現実感が得られなければ、仮想訓練の意味はない・・米陸軍の課題への取り組み – What’s the point of virtual training if it doesn’t feel real? The US Army is tackling the problem –

科学・技術の進歩は、いわゆる戦いの性質や性格(nature of warfare, character of warfare)を変えるだろうとか変えたといわれる。中でも最近では人工知能(artificial intelligence:AI)の研究と開発が軍事に与える影響は、誰もが関心を抱くことであろう。一方で軍事に関わる訓練についても、科学・技術の進歩が訓練器材の進化を生み出しているといえる。純に訓練器材の進化だけでなく兵士の能力を大きく左右するような変革をも、もたらすと言っても過言ではなかろう。
1966年頃から海軍の訓練装置に関する軍産のカンファレンスとして発足したイベントが、今年も12月に米国のオークランドで開催された。 Interservice/Industry Training, Simulation and Education Conference (I/ITSEC)(https://www.iitsec.org/)で、通称イトセック(ITSEC)と呼んでいるものである。
訓練分野にシミュレーション技術を取り入れる取り組みは、コンピュータの登場以来行われているものであるが、最近は画像処理用の演算装置(Graphics Processing Unit:GPU)の能力向上やAIの進化によって訓練分野でのブレークスルーが予期されるところである。
ここでは、仮想環境での訓練について、2019年のI/ITSECに関わる米国のディフェンスニュース(https://www.defensenews.com/)の記事を紹介することによって、軍事に関わる訓練環境の変化を感じていただきたい。

現実感が得られなければ、仮想訓練の意味はない・・米陸軍の課題への取り組み – What’s the point of virtual training if it doesn’t feel real? The US Army is tackling the problem –

By: Jen Judson[1]

on December 4, 2019

集成訓練装置から遠隔操作される兵士のアバターとリアルタイムで対話するストライカーの車両指揮官 (米陸軍提供)

ワシントン発-米陸軍は、訓練効果を高めるために仮想訓練の中に現実感覚を取り入れているが、それはゲーム業界にとっても簡単なことではない。

フロリダ州オーランドで開催されたInterservice / Industry Training、Simulation and Education Conferenceに先立って発表された陸軍の声明によると、合成訓練環境(Synthetic Training Environment:STE)の開発に着手する際に陸軍種が直面する課題の1つは、「現実のものの背後にあるコンピューター生成の人と物体と、その環境内でアクターや物体が動き回るように、複数の観点からリアルタイムでそれを行う」ように描写する「現実的で没入型の仮想訓練体験の提供」である。

米陸軍が言うこの「難問」は「動的な遮蔽(dynamic occlusion)[2]」を改善しており、陸軍種はこの問題を解決するために産業界や学界と協力している。

米陸軍は、戦争のために兵士を訓練する仮想世界を既に構築しており、今年、再構成可能な仮想の航空と地上の訓練装置と、複雑で現実の地形を含む共通の合成環境の主要な契約を裁可している。

過去2年間で、合成訓練環境(Synthetic Training Environment:STE)のコンポーネントは具体化され、訓練シミュレーションソフトウェア、訓練管理ツール、 仮想集成訓練装置と同様に地域の現実的で正確な仮想地図をコンパイルしたOne World Terrain(OWT)から成る。これらすべてが、兵士/分隊の仮想訓練装置と再構成可能な仮想集合訓練装置を構成する。

「動的な閉塞」の問題は、ビデオゲーマーがよく知っている問題の一つである。「プレイヤーの世界観内の仮想投影が実際のオブジェクトと適切に階層化されていない場合、体験は不自然に感じられる」これは現実的な訓練体験にとって望ましくない属性である、と声明は述べている。

現実感覚を実現するには、システムが任務環境の動的な変化を感知し、3D地形画像(またはメッシュ)をリアルタイムで更新できる必要がある。

米陸軍によると、「軍事シナリオでは、兵士が現実的に隠れることができない場合、または乗組員が敵の位置に正確に照準を合わせて発砲できない場合、問題は逆に学習体験に悪影響を及ぼしたり、ネガティブな習慣移行につながる可能性がある」

米陸軍は、現実の変化する環境で現実または仮想の動的オブジェクトを遮蔽するために、拡張現実のアルゴリズムと技術を成熟させて実証する計画を立てている、と米陸軍はDefense Newsへの声明で述べた。「生きて動いている物体の遮蔽は難しく、長い距離での閉塞はさらに困難である」と米陸軍は述べている。

米陸軍は、ハードウェアが「意味のある距離」での周囲の世界を感知する能力にはハードウェアにより制約があるため、陸軍種の下車兵士向けの拡張現実ヘッドマウントディスプレイは、小さな屋内環境に限定されている。

動作させるには、センサーを登録し、コンピューターが変化を含む実際の環境を「確認して理解」する必要がある。そうすれば、陸軍種の要求に応じて、コンピューター生成のホログラフィックコンテンツを現実的に配置できることになる。

米陸軍の兵士の戦闘能力開発本部センター(Soldier Center of Combat Capabilities Development Command)は、昨年、動的な遮蔽能力を提供するいくつかのCOTSのセンサーを特定し、評価した。センターは、より大きな距離でより高い遮蔽精度を達成するネットワークカメラ技術の試作品を開発した。

この陸軍種では、開発された技術とアルゴリズムを使用して、動的な遮蔽範囲(dynamic occlusion range)と精度が翌年にわたって改善されると予測している。

米陸軍は、広域追跡の方法および動的な遮蔽(dynamic occlusion)アルゴリズム、特に兵器追跡のアルゴリズム最適化において、基本的なブレークスルーがまだ残っていると指摘している。

米陸軍によると、民間市場では利用できない合成エンティティを動的に遮蔽するために必要な極端な同時の局地化とマッピング(simultaneous localization and mapping :SLAM)機能を実現するには、さらなる進展が必要とされる。SLAMは、未知の環境のマップを構築および更新すると同時に、その中のエージェントの位置を追跡する能力である。

そして、米陸軍はその仮想の構築環境の中により多くの現実性をもたらすように働きますが、実際の訓練でより現実性を達成することはまだまだ困難である。この陸軍種は、世界中で行う米陸軍訓練場での実動の対抗訓練(force-on-force training)および目標射撃訓練(force-on-target training)のために1970年代および1980年代に開発されたシステムである、一体化した複数統合レーザー交戦システム(Instrumented Multiple Integrated Laser Engagement System :I-MILES)に代わるものを探している。

「I-MILESは長年にわたって強化されてきましたが、レーザーベースのシステムは、致命的な影響を現実的に表現する能力が限られているため、本質的に人工物を実動演習の中に導入している」と米陸軍の声明には書かれている。 「たとえば、低木や段ボール箱は、レーザーの照射から効果的に掩蔽するが、銃撃戦では役に立たない」

陸軍種の声明によると、米陸軍はまた、直接射撃および間接射撃の効果をより正確に描写し、実動訓練では描写するのが困難で高価となる、より長距離またはより洗練された兵器を望んでいる。

合成訓練環境(Synthetic Training Environment:STE)の開発を担当するMaria Gervais米陸軍少将は、声明の中で「実動訓練(Live)の最終目標は、すべての米陸軍訓練センターで実際の実弾交戦の致死性、脆弱性、影響をよりよく再現することである」と述べている。「同時に、すべての行動と使用中の兵器システムの結果を仮想環境で正確に描写する必要があり、それにより、他の場所でのシミュレーションによる訓練を受けた兵士は、リアルタイムで同じ作戦の状況を得ることになる」

ノート

[1] Jen JudsonはDefense Newsの陸戦分野の記者である。彼女は、ワシントン地域の防衛を8年間カバーしている。彼女は、以前はPolitico Pro DefenceおよびInside Defenseのレポーターであった。 彼女は2014年にNational Press Clubの最高の分析報告賞を受賞し、2018年にはDefense Media Awardsの最優秀若手防衛ジャーナリストに指名されている。

[2] 遮蔽(Occlusion)とは、仮想空間内に生成する静的な物体や動的な物体の空間内の位置関係を正しく視角できず、見えるものを遮ってしまうような状況を指す。

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