にシニア・レベルでの経験を持ったリーダーは、10年以上が対反乱(COIN)に焦点を定めたあと、腕を磨いていなかった。新しいFM 3-0は、作戦環境と脅威を述べて、作戦間の旅団レベル以上の階層の重要な役割を強調して、大規模な地上戦闘間の各々の戦闘機能で即応性を考慮した訓練に言及することによって、我々の米陸軍の文化の変化の必要性に言及している[3]

2003年以降、小隊以上の大部隊が敵部隊による破壊の危険にさらされることはめったになく、大量の火力と大規模な部隊を効果的に機動させる敵部隊に直面した部隊はなかった。

課題の第2のカテゴリーは、対等な能力を持つ相手に対して大規模な地上戦闘で勝つために米陸軍の即応性を改善することである。我々の米陸軍と我々のドクトリンは、主に、部隊と司令部が作戦で行う期待されることの大半が対反乱のタスクと安定化のタスクを行うことに焦点を置いた制限された不測事態の作戦にとって最適化されたものになっている。2003年以降、小隊以上の大部隊が敵部隊による破壊の危険にさらされることはめったになく、大量の火力と大規模な部隊を効果的に機動させる敵部隊に直面した部隊はなかった。問題は、効果的に安全保障環境を形成し、信頼できる在来型の抑止を通して紛争を防ぎ、または、望まれる政治的目的を達成するために獲得した成果を強化する[4]ための能力が、最も致命的な脅威に対する大規模な地上戦闘を防止する実証された即応性からもたらされるということである。そういうわけで、FM 3-0の核心は、旅団、師団と軍団レベルで大規模な地上戦闘作戦に言及している。それは、防御と攻撃において用いられる戦術と手続きを記述している。以前のFM 3-0またはFM 100-5に精通している人はそれらの3つの章を読むことで驚かされることはないだろう。それらには新しい戦術的なタスクはないが、複数のドメイン内と複数のドメイン全体で、下位の階層で行動の自由を可能にするための能力を適用する際に求められる戦術の新たな認識と奥深い議論がある。

しかしながら、以前の版から新しくなったことは、「状況を形成するための作戦」、「予防するための作戦」、「獲得した成果を強化すること」に焦点を置いた章があることである。かなりの米陸軍は世界中で連続的にこれらの作戦に関わり、そして、上手く行えるかが、大規模な地上戦闘の可能性とそれが引き起こす戦闘の戦略的成果に重大な影響を及ぼすことになる。従って、FM 3-0は、統合部隊の一部として戦略的役割を達成することで連続した紛争の全体で米陸軍が遂行する作戦と、他の戦略的役割を支援する任務の有効な遂行を可能にする大規模な地上戦闘に勝つための実証された能力に言及している。その結果、マニュアルも編成部隊として能力を適用する米陸軍の軍団と師団の階層の役割を新たに強調することを含んでいる。

軍団と師団は大規模な地上戦闘で中心的な役割を演じ、それは旅団戦闘チーム(BCT)の中心的な努力では出来るものでもない。適切に構成されて、訓練されて、リードされたとき、軍の階層は下位の編成部隊に、彼らの焦点を狭くし、彼らのコントロールの範囲を減らし、有効な計画策定のために必要な時間と空間における広範な観点を維持することによって負担を少なくする。師団は、作戦的な枠組み全体に全てのマルチ・ドメイン能力の運用を効果的に計画して、調整するために有能な最初の階層である。同様に、複数の師団を要する作戦間においては、軍団がそれにあたる。各々の上位の階層には、時間、地理学、意思決定と電磁スペクトラムを異なって考えなければいけない観点がある。これは新しい軍事的な考えではないが、師団と軍団が統合司令部の役割を担うか、作戦的レベルに対して戦術レベルにより焦点を置いていた時代に我々の米陸軍の大半が作り上げてきた経験からの重大な変化を反映するものである。

課題の第3のカテゴリーは、米陸軍が戦うことが要求されるあらゆる相手に対して圧倒的優位が享受出来るわけではないという現実に関係する。FM 3-0は、いくらかの敵対者は、米陸軍部隊を、特に地域的な文脈では相対的に不利な地位に置く同等か更に優れた能力を有していると認識している。いくつかの脅威能力、特に統合防空システムと長距離の地表対地表火力は、空のドメインと海上のドメインにおける行動の自由を厳しく妨げ、このことは各軍種がイラクとアフガニスタンで迅速に又は簡単に行ったように、地上での戦術的問題の解決を助けることが出来ないことを意味する。いくつかの相手に対して、米陸軍の野戦砲とロケットはおそらく射程外でかつ量的にも優られており、たとえ友軍の部隊が空のドメインで競合出来なかったとしても戦術的な問題があることを表している。地上、海上、空のドメインでの相対的に不利な潜在的な組合せは、陸軍部隊が長距離火力システムについてデザインされた敵の部隊に対して作戦を遂行する仕方についての含みを持っており、それは他の方法以上に火力を支援する機動力を使用する。それゆえに、我々の敵対者と潜在的な敵が使用する多様な方法(システム戦、孤立化、除外、情報戦と聖域)を理解することは、彼らを撃破するための戦術計画を案出するために重要であり、そして、これらの方法は各々の状況で異なって現れるだろうということを理解することが重要である。

一つの敵に焦点を当てていたエアランド・バトル、または、あらゆる特定の脅威に焦点を実際においていなかった繰り返されたFM 3-0と違って、この版のFM 3-0では、現在の作戦環境における対等またはほぼ対等な敵対者(ロシア、中国、イランと北朝鮮)に焦点を定めている。その理由のために、我々の米陸軍が直面する作戦的な課題は全てのドメインにわたる軍事作戦の範囲におよび、それらに言及する必要があった。FM 3-0は一つのある作戦形態または単一の脅威のためには最適化されていないが、むしろ、世界中で増殖している最も強い敵対者の能力と方法に対してベンチマーク化され、大規模な地上戦から、地域的関与を通じた安全保障環境の形成と、その間のすべての作戦に至るまで、米陸軍が何が求められるのかを説明している。FM 3-0は米陸軍の基本の作戦コンセプトを変えてはおらず、それはユニファイド・ランド・オペレーションのままである。それが行うことは、戦略的目的、計画策定、即応性と部隊に割当てられる戦術的なタスクの間で相互関係を明確にするために我々が遂行する作戦の背景の理由をよりうまく説明している。

ドクトリンの構成と目的:Organization and Purpose

FM 3-0は、4つの米陸軍の戦略的役割に従った目的によって作戦を準備する。米陸軍は作戦環境を形成して、紛争を予防して、大規模な地上戦闘を遂行して、獲得した成果を強化する。米陸軍部隊は統合部隊の一部として、一般に多国籍の文脈で、統合部隊指揮官のためにこれを行う。前バージョンのFM 3-0とFM 100-5のは、戦術的なタスクと我々が遂行する戦略的目的を達成することの間の重要なつながりを十分に強調してはいなかった。JP 3-0、統合作戦の中に見られる統合の段階的構造に沿った目的によって作戦のタイプをカテゴライズすることは、その一方で、それらのフェーズ間の直接の線形の関係に必ずしもないことを強調する(図1参照[5])。FM 3-0の第3章(状況形成のための作戦)と第4章(予防するための作戦)は大規模な地上戦闘に至らない作戦を記述している。その際、敵対者は現状をひっくり返すか友好国を破壊するために武力紛争の閾値以下の方法を利用しようとする。第5章(大規模な地上戦闘)、第6章(防御)と第7章(攻撃)は、大規模な地上戦闘に焦点を当て、第8章(獲得した成果を強化するための作戦)は大規模な地上戦闘から作戦的目的または戦略的目的の最終的な達成への悌次にな移行に言及している。

図1 米陸軍の戦略的役割と統合フェーズとの関係

作戦の戦略的目的を達成することは、FM 3-0の根本的な勝利の理論であって、第1章の終わりで言及している。ほとんど受け入れられる恒久的な紛争への解決策は、戦略的レベルではない。世界の大多数の紛争は、それぞれの立場で相対的な優位を増やし利用しようとするために、長期にわたって管理されている。実際、統合部隊は、武力紛争に至らない作戦間、武力紛争の間、そして、武力紛争の後の移行の間、良好な結果を達成する機会を提供する競争に勝つか負けるかしている。統合部隊の一部として戦略的役割の行動を担う米陸軍は、米国が現実の脅威と潜在的な脅威に相対的な優位を維持することを確実とするために連続した紛争全体で作戦を遂行する。状況を形成するか予防する作戦は、彼らが敵対者の例えば望ましい現状を不安定にするか、友軍の国家を破壊する試みのような目的を打ち破った時に成功している。我々は、敵の在来型の能力と抵抗する意志を破壊するか、撃破することによって大規模な地上戦闘において勝利する。我々は、我々が敵が紛争を引き延ばすか、我々の目的を妨害する方法でその本質を変えようとする抵抗の他の形を構成できないことを確実にし続ける時、効果的に獲得した成果を強化できる。要するに、FM 3-0は指揮官と参謀が、軍事作戦の範囲で適切な作戦術を効果的に実践するための文脈を提供する。

新旧比較:Old and New

大規模な地上戦闘作戦のための新しいドクトリンに関する議論の中には、米陸軍が対反乱(COIN)の課題から脱け出すためにヨーロッパでのソビエト脅威のために計画策定の「より単純な」日を切望しているとする議論を作り出す傾向がある。もう一つは、米陸軍が、部隊構造を維持するための正当化する理由として大規模な戦闘に立ち戻ろうとしていると云うものである。どちらも、的外れである。第1章は、35年前、または5年前とは全く異なる作戦環境を記述している。知的なアプローチは、特に今日の敵対者と統合部隊の一部として米陸軍がそれらに向き合って遂行する作戦の幅広い各種のカテゴリーを説明している。対等な能力を伴った相手に対して大規模な地上戦闘に対する米陸軍が準備することに関する陸軍参謀総長の指針を取り入れることは重要であった。そして、FM 3-0は、米陸軍が紛争に至らない作戦間に為すべきことと、それが戦争において勝つことであるならばする必要があることの間につながりがあることを明らかにしている。FM 3-0は、永続的に基本的なことと、現在の環境の現実性、米陸軍の組織と米陸軍の能力の文脈で変化したことを説明している。

作戦にとって必ずしも新しいというわけではないが、最近のドクトリンまたは経験において十分に言及されなかったいくつかの大きな考えがある。我々は、特に友軍の重要性と複数のドメインと情報環境にわたる脅威の能力を説明しようとした。その結果、我々はマルチ・ドメイン・バトル・コンセプトで見られる拡大された戦場枠組みに近づくために作戦的な枠組みを修正した(図2参照)。そうしたことで、作戦環境、現在の米陸軍の能力と統合の能力の現実と勝利するための基本的な計画策定の考慮事項を認識した。新しい作戦的な枠組みは、以前指定された縦深地域、近接地域、支援地域に、戦略的支援地域、統合安全保障地域(JSA)、強化地域[6]と縦深火力地域を加えた。

図2 ユニファイド・ランド・オペレーションに対するFM 3-0の作戦的枠組み

戦略支援地域と統合安全保障地域は、米陸軍活動が米陸軍の戦術的レベル指揮官の責任のある作戦地域外で起こるところを含む。米陸軍部隊はそれらの地域を移動し作戦するが、地域自体は、それらがほとんど地上以外のドメインを含んでいるので、主に他の各軍種、戦闘軍指揮官と統合司令部の範囲である。我々は、米陸軍部隊はそこで起こることによって重大な影響を受け、それらの地域と情報環境での米陸軍活動に対する計画策定責任が有しているのでこれらを追加した。縦深火力地域は、米陸軍部隊が地上部隊とともに迅速に機動を計画する所と、主に統合部隊と米陸軍のクロス・ドメイン能力を使用される所を越えた縦深地域の部分である。戦略的支援地域、統合安全保障地域と縦深火力地域は、実際にすでに存在していることを記述するが、以前の大部隊の戦術的なドクトリンにおいて説明されていなかった。米陸軍部隊がどのように軍団と師団レベルで作戦地域を考察することに関して言えば、作戦的な枠組みの最も大きな変化を反映するのは強化地域である。

強化地域は、作戦間の長年にわたる問題を解決するためにデザインされた。米陸軍は、旅団戦闘チーム後方境界を前方にシフトした時、また、作戦している部隊の地形を統制するか、住民を安全にするか、迂回した敵部隊に対して自ら防護するための能力を越えて師団支援地域のサイズを広げた時、特に攻撃と防御の間、近接地域と縦深地域でのテンポを維持しながら部隊背後の安全保障上の課題と長く戦ってきた。典型的な解決策は、演習間、近接地域と縦深地域での作戦に関与する旅団から機動強化旅団(MEB)へ戦闘力を割当てることであり、師団が小部隊に限っては迂回し、訓練シナリオは、敵部隊をあまりに積極的にならないことを調整することで満足された。イラクの自由作戦の最初の数か月の間にイラク軍の部隊に対するこの実際のアプローチの経験は、大規模な地上戦闘作戦を行っている間と作戦後に、重大なリスクを伴うことが明らかになった。敵は、紛争を引き伸ばし、我々が初期の戦いで獲得した成果を台無しにするための新たな抵抗の形を再構成する時間を得ることができない。より能力がある脅威に対して、我々は大規模な戦闘作戦の間に獲得した成果を強化するために近接地域と縦深地域で求められる以上の追加の戦闘力を計画し使用することによって直接的に問題に取り組む必要がある。

ヨーロッパでの冷戦の間には、米陸軍は、特定の作戦地域において大規模な戦闘が終了した際に、獲得した成果を強化するために必要な戦闘力を速やかに提供することについて同盟国に依存できた。これは依然として韓国の場合にも当てはまり、多分、米陸軍がNATOの一部として戦う時もそうであろう。そして、少なくとも最初に米陸軍が獲得した成果を強化する必要となる場所は世界には他にもある。これは、我々が、敵の長距離砲、ロケットとミサイル火力の範囲内にある間に、重大な敵機動部隊に拘束されることを避けるために迂回することによってハイテンポの攻撃的作戦を遂行する時に特に重要である。FM 3-0では、「軍団と師団長が支援地域、近接地域、縦深地域内の部隊の負担を減らすことによって行動の自由を促進するするための作戦地域として、隷下の階層に対して強化地域を指定する」としている。師団では、これは、追加の旅団戦闘チーム(BCT)によって一般的に実行され、戦域軍が統合部隊指揮官に部隊を編成する時に説明されなければならない。軍団は師団にその強化地域に対する責任を与え、師団が勢いを維持するために前進し、部隊の境界をシフトすることで拡大される。

我々が作戦を計画して、部隊を割り当てるとき、我々は的確で信頼できる幕僚見積を行う際の一部として、獲得した成果を強化するための要件を説明しなければならない。

強化地域は、部隊に対して、迂回部隊を撃破し、緊要地形と施設をコントロールし、市民センターを安全にするために、最初に行う攻撃、防御と必要な最小限の安定化タスクを指定する等、動的である。時間が経過し、状況が熟すにつれて、混合した戦術的タスクは各々の強化地域で安全化と安定化が等しくなっていく。しかしながら、安全化に関連したタスクは、常に最優先項目である。獲得した成果を強化するための計画策定と執行は、敵の抵抗の全ての潜在的な手段を説明しなければならず、もし、我々が永続的な結果を生み出したいならば、搾取と追撃としてアプローチする。このことは、敵に異なる戦いを強要して再編成の時間を与えないために重要である。

上記のように、部隊の指定した強化地域は付加的であって、戦闘力を近接地域から引き抜くことを意図していない。我々が作戦を計画して、部隊を割り当てるとき、我々は的確で信頼できる幕僚見積を行う際の一部として、獲得した成果を強化するための要件を説明しなければならない。獲得した成果を強化するための要求は、我々が無視しても無くならず、対処が遅れればより長期化し、テンポを維持するための部隊の能力に対する影響はより大きくなり、おそらく、要求への課題は全体的なものになっていく。米陸軍は、獲得した成果を強化するために常にタスク編成してきた。それは、インド戦争、南北戦争後の再建の間、米西戦争間、第二次世界大戦と韓国の間、そして、ヴェトナム、ハイチ、イラクとアフガニスタンで、成功の様々な度合がある。どのように我々が成功したかは、それらの戦争や紛争が今日どのように評価されているかが示している。

この考えには明らかな含意がある。諸軍種連合作戦を遂行するために、タスク編成された後続支援部隊は重要である。この部隊は戦域に置くことも、あるいは、展開プロセスの後半に到着させることもできる。有志連合の部隊は、しばしば強化地域への指定に適している。最大の含みは、「より多くの部隊が必要で、敵を戦場で撃破するために割り当てられなければならず、まさに単に敵を戦場で撃破する以上に、戦略的目標を達成するために獲得した成果が強化されなければならない」ということである。

米陸軍の階層と作戦上の枠組み:Army Echelons and the Operational Framework

FM 3-0は、サイバースペースと宇宙で有効な能力、電子戦と非常に競合された情報環境の重要性を認めている。それは、戦域軍、軍団と師団によって遂行される作戦にそれらの地域を入れた最新のドクトリンの鍵となる側面である。優位な位置を獲得し利用するために地上部隊を支援するそれらの能力をまとめることは、師団とそれ以上のレベルで演じられる重要な役割である。近接地域で戦闘する旅団戦闘チームは、すでに彼らのコントロール下で効果的にそれら以外のマルチ・ドメイン能力を計画し使用するための時間または能力が不足している。運動性、致死性と防護性は、地上戦闘の間、旅団以下の階層で認知的焦点を支配する。戦域軍、軍団と師団は、近接戦闘からはるかに十分離れており、作戦的な枠組み全体のより幅広い観点を持っており、それぞれのドメイン内に常駐する能力を、隷下の階層部隊の行動の自由を可能にするための時間と空間を収斂するために調整され、そして同期化する。戦域軍、軍団と師団は、機会の窓を特定して利用する。

近接地域で戦闘する旅団戦闘チームは、すでに彼らのコントロール下で効果的にそれら以外のマルチ・ドメイン能力を計画し使用するための時間または能力が不足している。

我々がどのように作戦的な枠組みについて考えるかについては変化した。考える最初の違いは、我々がもはや線形や非線形の構造について討議しないということである。その代わりに、FM 3-0は図上オーバーレイ上の物理的な線を気にせずにすべての作戦についての非線形の本質をより上手く説明する、作戦の隣接地域と非隣接地域を持っている。次に、そして、最大の違いは、作戦的な枠組みの各々の地域が特定の階層の焦点と関わりのある、物理的、時間的、認知的、仮想的な考慮事項を有しているということである。複数のドメイン全体に時間と空間に階層特有の焦点を置くことなしに、おそらく誰もが近接戦闘と現状の作戦に焦点を定めているという可能性がある。

作戦的な枠組みの考慮事項は、指揮官と参謀に地上での作戦の文脈上の複数のドメインと情報環境を考察するための方法を提供する。考慮事項は、いかなる特性の状況でのドメインでも同様に関連付けられ、作戦的な枠組みが異なる地域で作戦する異なる階層に対しては異なった含みを持つ。物理的考慮事項と時間的考慮事項は、空間と時間に関係し、長い間、我々の中に存在していた。認知的考慮事項は、敵の意思決定、敵の意志、我々の意志と住民の振舞いに関連するものである。仮想的な考慮事項は、友軍と脅威の双方のサイバースペースに存在する活動と実体に関わるものである。まとめると、4つの考慮事項は、指揮官と参謀に、全ての会戦がマルチ・ドメイン・バトルであって、以前から存在していたという現実の説明を可能にするものである。

海上能力は、2000年以上の間、地上戦闘に影響した。航空能力は、1世紀以上同じであったが、一方で、宇宙の能力が40年以上我々と共にあったことになる。サイバースペースさえ、ほぼ20年の間重要な役割を演じている。戦術的に焦点を当てた物理的モデルを越えた作戦的な枠組みを明確に拡大することによって、FM 3-0は、武力紛争に至らない作戦間、小規模の不測事態間、大規模な地上戦闘間の範囲の制約を解き放たれた能力の適用を説明しており、そうして、我々の戦術的作戦に永続的な結果を達成するために我々が獲得した成果を強化することになる。

この先に向けて:The Way Ahead

新しいFM 3-0には、対等な敵対者とほぼ対等な敵対者が戦略的優位の地位を獲得することを予防するために、世界中で他のタイプの作戦を同時に遂行しながら、大規模な地上戦闘に米陸軍が再適合するための重要な含みがある。現在の作戦環境での軍事的な成功を収めるために必要な考慮事項の多くは基本的に不変であるが、変化することは重要である。米陸軍部隊は、国家が彼らに行うことを求めるその他の任務に代えて大規模な地上戦闘だけ焦点を置くだけの贅沢は持っていないが、同時に、米陸軍部隊は、ますます不安定な世界でそれらの種類の作戦の準備をしなくて済むほどの余裕はない。大規模な地上戦闘の準備ができていることで、抑止の信頼性を作り出して、世界的な安定度に貢献できる。部隊を適切に混合して作戦を遂行するために、戦域軍、軍団、師団と旅団にふさわしいドクトリン上の要求を整えることで、作戦的ゴールと戦略的ゴールを達成するための戦術的なタスクを実行することができる。我々は、我々が我々の新しい作戦的なドクトリンを部隊の中に一体化することで、我が米陸軍全体で活発な専門職業的な議論が期待できる。その専門職業的な議論は、疑う余地なく将来のより多くの変化を知らしめて、より良い米陸軍を作ることになるだろう。

ノート

[1] Michael Lundy米陸軍中将は、米陸軍諸職種連合センター(CAC)の司令官とカンザス州フォート・レヴェンワース米陸軍指揮幕僚大学の司令官である。彼は戦略的研究で理学修士を持つ、米陸軍指揮幕僚大学と米陸軍士官学校の卒業生である。彼はアラバマ州フォート・ラッカーの米陸軍の航空科のセンター・オブ・エクセレンスの司令官として勤務し、そして、ハイチ、ボスニア、イラクとアフガニスタンに従軍した。

[2] Richard Creed米陸軍大佐は、フォート・レヴェンワースの諸軍種連合ドクトリン部局の責任者でありFM 3-0「作戦」の著者の一人でもある。彼は、米陸軍士官学校の学士、米陸軍高等軍事研究学校(SAMS)の理学修士と米陸軍士官学校の理学修士を持つ。彼の任務には、ドイツ、韓国、ボスニア、イラクとアフガニスタンの視察を含む。.

[3] FM 3-0, Operations (Washington, DC: U.S. GPO, 6 October 2017).

[4] 【訳者註】本記事では「consolidate gains」を「獲得した成果を強化する」と訳した。Consolidateは統合するとか一纏めにするという意味があるが、FM 3-0での文脈から「強化する」という訳を使用した。

[5] Ibid., figure 1-4.

[6] 【訳者註】「Consolidation Area」は、前出の「Consolidate gain」を行う地域として捉え翻訳では「強化地域」とした。