「FM 3-0 Operations」(2022年版)【第5章 危機の間の作戦】

「FM 3-0 Operations」(2022年版)【第4章 武力紛争以下の競争間の作戦】に続いて、【第5章 危機の間の作戦】を紹介する。

「はじめに:Introduction」によると、「第5章では、陸軍が危機の際にどのように選択肢(option)を提供し、政治的狙いの達成を継続しつつ武力紛争を防いでいるのかを解説している。」とある。

危機が武力紛争へ移行しないようにする抑止措置において、軍事(各部隊階層)が果たす役割などが述べられている。柔軟抑止選択肢(FDO)や柔軟対応選択肢(FRO)の考え方、紛争に移行させないための戦力投射(Force Projection)、陸軍の各部隊階層の行うべき措置など、軍事の具体的行動があるからこそ紛争の抑止となりえることが学べる。(軍治)

第5章 危機の間の作戦:Chapter 5 Operations During crisis

危機の間の作戦の概観:OVERVIEW OF OPERATIONS DURING CRISIS

危機の間の敵対者の手法:ADVERSARY METHODS DURING CRISIS

作戦保全:OPERATIONS SECURITY

相対的優位性:RELATIVE ADVANTAGES

危機の間の統合部隊への陸軍の支援:ARMY SUPPORT TO THE JOINT FORCE DURING CRISIS

戦力投射:FORCE PROJECTION

危機の間の陸軍部隊階層:ARMY ECHELONS DURING CRISIS

獲得した成果を集約・強化する:CONSOLIDATING GAINS

競争又は武力紛争への移行:TRANSITION TO COMPETITION OR ARMED CONFLICT

第5章 危機の間の作戦:Chapter 5 Operations During crisis

1930年代は、我々に明確な教訓を与えてくれた。攻撃的な行為、それが、もし野放しにされ、挑戦されないままであれば、最終的には戦争につながるということだ。

ジョン・F・ケネディ大統領

本章ではまず、戦略環境と危機の間(during crisis)の敵対者(adversary)の行動で生じる大まかな傾向について論じる。そして、危機の間(during crisis)に相対的優位性を得ようとする統合部隊指揮官(joint force commanders :JFC)に陸軍部隊(Army forces)がどのように選択肢を提供するか、また、陸軍がどのように戦力を投射するかを論じる。そして、戦域軍、軍団、師団、旅団の役割について説明する。本章の最後は、獲得した成果を集約・強化し、再び競争あるいは武力紛争に移行することについての議論である。

危機の間の作戦の概観:OVERVIEW OF OPERATIONS DURING CRISIS

5-1. 危機(crisisとは、米国、その国民、軍事力、または重要な利益に対する脅威を伴う事件または状況であり、急速に発展し、国家目標を達成するために軍事力と資源の投入が考えられるほど外交的、経済的、軍事的に重要な状態を作り出すものである(JP 3-0)。危機は、敵対者(adversary)の行動や差し迫った行動の兆候の結果である場合もあれば、自然災害や人災の結果である場合もある。危機の間、相手(opponents)は、彼らの目標を達成するための主要手段としてまだ殺傷力を行使していないが、状況は潜在的に、さらなる侵略を抑止するために闘う準備をした部隊による迅速な反応を必要としている。陸軍は、指示があれば、さらなる挑発を抑止するための能力と、通常の抑止力を維持または再確立するための十分な戦闘力を、統合部隊指揮官(JFC)に提供する。重要な陸上部隊の導入は、コストをかける意志を示し、統合部隊と国のリーダーに選択肢を提供し、国の高いコミットメントを示すものである。同盟国部隊やパートナー国部隊が地上に永続的に存在する効果は、航空戦力や海上戦力だけでは容易に再現することができない。

5-2. 危機対応作戦(Crisis response operations)は、高度な変動性と不確実性を特徴とする。危機は何の前触れもなく発生することもあれば、十分に予期されていることもある。その期間も予測不可能である。さらに、敵対者(adversaries)は自らを、米軍部隊、同盟国部隊、パートナー国部隊とは異なる文脈や紛争状態にあると知覚することもある。一方が危機と見ていても、他方は武力紛争や競争と知覚しているかもしれない。陸軍のリーダーは、柔軟性を発揮し、作戦環境の変化を予測し、信頼できる効果的な選択肢を統合部隊指揮官(JFC)に提供する必要がある。そのためには、新しい状況に素早く適応できるよう訓練された部隊と、戦術的行動と政策目標の達成を結びつけることに長けた指揮官と参謀が必要である。

5-3. 採用された能力にかかわらず、危機がもたらす結果は一般に2つに大別される。抑止力が維持され、デ・エスカレーションが起こるか、武力紛争が始まるかである。このため、陸軍部隊(Army forces)はどちらのタイプの変化にも備える必要があるが、危機の間(during crisis)に展開する部隊は常に、闘うために展開することを想定している。陸軍部隊(Army forces)は武力紛争に備える一方で、不用意なエスカレーションを避けるため、敵対者(adversary)が何をしようとも武力紛争は避けられないというシグナルを送ることは避けている。一般に、軍団やそれ以上の上位の部隊階層の上級リーダーは、統合部隊指揮官(JFC)や国のリーダーを支援するための公的なコミュニケーションを通じて、こうした知覚に影響を与える。

注:陸軍部隊(Army forces)は、災害対応、人道支援、文民当局への防衛支援に関連する危機にも、タスクが与えられれば対応する。これらの危機的状況および対応の選択肢は、別のドクトリン出版物で扱われている。これらの危機の種類と関連する対応の選択肢の詳細については、JP 3-28、JP 3-29、ADP 3-07、ADP 3-28、FM 3-07 および ATP 3-57.20 を参照されたい。

危機の間の敵対者の手法:ADVERSARY METHODS DURING CRISIS

5-4. 危機は、敵対者(adversary)が力の脅威(threat of force)で相手(opponents)を強制し、威嚇するために積極的に行動することによって引き起こされることが多い。敵対者(adversary)は、米国、同盟国、またはパートナーの危機の閾値を超えると、米軍の対応を制限または防止するために、危機を形成し統制しようとする。敵対者(adversary)が状況を統制しようとする場合、リスクの計算を含む状況の評価に基づき、活動をエスカレートさせたり、デ・エスカレートさせたりすることが含まれる。敵対者部隊(adversary forces)は、エスカレーションを決定する前に、友軍部隊(friendly forces)と比較して戦域内で利用可能な能力、能力容量、作戦範囲、全体的に望ましい最終状態、その最終状態を達成する意志について、詳細な分析を行う。慎重に分析した後でも、状況の展開は予測不可能なことがある。対等な敵対者(peer adversaries)の中には、紛争を、暴力の激化や減少が繰り返される継続的な状態であると考える国もある。彼らの行動の激しさを変えれば、たとえ緊張が緩和されたとしても、米国の国益に反対する彼らの戦役が終了するわけではない。

危機を形成する敵対者の活動:ADVERSARY ACTIVITIES TO SHAPE A CRISIS

5-5. 危機が進展すると、対等な敵対者(peer adversaries)は米統合部隊に焦点を当てた情報戦と阻止(preclusion)を通じて、自国の国益になるように状況を形成しようとする。また、外交、経済、情報の手段を用いて、相手(opponents)の政治的リーダーシップと民間人を分断することもある。相手(opponents)の政治的リーダーシップを弱め、相手(opponents)の民間人に不満を抱かせるために、異なる集団間の不信や分裂を導入したり、悪化させたりして、分離(separation)を作り出す。敵対者(adversaries)は、相手(opponents)の不確実性を高め、意志決定を複雑にする方法で軍事力を配置する。これらの活動は、米軍部隊、同盟国部隊、パートナー国部隊からの干渉を最小限に抑え、敵対者(adversary)が状況を利用するための条件を作り出す。

5-6. 敵対者(adversaries)は、情報戦、非通常戦、および犯罪活動を行うために代理人部隊(proxy forces)を使用することがあるが、危機におけるこれらの部隊のバランスと有用性は、競争間の使用と異なる。代理人部隊(proxy forces)は、それが過激派分離主義集団(militant separatist group)であれ、民間軍事会社(private military company)であれ、犯罪ネットワークであれ、状況に応じた能力をもたらし、その能力の活用は戦略的状況の変化に応じて変化する。例えば、犯罪ネットワークは暴力のレベルが高まった環境でも有益なタスクを行うことができるが、競争間と同じレベルの効用はない。同様に、分離主義集団(separatist groups)は通常、後援者の軍や治安機関から大きな支援を受けなければ作戦できず、危機の初期にはそうした支援は別のところに集中する可能性が高い。代理人部隊(proxy forces)は、その限界にもかかわらず、敵対者(adversaries)に危機的状況を形成するための別の手段を提供する。

エスカレーションを統制する活動:ACTIVITIES TO CONTROL ESCALATION

5-7. 対等な敵対者(peer adversaries)は、米国の対応を阻止または対抗するための行動を開始することで、米国との武力衝突を回避するために危機の拡大を統制しようとする場合がある。これらの行動は、外交、情報、軍事、経済の手段を用いて、同盟国やパートナーに焦点を当てることができる。敵対者(adversary)の措置には、軍事的対応をとるには費用がかかりすぎるか、政治情勢に影響を与えるには遅すぎるようにデザインされた既成事実(fait accompliの条件を設定することが含まれる。敵対者(adversary)には、作戦スケジュールの前倒し、情報戦の採用、代理人部隊(proxy forces)への支援拡大、地域の前方展開部隊の増加など、エスカレーションを統制するための選択肢もある。敵対者部隊(adversary forces)はまた、米軍部隊の注意をそらし、最も関心のある地域(area of greatest interest)での対応を拡散させるために、他の戦域で危機を引き起こすこともある。極端な場合、敵対者(adversary)は最初の危機を引き起こした活動に対する米国の反応に呼応して限定的な攻撃を行うこともある。

米国の抑止を軽減する活動:ACTIVITIES TO MITIGATE UNITED STATES DETERRENCE

5-8. 敵対者部隊(adversary forces)は、危機の間(during crisis)の作戦を計画する際、米国の抑止の取組みを緩和し、その作戦が自国の国益を大きく阻害しないようにするために、いくつかの重要な行動を検討する。これらの行動には以下が含まれる。

・ 友軍部隊(friendly force)の脆弱性を明らかにするための限定的な攻撃を行う。これらの攻撃はまた、配備された部隊の抑止力を低下させ、現在および将来のパートナー間の信用を破壊する可能性がある。

・ サイバースペース攻撃や宇宙の能力否定により、陸軍部隊や統合部隊の展開を混乱させたり遅らせたりする。

・ 米国が防衛義務を負わない弱小国を攻撃することで、米国、パートナー国、潜在的パートナー間の国益の格差を利用する。

・ 真の意図を隠すための欺瞞作戦(deception operations)を行う。

・ 危機地域内の住民、組織、政府を懐柔、強要、影響力を行使するための代理人部隊(proxy forces)の利用を増加させる。

・ 危機地域外の潜在的なパートナー国に対する攻撃や武力行使の威嚇により、米国に多重のジレンマを生じさせる。

・ サイバースペース攻撃を含む情報戦による民意(will of the public)へ影響を与える。

・ 米国、同盟国、パートナーの介入を防ぐために核兵器を使用すると脅す。

作戦保全:OPERATIONS SECURITY

5-9. 作戦保全(operations security)は危機下の作戦を成功させるために不可欠である。作戦保全(operations security)プロセスを継続的に採用することで、友軍が常に監視され、発見される危険性があることを知りながら、敵対者(adversary)が友軍部隊(friendly forces)の意図を見抜く能力を制限するための対策と措置が生み出される。作戦保全(operations security)は、タスクと活動の実施方法と、個々の兵士と部隊が指示された基準を満たすことに成功するかどうかの機能である。統合作戦地域(JOA)にいる陸軍部隊は、友軍の情報を防護し、サイバースペース攻撃からネットワークを守るために、厳格な作戦保全(operations security)を行使する。これは、個人の電子機器を使用しないようにし、電磁波の放射を最小限に抑え、指揮・統制(C2)情報システムでの通信を可能な限り制限することで実現する。これにより、ソーシャル・メディアやその他の情報関連の攻撃から兵士を防護し、敵対者(adversaries)が家族をターゲットとして使用する情報を制限する。また、敵対者(adversaries)による部隊とその位置の特定をより困難にし、敵対者部隊(adversary forces)が紛争を冒してでも破壊するほど有利と考えるターゲットを攻撃する動機付けを減少させることができる。危機の間に敵対者(adversary)のソーシャル・メディア攻撃によって引き起こされるストレスは、ソーシャル・メディアを完全に避けることで回避できる可能性がある。偽情報戦役(disinformation campaign)の複合的な効果により、兵士のパフォーマンスと士気は、個人のデバイスやメディア・アカウントにアクセスできない場合よりもはるかに低下するからである。作戦保全(operations security)は、兵士個人レベルに至るまで、すべての部隊階層で継続的に行われる活動である。

相対的優位性:RELATIVE ADVANTAGES

5-10. 危機の間、陸軍部隊(Army forces)はこれまでに得た知識と経験を生かし、敵対者(adversary)の侵略(aggressions)や脅威に対応するため、戦域を設定しながら開発したシステム、プロセス、インフラを使用する。このような準備と経験は、成熟した戦域では陸軍部隊(Army forces)、同盟国、その他の連合軍に良い出発点を与えるが、危機への移行はほとんどの場合混乱し、陸軍リーダーに迅速な対応を必要とする不測の事態をもたらすことになる。したがって、陸軍部隊(Army forces)は、競争の間に得た情報的優位性、人的優位性、物理的優位性を基に、摩擦を緩和し、敵対者(adversaries)を抑止し、必要な場合は武力紛争に移行させる。

危機の間の物理的優位性:PHYSICAL ADVANTAGES DURING CRISIS

5-11. 危機の間(during crisis)に物理的優位性を得るには、ホスト国軍と協力して信頼できる防衛を形成し、戦域における同盟国部隊の生存能力を確保することである。重要な地形や決定的な地形がある場合、陸軍部隊(Army forces)とホスト国のパートナーは、危機の初期にその地形の防衛を設定することで、敵対者(adversaries)を抑止しようとすることがある。戦域にいる陸軍部隊(Army forces)は、紛争が差し迫っていることを想定し、攻撃が発生しうるすべてのドメインで攻撃から守るために利用可能なすべての手段を講じる。

5-12. 危機の間(during crisis)、陸軍の戦闘力は当初、少数の前方駐留部隊(forward-stationed forces)、陸軍の陸軍事前配置在庫(APS)を迅速に引き出せる部隊、および敵対者部隊(adversary forces)を威嚇して作戦地域(AO)に強制侵入させるための部隊に限定される可能性がある。この戦闘力は、統合部隊指揮官(JFC)が攻撃作戦を実行可能にするのに十分な陸上戦力を獲得するまで、防御態勢で使用される可能性が最も高い。その意図は、陸軍部隊(Army forces)の戦闘力を、敵対者部隊(adversary forces)に対して攻撃的な作戦で信頼に足る脅威を与えることができる程度まで高めることにあるはずだ。理想的には、これによって敵(enemy)のさらなる行動を抑止することである。しかし、抑止が失敗した場合、この戦力は、米国の国益にとって有利な条件で終了する武力紛争を促進する。よく整備された地域では、陸軍の戦闘力は前方に駐留し、防衛計画の重要な部分としてパートナー国部隊と一体化される可能性が高い。敵対者(adversary)の初期攻撃を中断させ、大幅に低下させることができるこの信頼できる陸上戦力は、陸軍部隊(Army forces)の潜在的抑止を最大化させる。

危機の間の情報的優位性:INFORMATION ADVANTAGES DURING CRISIS

5-13. 情報活動で重要なのは、友軍の情報を防護することと、脅威が関連する主体や住民とコミュニケートし、感知し、効果的な意志決定を行い、影響力を維持する能力を低下させることの2点である。例えば、国際法違反を暴き、敵対者(adversary)のナラティブが誤りであることを示すことで、敵対者(adversary)の信頼性を低下させる戦略的メッセージングの利用が挙げられる。情報的優位性を確保することは、指揮官主導で行われる諸兵科連合の活動であり、あらゆる用兵機能(warfighting function)の能力を活用することになる。危機の間、指揮官が参謀を率いて、競争の間に策定した計画とプロセスに基づいて、情報活動を洗練させる。例えば、指揮官と参謀は、ミッション・パートナー環境の構築、インテリジェンス・アーキテクチャの構築または修正、同盟国や他のパートナーとの共通作業手順の作成または精錬といった課題やタスクに集中する。

危機の間の人的優位性:HUMAN ADVANTAGES DURING CRISIS

5-14. 同盟国や連合パートナーとの永続的な関係は、危機の進展に伴い、戦場の戦略レベルでは構築されているかもしれないが、作戦・戦術レベルでは、部隊が互いに活動した経験が少ない可能性が高い。戦域に展開する部隊は、地域的に連携していたり、専門的な軍事教育や訓練の場で一緒に働いたりしていれば、パートナー国の治安部隊と活動した経験があるかもしれないが、ほとんどの場合、そのような経験はないだろう。そのためには、統合と多国籍のパートナーと共に働いてきたリーダーが、効果的な連合作戦に必要な相互運用性の最も重要なタスクに参謀を集中させることが必要である。また、異文化を相手にする場合、状況を完全に理解することは困難であることを認識する必要がある。戦域軍が競技中に構築した連絡網を活用すれば、陸軍部隊(Army forces)の展開と同時に戦域での訓練演習を行うことができる。これにより、早期の共通理解が促進され、リーダーと下位部隊が最も迅速かつ効率的な方法で同盟国部隊やパートナー国部隊と一体化できるようになるとともに、敵対者(adversaries)に決意を示すことができる。戦闘行為に対する準備態勢と米軍部隊、同盟国部隊、パートナー国部隊間の相互運用性が実証されれば、敵対者(adversary)のリスク計算を狂わせ、さらなる侵略(aggression)を抑止するのに役立つ。

危機の間の統合部隊への陸軍の支援:ARMY SUPPORT TO THE JOINT FORCE DURING CRISIS

5-15. 軍隊は、柔軟な抑止力と対応選択肢を提供することで、危機の間(during crisis)の統一した行動パートナーを支援する。「柔軟な抑止選択肢(FDO)」とは、抑止力重視の行動から始まり、望ましい効果を生み出すために慎重に調整された、相互に関連する幅広い対応を展開することで、早期の意志決定を促すことを意図した計画策定構成である。「柔軟な対応選択肢(FRO)」とは、敵(enemy)の脅威や攻撃に効果的に対応するために特別にタスク編成され、危機の現況に適応できる軍事能力である。and joint force FDOs and FROs.)

 

図5-1. 柔軟な抑止力と対応策の同時選択例

「柔軟な抑止選択肢(FDO)」と「柔軟な対応選択肢(FRO)」は、国力の手段である外交(diplomatic)、情報(informational)、軍事(military)、経済(economic)(DIMEと呼ばれる)にわたって発生し、軍事だけに限定されるものではない。これらは、ほぼ同時に一体化され、実施されたときに最も効果的である。「柔軟な抑止選択肢(FDO)」と「柔軟な対応選択肢(FRO)」の同時進行の例を図5-1に示す。(外交、経済、情報、および統合部隊の「柔軟な抑止選択肢(FDO)」と「柔軟な対応選択肢(FRO)」の他の例については、JP 5-0を参照)。

5-16. 脅威と敵部隊(enemy forces)が何を重要視しているかを判断することは、敵の望む最終状態、関連する行動方針、および兵力の投入に関する米国の理解につながる。これによって戦略的リーダーは、敵対者(adversaries)の目標達成を阻止するために、外交、情報、経済活動と連携して適用すべき適切な軍事力の量を決定することができる。陸軍の貢献のうち、統合柔軟性抑止・対応選択肢を支援するために迅速に展開できるものの例は、5~6ページの表5-1に示している。

表 5-1. 陸軍の統合柔軟抑止力および対応策への貢献の潜在的な可能性

統合柔軟抑止選択肢(FDO)への陸軍の貢献例

  指揮・統制本部-野戦軍の設立または軍団・師団の配備。

戦域弾道ミサイルから重要なインフラや人口密集地を守るための防空。

戦域配属司令部の能力拡張のための追加人員。

状況理解、ターゲッティング、情報活動を支援するためのインテリジェンス・アセット。

治安部隊支援旅団を派遣し、連絡能力の確立や治安部隊支援を実施する。

受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)を促進するためのインフラの構築または拡張、および後後方支援能力容量の向上。

統合柔軟対応選択肢(FRO)への陸軍の貢献例

 統合強行突入を行うために配置された空挺部隊または航空攻撃部隊。

  陸軍事前配置在庫(APS)を引き出す旅団戦闘チーム。
  統合部隊を受入れるための開港。

 敵対者(adversary)の接近阻止(A2)および領域拒否(AD)活動に対応するためのマルチドメイン・タスク・フォース。

  対外的な内部防衛、直接行動、または特殊偵察などを行う特殊作戦部隊。
  民軍作戦と組織間協力を可能にするための民事。
  大量破壊兵器の利用に対応するための化学、生物、放射線、核兵器部隊。

 

5-17. 「柔軟な抑止選択肢(FDO)」が危機の発生や悪化を防ぐことを主に意図するのに対し、「柔軟な対応選択肢(FRO)」は米国の国益に対する攻撃を先制したり、それに対処したりするためのものである。「柔軟な抑止選択肢(FDO)」は、武力紛争を伴わずに問題を早期解決するために慎重に調整された、抑止力指向の事前計画的行動であり、脅威の行動の明確な警告の前または後に開始されることが可能である。これに対し、「柔軟な対応選択肢(FRO)」は敵対者(adversaries)の侵略(aggression)に対応して採用されるものであり、望ましい効果を生み出すために慎重に調整された幅広い行動を展開することで、早期の意志決定を促進することを意図している。「柔軟な抑止選択肢(FDO)」や「柔軟な対応選択肢(FRO)」は、味方の「柔軟な抑止選択肢(FDO)」や「柔軟な対応選択肢(FRO)」が先制攻撃の準備として使われていると敵対者(adversary)のリーダーが認識した場合に、武装反応を引き起こすなどの望ましくない効果を避けるために、タイミング、効率、効果の面で意図的に調整される必要がある。

5-18. 「柔軟な抑止選択肢(FDO)」と「柔軟な対応選択肢(FRO)」は、3つの基本的な目的を果たす。第1に、敵対者(adversaries)に対して、米国の侵略(aggression)に対抗する意志と能力を目に見える形で、かつ信頼できるメッセージとして伝えることである。第2に、武力紛争が発生した場合に、作戦計画や不測事態対処計画(contingency plans)の実施を容易にする方法で米軍部隊を位置づけることである。第三に、統合および国家の上級リーダーに選択肢を提供する。また、意志決定者が敵対者(adversary)の能力と意図をよりよく理解するために、状況を発展させることができるようにする。「柔軟な抑止選択肢(FDO)」と「柔軟な対応選択肢(FRO)」は、進行中の統合作戦の範囲外ではあるが、それに加えて抑止力を高めるために実行される不測事態対処計画(contingency plans)の要素である。「柔軟な抑止選択肢(FDO)」と「柔軟な対応選択肢(FRO)」の主な到達目標は以下のとおりである。

・ 条約上の義務や地域の平和と安定に対する米国のコミットメントの強さを伝える。

・ 敵対者(adversaries)の侵略(aggression)の可能性に対して、受入れがたい代償を突きつける。

・ 敵対者(adversaries)を地域の近隣諸国から孤立させ、敵対者(adversary)の連合を分断する。

・ 敵対者(adversaries)の武力応答を誘発することなく、作戦地域の軍事的均衡を迅速に改善する。

・ 敵対者(adversary)の能力及び意図をより良く理解し、状況を発展させる。

5-19. リーダーは、危機に対処するために陸軍部隊(Army forces)の増強を勧告する前に、自制心を働かせ、リスクを注意深く計算する。対等な敵対者(peer adversaries)はグローバルな能力を有しており、危機を別の戦域に水平展開することで、米軍部隊に複数のジレンマを生じさせることができる。ある地域で兵力を増強すれば、危機には対処できるが、別の地域の敵対者(adversaries)や敵に機会を与える可能性がある。リーダーは、特定の危機に対処するために部隊を投入する場合、他の戦闘司令部への2次、3次の影響と、国土へのリスクを予測しなければならない。効果的な対応作戦の例として、1976年に韓国で発生したものがある。

効果的な対応:オペレーション・ポール・バニヤン

1976年8月18日、北朝鮮の小隊は、軍事会談のために設けられ、米軍と北朝鮮が統合で警備していた統合警備区域で、通常の木の剪定作業を行っていた米韓両軍の小部隊を攻撃した。北朝鮮軍は米軍将校2人を殺害し、韓国軍兵士5人を負傷させ、すでに緊張状態にあった安全保障体制をエスカレートさせた。

リーダーたちは、この行為が在韓米軍に対するアメリカの支持を失墜させようとする試みであると評価した。米国のリーダーたちは、複数の対応策を検討した。迅速かつ致命的な対応を主張する者もいたが、米軍主導の同盟は、エスカレーションを避けつつも同盟の結束と決意を示すための行動方針を実行に移した。

攻撃から3日後、数十人の米軍と韓国軍が、いわれのない攻撃があった同じ場所に再占領し、木を伐採した。戦力と連合の準備態勢を示すため、数百人の米韓軍兵士が作業部隊の監視を行った。陸軍部隊(Army forces)も攻撃用ヘリコプターを配備し、必要に応じて大砲を使用できるように準備しました。この武力の誇示は、より大規模な統合対応策の一部であった。フォード大統領は、米軍部隊に防衛条件3を命じ、戦略爆撃機を配備し、米空母を展開した。この作戦は、北朝鮮の悪質な活動に注目させ、国際社会から北朝鮮をさらに孤立させながら、状況をデスケーリングさせた。この作戦により、北朝鮮は事件を反省していることを認めざるを得なくなり、統合警備区域での部隊の分離に合意した。この対応により、国連ミッションに対する国際的な支持が強まり、米韓両軍の結束も強まり、事件は解決した。

戦力投射:FORCE PROJECTION

5-20. 陸軍部隊(Army forces)を作戦地域に投射する能力の実証は、通常戦力の抑止に不可欠な要素である。陸軍部隊(Army forces)は、その展開のほとんどを統合揚陸艦能力に依存している。戦力投射(Force projectionとは、軍事作戦の要件に応じ、米国または他の戦域から国力の軍事手段を投射する能力である(JP 3-0)。

5-21. 危機の間、地上軍は統合部隊指揮官(JFC)に対し、主に他のドメインに集中する、あるいは他のドメインを通過する部隊よりも永続的な選択肢を提供する。陸軍部隊(Army forces)は地上を無期限に占領することができる。しかし、陸上での作戦という性質上、陸軍の持続的なプレゼンス維持能力ははるかに高い。陸上部隊が敵対者部隊(adversary forces)に物理的に接近する可能性があるため、統合部隊指揮官(JFC)は敵対勢力をより深く理解することができ、作戦のテンポを決定するのに役立てることができる。

5-22. 陸軍部隊(Army forces)は、前方に駐留する米軍部隊や同盟国・パートナーの部隊を支援するために戦域に部隊を展開することで、永続的なプレゼンスを達成する。これらの部隊は、敵対的活動が始まるかもしれないという挑発、兆候、または警告に対応する作戦をすでに実行している可能性が高い。陸軍部隊(Army forces)は、統合部隊指揮官(JFC)の指示により、さらなる悪質な活動を抑止し、抑止が失敗した場合に成功するための条件を整えることをデザインしたタスク、活動、作戦を実行する。

陸軍の部隊が戦場に前方展開することで、脅威部隊に戦術的・作戦的ジレンマをもたらす能力を提供し、統合部隊指揮官(JFC)が主導権を握り保持することを可能にする。危機の初期段階で陸上部隊を迅速に展開すれば、後に大規模な部隊を展開する必要性を回避でき、同盟国やその他のパートナーも安心できる。また、効果的な早期介入は、敵対者(adversaries)が自らに有利な条件を整えるのに必要な時間を奪うことができる。

5-23. 配備だけでは成功は保証されない。抑止を成功させるには、配備された部隊が武力紛争の間に敵対者(adversary)の成功の可能性を著しく低下させることができると敵対者(adversaries)に確信させることが必要である。敵対者(adversaries)は、陸軍部隊(Army forces)が大規模戦闘作戦を実施するためにどれだけ準備されているか、また、陸軍部隊が全体的な統合対応の一部として特定の状況に導入する能力を注意深く観察することで、武力紛争時の作戦遂行能力を測定しているのである。

5-24. 陸軍部隊(Army forces)が危機への対応を準備する際、統合部隊指揮官(JFC)は展開部隊の最終審査を行い、部隊が適切な順序で展開され、予想される任務に対して効果的にタスク編成ができることを確認する。脅威部隊は、宇宙・サイバースペース能力、人的インテリジェンス、およびオープンソースの収集取組みを用いて、戦力投射(force projection)活動を探知する可能性が高い。計画者は、敵対者部隊(adversary forces)が部隊の展開に対抗するため、本拠地から始まり、移動中、そして戦域に到着後、利用可能なあらゆる手段を用いることを予期しておく必要がある。したがって、作戦保全(operations security)、部隊の分散、欺瞞作戦、および物理的保全が、計画策定上の重要な検討事項である。上級指揮官と計画策定者はリスクを理解し、展開の速度と作戦即応性の両方を満足させるよう、展開を形作る必要がある。(戦力の調整に関する詳細は第3章を、争奪戦の展開に関する詳細は付録Cを参照)。

5-25. 戦力投射(force projection)は、陸軍部隊(Army forces)が発展途上の状況を形成するための時間が未知数であるため、危機の間(during crisis)に特に重要である。しかし、それはどのような状況でも起こりうる。演習の実施、同盟国やパートナーの支援、およびその他の活動のために、競争の間に前方に投射された部隊は、監視下に置かれる。敵対者(adversaries)は、こうした日常的な展開の速度と効率を評価し、抑止効果を発揮することができる。危機の流動的な性質を考えると、戦力投射(force projection)は危機が武力紛争に移行した後も継続する可能性がある。健全な戦力投射(force projection)の計画策定には、以下が含まれる。

・ 戦域開設

・ 動員(mobilization)

・ 配備

・ 輸送中の防護

・ 受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)

・ 部隊の初期運用

・ 後方支援(Sustainment)

・ 再展開

戦域の開設:OPENING THE THEATER

5-26. 危機または武力紛争への移行中、陸軍部隊(Army forces)は展開部隊を受入れるために戦域を開放する。陸軍部隊(Army forces)は、航空・海上・鉄道ターミナルを設置・開放するための既存の計画を実行する。配給システムおよび中間準備基地(intermediate staging bases)は、必要に応じて設置することができる。上位の部隊階層(戦域、軍団、師団の支援部隊を含む)および迅速展開可能な指揮・統制(C2)要素は、後続の戦術部隊の「受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)」のための条件を整えるため、できるだけ早くホスト国軍との一体化を開始する。これには、他の支援国軍との調整も含まれ、同盟または連合全体に展開するすべての部隊にサービス、施設、物資を効果的に配給することを保証する。戦域開放の間、指定された到着部隊は利用可能な陸軍事前配置在庫(APS)を引き出す。これにより、危機や武力紛争の初期段階において、統合部隊指揮官(JFC)は能力容量および能力を向上させることができる。陸軍部隊(Army forces)は、戦域開放作戦を実施する間、戦闘に備えなければならない。最初に展開する部隊は、後続の部隊に反応時間と機動空間を提供する一方で、自らを防衛する能力を必要とする。

動員:MOBILIZATION

5-27. 動員(Mobilizationとは、米国の軍隊またはその一部が、戦争またはその他の国家的緊急事態に備え、即応性の段階に入ることである(JP 4-05).動員(mobilization)の間、陸軍は合同および統合任務部隊(JTF)本部、陸上構成部隊司令部、および展開に指定された陸軍部隊を増強するため、統合要員文書への記入に全力を傾ける。危機の間、戦略的リーダーは、統合部隊指揮官(JFC)に重要な能力を提供するため、米陸軍州兵と米陸軍予備役の一部を動員することを決定することがある。武力紛争時には、戦略的リーダーは一部またはすべての動員制限を解除し、必要な能力を備えた陸軍が敵(enemy)の侵略行為(aggressive act)に対応する能力を高めると思われる。武力紛争のために解除される制限の例としては、選抜予備役の召集や部分動員(partial mobilization)の代わりに、陸軍州兵や陸軍予備役の完全動員(full mobilization)を命ずることが挙げられる。

5-28. 統合部隊の迅速な対応と遠征能力(expeditionary capabilities)にもかかわらず、遠征能力をいくら高めても、物理的距離がもたらす課題を克服することはできない。危機に対応する任務を負った陸軍部隊(Army forces)のほとんどは、通知を受けてから展開地に集合するまでに時間がかかる。現役編成の場合、この期間は一般に数日から数週間であり、陸軍州兵や陸軍予備役の場合、この期間は一般に数週間から数カ月である。大量の装備と人員を持つ部隊の場合、動員プロセスはより長くかかる。

5-29. 一部の部隊は、より高いレベルの即応性を維持するか、または派遣準備状態を維持するよう指示されている。この高い即応性の段階には、主に即応部隊の部隊が含まれる。即応部隊は、各戦闘軍指揮官(CCDRs)に対して、危機に迅速に対応するための限られた能力容量の陸上能力を提供する能力を陸軍に提供するものである。

5-30. ほとんどの陸軍部隊(Army forces)にとって、動員活動は自軍の駐屯地で始まる。一般的な規則として、いったん動員されると、米国内に駐留するほとんどの陸軍部隊(Army forces)の装備が戦略物資輸送で輸送される場合、戦地に展開するまでに少なくとも 30日から45日を要する。この計画策定のタイムラインは、民間輸送インフラを利用した陸軍装備の移動速度が一定であるため、米国が危機や武力紛争に巻き込まれた場合でも同じである。しかし、武力紛争の間に脅威勢力が戦略支援地域全体に大きな損害を与えた場合、これらのタイムラインはさらに延長される可能性がある。この時間枠には、海外到着後の「受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)」は含まれない。また、統合部隊が陸海空の後方連絡線(lines of communications)を防護するのに十分な能力容量を提供できない場合や、複数の大規模部隊の同時移動に十分な海上輸送や空輸ができない場合にも、追加時間が必要になることがある。(脅威部隊によって争われた展開の詳細については、付録Cを参照されたい)。

展開:DEPLOYMENT

5-31. 展開(Deploymentとは、作戦地域内外への部隊の移動である(JP 3-35)。適切な計画策定は、目標達成のために何が、どこで、いつ必要な兵力かを確定する。統合部隊指揮官(JFC)がどのように部隊を使うかは、展開の構造と時期の基礎である。例えば、統合部隊指揮官(JFC)は危機の初期に戦闘準備態勢の旅団戦闘チーム(BCT)または師団を展開し、状況を安定させ、後続部隊のために港を確保するが、後続部隊の移動効率に対するリスクは許容することができる。軍団と師団の参謀は、あらゆる展開の可能性を検討し、並行して計画を策定する。

5-32. ほとんどの陸軍装備は戦略的海上輸送で移動する。装備品が戦地に到着するまでには、数週間から数カ月かかる。指揮官と計画策定者は、強力な航空、海上、宇宙、およびサイバースペース能力を持つ対等な敵対者部隊(peer adversary forces)と闘うための統合展開の課題を、過小評価してはならない。指揮官と計画策定者は、戦場に到着したときに部隊がどのような状態になっているかを思い描き、その一部が計画どおり、あるいはまったく到着しないことを前提に、逆算して計画を立てなければならない。展開の計画策定の目標は、展開活動を同期化し、作戦区域での効果的な作戦遂行を促進することである。展開の計画策定を成功させるには、部隊の展開責任に関する知識、展開に関する理解、および、展開と運用の関連性を理解することが必要である(これらの展開段階と計画策定の詳細については、ATP 3-35を参照されたい。)展開計画に使用される手順は以下のとおりである。

・ 任務を分析する。

・ 部隊の構成

・ 展開データの洗練

・ 部隊の準備

・ 移動のスケジュール

配備の摩擦とそれを克服するための部隊の行動の一例は、2003年に起こった。

配備の摩擦。イラク自由化作戦におけるタスク・フォース・アイアンホース

2003年、タスク・フォース・アイアンホースは当初、侵攻作戦命令に従って部隊の装備一式をトルコに輸送した。しかし、トルコがイラク侵攻のために自国領土の使用を許可しなかったため、装備一式はスエズ運河とクウェートを経由して迂回しなければならなくなった。作戦計画では、トルコに到着後、即戦力となる部隊を編成することが求められていた。

しかし、戦力パッケージを調整することで、米運輸司令部は戦略的海上輸送船の利用可能な面積を最大化することができなくなった。このため、統合部隊指揮官(JFC) が追加アセットを受け取る能力は低下した。さらに、トルコの拒否によって、オディエルノ(Odierno)米陸軍少将は、もはや実現不可能となった作戦に合わせた部隊の新しい行動方針を迅速に策定する必要に迫られた。極端な状況の変化のために摩擦が生じたが、部隊は適応した。戦略レベル、戦域戦略レベルの組織と常に連絡を取り合いながら、これを実行した。オディエルノ(Odierno)米陸軍少将はまた、任務部隊のすべてのリーダーが、計画の変更に応じて計画に一体化されるようにした。こうした取組みの結果、鉄騎特務部隊は、クウェートに到着したときに直面する新しい状況に備えて、クウェートで人員を待機させることができた。

移行間の防護:PROTECTION DURING TRANSIT

5-33. 米陸軍施設管理コマンドは、部隊の展開前活動から陸軍部隊(Army forces)の港から港への移動の間、重要な防護実現者である。このコマンドはほとんどの陸軍施設を管理し、駐屯地司令官は展開中の部隊の防護を保証する。駐屯地司令官は、警察官や警備員とともに、展開準備中の部隊のアセットを防護する。さらに、施設の安全、医療、情報管理担当者は、展開の準備と実行中に部隊を防護する。軍団と師団の職員は、施設の職員と緊密に連携して、防護が必要な情報とアセットを特定し、集団的脅威分析に合致した適切な防護と保全措置を適用する。

5-34. 脅威は部隊の展開を妨害または阻止しようとすることがある。このため、配備部隊の要員および機材が乗船港に移動する際の物理的保全を調整する必要がある。出港港で輸送を待っている間、移動中、および、出港港到着後の人員と機材には、物理的保全が必要である。物理的保全の計画策定は、部隊準備地域(unit staging areas)、部隊と物資が移動する経路沿い、および、作戦地域(AO)への前方移動(onward movement)に先立つ戦術的集結地において、引き続き重視される。

5-35. 米輸送コマンドと軍用陸上展開配備コマンドは、他の国防総省(DOD)活動や港湾当局と連携して、標準化された輸送保全措置と手順、恒常的な監督、中央指揮を行うために、国防輸送保全プログラムを管理する。司令官は、自軍の部隊や装備品の防護措置を本国から乗船港まで計画し、軍用陸上展開配備コマンドは港内の警備を調整する。

5-36. 軍団と師団の参謀は、輸送移動のためのすべての契約プロセスが国防総省(DOD)の保全要件を満たしていることを確認する。彼らは、米国本土の本国の施設輸送担当者、または米国本土外の移動管理チーム、および公認の鉄道または商業トラック輸送業者と、警備と護衛に関する事項を調整する。一部の政府および民間輸送会社は、輸送中の機器および物資を防護するために、限定的な保全対策を提供している。これらの措置には、契約保安要員や部隊アセットを防護するための安全な移送施設の利用が含まれる。

5-37. 軍団や師団の参謀が、空母の安全対策が脅威から見て不十分であると判断した場合、軍団や師団本部には、展開部隊やその関連装備・物資の防護と安全を高めるための選択肢が数多くある。これらの選択肢には、配下部隊に指示して、展開プロセスを通じて装備品や物資を守る兵士を提供させることも含まれる。また、指揮官は部隊に対し、展開の全期間を通じて兵士に特定の機密品を各自の荷物の一部として持たせるよう指示することもできる。

5-38. 軍団および師団指揮官は、海外到着前に各ARFORまたは戦域軍司令部を通じて、派遣部隊が活動する責任地域(AOR)内の全軍を管轄する戦闘軍指揮官(CCDR)に防護計画を提出する。これらの計画は、様々な派遣部隊の防護計画を調整し承認する戦闘軍指揮官(CCDR)が作成した指針に沿ったものでなければならない。

受入れ、準備、前方移動、一体化:RECEPTION, STAGING, ONWARD MOVEMENT, AND INTEGRATION

5-39. 「受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)」は、作戦地域または統合作戦地域(JOA)において、統合部隊指揮官(JFC)に戦闘力を提供するプロセスである。「受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)」は、戦域軍とその関連する戦域後方支援コマンド(TSC)の責任である。対等な敵対者(peer adversary)が存在する危機的状況では、「受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)」はできるだけ多くの分散した場所で迅速に行われ、敵対者(adversary)のターゲッティングを複雑にする必要がある。これは戦域レベルのプロセスであり、部隊、戦域後方支援要員、ホスト国の支援、および営利団体間の慎重な調整が必要である。効果的な「受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)」は、要員とその装備品をマッチングさせ、これらの出発港を通過する間のステージングと後方支援の要件を最小化し、可能な限り迅速に前方移動(onward movement)を開始させる。派遣部隊は、到着後、一体化を達成し、戦闘態勢を維持するために、事前に作成した計画を理解し、実施する必要がある。(「受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)」の実施に関連する要因と考慮事項については、JP 3-35とATP 3-35を参照。)

受入れ:Reception

5-40. 受入れ(Receptionとは、戦略展開および/または戦域内展開の段階から、海、空、または地上の輸送地点から待機地域まで、人員、装備、資材の受領、荷下ろし、待機、会計、輸送を行うプロセスである(JP 3-35)。地上に戦闘力を導入する最初の段階として、受付は「受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)」作戦の成否を決定する。効率はスピードを生み、そのためには摩擦を克服する柔軟な計画が必要である。

5-41. 戦域軍または指定された後方支援部隊(通常、指定された戦域後方支援コマンド(TSC))は、戦略揚陸活動から指定された空港および海港の近辺で受入を実施する。各戦場の受入れ計画は様々であるが、受入れ能力容量は少なくとも計画された戦略的リフトの輸送能力に匹敵するものでなければならない。少なくとも、戦域軍は計画策定中に、統合指揮・統制(C2)、移動制御、および港湾業務の影響を考慮する。さらに、指揮官とその参謀は、敵(enemy)の特別目的部隊や長距離火力に対する脆弱性に基づき、受入れ作戦を計画策定・実施する際に分散、防空・ミサイル防衛(AMD)、その他の安全対策を検討する。

準備:Staging

5-42. 準備(Stagingとは、到着した人員、装備、維持物資を、前方移動(onward movement)の準備のために集め、保持し、組織化することである(JP 3-35)。準備(staging)は、「受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)」作戦の中で、部隊の要員とその装備を結びつけ、統合部隊指揮官(JFC)による前方移動と運用に備える部分である。準備(staging)期間中、派遣部隊の任務能力は限られており、一般に自立はできない。ほとんどの部隊は、準備(staging)中に大規模な整備、補給、防護、生命維持を必要とする。場合によっては、船舶や航空機での輸送後に、装備を再構成する必要がある。

前方移動:Onward Movement

5-43. 前方移動(onward movement)とは、部隊と後方支援を受入れ施設や集結・準備地域(staging areas)から、戦術的集結地や他の作戦地域へ移動させることである。多くの外的要因が前方移動(onward movement)に影響を与える。その中には輸送アセットの利用可能性や、将来の上位部隊階層の司令部の要求も含まれる。これらの要因は、部隊がその準備地域(staging areas)からそれぞれの作戦地域(AO)に向かって移動する順序を決定する。軍団または師団司令部と、その付属および支援する師団または旅団の作戦地域(AO)への移動計画は、安全性と柔軟性のバランスを維持する。

5-44. 軍団や師団の指揮官は、その参謀や一体化セルに大きく依存し、必要なすべての軍や文民機関との予測作戦地域(AO)への移動計画を調整し終える。兵站分配ネットワークは米軍、ホスト国、または軍と文民機関の組み合わせで運営されることがある。適切な参謀本部と部隊は、下位部隊の移動要件を満たすために利用できる適切な経路と揚陸アセットの数を検討する。その他の考慮事項は以下のとおりである。

・ 経路の建設

・ 道路、経路の改良、維持管理

・ 橋梁、暗渠の補修。

・ 爆発物を含む障害物の除去。

・ 河川、空隙の架け橋

・ 経路上の安全確保

・ 輸送隊支援センターの設置

・ 経路上の民間人の移動の自由または制限を可能にするための交通管理。

・ 通信アーキテクチャ

・ 米軍部隊と同時に移動する同盟国及びその他のパートナーの要求事項。

部隊の一体化:Integration of Forces

5-45. 「受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)」において、一体化とはミッション遂行に先立ち、部隊を作戦指揮官の部隊に調整し編入することである。一体化は、統合部隊指揮官(JFC)と新部隊が任務を認識した時点から開始できる。統合部隊指揮官(JFC)は戦力投射(force projection)のプロセスを通じて、受入部隊に初期および定期的な状況更新を提供することができる。統合部隊指揮官(JFC)は派遣部隊に対し、戦域到着前および到着後に達成すべき訓練要件を定めている場合がある。一体化は、すべての用兵機能(warfighting functions)にわたって行われる。一般に、部隊が作戦を実施する前に一体化する時間が長ければ長いほど、その部隊はより良い成果をあげることができる。しかし、状況によっては、迅速な一体化が必要な場合もある。したがって、指揮官は部隊の一体化のテンポを決定する際、任務と兵力に対するリスクのバランスをとる。

5-46. 派遣部隊が他の部隊と交代する場合、一体化の間に定位置救援が行われる。危機の間(during crisis)の派遣部隊の一体化は、おそらくすでに配置されている米軍とホスト国の部隊を増強するものであり、陣地救援は必要ないが、側面の部隊と連絡を取ることは必要である。どのような状況であっても、戦闘可能な部隊(combat-ready units)の指揮は一体化の間に受入側指揮官に移される。戦闘軍指揮官(CCDR)、他の統合部隊指揮官(JFC)、または陸上部門指揮官が、到着した部隊に対する積極的な統制を確立したとき、一体化は完了する。これは通常、部隊が任務を遂行できるようになれば、前方集結地で発生する。

5-47. 派遣される師団または旅団が統合作戦地域(JOA)に最初に到着する米軍である場合、安全、防護、後方支援、および技術支援能力を備えたタスク編成の先遣隊(advance party)を派遣する必要があるかもしれない。部隊の移動準備の一環として、先遣隊(advance party)は師団、旅団、付属アセットから調達されるか、外部部隊から提供される。これは特に、展開前の現地調査で、作戦地域(AO)に師団または旅団の作戦を支援するための十分なインフラがないと判断された場合に当てはまる。展開の進行に伴い、利用可能な兵力数が変化すると、存在する部隊の数も増え、部隊の配置や作戦地域(AO)の規模も変化する。より経験豊かなリーダーシップが求められる状況において、この先遣隊(advance party)を率いるのは、副指揮官と選ばれた参謀であることが必要な場合がある。彼らは、現地の軍や文民のリーダーと対面して調整を行い、部隊の残りの部分の土台を作る。

5-48. 部隊の展開活動は、すべての展開部隊が割り当てられた統合作戦地域(JOA)内で「受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)」を完了した時点で終了する。「受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)」の具体的内容は、その統合作戦地域(JOA)内で優勢な作戦と任務の変数という具体的な状況を反映するものである。(統合「受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)」の要件については、JP 3-35を参照)。

部隊の初期の運用:INITIAL EMPLOYMENT OF FORCES

5-49. 危機の間の陸軍部隊(Army forces)の初期運用は、ほとんどの場合、「柔軟な抑止選択肢(FDO)」または「柔軟な対応選択肢(FRO)」の一部となる。この部隊は、統合作戦の初期段階、あるいは戦力誇示を意味することもある。この初期運用の目標は、敵対者(adversaryのさらなる侵略(aggression)を抑止し、後続の陸軍部隊および統合部隊を受入れる戦域を拡大し、敵対者(adversaryの増勢を阻止するために敵国軍と信頼できる防衛を形成することである。堅牢な戦域インフラ、多数の前方駐留部隊(forward-stationed forces)、または迅速な展開を可能にする堅牢な陸軍事前配置在庫(APS)の在庫がなければ、陸軍部隊(Army forces)はパートナー国部隊に限られた支援しか提供できない。当面の支援は限定的かもしれないが、初期の不足に対処するため、追加能力が迅速に戦域に移動することが明らかになれば、限定的な支援でも決定的なものとなり得る。

後方支援:SUSTAINMENT

5-50. 後方支援は戦力投射(force projection)の中心であり、作戦環境の後方支援準備は後方支援の計画策定の基礎である。軍団、師団、旅団の計画策定者は、友軍部隊(friendly forces)が使用できる作戦地域の資源を特定し、それらへのアクセスを確保することに重点を置く。戦域軍は、この情報を派遣部隊に提供する重要なパートナーである。要件の詳細な見積もりにより、計画策定者は、脆弱な後方支援の足跡を最小限に抑えながら、適切で反応の良い支援を提供する最も効果的な方法を指揮官に助言することができる。陸軍部隊(Army forces)が危機に対応し、武力紛争を準備すると、利用できる時間が減少し、リスクから現場の部隊への要求が指数関数的に増加するため、後方支援活動が強化されることを除けば、競争、危機、武力紛争間の作戦環境における後方支援準備に基本的な違いはない。適切な後方支援は、陸軍が時間をかけて、作戦地域内の必要な縦深まで戦力を投射することを可能にする。(後方支援の詳細についてはFM 4-0を参照)。

再展開:REDEPLOYMENT

5-51. 再展開(Redeploymentとは、他の指揮官の作戦要件を支援するため、または、再一体化や除隊のために、人員、装備、資材を本国や復員基地に戻すために、部隊や資材を移転またはローテーションさせることである(JP 3-35)。国家戦略リーダーは、陸軍部隊(Army forces)の再展開の適切な時期を決定する。通常、陸軍部隊(Army forces)の再展開は、緊張が緩和され、安全保障と安定の責任を他の合法的な当局に移行することが可能な状況になるまで行われることはない。

危機の間の陸軍部隊階層:ARMY ECHELONS DURING CRISIS

5-52. 危機に対応する際、陸軍の全部隊階層はかなりの責任を負っている。それぞれが偵察、連絡、および部隊の準備を行う。部隊が展開する際、部隊は他の司令部や港湾、飛行場にリーダーや参謀を派遣し、必要条件や現地の状況について理解を深めることができる。展開部隊は、彼らのリーダーが、プロセスの早い段階で外部の計画策定会議に呼ばれ、また、部隊が移動の準備で忙しくしている間に、特別な訓練の必要性が出てくることも予想される。部隊は、個々の交代要員や増員要員、および、タスク編成に基づく数多くの付属要員を受け取ることが予想される。

危機の間の戦域軍の役割:THEATER ARMY ROLES DURING CRISIS

5-53. 戦域軍は、戦闘軍指揮官(CCDR)が選択した陸軍部隊(Army forces)を従属する統合任務部隊(JTF)に編入するまでは、責任地域(AOR)内のすべての陸軍部隊(Army forces)を指揮する。他の組織がその役割を果たすまで、戦域軍はまず、統合作戦地域(JOA)または作戦戦域の陸軍部隊(ARFOR)と責任地域(AOR)の他の地域で作戦する陸軍部隊(Army forces)の間でその責任を分担する。このため、戦域軍は最初の部隊要請を策定する際に部隊を調整し、その後、部隊が責任地域(AOR)に到着した時点で追加のタスク編成を行う必要があるかもしれない。戦域軍は、限定的な不測事態対応作戦や危機の初期段階において、統合任務部隊(JTF)または連合軍の陸上部門司令部としての役割を果たすことができる。いずれの場合も、継続的な作戦を実施するためには、迅速な増強が必要である。

5-54. 戦域軍は軍種の構成部隊コマンドとして、危機の間、責任地域(AOR)内の軍種固有の要件について陸軍省本部に責任を負い続ける。これは、管理統制(ADCON)の権限連鎖の下にある。この権限は、戦闘軍指揮官(CCDR)から下位の統合部隊指揮官(JFC)に至る作戦指揮系統を変更することなく、陸軍の派遣部隊に対する支援のための階層を確立するものである。例えば、戦域軍指揮官は、次のことを行うことができる。

・ 到着した部隊の「受入れ、準備、前方移動、一体化(RSOI)」作戦を導く。

・ 集成訓練、戦域適応(theater orientation)、戦域馴化(theater acclimation)を完了する。

・ 陸軍部隊(Army forces)の近代化を統合作戦地域(JOA)に派遣する前に管理する。

5-55. 統合作戦中の後方支援は、行政機関の要求、国防総省(DOD)指令、各戦闘軍指揮官(CCDRs)の主導的軍種の指定、または軍種間支援協定によって指定される場合を除き、軍種の責任である。各戦闘軍指揮官(CCDRs)は戦域軍指揮官に対し、必要な場合、機関または多国籍軍に陸軍の他軍種支援(ASOS)を提供するよう指示する。しかし、特に統合作戦の場合は、後方支援責任の共有や共同利用型兵站がより効果的である。兵站に関する指令権限は、各戦闘軍指揮官(CCDRs)が重複する後方支援責任を排除するために利用できる追加的な権限である。戦域軍は戦闘指揮参謀と連携し、統合後方支援の要件を決定し、責任を明確にし、指揮官が後方支援の指揮・統制(C2)を行使できるようにする。(戦域軍に関する詳細はATP 3-93を参照)。

危機の間の軍団の役割:CORPS ROLES DURING CRISIS

5-56. 危機の間、軍団司令部は、配下の師団や旅団とともに戦術司令部として作戦地域に展開することができる。軍団は通常、到着した部隊の指揮を執るため、司令部内の選抜された人員で構成される早期参入司令部を配備している。危機が武力紛争に発展した場合、大規模戦闘作戦では、軍団司令部が多国籍軍の陸上部門の指揮下に入るか、多国籍連合の一部として設立された野戦軍に相当する部隊に従属することが必要となる場合がある。

5-57. 軍団司令部は、動員(mobilization)から再展開までの作戦の全段階を計画する。軍団の作戦では、計画者は相対的優位性な立場を獲得・維持するために必要なすべての機能と能力、および脅威部隊が友軍部隊(friendly forces)に対して使用できる能力を検討する必要がある。様々な能力の計画策定と実行のタイムラインを理解することは、これらの能力を計画全体に一体化することを検討する際に重要である。軍団司令部は以下の責任を負う。

・ 脅威を理解する。

・ 情報収集とインテリジェンス分析を次の上位部隊階層のプロセスとシステムに一体化する。

・ 上位司令部との連絡体制を確立し、初期集結地、経路、前方集結地の偵察を計画策定する。

・ 下位部隊に作戦区域を割り当てる。

・ 降車地点から集合地域を経て準備地域(staging areas)に至る複数の経路を特定する。

・ 初期作戦コンセプトの確立する。

・ 獲得した成果の集約・強化を計画策定する。

・ 分散型DOS(denial of service)、悪意のあるソフトウェア、またはシステム侵入を含むサイバースペース攻撃の緩和を調整する。

・ 通信の遮断と劣化を計画策定し準備する。

・ 経路上及び集結地内における下位部隊の分散を計画策定する。

5-58. 展開命令と作戦計画(OPLAN)または作戦命令に従って、軍団参謀はタスク編成と下位部隊の運用、作戦の一体化と同期化、効果の大量化、資源の配分、優先順位の決定を計画する。軍団参謀は、その全割当部隊の時間軸に沿った兵力と展開リストを管理する陸軍の主要なインターフェースとなる。軍団は、防護、後方支援、および機動部隊の到着に関連し、司令部がいつ出発港に到着するかを決定する。

5-59. 軍団指揮官は、下位部隊の編成に影響を与えることができるが、指示することはできない。戦闘軍指揮官(CCDR)、戦域軍、支援戦闘団、米運輸司令部、および米陸軍部隊コマンド(U.S. Army forces Command)はすべて、軍団の構成と展開順序に関する決定を下す。しかし、軍団指揮官は、配備期間中、軍団司令部を効率的かつ効果的に移動できるように組織し、準備することができる。軍団指揮官、参謀長、および作戦担当参謀長補佐は、適切な技能を持つ人員を選び、適切な装備の組み合わせを提供することにより、軍団の指揮・統制(C2)能力を任務要件に適合させることができる。

5-60. 不確実な脅威の状況下で、初期準備地域(initial staging areas)、移動経路、その後の集結地を割り当てるには、兵力防護と戦闘力増強のバランスを計算することが必要である。下位の師団および別働隊の準備地域(staging areas)は、師団および別働隊が整備点検、弾薬の装填、搭乗員の準備、前線への移動準備などを行いながら、中隊規模の戦術陣形に分散させるのに十分な広さが必要である。これらの計画は、新戦力の到着に伴い頻繁に変更される可能性があり、展開の各段階で修正される必要がある。(軍団作戦の詳細についてはATP 3-92を参照。)

師団:DIVISION

5-61. 師団本部は、軍団本部と同じ活動を行う。師団本部は、2~5個の旅団戦闘チーム(BCT)とその他の下位の旅団および大隊を指揮するための人員、訓練、および装備を備えた戦術的司令部として、その主要な役割を遂行する。これらの旅団の1つ以上は同盟国の編成であってもよい。師団は戦域に展開すると、作戦中に与えられた役割に備え、重要なタスク編成を行うことがある。当初、師団は危機の間(during crisis)に、統合作戦を支援するための防衛、安全、安定のタスクを遂行する。危機の間(during crisis)の師団の主要な役割は、諸兵科連合の編成として信頼できる強制力を発揮することである。師団は、危機対応の一環として、多国籍パートナーとの短期間の訓練演習や、能力を示すその他の活動を行うことを想定しておく必要がある。未熟な戦域では、師団司令部は次の上位部隊階層のシステムが整うまで、その部隊の部隊階層のシステムに対応できるように準備すべきである。(師団の運用に関する詳細は、ATP 3-91を参照)

旅団:BRIGADES

5-62. 危機に際し、旅団は戦略リーダーと統合部隊指揮官(JFC)に、軍団や師団の派遣に代わる選択肢を提供する。戦略リーダーや統合部隊が、危機の拡大時に信頼性が高く、迅速に展開できる抑止力を必要とする場合、旅団戦闘チーム(BCT)、機能旅団、多機能旅団、またはそれらの組み合わせを、「柔軟な抑止選択肢(FDO)」または「柔軟な対応選択肢(FRO)」の一部として展開することを決定することができる。

効果的な「柔軟な抑止選択肢(FDO)」または「柔軟な対応選択肢(FRO)」を実施するために、旅団に展開準備命令を出したり、緊急展開準備演習を実施したりすることができる。その他の選択肢としては、戦域で活動する旅団を防衛に有利な生存率の高い分散した場所に移動させたり、これらの部隊をパートナー国の地域防衛計画や機動防衛計画に一体化したりすることもできる。戦域に軍団や師団が存在しない場合、戦域軍は旅団の指揮・統制(C2)を提供する。「柔軟な対応選択肢(FRO)」として迅速に展開された旅団戦闘チーム(BCT)の例は、2019年にイラクで発生した。

危機対応:バグダッド大使館攻撃

2019年12月31日、イランとの緊張が高まる中、即応部隊に所属する第82空挺師団の空挺部隊750名の初動部隊がバグダッドに展開し、追加警備にあたった。この展開は、18時間前に発生した米国大使館への攻撃に対応するものであった。旅団の残りの兵士は、数日以内に配備された。合計で3千人の兵士が約2カ月間、大使館の警備を強化した。前方展開中、兵士たちは即応性を示す訓練を続け、戦闘軍指揮官(CCDR)の指示で迅速に対応できる態勢を整えた。

獲得した成果を集約・強化する:CONSOLIDATING GAINS

5-63. 危機対応中および危機対応後、陸軍部隊(Army forces)は敵対者部隊(adversary forces)に危機を拡大したり、将来同様の危機を生じさせたりする手段を与えないよう、獲得した成果を集約・強化する。これはしばしば、同盟国やパートナーを守る米国の意志を示すため、一定期間、統合作戦地域(JOA)における戦力態勢を強化することを意味する。陸軍は、将来の危機に対する脆弱性を軽減することをデザインした安全保障協力計画を通じて、ホスト国の能力向上を引き続き支援する。敵対者(adversary)がパートナー国部隊を直接ターゲットにしたり、代理人を通じて行動したりする場合、米国は可能な限り迅速にパートナー国部隊を再建する準備を整えておかなければならない。多くの地域で、陸軍部隊(Army forces)だけが包括的な安全保障協力プログラムを実施する能力容量を持っているため、陸軍が相手国軍を再建する能力は、統合部隊指揮官(JFC)にとって特に重要である。多くの同盟国やパートナー国は、主に陸軍に依存しており、強力な海軍や空軍を有していない。危機対応中および危機対応後の獲得した成果を集約・強化することで、敵対者(adversaries)に対する抑止力を強化し、米軍部隊、同盟国部隊、およびパートナー国部隊の相対的優位性を向上させる永続的な変化が生まれるのである。

競争又は武力紛争への移行:TRANSITION TO COMPETITION OR ARMED CONFLICT:

戦争や危機の最中には、後から振り返るほど明確で確実なものはない。

バーバラ・タックマン

5-64. 危機の結果には、競争への脱皮と武力紛争への拡大の2つがある。移行期は通常、摩擦が生じる場所である。指揮官は、脅威の詳細な理解を維持し、継続的に状況を評価し、自軍が主導権を保持できるよう、移行前と移行中の情報収集に重点を置く。

競争への移行:TRANSITION BACK TO COMPETITION

5-65. 危機の間、相手国の治安部隊や政府機関は、敵対者(adversary)や代理人部隊(proxy forces)の行動により、能力や能力容量を低下させる損失を被ることがある。陸軍部隊(Army forces)は、獲得した成果を集約・強化する手段として、相手国の能力と能力容量の回復または維持を支援する安全保障協力プログラムを実行する任務を負うことがある。陸軍部隊(Army forces)は、民衆の支持を維持するために、相手国の治安部隊と政府機関をできるだけ早く復旧させることを目指す。そうすることで、相手国の安全保障を支援または実現するために、将来的に大量の米軍部隊を展開したり、戦地で維持したりする必要性を減らすことができる。また、迅速な復興は、相手国と米国との同盟関係や二国間関係の強さを際立たせる。(相手国の能力と能力容量の詳細については第4章を参照)。

5-66. 陸軍部隊(Army forces)は、環境の市民的準備から開発された製品を使用して、パートナー国の治安部隊の再建を支援する。陸軍部隊(Army forces)はパートナー国と協力してこれを行い、一方的に行動することはない。治安部隊支援旅団(SFAB)と民事部隊はこの取組みの理想的な中核であるが、あらゆるタイプの陸軍部隊が貢献することができる。取組みが大規模で、主題に関する専門知識を追加する必要がある場合、またはホスト国の通常戦力を再建する必要がある場合、陸軍部隊(Army forces)の追加部隊が必要になることがある。(安全保障協力と民事作戦の詳細については、JP 3-20とFM 3-57を参照)

5-67. 陸軍部隊(Army forces)は、統合部隊指揮官(JFC)が有利に解決した危機を利用して、戦域の新しい行動パターンを確立するのを助けることができる。危機は一般に不確実で不安定であるが、その解決とそれに伴う競争への復帰は、作戦環境の変化を利用する機会を提供する。陸軍部隊(Army forces)は、米国とその同盟国およびパートナーが競争において利益を得、将来の敵対者(adversary)の悪意ある行動を抑止するのに役立つ相対的優位性を向上させるような変化を生み出し、強化する統合の取組み(joint efforts)を支援する。

武力紛争への移行:TRANSITION TO ARMED CONFLICT

5-68. 危機に対応する陸軍部隊(Army forces)は、闘いに備え、闘いを期待する。これは移行中の時間を節約し、可能な限り早期に作戦計画(OPLAN)や想定される作戦コンセプトを理解する必要がある。前方展開部隊は戦闘配置または戦術的集結地に再配置し、戦闘の準備としてあらゆるドメインで攻撃から身を守るために利用可能なすべての手段を講じる。陸軍部隊(Army forces)は、同盟国またはパートナー国の部隊と位置する場合、目的の一致と相互支援を確保するため、その活動を同期させる。敵(enemy)や米国からの距離にもよるが、陸軍部隊(Army forces)は紛争初期にほとんど支援を受けられないことを予期し、それに応じて計画を立てるべきである。