豪国のデジタル・エンジニアリング戦略2024
MILTERMでも取り上げてきた「デジタル・エンジニアリング」である。これは、デジタル化の進展とともに、軍隊の作戦コンセプトから、それに基づく装備品の開発要求、製造、試験、運用、廃棄までのライフサイクル全般をデジタル空間を活用すれば、全体を一貫性をもって管理できるし開発の速度も発揮できるとするものである。軍事への人工知能の活用が言われているがこれを進めるためにもデジタル化は欠かせないものとなる。
米国防総省では、2018年にデジタル・エンジニアリング戦略を策定し、デジタル化の恩恵を受けながら装備品の開発だけでなく作戦コンセプトの開発改善等に取り組んでいると想像するところである。
ここで紹介するのは、オーストラリア国防省が2024年6月に公表した「デジタル・エンジニアリング戦略2024」である。おそらく米国防総省のデジタル・エンジニアリング戦略を参考にしながら策定したものであろう。
以前、MILTERMで紹介した「米国防総省 デジタル・エンジニアリング戦略 2018年6月」と比べながら、ライフサイクル全体をデジタル化することへの期待を再確認したいところである。(軍治)
デジタル・エンジニアリング戦略2024
Digital Engineering Strategy 2024
「デジタル・エンジニアリング」 「複雑性の受容」 「成果の実現」
Capability Acquisition and Sustainment Group (CASG)
Office of the Deputy Secretary
Department of Defence Canberra ACT
序言
豪国防戦略2024は、わが国の戦略的状況に対応するために必要な戦略的方向性と改革を定めている。豪国防省は、重要な防衛目標を達成するために、抑止力の迅速な開発、破壊的技術の獲得、最小実行可能能力を迅速に提供する考え方への転換に重点を置かなければならないことは明らかである。
我々が脅威に打ち勝つためには、エンジニアリング・エコシステム全体が、これまで以上に速く、賢く、つながりを持って働く必要がある。
産業界、学界、同盟国や国際的なパートナーとの協力の下、豪国防省は新しい能力を効率的かつ効果的に豪国防軍(ADF)に統合(一体化)しなければならない。我々は、用兵(warfighting)へのアプローチの変化に適応し、革新(イノベーション)を推進し、能力の提供を加速するためにビジネス慣行を進化させなければならない。
このデジタル・エンジニアリング戦略では、豪国防省全体のデジタル・エンジニアリングを標準化するためのアプローチを説明する。革新的な技術を活用し、バーチャル・シミュレーションとデジタル・ツイン・モデリングを増加させ、データ主導のアプローチを適用することにより、プロセスを合理化し、同時代化することで、豪国防省の新たな任務に対応するための基盤を構築する。
デジタル・エンジニアリング・ツールや環境は、国内外の産業界との協力関係を促進し、データの再利用を促して、調達プロセスにおける時間とコストの効率化を実現する。
産業界はすでにデジタル変革(digital transformation)を取り入れている。本戦略は、豪国防省をインダストリー4.0とより密接に連携させ、技術の最適化を通じてリアルタイムの意思決定を実現することを意図している。
この戦略は豪国防データ戦略(Defence Data Strategy)に沿ったものであり、先進戦略能力アクセラレータ(Advanced Strategic Capabilities Accelerator :ASCA)を通じて特定された革新(イノベーション)の実現に必要なエンジニアリング実務(engineering practice)を支援するものである。
デジタル・エンジニアリングは、エンタープライズ・リソース・プランニングの実装によって支援され、豪国防省の財務、人事、兵站、エンジニアリング、維持整備、不動産運営を管理するアプローチを近代化、統合(一体化)、変革する。
我々のデジタル・エンジニアリングの到達目標は、前例のない方法で能力開発の加速を実現するために、この戦略で概説されている。
デジタル・エンジニアリングの導入は、デジタル環境でのリスクテイク、最小実行可能製品の迅速な投入、豪国防省と豪国の将来にとって最適な成果を確保するための機敏なアプローチを通じて、成功に拍車をかける。
この戦略がもたらす大きな効率性と機会を実現するために、皆さんと一緒に働けることを楽しみにしている。
能力調達・取得・維持グループ(CASG)副長官
クリス・ディーブル(Chris Deeble)豪殊勲十字勲章
「技術は戦いの性質と抑止に大きな影響を及ぼし、パワーバランスの変化を形成する」
– 2023年豪国防戦略レビュー
到達目標その1-デジタル・エンジニアリングを実現するための豪国防省の文化と労働力の強化
到達目標その2-デジタル・モデルの開発、統合(一体化)、利用が意思決定とデザイン(設計)に役立つ
到達目標その3-信頼され、永続的で、権威のあるデータは、デジタル・エンジニアリングの基本的なインプットである。
到達目標その4-技術革新はデジタル・エンジニアリングによって可能になる
到達目標その5-豪国防省のデジタル環境は、デジタル・エンジニアリングのコラボレーションとパフォーマンスを効果的に実現する。
はじめに
豪国家防衛戦略は、5つのドメインにわたってシームレスに作戦する、完全に統合(一体化)された、より能力の高い豪国防軍(ADF)の必要性を強化した。
最小実行可能製品の迅速な配備と調達スケジュールの短縮を可能にすることで、能力発揮までのスピードを実現するには、豪国防省、産業、学術にまたがるデジタル・エンジニアリングに支えられた統合的な(一体化した)デジタル・アプローチが必要である。
過去10年間、世界ではデジタル技術の著しい進歩が見られた。最新のデジタル・ツールや技術は、データ主導でエビデンスに基づく分析(evidence-based analysis)を支援するために、より容易に利用できるようになった。
破壊的な新技術を迅速に能力へと変換する豪国防省の能力として、機敏でタイムリーなエンジニアリング実務(engineering practice)が求められる。
バーチャルなデジタル・デザイン(設計)やモデルを実世界の能力に変換するために、豪国防省のエンジニアリング実務(engineering practice)は迅速に進化しなければならない。我々は、デザイン(設計)の視覚化、リスクと安全性の分析を支援し、規制当局に信頼を提供できるように移行しなければならない。
国防産業のパートナーは、能力のデザイン(設計)と提供のスピードを向上させるデジタル変革(digital transformation)のメリットを受け入れている。
この文書は、豪国防省がより効果的に実験、革新、共同作業を行えるようにするため、デジタル・エンジニアリング・データ駆動ツール、デジタル・インフラ、文化改革、人材育成への投資の指針となる豪国防省全体の戦略を示している。また、意思決定に情報を提供するためのモデルの活用に価値を置き、豪州政府全体および豪国防省のデータ戦略に沿ったものである。
デジタル・エンジニアリングは、コンセプトから廃棄までのライフサイクル活動を支援するために、分野横断的な連続体として、権威あるシステム・データとモデルのソースを使用する統合(一体化)デジタル・アプローチである[1]。
処理能力と計算速度の技術的進歩は、従来のデザイン(設計)-構築-試験という方法論から、モデル-分析-構築という方法論へのパラダイムシフトを後押しする。これは、システムとシステムの統合(一体化)モデリングによって達成される。このアプローチにより、豪国防省は、決定事項や解決策を、豪国防軍に提供する前に、仮想環境で実験・テストすることが可能になる。
長年にわたり、豪国防省とその産業パートナーは、デジタル・エンジニアリング・システムとツールを、我が国の用兵能力(warfighting capability)の提供と維持に先駆的に使用してきた。
我々は今、この戦略的ビジョンに基づき、これらの取組みを統合(一体化)し、将来の部隊における複雑性をもたらす進歩を加速させるための総合的なロードマップへとつなげる旅に出る。
目的とビジョン
この戦略は、豪国防省におけるデジタル・エンジニアリング変革の計画策定、開発、実装の指針となる。
デジタル・エンジニアリングに対する豪国防省のビジョンは、豪国防省が必要とする能力のデザイン(設計)、開発、提供、運用、維持、進化の方法を近代化することである。デジタル・エンジニアリングは、従来のアプローチよりも低コストかつ低リスクで、早期に欠点や選択肢を検討するために、共同的かつ学際的な環境で複雑性に対処するための統合的(一体化した)デジタル・アプローチを提供する。
豪国防省は、産業界や国際的パートナーを含む国防エンジニアリング全体で、人、プロセス、データを安全に接続する。これにより、モデルや共通データを使用して、任務、能力、製品を仮想世界でデジタル的に表現することが可能になる。国防は、スーパー・コンピューティング、ハイパフォーマンス・コンピューティング、ビッグ・データ分析、人工知能などの技術を取り入れ、デジタル・エンジニアリング実務(digital engineering practice)を改善する。これにより、主権的な能力と、同盟国やパートナーとのデザイン(設計)による相互運用性が可能になる。
デジタル・エンジニアリングは、高度なデジタル技術によって革新(イノベーション)を加速し、新しく画期的な方法で問題を解決する。
デジタル・エンジニアリングへの移行は、複雑性、不確実性、急速な変化に伴う長年の課題に対処するものであり、豪国と連合と統合の設定で防衛のためにデザイン(設計)された能力を配備し、使用することで、インダストリー4.0のビジョンを実現する。
より俊敏で応答性の高いエンジニアリング環境を提供することで、デジタル・エンジニアリングは卓越したエンジニアリングを支援し、急速に変化する脅威の状況に合わせて拡張できる基盤を築くことができる。豪国防省全体のデジタル・エンジニアリングは、製品レベルのエンジニアリングと、その製品が特徴付ける任務や能力との間のトレーサビリティを向上させる。これにより、より良い情報に基づいた意思決定、コミュニケーションの強化、より効率的なエンジニアリング・プロセスに対する信頼性の向上が可能となり、作戦効果の改善につながる。
図1:デジタル・エンジニアリングに期待される効果 |
世界クラスの国防能力の提供を加速するための変革を推進する。 豪国防省のデジタル・エンジニアリング 図2:国防デジタル・エンジニアリング |
戦略的到達目標
1. | 文化と労働力
豪国防省の文化が変革され、労働力にはデジタル・エンジニアリングを採用し、提供する権限が与えられる。 |
この到達目標は、訓練、保証、教育、戦略的コミュニケーション、リーダーシップ、継続的改善への投資を通じて、豪国防省全体のデジタル・エンジニアリング実務(digital engineering practice)を実現するための文化的変化を促進するという豪国防省のコミットメントを支えるものである。 |
2. | 各種モデル
デジタル・モデルの開発、統合(一体化)、使用は意思決定に役立つ。 |
この到達目標は、エンジニアリング活動を行う上で不可欠な部分として、デジタル・モデルを使用するための正式な計画と開発を確立するものである。デジタル・モデルは、権威あるデータと組み合わされることで、現在および提案されている任務、能力、製品について、明確かつ共有された透明性のある理解を提供する。これらは、運用成果の改善を目標とし、意思決定に情報を提供するため、より低いコストとリスクで選択肢を評価するための継続的な機会を提供するものである。 |
3. | データ
信頼され、永続的で、権威のあるデータは、能力提供を迅速化するための基本的なインプットである。 |
この到達目標は、共有データへのアクセス、管理、使用、交換を可能にする。権限を与えられた利害関係者は、目的に合った、最新で、権威があり、共通で、信頼できる情報にアクセスできるようになる。2番目の到達目標と相まって、この到達目標は、エンジニアリングと統合(一体化)プロセスを推進する主要な手段を、紙ベースの文書から機敏なデジタル・モデルへと移行させる。 |
4. | 革新(イノベーション)
技術革新はデジタル・エンジニアリングによって可能になる。 |
この到達目標は、人工知能や機械学習、高度なモデリングとシミュレーション、データ分析、高度なコンピューティングなどの技術の進歩を注入し、エンジニアリング実務(engineering practice)を変革するプラットフォームを提供する。利害関係者、プロセス、データをデジタル接続することで、豪国防省の組織は迅速な意思決定が可能となり、能力の近代化に適応できるようになる。また、学習し、適応し、自律的に行動する革新的な技術を活用する機会も生まれる。 |
5. | 環境
国防のデジタル環境は、デジタル・エンジニアリングのコラボレーションと進化を効果的に可能にする。 |
この到達目標は、デジタル・エンジニアリングを可能にするために、複数の秘密区分レベルにおいて堅牢な環境の確立を促進するものである。これは、秘密区分の分類を尊重し、知的財産を保護しながらデータやモデルにアクセスするために、分散型インフラストラクチャや協調的な信頼されたシステムを組み込んだものである。 |
図3:デジタル・エンジニアリング戦略 |
デジタル・エンジニアリングの到達目標と焦点とする分野
到達目標その1-デジタル・エンジニアリングを実現するための豪国防省の文化と労働力の強化
この到達目標は、豪国防省のデジタル・エンジニアリングの変革を計画策定、実装、支援するために、意図的で体系的なアプローチをとるものである。この変革には、豪国防省がデジタル・エンジニアリングのプロセスや技術面だけでなく、共通の価値観や信念、集団行動を含む人材や文化といった労働力の課題に取り組むことが必要である。これらの規範や信念は、人々がどのように行動し、業務を遂行するかに根本的に影響する。
豪国防省は、訓練、教育、戦略的コミュニケーション、リーダーシップ、そして共有リソースへの投資やデジタル・エンジニアリング実務(digital engineering practice)への移行に対するインセンティブの付与を含む継続的な改善を通じて文化的変革を推進し、労働力を変革する。
1.1 デジタル・エンジニアリングの知識ベースを改善する
豪国防省は、適切な資格を有するデジタル・エンジニアリングの人材を引き付け、育成し、維持することで、国防能力の提供を成功させる。
現在の豪国防省のデジタル・エンジニアリング知識ベースは、様々な成熟度にある。この知識ベースを継続的に改善し、更新し、さらに整理するためには、豪国防省全体で協調した取り組みが必要である。組織が課題を解決し、デジタル・エンジニアリングを制度化する中で、豪国防省は既存のイニシアティブを活用し、効果的な行動方針と得られた教訓に関するベストプラクティスを共有することで、より広範なコミュニティが協力し、互いに学び合えるようにする。ベストプラクティスは、豪国防省とそのパートナーに情報を提供し、関与させ、動員するための戦略的で全社的な取り組みにおいて、再利用または適応のために収集され、利用可能にされる。
豪国防省は、デジタル・エンジニアリングの方針、指針、仕様、標準を推進する。
現在、デジタル・エンジニアリング言語、プロセス、アーキテクチャ・フレームワークを可能にするさまざまな標準規格が存在するが、デジタル・エンジニアリング指針の中には、関係者全員が取得し交換しなければならないデータやモデルの範囲をカバーするものはない。
適宜、豪国防省は用語の共通化を促し、コンセプトの共通された理解を深め、デジタル・エンジニアリングの実装における一貫性と厳密性を促進する。
豪国防省は、契約、調達、法務、ビジネス慣行を合理化する機会を探す。迅速な能力調達を可能にするために、契約チームや法務チームを支援するデジタル成果物を活用する機会が存在する。モデルベースのアプローチは、調達の計画、評価、発注、管理のための国防プロセスの変更を必要とするかもしれない。
1.2 デジタル・エンジニアリングの変革の取組みをリードし、支援する
変革には、変化の管理が必要である。革新、実験、継続的改善の文化を推進するには、組織チームと個人の変革に対する価値観、態度、信念を形成することが必要である。豪国防省のリーダーは、人々の貢献と成長を促し、活力を与えることで、変革プロセスを可能にする。このようなリーダーは、変革の枠組みを提供する。
このようなリーダーは、ビジョンと戦略の伝達と実行、幅広い知識と革新性の構築と活用、具体的な成果の実証と報奨を通じて、人々を巻き込み、変化を受け入れさせようとする。
採用を促進するために、豪国防省のリーダーは、デジタル・エンジニアリングのビジョンと戦略を構築し、伝える。効果的なビジョンと戦略は、組織の目的、方向性、優先順位を明確にするのに役立つ。
複数のチャネルを通じて、オープンで頻繁なコミュニケーション戦略を構築することが不可欠であり、質問やフィードバックができる仕組みも含めて、分野や組織を超えた利害関係者に認識と共通理解を提供する。リーダーシップは、デジタル・エンジニアリングのビジョンと戦略の実装を支援するために、障壁を取り除き、変革の障害に対処し、リソースを提供し、新たな役割と責任を可能にするよう努めるべきである。
豪国防省のデジタル・エンジニアリング事業の様々な要素において、様々な関係者がデジタル・エンジニアリングソリューションを開発している。関係者のスキルや創意工夫を活用することで、実践状況を集団的に前進させることに貢献する洞察やアイデアをもたらすことができる。豪国防省は、政府、産業界、学界を横断する提携、連合、パートナーシップを利用して、情報やリソースの共有を促進するためのコンセプトを共創し、展開することができる。
豪国防省は、デジタル・エンジニアリング変革の取組みを積極的に管理・実装する責任を負うリーダーシップ・チーム(チャンピオン、スポンサーなど)を特定する。
リーダーシップは、長期的な成果だけでなく、短期的な成果を生み出す幅広い行動を開始する。成功のための指標と基準の策定、インセンティブの設定、進捗状況のモニタリング、行動への報奨、是正措置は、すべて企業全体の成果を向上させるために不可欠であり、複数のレベルのリーダーシップによって確立され、合意されるべきである。
能力調達・取得・維持グループ(CASG) |
AIR6500-1 統合航空戦闘管理システム(JABMS)プロジェクト AIR6500の戦略パートナーであるロッキード・マーチン・オーストラリア社は、ソフトウェア・インテグレーション・ラボラトリー、複雑なデジタル・ツイン・ソリューション、モデリング、シミュレーション、運用分析を支援するデジタル・エンジニアリングとモデルベースのシステム・エンジニアリング・ツール群などで構成されるデジタル・エコシステムのデザイン(設計)を完了し、開発と統合(一体化)を開始した。 AIR6500のデジタル・エコシステムは、AIR6500シリーズのプロジェクト全体を通して、共同デザイン(設計)、開発、統合(一体化)、検証、妥当性確認、インサービス・サポート、進化を通じて実現される統合型航空ミサイル防衛(IAMD)C4ISRソリューションの相互運用性を可能にする。 さらに、AIR6500のデジタル・エコシステムは、破壊的技術の統合(一体化)を促進し、迅速な能力投入を可能にし、再利用、共通性、自律性を通じて持続可能性を促進することを目指している。 |
1.3 労働力の構築と準備
将来の労働力は、地理的に分散し、複数の分野にまたがり、複数の世代にまたがっている。特に科学、技術、エンジニアリング、数学(Science, Technology, Engineering, Math :STEM)分野の労働力において、有能でデジタル・エンジニアリングに対応できる幹部を育成するには、あらゆるレベルの労働力を訓練・教育することにより、知識、能力、スキルを移転するメカニズムを確立し、体系化することが鍵となる。
訓練や教育は、デジタル・エンジニアリングを支える労働力の知識、能力、スキルを開発するために不可欠な要素である。
これは個人、チーム、そして豪国防省全体にとって極めて重要である。豪国防省は、新たなコンセプトや手法、プロセス、ツールを総合的かつ日常的に教育・訓練し、その進歩に歩調を合わせる必要がある。これには、計算科学、人工知能、高度なモデリングなどが含まれる。
豪国防省は、変革の取組みを計画策定・実装する上で、労働者全体の積極的な参加と参画を確保する。
組織文化を変える原動力は、訓練や教育だけではない。豪国防省は、新しい習慣や行動の形成を通じて、その知識の適用を奨励しなければならない。訓練や教育が重要である一方で、組織が経験を積み、新しい活動方法に適応していくためには、「実行する」ことが不可欠である。組織の内外を問わず、利害関係者を巻き込むことで、デジタル能力の決定、デザイン(設計)、提供に積極的に参加することができる。
図4:労働力と企業文化の変革 |
到達目標その2-デジタル・モデルの開発、統合(一体化)、利用が意思決定とデザイン(設計)に役立つ
デジタル・モデルは、システム、現象、実体、またはプロセスを正確かつ汎用的に表現することができる。ライフサイクルの初期段階では、製品レベルのモデルによって、インスタンス化される前のソリューションを仮想的に探索することができる。ソリューションのライフサイクル全体にわたって、デジタル・モデルは成熟し、デザイン(設計)、開発、製造の意思決定と、実地投入後の製品の進化を支援するデジタル表現を提供する。能力と任務のモデルは、製品と能力の複雑な統合(一体化)を共有表現することで、関係と依存関係を理解し、任務の有効性とギャップを評価することができる。
この到達目標は、システムの統合(一体化)の定義と開発を支援することができるモデリングの形式化された応用に焦点を当てている。
ライフサイクルを通じて継続的に開発、統合(一体化)、使用されるモデルには、さまざまな種類がある。システムと任務の定式化されたモデリングは、潜在的な変更とその技術上・運用上の影響をデジタル的に調査するための基礎として、現在のアーキテクチャと能力を共有表現することができる。
これは、ギャップに対処し、作戦任務目標を達成するための能力と製品の統合(一体化)を支援するものである。
さまざまな専門分野やドメインが、任務、能力、製品のさまざまな側面について、仮想環境内で同時並行的に作業を行うことができる。場合によっては、モデルを破棄して再開発する代わりに、デジタル・モデルのコレクションを進化させ、長期にわたって使用することもある。また、フェーズやエポックが異なれば、異なるデジタル・モデルが必要となる場合もある。
王立豪空軍(RAAF) |
航空戦闘プログラムのコンセプト開発と分析 航空戦闘プログラム(ACP)は、関連するレッド・システムとブルー・システムのモデリングや、任務を完遂するための戦力運用コンセプト(CONEMP)のデザイン(設計)など、広範な任務特性を分析するプロセスを確立している。これらのコンセプトは、計算シミュレーションを用いて検証される。このプロセスは、特定された新たな脅威に対応するため、あるいは統合軍当局からの要請に基づき、豪国防軍(ADF)戦域構想に基づく任務のための戦力採用オプションをデザイン(設計)するために、航空戦闘能力の準備態勢を再評価する継続的な要件を支援するものである。 航空戦闘プログラム(ACP)は、デジタル・エンジニアリング実務(digital engineering practice)を用いることで、このプロセスを近代化し、あらゆる能力ギャップや機会、能力投資の決定を、繰り返し可能な方法で、承認されたデータを用いて容易に実証できるようにすることを意図している。 米国国防総省。1998.DoD Manual 5000.59-Mの「DoD Modeling and Simulation (M&S) Glossary」。米国バージニア州アーリントン:米国国防総省。1月。P2.13.22.http://www.dtic.mil/whs/directives/corres/pdf/500059m.pdf で入手可能。 |
2.1 エンジニアリング活動と意思決定をサポートするデジタル・モデルの計画策定を公式化する。
豪国防省の組織と産業界は、モデルの作成、管理、統合(一体化)に関する計画を策定する。これらの計画には、作業活動の実施や分析・決定の支援に伴ってモデルがどのように実現されるかが記述される。これには、到達目標その3で取り上げたモデルデータの調整と共有も含まれる。モデルの開発は、最終的に、必要とされる運用効果を達成するための投資の適切性を保証する。
2.2 モデルを正式に開発、統合(一体化)、管理する
協調的エンジニアリングの取組みは、任務、能力、製品のさまざまな側面を扱う一連の共有モデルによって支援される。豪国防省の組織と産業界は、正確で、完全で、信頼でき、目的に適合したモデルを開発する。これには、将来のモデル・ニーズを満たすために必要なデータ・ギャップや革新科学技術(IS&T)の支援を特定することも含まれる。モデルは、政策、指針、標準、モデリングのベストプラクティスに従って開発される。国防機関は、信頼性、信用性、正確性、モデル使用の判断基準を確立するために、モデルの実績と血統を把握し、維持する。
効果的なコラボレーションには、モデルベースのレビュー、監査、検証と検証に基づく信頼が不可欠である。
2.3 エンジニアリング活動と意思決定を支援するためにモデルを使用する
豪国防省の組織と産業界は、コミュニケーション、共同作業、エンジニアリング活動の遂行のためにモデルを使用する。モデルは、代替案を定義、評価、比較、査定し、意思決定を行うための基礎として使用される。モデルは、統合軍のデザイン(設計)から個々の製品開発まで複数の用途にまたがり、コンカレントエンジニアリング、分野横断的な取引、その他のエンジニアリング活動を可能にする共有表現を提供する。
モデルは、質問に答えるため、解決策を推論するため、意思決定を支援するため、そして、時間の経過とともに異なる忠実度レベルで明確に伝達するために使用される。製品の場合、モデルはライフサイクルの全活動を支援するために使用される。任務と能力については、モデルは、運用能力の現状を理解し、変更が運用能力にどのような影響を与え得るかをデジタル的に検討する能力を提供する。
王立豪海軍(RAN) |
電磁機動戦能力のプログラムの運用コンセプト(CONEMP)のリスク低減のためのデジタル・ミッション・モデル 海軍インテリジェンス戦と情報戦(NI&IW)は、デジタル・ミッション・エンジニアリング(DME)とモデル・ベース・システムズ・エンジニアリング(MBSE)の技術を、SEA 5011プログラムの運用コンセプト(CONEMP)の開発に情報を提供するためのリスク低減研究の一環として採用している。この作業は、電磁機動戦(EMMW)能力を運用するための実現可能な技術、プロセス、アーキテクチャを王立豪海軍(RAN)に伝えるものである。この作業パッケージを通じて得られた洞察は、複数の海軍インテリジェンス戦と情報戦(NI&IW)プロジェクトやイニシアティブにまたがる前進オプションの決定に情報を提供する。 主な成果としては、デジタル・ミッション・エンジニアリング(DME)を適用して現在の電磁機動戦(EMMW)のプロセスや技術とのギャップを特定し、そのギャップを埋めるためのデータ主導の提案を可能にすること、現在の海軍の分析能力を進化させ、能力展開のスピードを上げるための永続的なデジタル・エンジニアリング(DE)能力を含めることなどがある。 |
到達目標その3-信頼され、永続的で、権威のあるデータは、デジタル・エンジニアリングの基本的なインプットである。
組織全体の利害関係者が、共有された権威あるデータにアクセスし、採用し、管理し、保護し、分析する能力を持つことで、意思決定を推進するためのモデルの使用が可能になる。豪国防データ戦略に沿って、デジタル・エンジニアリングは、統合(一体化)された情報交換を提供するために、従来サイロ化されていた要素を接続するための基礎としてのデータへと移行する。これにより利害関係者は、共有されたデータとモデルの中で、共有された知識とリソースを用いて共同作業を行うことができるようになる。
図5:共有された権威データを介して接続されたモデルの例 |
3.1 権威あるデータの定義、管理、共有
データは、それがどのように開発され、どのように使用されるかについて、管理されたデジタル・エンジニアリング環境の中で権威を持つ。データの適切な使用を保証するためには、血統を維持し、出所を理解することが重要である。
共有された権威あるデータは、モデルの中心的な参照点となる。
権威あるデータ・ソースを維持することで、トレーサビリティを提供し、過去の知識を把握し、モデルの権威あるバージョンをつなげることができる。
適切な権威あるデータ・ソースを適切に管理することで、不正確なモデルデータを使用するリスクを軽減し、現在および過去のコンフィギュレーションデータを効果的に管理することができる。
権威あるデータ・ソースの実現には、到達目標その2で取り上げたようなモデルを支援するための効果的な先行計画が必要である。分野横断的に信頼できるデータを定義、開発、使用するための明確な期待値を設定することが不可欠である。共有された信頼できるデータにアクセスすることで、エンジニアリングの専門分野、分散したチーム、ドメインの境界を越えて、また任務、能力、製品の境界を越えて、共同プロセスが促進される。その到達目標は、適切なデータを適切な人が適切な時に適切な用途で利用できるようにすることである。
3.2 権威あるデータの情報源を管理する
豪国防省は、権威あるデータ・ソースへの適切なアクセス、維持、利用を確保するための方針と手続きを確立する。
ガバナンスは、データが正式に管理され、信頼され、適切に使用されることを保証する。これにより、関係者は必要なデータを正確に収集、共有、維持できるようになる。
データの完全性と品質を維持するための手順を確立することで、権威あるデータの一貫性と正確性が確保され、利害関係者はデータが目的に適っているかどうか、安心して利用できるかどうかを判断できるようになる。
アクセス・コントロールの確立は、権限を与えられたユーザーが適切なタイミングで適切な情報にアクセスできるようにするために必要であり、組織の境界を越えたデータの交換を妨げないようにする。データを発見可能にし、意図されたすべての受信者が容易に利用できるようにすることが重要である。アクセス・コントロールの基準を維持することで、情報が適切に保護され、保持されることが保証される。
効果的で強固なガバナンス・プロセスには、さまざまなレベルでの責任が伴う。
ポリシー、手順、標準を管理することで、権威あるデータの適切なガバナンスが確保され、企業全体のデータ品質が向上する。ガバナンスを実行することで、権威あるデータ・ソースの完全性に対する利害関係者の信頼が高まるはずである。
3.3 長期にわたる信頼できるデータ・ソースを使用する
豪国防省は権威あるデータを使ってデジタル成果物を作成し、レビューを支援し、分析と取引を行い、意思決定に情報を提供する。
データ・ソースは、任務、能力、製品を首尾一貫して計画、デザイン(設計)、維持、進化させるために必要な共通の知識をユーザーに提供するための情報を開発、管理、伝達するために使用される。
製品の場合、技術的ベースラインが成熟するにつれて、ライフサイクルの各フェーズにまたがる知識を維持することが不可欠となり、その結果、権威あるモデルやデータ・ソースから継続的に技術的レビューを実施することができるようになる。任務の場合、ギャップと代替案を特定し、オプションを評価し、能力ニーズと投資決定を通知するため、運用と技術の観点からベースラインまたは現在の能力を表現、分析することができる。
権威あるデータを使用することで、チームは共同作業を行い、ドメイン、専門分野、組織を超えて作業を統合(一体化)することができる。
到達目標その2で確立されたように、モデルは、製品開発ライフサイクルにおける連続体として、また、長期にわたる能力や任務における連続体として機能する。これは、現在の文書ベースのプロセスを根本的に変更し、取得決定の技術的基盤としてモデルを使用するものである。
このデジタル・エンジニアリング戦略は、エンジニアリング分野におけるデジタル戦略とロードマップの適応を推進する。
豪国防軍本部(ADF HQ) |
統合任務デザイン(設計)フレームワーク(JMDF)を使用した統合軍の権威あるデジタル・モデル 豪国防省は、戦略指針を構造化された統合任務のデザイン(設計)に反映させる統合部隊の「トップダウン」デザイン(設計)・プロセスを確立した。これらのデザイン(設計)は、国防軍の統合任務遂行に必要な「システム・オブ・システムズ」(SoS)を定義し、保証するために用いられる。 デジタル・エンジニアリングは、能力開発に携わる多くの利害関係者にとって共通の権威ある参考資料として、共同任務デザイン(設計)の把握、分析、共有に不可欠な基盤である。 |
到達目標その4-技術革新はデジタル・エンジニアリングによって可能になる
この到達目標は、人工知能や機械学習、高度なモデリングとシミュレーション、データ分析、高度なコンピューティングなどの技術の進歩を注入し、エンジニアリング実務(engineering practice)を変革するプラットフォームを提供する。利害関係者、プロセス、データをデジタル接続することで、豪国防省の組織は迅速な意思決定が可能となり、能力の近代化に適応できるようになる。これはまた、学習し、適応し、自律的に行動する技術を活用する機会も生み出す。
4.1 デジタル変革がエンジニアリング実務の革新を推進
デジタル・エンタープライズの実現、タスクとプロセスの自動化、よりスマートで迅速な意思決定には、すべて次のフロンティア技術が必要です。デジタル・エンジニアリングの導入により、豪国防省はデジタル変革(digital transformation)を活用し、デジタルに接続された環境でデータ駆動型、モデルベースのアプローチを可能にする。
これにより、アジャイルなライフサイクル活動と、能力を開発・統合(一体化)するためのエバーグリーンなアプローチを採用することが可能になる。その結果、長期にわたって継続的な洞察と知識を提供する、永続的なデジタル表現が実現する。製品間の関係、依存関係、複雑性を表現し、技術的・作戦上の任務上の利点を総合的に評価することに優位性がある。
人工知能の進歩により、従来は人間の推論が必要だったタスクを実行できる認知技術が誕生した。機械は知識を構築し、継続的に学習し、自然言語を理解し、従来のシステムよりも自然に推論し、人間と対話することができるようになった。
人工知能を取り入れる機会が生じれば、豪国防省はこれらの技術を活用し、試験的に導入する機会を評価し、人工知能を使って価値を生み出す選択肢を示すことで、エンジニアリング実務(engineering practice)を進めていく。
さまざまな形式、さまざまなソースからのデータが急激に増加している。豪国防省のビジョンは、データとアナリティクスを安全に活用する企業能力を構築し、任務、能力、製品の進化に合わせてエンジニアリング・データを取得し、継続的に評価することで、洞察を可能にし、より迅速で優れたデータ主導の意思決定を実現することである。
付録Aは、デジタル・エンジニアリングのライフサイクルのコンセプト上のモデルであり、デジタル・エンジニアリングがエンジニアリング実務(engineering practice)にどのような変革をもたらすかを示している。
最後に、分散コンピューティング技術の進歩により、企業全体の意思決定を支援する共同エンジニアリング分析や高度な大規模シミュレーション、試験評価が可能になりました。これらやその他の革新的な科学技術の進歩は、エンジニアリング実務(engineering practice)を進化させる新たな機会に拍車をかけている。
豪防衛科学・技術グループ(DSTG) |
水中航行体の流体力学と音響学 防衛科学技術グループの流体力学と音響学は、水中航行体の動特性、推進特性、音響特性をモデル化し、航行体の挙動をデザイン(設計)・評価するための有効な計算/シミュレーション能力を開発してきました。 これによって豪国防科学・技術グループ(DSTG)は、ゴースト・シャークの流体力学的デザイン(設計)と、さまざまな任務要件を満たすための最適化を、アンドゥリル・オーストラリアに迅速に提供することができた。チームは、より大型の潜水艦プラットフォーム用に開発されたツールを適応させることができ、Andurilはデザイン(設計)を迅速に反復し、国防総省に新しい海中能力を提供することができた。 このプロジェクトで国防科学・技術グループ(DSTG)は、複雑なデザイン(設計)、製造、運用上の課題に対する迅速な解決策を提供するデジタル・シミュレーションと予測ツールの開発と補完において、産業界や他の国防パートナーと協力することが求められた。この能力は今後も進化し続け、複雑な水中ビークルの取得と配備に大きく貢献する。 |
4.2 :デジタル・エンジニアリングによる豪国防能力の革新的進歩
デジタル・エンジニアリングは、エンジニアリング実務(engineering practise)を改善し、先端技術を防衛システムの能力成果に統合(一体化)するための技術革新を可能にする。
システム実装に対する革新的なアプローチの影響をバーチャルで調査できるようにすることで、豪国防省はエンジニアリング・プロセスを強化する同じ技術を検討し、活用することができる。
これには、自動化、人工知能、分散コンピューティング、ビッグ・データ、計算科学、高度ネットワーキングなどが含まれる。デジタル・エンジニアリングにより、エンジニアは仮想環境において、低コストかつ低リスクで、新たな運用ニーズに対応するための革新的なアプローチを取り入れることができ、豪国の能力開発における革新(イノベーション)を加速させることができる。
デジタル・エンジニアリングエコシステムにおけるコラボレーションの機会は、新たな技術分野へのリーチを拡大し、グローバルに幅広いパートナーと関与できる環境を創出する。モデルベースのデザイン(設計)は、技術の統合(一体化)のための幅広い選択肢を検討することを可能にし、高度なシミュレーションは、製品開発、能力提供、任務の成果への潜在的な影響を評価する場を作り出し、これらすべてが作戦の有効性を高めるという到達目標に貢献する。
図6:先進技術の例 |
到達目標その5-豪国防省のデジタル環境は、デジタル・エンジニアリングのコラボレーションとパフォーマンスを効果的に実現する。
デジタル・エンジニアリングの成功は、エンジニアリング企業全体のコラボレーションを支援するデジタル環境を持つかどうかにかかっている。現在の豪国防省と産業界の能力を基礎として、デジタル・エンジニアリングは、エンジニアリング企業を可能にする統合された、協調的な信頼できる環境を必要とする。
これには、デジタル・エンジニアリングの手法、プロセス、ツールを確立し、データ、モデル、知的財産の保護を保証しながら、協調的な方法で実行するための基盤となるインフラを導入することが含まれる。
図7:国防デジタル環境 |
5.1 デジタル・エンジニアリング手法の開発、成熟、利用
デジタル・エンジニアリング・エンタープライズの効果的な利用には、文書ベースからモデルベースのアプローチへの転換が必要である。その結果、豪国防省は、到達目標その4で述べたように、進化する能力を活用するためのソリューションを作業、管理、開発、提供するために、既存のエンジニアリング実務(engineering practice)を進化させることになる。
豪国防省は、国際的な慣行や標準に基づき、進化するデジタル・エンジニアリング実務(engineering practice)を通じて、エンジニアリング手法やプロセスを研究し、成熟させ、実装することで、この取り組みを支援する。その結果、豪国防省は必要に応じてエンジニアリング・プロセス、マニュアル、指示書を更新することになるかもしれない。最低でも、これらの新しいエンジニアリング手法は、品質、生産性、効率を向上させるために、技術革新、権威あるデータ・ソース、形式化されたモデリング、労働力、文化的機会を取り入れるべきである。
豪国防省は、関係者がデジタル手法を実装するためのツールを評価、特定、投資、適用する。ツールには、専門分野やドメインを超えた利害関係者の要件に基づく拡張可能なソリューションが組み合わされる必要がある。
豪国防省は、特定のツールを義務付けるのではなく、機密情報や機密情報の保護、運用基準やデータ共有に重点を置く。
デジタル・エンジニアリング・ツールの重要な要素には、可視化、分析、データとモデルの管理、モデルの相互運用性、ワークフロー、コラボレーション、拡張/カスタマイズの支援などがある。革新的なデジタル・エンジニアリング・ツールを開発し、成熟させ、実装することは、エンジニアリングの効率を高めるために必要な技術を人々に提供することになる。
5.2 デジタル・エンジニアリング・インフラの開発、成熟、利用
デジタル・エンジニアリングは、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、および地理的な場所や組織にまたがる関連機器のコレクションを可能にするインフラストラクチャを共有する。デジタル・エンジニアリングのインフラストラクチャは、デジタル・エンジニアリングを発展させるための重要な基盤です。これには、スーパー・コンピューティングやそれを支援するソフトウェア、物理ベースのモデル、研究ネットワークといった重要なインフラや、共通の関心分野における能力を共有し開発するための国際的なパートナーとの重要なコラボレーションが含まれる。
信頼性、可用性、安全性、接続性の高い情報ネットワークは、豪国防省全体でデジタル・エンジニアリング活動を行うために必要である。
ネットワークには、モデルや権威あるデータへの共有アクセスを安全に促進する、複数の分類レベルにおけるコンピューティング・インフラとエンタープライズ・サービスが含まれていなければならない。適切なインフラは、コラボレーションの改善、学習の強化、情報共有の促進、データ主導の意思決定を可能にする。
豪国防省は、労働力と関連するデジタル・エンジニアリング活動のデジタル・エンジニアリング・ニーズを可能にするハードウェアとソフトウェアのソリューションを計画し、リソースを確保し、配備する。デジタル・エンタープライズを確立する際には、柔軟な拡張性、大幅なコスト削減、迅速な配備を実現するためのモジュラー・アプローチと幅広いハードウェアおよびソフトウェア・ソリューションが検討され、目的に適合したソリューションが確保される。豪国防省は環境スキャンを実施し、可能であれば産業界や国際パートナーによって使用されている市販の既製ソリューションを特定し、ツールデータの統合(一体化)と再利用を促進するために、豪国防省のアプローチを商用ベストプラクティスやデータ交換のためのオープンソース統合を持つツールで標準化する。
このデジタル・エンジニアリングの旅に参加することで、将来のネットワーク、クラウドインフラ、システムのニーズが明らかになる。また、豪国防デジタル・グループにおけるこの必要不可欠な能力の計画にも反映される。
5.3 ITインフラを保護し、知的財産を守る
デジタル・エンジニアリングの変革は、モデルとデータの分類、可用性、機密性、否認防止、完全性の保護に依存している。モデルに存在する情報量を考慮すると、豪国防省はサイバーリスクを管理し、内部および外部の脅威からの攻撃に対してデジタル・エンジニアリング環境を保護しなければならない。
豪国防省は、産学界からの支援を受けて、共同研究や技術革新を推進しながら、知る必要性や輸出管理上の制約を含め、知的財産や機密情報の保護を確保する。
デジタル・エンジニアリングの関係者は、デジタル・エンジニアリングの到達目標の実現を促進しながら、インフラを保護しなければならない。豪国防省、産業界、学界は、コラボレーションとモデル内の膨大な情報へのアクセスがもたらすリスクに対処する。方法、プロセス、ツールは、異なるネットワークやセキュリティレベルの間でのデジタル・エンジニアリングのコラボレーションに特有の課題に対処するために、必要に応じて更新、開発される。
豪国防省は、協力のためにモデルを使用しながら、知的財産を保護する。必要に応じて、豪国防省は、政府、産業界、学界、国際的パートナーの財産権を保護しながら、データとモデルの交換を可能にする方法、プロセス、ツールを更新する。知的財産の特定と保護は、豪国防省とパートナーが共に取り組まなければならない極めて複雑な課題である。
すべての関係者は、利害関係者間で関連情報を交換する必要性とのバランスを取りながら、著作権、商標、特許、競争に敏感な情報を保護する責任がある。
図8:米国防総省のデジタル・エンジニアリング基準によるデジタル・エンジニアリング・エコシステム |
結論
世界の脅威が進化を続ける中、豪国防省にとって、競争力を維持し、その時々の緊急事態に対応できるよう豪国防省のデジタル環境を近代化することは急務である。能力提供の迅速化は必須であり、今こそ豪国国防エンジニアリング・エコシステムを強化する時である。
このデジタル・エンジニアリング戦略は、まさにそれを達成するための豪国防省全体のデジタル・エンジニアリング・イニシアティブのための豪国防省の5つの戦略目標を概説している。この到達目標は、エンジニアリング・プロセスに革新をもたらし、多様な利害関係者間でコミュニケーションを図るための技術的手段として、デジタル表現とデジタル成果物の利用を促進するものである。
この戦略はまた、豪国防省システムの取得と調達に関わるさまざまな分野も対象としている。この戦略では、国防製品の構築、試験、実戦配備、維持、必要な能力と効果的な作戦任務への統合(一体化)の方法、そして、こうした実践を受け入れる人材の育成と形成の方法について、技術革新を奨励している。
この戦略で特定された到達目標は、豪国とその利益を守るために必要な統合(一体化)した部隊をよりよく提供するために、豪国防省がその能力を継続的に変革し、進化させるための基盤となるものである。
この戦略を適用することで、豪国防省はデジタル・エンジニアリング能力の全体的な採用を強化し、新規能力の獲得や既存能力の進化に向けた取り組みを成長・最適化させながら、それを将来にわたって持続させることができる。これにより、豪国防省は世界的な慣行や最先端技術(cutting edge technologies)に沿った能力ライフサイクルをより効果的に成熟させることができる。
図9:国防デジタル環境の到達目標 |
次の段階へ
能力調達・取得・維持グループ(Capability Acquisition and Sustainment Group : CASG)は、豪国防省全体のエンジニアリング政策のリーダーとして、この戦略の策定を主導し、グループやサービスと協力しながら、デジタル・エンジニアリングのための豪国防省の擁護者としての役割を果たす。戦略の採択に伴い、能力調達・取得・維持グループ(CASG)は豪国防省のデジタル・エンジニアリング・チャンピオンや産業界と協力し、実装を可能にする。能力調達・取得・維持グループ(CASG)は、関係者が具体的な実装計画を策定する際に協力し、この戦略で定められた一連の到達目標を達成するための豪国防省全体のロードマップを構成する。能力調達・取得・維持グループ(CASG)は、国防科学・技術グループ(DSTG)、豪国防省グループ、各軍種、省庁と協力して、既存のツールの限界を解決するためのデジタル・エンジニアリング研究のニーズを特定し、デジタル・エンジニアリング・ツールの進化のためのオプションを特定する。
デジタル・エンジニアリング戦略の2024年版は、特定された戦略的到達目標を支援するためにデジタル・エンジニアリングを向上させるロードマップと実装計画を共同でデザイン(設計)するために、産業界と政府の利害関係者との協議を可能にするための豪国防省による最初の見解である。
これは、能力調達・取得・維持のためのエンジニアリング実務(engineering practice)におけるデジタル変革(digital transformation)の旅の始まりである。
図10:デジタル・エンジニアリング構想 |
付録A
コンセプト上のデジタル・エンジニアリング能力のライフサイクル・モデル
ノート
[1] Adapted from US DoD Digital Engineering Strategy, 2018.