トルコ―米国関係・S-400の引き渡しで一層の緊張感

掲載:2019年7月17日
作成:フォーキャストインターナショナル(FI)社
投稿:Daniel Darling FI社アナリスト
(この論評は米国人のアナリストが米国内に向けて出したブログです)

Turkey-U.S. Relations Further Strained by S-400 Delivery  By Daniel Darling
トルコ―米国関係・S-400の引き渡しで一層の緊張感

予想通り、トルコはロシアからの先進的なS-400防空システムの納入を受け入れた後、正式にF-35ライトニングII第5世代戦闘機のオーダーを受けないだろう。
2017年10月にトルコによって発注された最初のS-400システムの最初の一部は7月12日にアンカラの首都の郊外のモルツ(Murted)空軍基地に到着した。
それは、CAATSAに基づく米国の制裁の発動要件である。

CAATSAに関連する金融制裁は、各国がロシアの兵器システムを購入するのを防ぐことを目的としている。
制裁体制の下では、CAATSAに略述されている個人または団体とのある程度の規模の取引を行っているいかなる第三者も懲罰的制裁に対して責任を負う。
CAATSAでの制裁に対する免除は、CAATSA以前に取得されたロシアの旧式システムの保守など、特定の状況では適用される場合があるが、トルコの場合、S-400システムを購入は米国の防衛装備等が危険にさらされる危険性が高まるため、このような可能性は無い。

トルコは、100機のF-35A型機の発注を明確な計画として保有し、合計30機が2022年末までに納入される予定であった。
ロシアとのそのS-400の合意の履行に関するトルコの主張について、ワシントンとアンカラの間で何ヶ月もの警告と緊張の往復が行われた後、ペンタゴンは4月1日、ロッキード・マーティンF-35型機関連機器のトルコへの供給を停止することを選択した。
トルコがS-400を購入したことで、米国の国防当局者とF-35型機を調達している同盟国の関係者の間で懸念が高まった。
トルコがF-35型機と並行してロシアのシステムを調達し運用することへの恐れは、ロシアに航空機の高度な技術や各種の脆弱性への窓を提供することになり、それはペンタゴンの当局者や政府の政策立案者によっても表明された。
さらに、ロシアの請負業者がトルコでのS-400高射部隊の設置と早期運用を支援するために派遣するという見込みは、米国とNATOの利益に対する情報収集の脅威を表すものであり、火災に油を注ぐだけである。

2017年2月にトルコ国防省がS-400システムを購入すると発表した頃には、トルコは、2002年7月にはF-35型機プロジェクトのシステム開発と実証(SDD)フェーズに7番目の国際パートナーとして参画し、長い間F-35プログラムに関わってきている。
トルコ向けに製造された最初の2機の戦闘機は、2018年6月21日にテキサス州フォートワースの施設でのロール・アウト・セレモニーで、ロッキード・マーティンによって正式に提供された。
これらの2機の戦闘機は―この夏まで-アリゾナのルーク空軍基地でトルコ人パイロットと地上乗組員を訓練するために使用されていた。一方で、トルコのメンテナンスクルーは、フロリダのエグリン空軍基地でF-35の作業を訓練していた。

ブロックされたF-35体制からの脱落、F-35サプライチェーン体制からのトルコへのワークシェアの喪失、そして、CAATSAの下での制裁の影響はすべて、シリアで進行中の内戦によってひびが入った米国とトルコの関係をさらに悪化させ、2016年7月中旬に、トルコの実力者大統領レセップ・タイップ・エルドアンに対するクーデター未遂を起こしている。
ロッキード・マーチンの戦闘機の売上げの喪失、そしてトルコの指導者との対人関係および地域問題への対応の必要性など、(注:トランプ大統領は、)トルコの立場に同調しているように見えたが。ドナルド・トランプ大統領は、何度も繰り返しトルコのF-35の供給の拒否されることについて語った。
ホワイトハウスからの公式声明が7月17日に発表された。

先進的なステルス戦闘機を失うことは、航空機に関連する企業のワークシェアの損失がそうであるように、航空戦闘力の最前線でトルコの痛みになるだろう。
情報筋によると、トルコの産業界の関与は各飛行機の価値の最大6%を占めている。
トルコは、航空機で使用されるF135エンジンの最終組立およびチェックアウト(FACO)のための地域ハブ、およびF135のための地域の保守、修理、オーバーホールおよびアップグレード施設のホストとして機能する予定であった。
胴体、着陸装置、操縦席ディスプレイなど、合計で10社のトルコ企業がF-35型機の部品製造に参加している。

又、F-35型機の開発にはすでに投資の喪失があり、それは-エルドアン大統領の発言によれば-合計で最大15億ドルになる。
しかし、トルコがロシアのS-400トライアンフ・システムを25億ドルで購入することを主張したことで、米国の国会議員とペンタゴンの当局者は、F-35型機の納入停止と航空機のサプライチェーンへのトルコの産業参加の分離を主張した。

トランプ政権は今後も、シリアで活動しているアメリカ軍の部分撤退に備えて、シリアでトルコの支援を求め続けるだろう。
しかし、そのような訴えはアンカラの聞く耳を持たないものにかかる可能性がある。
そこでは、エルドアン大統領が「S-400またはF-35であって両方ではない」と言う警告を正すための中間的な根拠を見つけるのに必要なのは米国政権であると主張している。
エルドアン首相は、米国の圧力に屈することを拒否しながら、トルコが長距離の防空迎撃能力を提供するS-400を選択することは国家主権の問題であると主張した。
それでも同時に、アンカラは、長距離防空システムの当面の要件を満たすためにS-400を選択したことはこの提案で提示された技術移転と共同生産の部分に基づいていると主張した。-ロシアの防衛当局者による反論。

さらに、トルコ当局者は、米国がパトリオットシステムを売却することを断った後にのみ、ロシアの防空オプションを選択したと主張している。
しかし、昨年12月のトルコとロシアの取引の関係を切ろうとした時、トランプ政権はアンカラがS-400購入を止める代わりにパトリオットを提供すると申し出た。
この問題は、軍事技術のうちの一つは、誤解によって緊迫した関係よりも、既製品を購入するものでは無く、政治的根拠に基づいて策定されたトップダウンの防衛調達決定、シリア紛争に関連した地政学的浸透(パーコレーション;主にイスラム国の諸要素との闘いをしているクルド軍に対する米国の支援)、2016年の失敗したクーデターの結果として、エルドアンとそのイスラム正義と開発党(AKP)によって既に包囲されているトルコのケマリストの基礎をさらに侵食した。

S-400はトルコがエルドアン政権下で西側から漂流していることを象徴しているが、その国トルコはNATO加盟国であり、自らの権利において貴重な地政学的当事者である。
凍結されたF-35型機の販売というハードルを超え、今後のCAATSA制裁をどのように適用するかは、ワシントンとアンカラの間の緊張のレベルを決定するのに役立つであろう。
(黒豆芝)