米陸軍の「照準点戦力構造取組み」:The Army’s AimPoint Force Structure Initiative

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先ごろ行われた米陸軍協会(AUSA)でも、米陸軍長官のライアン・マッカーシーは「米陸軍の変革は後戻りできない」と述べ、米陸軍参謀総長のジェイムズ・マッコンビル米陸軍大将も「今は変革の時である」と述べている。

トランプ政権下に策定された2017年の「米国家安全保障戦略」と、この戦略の下位戦略となる2018年の「米国家防衛戦略」は、共に公開されているが、ロシアと中国を競争の対象国として認識しており、これまでに米国が持っていた「競争上の優位性(competitive advantage)」に危機感を持っている。そして、2018年の「米国家軍事戦略」は非公開であるが、米統合参謀本部発行の「2018年の米軍事戦略の説明」によると、その軍事的な競争上の優位性を取り戻すための努力について述べている。

いずれにしても、米陸軍はイラクとアフガニスタンを対象とする構造に変換しているため、新たな脅威に対応可能とするために変わらなければいけないのである。米陸軍の新たな戦いのコンセプトである「マルチドメイン・オペレーション」を実現していくための様々な取組みがなされているのであり、11月16日に紹介した「米陸軍プロジェクト・コンバージェンス」もその一つである。

ここでは、「AimPoint」と呼ばれる米陸軍の戦力構造見直しの取組みについて、米国議会調査局のレポートを紹介する。

米陸軍の、この戦力構造(Force Structure)に関する取り組みの記事は「米陸軍将来コンセプトセンターは新しい戦力構造を評価する」、「米陸軍は統合全ドメイン作戦に向けて形づくっている-米陸軍将来コンセプトセンターはマルチドメインのコンセプトを統合レベルへ引き上げようとしている」、「バック・トゥ・ザ・フューチャー:21世紀の高強度戦争のための米軍の変革」などで確認できる。

同様に、米海兵隊は、「米海兵隊総司令官計画策定指針(CPG)」に続き、「米海兵隊戦力デザイン2030」を示し、変革を進めている。(軍治)

米陸軍の「照準点戦力構造取組み」:The Army’s AimPoint Force Structure Initiative

2020年5月8日

背景:Background

2018年の米国国家軍事戦略では、中国やロシアのような強大国の競争者であろうと、その他の安全保障上の課題であろうと、競争者を阻止し、敵対者を打ち負かすために米軍が本国を守り、競争上の優位性を維持する方法について説明している。これは、反乱対処と暴力的過激主義組織を打ち破ることに焦点を当てた、9.11以後の他の国家軍事戦略からの根本的に逸脱するものである。本質的に、2018年の米国国家軍事戦略は、反乱対処や暴力的過激主義組織との闘いから、ロシアと中国の軍隊に対抗し、場合によっては対峙することへと米陸軍を再び集中させるものである。米陸軍の新しい「照準点取組み(AimPoint initiative)」は、この新しい焦点を実装するために必要な戦力構造(force structure)を構築する手段となることを意図するものである。

これまでの米陸軍の戦力構造構成:Previous Army Force Structure Construct

冷戦の間、米陸軍は主に師団中心の部隊であり、特殊な旅団(brigade)、大隊(battalion)、中隊(company)が混在する師団が主要な用兵組織(warfighting organization)であった。師団内では、指揮官は、戦術的な状況に応じて、隷下の歩兵旅団または装甲旅団に割り当てることができる砲兵(artillery)、工兵(engineer)、兵站部隊(logistical unit)などのさまざまなアセットを統制していた。師団は軍団(corps)の一部であり、また、軍団には、軍団の指揮官が作戦を支援するために師団に割り当てることができる砲兵や工兵などの独自の有機的部隊もあった。

2000年代初頭、米陸軍がイラクとアフガニスタンでの長期的な対反乱戦闘作戦(counterinsurgency combat operations)に関与するようになると、米陸軍部隊は毎年これらの戦域(theater)にローテーションで投入された。これらのローテーションが兵士と部隊にどのように影響したかを観察した結果、米陸軍の指導部は、師団中心の部隊はローテーション部隊を支えるのに最適な構造ではないと判断した。

2003年9月、米陸軍は、師団(10,000人から18,000人の兵士)を中心とする組織から、約4,000人の兵士からなる旅団戦闘チーム(brigade combat team:BCT)に基づく部隊への転換を開始した。モジュラー部隊として知られるこの新しい旅団中心の部隊は、新しく形成された旅団戦闘チーム(BCT)に多くの師団レベルのアセットを割り当て、それによって師団の作戦上および戦術上の役割を軽減した。

マルチドメイン・オペレーション(MDO):Multi-Domain Operations (MDO)

米陸軍によると、現在の従来型用兵ドクトリン(conventional warfighting doctrine)は、ヨーロッパのワルシャワ条約機構軍(Warsaw Pact forces)に対抗するために1981年に開発されたエアランド・バトル(Air-Land Battle)コンセプトに依然として大部分が基づいている。名前が示すように、エアランド・バトルは主に航空と陸上のドメインでの作戦に基づいている。しかし、競争者は現在、統合部隊を物理的および機能的に分離し、政治的に同盟を結ぶことを目的とした、ますます有能な接近阻止・領域拒否戦略(anti-access and area denial strategies)を持っている。さらに、ほぼ対等な競争者は、米国とその同盟国との武力紛争以外の手段によって戦略的目標を確実にすることができる。さらに重要なことに、米陸軍は、米国が何十年にもわたって保持してきた優位性であるほぼ対等な脅威に対する優越(dominance)を保証できなくなった。エアランド・バトルとは異なり、マルチドメイン・オペレーション(MDO)は、競争と紛争が複数のドメイン(陸、空、海、サイバー、宇宙)で発生し、将来の作戦環境では連続した競争全体に複数の脅威が存在するという概念に対処するものである。マルチドメイン・オペレーション(MDO)のコンセプトは引き続き洗練され、更新されているため、米陸軍の近代化と戦力構造を推進する可能性がある。米陸軍は2035年までに完全なマルチドメイン・オペレーション(MDO)能力を達成することを目指している。

コンセプト的には、米陸軍は統合部隊の構成要素として、競争に勝つために、主に抑止力によってマルチドメイン・オペレーション(MDO)を実施することを計画している(必ずしも各瞬間にすべてのドメインである必要はない)。 抑止が失敗し、必要になった場合、米陸軍部隊は敵の接近阻止・領域拒否(A2 / AD)システムに侵入して無効にし、成功した場合は、結果として生じる機動の自由(freedom of maneuver)を利用して戦略目標(strategic objectives)を達成し、有利な条件での競争への復帰を強要する。

「照準点戦力構造取組み」の主な側面:Major Aspects of AimPoint Force Structure Initiative

米陸軍がマルチドメイン・オペレーション(MDO)能力を構築しようとする主な手段は、「照準点戦力構造取組み(AimPoint Force Structure Initiative)」と呼ばれるものである。米陸軍によると、陸軍将来コマンド(AFC)の陸軍将来コンセプトセンター(Army Futures and Concepts Center)によって開発されている「照準点部隊(AimPoint Force)」は、柔軟な部隊構造となる予定である。旅団レベル以下ではほとんど変化は見込まれないが、米陸軍は、イラクやアフガニスタンなどの対反乱作戦で主に支援的役割を果たしてきた師団司令部、軍団司令部、戦域司令部などの上位階層で大きな変化が起こると示唆している。マルチドメイン・オペレーション(MDO)の下では、より上位の野戦部隊の本部が、ロシアや中国などの十分に武装した国民国家に対する大規模な戦役の調整を主導するために、いま求められている。米陸軍はまた、「照準点部隊(AimPoint Force)」は資源関する情報を提供され、つまり予算の制約と政治的考慮の対象となることにも意味していると述べている。ヨーロッパとインド太平洋の戦域は地理的に異なるため、個々の上位階層の「照準点編成(AimPoint formation)」の戦力構造は、現在の万能ユニットとは対照的に、戦域によって異なる可能性がある。

主な提案された部隊構造取組み:Major Proposed Force Structure Initiatives

次の節では、「照準点(AimPoint)取組み」で提案される主要な戦力構造の変更のいくつかについて説明する。

師団、軍団、戦域レベル:Division, Corps, and Theater Level

米陸軍は、過去20年から30年の間、師団、軍団、戦域レベルで戦役(campaign)を実施する能力容量は「担保」であったと述べている(つまり、これらのレベルのアセットと部隊は旅団戦闘チーム(BCT)に割り当てられていた)。 「照準点(AimPoint)取組み」の下では、ほぼ対等な敵対者と競争し、情報戦(information warfare)を用い、サイバードメインと宇宙ドメインで作戦するために、これらのレベルの本部が開発され、既存の本部が変更されて、戦役(campaign)能力を構築(つまり、参謀、専門家、能力、および部隊を追加)する。

「照準点(AimPoint)取組み」の一部として、米陸軍は2020年2月11日に、ケンタッキー州フォートノックスにある第5軍団(V Corps)と呼ばれる第4軍団本部の活性化を発表した。第5軍団本部は約635人の兵士で構成され、そのうち約200人がヨーロッパの交替作戦指揮所を支援する。第5軍団本部は2020年秋までに運用可能になる予定である。

米陸軍はまた、「照準点(AimPoint)取組み」の下で、現在開発中の米陸軍ミサイルおよび拡張射程砲兵システムと部隊の長距離射撃を調整することを意図とした、数は未定であるが新しい戦域射撃コマンドを開発することを計画している。

マルチドメイン・タスクフォース(MDTF):Multi-Domain Task Forces (MDTF)

マルチドメイン・オペレーション(MDO)の実施を容易にするために、「照準点(AimPoint)取組み」の下で、米陸軍は現在3つのマルチドメイン・タスクフォース(MDTF)を作っている。野戦砲兵(FA)旅団を基盤として、インテリジェンス、情報作戦(information operations)、サイバー、電子戦(electronic warfare)、宇宙(I2CEWS)の分遣隊(detachment)によって強化され、最初のマルチドメイン・タスクフォース(MDTF)は2017年にパイロットプログラムとして設立され、米陸軍太平洋軍に割り当てられ、そして、多くの演習や訓練イベントに参加した。マルチドメイン・タスクフォース(MDTF)は、敵の接近阻止・領域拒否(A2 / AD)能力と米国部隊に焦点を当て標的とする敵のネットワークに対抗できるアセットを採用して、敵の環境に侵入することに焦点を当てている。

2021年に、米陸軍はヨーロッパに2番目の単独のマルチドメイン・タスクフォース(MDTF)を設立することを計画している。これは、第41野戦砲兵旅団をI2CEWS要素と結合するものである。2022年には、まだ決定されていない3番目のタスクフォースが太平洋に立ち上がるであろう。米陸軍は、マルチドメイン・タスクフォース(MDTF)が他の軍種の人員を含む約500人の人員で構成されることを想定している。

長距離砲兵とミサイル:Long-Range Artillery and Missiles

また、陸軍将来コマンド(AFC)と「照準点(AimPoint)取組み」の後援の下で、米陸軍は長距離精密射撃部隊とシステムを開発している。開発中のシステムには、現在のランチャーを採用し、現在のシステムよりも広い射程範囲を達成できる新しい精密打撃ミサイル(Precision Strike Missile:PrSM)が含まれる。米陸軍はまた、拡張射程カノン砲(Extended Range Cannon Artillery:ERCA)システムを開発している。拡張射程カノン砲(ERCA)は、旅団戦闘チーム(BCT)および師団レベルで間接射撃を行う現在のM109A7パラディン自走榴弾砲の改良版であると言われている。米陸軍はまた、拡張射程カノン砲(ERCA)を増強するための戦略的長距離カノン砲の開発とテストの初期段階にあると報告されている。戦略的長距離カノン砲に対する米陸軍の最終目標は、1,000海里までの標的とうまく交戦できるようにすることである。開発と装備化が成功した場合、これらのシステムは既存の部隊に配備されるか、これらの新しい兵器システムに対応するために新しい部隊が作られることになる。

米国議会からの考えられる問い掛け:Potential Issues for Congress

米国議会からの考えられる問い掛けには、以下が含まれるが、これらに限定されるものではない。

本部機能と専門部隊に対する新しい要求事項:New Requirements for Headquarters and Specialized Units

「照準点(AimPoint)取組み」は柔軟な取組みとして述べられているが、米陸軍は、ほとんどの変更が旅団戦闘チーム(BCT)以上で行われることを指摘している。

・本部の種類と推定数に関して、陸軍が想定している本部の新しい要件は何ですか?

・専門部隊に関して、第5軍団と現在計画されている3つのマルチドメイン・タスクフォース(MDTF)を除いて、米陸軍が「照準点(AimPoint)取組み」の下で開発することを想定している他の種類の専門部隊(砲兵、ミサイル、防空およびミサイル防衛、インテリジェンスなど)にはどのようなものがあるか?

部隊の海外駐留:Overseas Stationing of Units

伝えられるところによると、米陸軍は「インド太平洋とヨーロッパの両方で前進するための、1980年代のようなものではないが、現在よりも大きい強化された態勢が必要である」と述べた。

・米陸軍が前方展開することを計画している「照準点(AimPoint)取組み」の下で開発されている地域ごとの部隊の種類と数は?

・これらの展開は、ローテーションまたは恒久的な駐屯した展開になるのか?

推定コスト:Estimated Costs

米陸軍の「照準点(AimPoint)取組み」は、間違いなく2035年までに完了することを目的とした野心的な取り組みである。

・この期間のこの取り組みに関連する人員、装備、作戦と維持整備、および軍事建設(MILCON)の観点から、米陸軍の推定コストはいくらか?

地球規模のコマンド、コントロール、コミュニケーション、コンピューター、インテリジェンス、監視、偵察(C4ISR)の適切性:Adequacy of Global Command, Control, Communications, Computers, and Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance (C4ISR)

マルチドメイン・タスクフォース(MDTF)などのマルチドメイン・オペレーション(MDO)および「照準点(AimPoint)取組み」部隊は、国のC4ISR、宇宙、サイバー、情報戦のアセット、およびその他の軍種や同盟国へのリンクを必要とするという特徴がある。

・この依存関係を考えると、計画されている地球規模のC4ISRネットワークは、マルチドメイン・オペレーション(MDO)と、ヨーロッパおよびインド太平洋軍(INDOPACOM)に指定された新規および既存の部隊のニーズを満たすのに十分なのか?

他の国家安全保障上の課題への適用性:Applicability to other National Security Challenges

前述のように、マルチドメイン・オペレーション(MDO)および「照準点(AimPoint)取組み」部隊とシステムは、強大国のロシアや中国と競争し、必要に応じて、対峙し、打ち負かすことを意図している。一部の防衛専門家は、COVID-19のパンデミックに照らして、現状の米国の国家安全保障構造が問題になり、各軍種がかなりの戦力構造と予算の削減に直面する可能性があると示唆している。

・国家安全保障の焦点におけるこの潜在的なシフトを考えると、マルチドメイン・オペレーション(MDO)と「照準点(AimPoint)取組み」の支援の下で開発されている部隊は、潜在的な将来のパンデミック状況を含む他の国家安全保障の課題にどの程度適用できるのか?

アンドリュー・フェイケルト、軍事地上部隊の専門家