トルコのロシア製S-400対空ミサイルシステム調達のもたらすもの

トルコのロシア製S-400対空ミサイルシステム調達に関して、米国では超党派の議員が同調し、米国への敵対者に対する制裁法(CAATSA)の下、アリゾナ州のルーク空軍基地からのトルコ向けF-35本機の移送を停止しました。
NATOのトップである米国のカーティス・スカパロッティ大将は、「トルコがS-400計画を進めるなら戦闘機の供給は差し控えるべきである。」と議員たちに助言する様な事態になっています。
NATOは、元々ロシアの長距離爆撃機の脅威から戦域防護のために共同して防空システムを整備し、現在も欧州連合軍最高司令官のもと防空システムを運用、トルコもこの中の一員です。
又、NATO全体のミサイル防衛体制も米国のサポートの下で、段階的なアプローチPAA(Phased Adaptive Approach)の政策のもと集団安全保障態勢が整備されており、米国のBMDシステムのアセットが各地に展開しています。
トルコのロシア製S-400の導入は、この態勢全体にロシアによる「くさび」が打ち込まれた様なもので有り、F-35の調達に関わる問題への波及で止まらないNATO同盟における防衛態勢全体に関わるもののようです。
S-400の調達によってもたらされた国際共同開発によるF-35型機の今後の問題やロシアの軍事産業の実態などの記事を3月に紹介させて頂きましたが、関連する記事が「Aiforcetimes」に出ていましたのでご紹介します。

Here’s how F-35 technology would be compromised if Turkey also had the S-400 anti-aircraft system by: Kyle Rempfer
「トルコがS-400対航空機システムを保有すればF-35の技術は如何に漏れるのか」

An F-35 Lightning II sits on the flight line at Hill Air Force Base, Utah, Jan. 18. (Tech. Sgt. Andrew Lee/Air Force)
ユタ州ヒル空軍基地の飛行列線に駐機しているF-35 Lightning II 1月18日(Tech。Sgt。Andrew Lee / Air Force)

米空軍は、統合防空システム(IADS)の残骸を攻撃した後に難なくリビアを爆撃することが出来たが、リビアが有効なIADSネットワークのコンポーネントを維持していたらどうだったか?
それは全く異なった課題をもたらしていただろう。
ロシアのS-400システムは、例えば他の重複するミサイル部隊、戦闘機と指揮統制ノードと組み合わせていた場合、これまでに無いようなその航空侵入をもたらす米国の戦闘能力を試験していただろう。
それが米国の国会議員、国防当局者や大統領府が、トルコがF-35統合打撃戦闘機と同じようにS-400を調達するのを阻止するために奇妙に意見を同じくした理由の一つである。
米国がトルコを攻撃する理由はないが、その指導者たちは、米国の最新世代の戦闘機であるF-35やその他のものがどのように運用されているかに関する情報を収集するために使おうとしているからである。その情報は、最終的には、ロシアの手に渡る可能性が有る。
「誰もがこの同じ方向に居るのを見るのは驚くべき事だ。」とAEIで、国防予算・軍事調達研究を担当する元上院の予算委員会スタッフのRick Bergerは語っている。
S-400を巡る意見の相違は、不安定な同盟関係に存在する戦略的、戦術的懸念を悪化させている。「総じて“トルコはNATOに居るべきなのか?”疑問が噴出するのは避けられない。」ベルガー氏は語った。
米国はしばらくの間、トルコのNATOへの忠誠に大きく依存してきた。
とりわけ注目すべきは、トルコ南部のIncirlik空軍基地からISに対する戦闘に出撃していた事だ。
米国のIncirlikにおけるプレゼンスは、S-400問題を超えてクルドのシリアの戦闘機に対する米国のサポートに広がる継続的な力の均衡の中での重要な交渉のチップとして見られてきた。
「我々は、トルコがF-35プログラムから除外されるというこの避けられない偶発事故に踏み入れ休止状態にある。」とBerger氏は述べた。「もし我々がトルコにF-35を供与しないならば、彼らがそこに我々の仲間を望む理由は。」

技術リスク
もしトルコがS-400をF-35と並んで調達するならば、航空機を製造する致命的な技術は潜在的に暴露される可能性がある。
NATO諸国は、軍用機や艦船、地上部隊でもほぼリアルタイムで戦術状況を共有できるように戦術データリンクを使用している。これはリンク16と呼ばれる。
NATOの航空機は、IFFとして知られている敵味方識別システムを用いて、航空領域における友軍の航空機を識別している。
IFFとリンク16による質問機(敵味方識別のための)は、トルコの応答機を搭載したF-35がS-400の致命的な射程範囲内で飛行するのを許可するためにS-400システムへ統合されなければならないものとなる。
これにより、全てのLink 16とIFFの戦術データリンク装置(注:装置の特殊な性能等)が暴露の危険にさらされる可能性がある。と背景について元レーダーおよび武器の専門家は語った。
F-35がS-400の直ぐ近くを飛行すると、そのうちこのF-35の秘密のステルス特性を収集し、その詳細なステルス性能を学習することができる様になる。」と専門家は語った。
Lightning IIのステルス表面からの波形とその伝搬波形は、レーダーの運用パラメータ、ステルス技術、および暗号化されたLink 16コードを保護するために高度に秘匿されている。例えば、「もし貴方が伝播特性を知っていれば、それを偽装できる。」運用者をだますために受信機に対して偽の信号を送って。

2016年5月9日、赤の広場でのモスクワでの勝利の日の軍事パレードでロシアのS-400防空ミサイルシステムのお披露目。(Kirill Kudryavtsev / AFP / Getty Images)

懸念は、必ずしもトルコ軍がこのセンシティブなデータを暴露する事ではなく、その代わりにS-400でのマルウェアやロシアの作業員がそのシステムを操作したり、セットしたり、整備することで、その情報にアクセスする様になることである。

これらのS-400は、何百マイルにもわたるノードで高度にネットワーク化されている。
機密データをロシアやあるいは最も高い競り手に潜在的にばらまく事が出来る可能性がある多数の脆弱なノードが存在すると考えられる。
S-400が近くにあるとインリック航空基地から飛び立つ米空軍のF-35の運用さえも困難になる可能性がある。
トルコ政府、とりわけその権威主義的大統領であるRecep Tayyip Erdoğanが、ロシアのシステムを買うための動きは最善の利益になるのではなかったとBergerは述べた。
国防総省当局者は、代替手段としてパトリオットミサイルを売るための土壇場での延長の提案をしたが、トルコの指導者たちは納得できなかった。
「しかし、米国は適切な条件を我々に提示することに失敗した。だからS-400の取引が実行されている。そして我々はシステムが7月に供給されると我々は予期している。」とエルドアンは金曜日に語った。
これは米国の問題だけでは無くトルコの問題にもなってきている。彼ら自身のF-35が役に立たなくなってくる可能性が有るからだ。
「トルコの意思決定は、エルドアンが権力を集権化させたため現在のところ闇の中である。」とBergerは語った。それはエルドアンとドナルドトランプが互いの懸念を正確に伝え理解しているかどうか?明確でないと彼は付け加えた。しかし、「米国がブラフをしているという一部のトルコ人の間ではまだ意味がある。」とバーガー氏は述べた。

一つの声

国防総省、国会議員、ホワイトハウスからのこれまでの声明は、トルコのS-400の買収は「米国とNATOの同盟国のための垣を超えて踏み出した。」とCSISの国防総省の元高官は述べている。
「我々は、他の国々がさまざまなシナリオでロシアのシステムを運用することを容認している。」とハンター氏は語った。
米国とトルコの関係を取り戻して、それが行き過ぎないようにする方法はまだあるだろう。「しかし、ロシアへのステップ、特にNATOシステムに統合できないシステムの取得への向かう姿勢を続けならば、それは、同盟にとって深刻な問題となる可能性がある点まで広げる可能性がある」と付け加えた。
中東での我々の任務を遂行するためにトルコ周辺で活動することは不可能ではないが、ただ難しい問題なだけである。兵力を展開し続けるために、米国はヨルダンまたはカタールのようなアラブ諸国にもっと頼ることを強いられるかもしれない。

ドナルド・トランプ大統領、10月にアリゾナ州ルーク空軍基地で行われる国防能力ツアーで、F-35航空機の操縦室の操縦士と話をしている。

カタール当局者は、米国とのより多くの防衛関係を発展させることに熱心であり、アルウデイド空軍基地でのアメリカのプレゼンスを拡大したいという願望を示している。しかし、カタールでさえS-400の購入についてロシアと話しているのだ。
「私の考えるところによると、軍の仲間たちはそのどちらにも興奮しないだろう」とバーガーは言った。トルコの基地への無制限のアクセスを持たないことは、確かに米国の作戦に影響を与えるだろう。しかし、2003年のイラク侵攻は、米軍がトルコ抜きでこの地域での任務を遂行することができるという例として挙げられる。
「トルコがその作戦のためにトルコの地勢を使用する権利を米国に否定したとき、それは米国の計画への大きな障害だった。しかし我々はそれを回避することができた。」とハンターは言った。
「確実に回避策はあるが、これらの回避策が存在するという事実は、同盟が戦略的で重要性が低いことを示唆するものではない。」米国の立場は、その問題にレッドラインが引かれていること、そして国防総省がその結末に非常に多大な費用を負担する事に耐える意思があることを示している。
トルコにF-35を供給しなければ、トルコ人だけでなくアメリカにも多大なコストがかかるだろう」とハンター氏は語った。
1つには、米国は、現在トルコが担当している多くの部品の代替サプライヤを見つける必要があるだろう。と彼らは考えているが、それはコストを乗せることになるだろうと彼は付け加えた。
それはまたトルコの費用がかかります。結局のところ、F-35プログラムはトルコの経済と産業基盤のために良いものなのだ。「彼らがこれに関してロシア人によってとられたかどうか彼らが理解しているかどうか私は知らない」とバーガーは言った。
「確かにS-400は素晴らしいシステムですが、(トルコの指導者たちが)支払おうとしている価格は莫大です。」S-400を買うという決定は、トルコが西側に寄っていないと見られる事を示す事が大部分を占めているようだ。とバーガー氏は述べた。しかし、トルコはロシアから何か他のものを買うことによって同じことをしたかもしれません。「NATOに止まりたいのか、それともロシア人と同調したいのか、というのはつまらないことではない。」と彼は付け加えた。
「これが基本的な道の終わり:「彼らがなすことができる最も顕著な軍事上のトレードオフ」である。」
(黒豆芝)