スペクトラム支配の実現 (ARMADA International)
米国ロサンゼルスを拠点とする電子戦関連装備を研究・開発する企業「Silvus Technologies」社が支援した「Armada International」のレポート「ACHIEVING SPECTRUM DOMINANCE – ELECTROMAGNETIC MANEUVER AND THE BATTLE FOR E2S」を紹介する。
このレポートは、現代戦において「電磁スペクトラムの支配(Spectrum Dominance)」が戦闘力の前提条件になりつつあることを論じている。
ウクライナ戦争の教訓として、もはやNATO諸国でさえ自由に電波を使える時代は終わり、通信・測位・情報収集を支える電磁スペクトラムをめぐる争奪戦が戦場の中心になったと指摘している。このレポートは3部構成となっており、第1部では、ウクライナ戦争で見られる「無線を見つければアセットを見つけられる」という考え方が戦場で実践されているロシア軍の電子戦(EW)の状況を分析している。第2部では、伝統的な電子防護手段である周波数ホッピング(FHSS)が、近年の電子戦装置は広帯域受信機、高速デジタル処理、AI・機械学習などの活用で限界を露呈しているという認識を示している。第3部では、この問題に対する解決策としてMANET(Mobile Ad Hoc Network)とMN-MIMO(Mobile Network – Multiple-Input Multiple-Output)技術を紹介している。
益々、高度化する電磁スぺクトラムの攻防の一端の理解に役立つだろうか。(軍治)
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スペクトラム支配の実現:電磁機動と電磁スペクトラム優越・覇権(E2S)をめぐる戦い
ACHIEVING SPECTRUM DOMINANCE – ELECTROMAGNETIC MANEUVER AND THE BATTLE FOR E2S
BY THOMAS WITHINGTON
著者について
トーマス・ウィティントン(Thomas Withington)は、電子戦、レーダー、軍事通信を専門とする受賞歴のあるアナリスト兼ライターであり、英国王立連合サービス研究所(RUSI)の研究員を務めている。彼はこれらのテーマについて、専門誌や一般誌など幅広い媒体で数多くの記事を執筆しており、また『Armada International』の電子戦および軍事通信に関するウェブページや月刊ニュースレターの編集も担当している。さらに、政府や民間セクターの主要なクライアント数社に対し、これらの分野のコンサルタントおよびアドバイザーとして活動するほか、世界中の主要メディア機関に対して、電磁スペクトラムの利用に関する安全保障・防衛面の解説を定期的に提供している。
はじめに
今日および将来の戦争は、混雑し、争われる電磁環境下で戦われることになるだろう。ある勢力が無線周波数スペクトラム(radio spectrum)を自由に利用できる時代は終わった[1]。ウクライナの戦場では、双方がスペクトラムの統制を勝ち取り、維持するためにいかに激しく闘うかが示されている。
この「スペクトラム支配(spectrum dominance)」を求める動きは、戦争の戦術的、作戦的、戦略的各レベルで見られ、紛争が非戦闘的な軍事作戦から全兵科を動員した会戦(all-arms battle)へと変容する特徴となるだろう。無線周波数スペクトラムの会戦(radio spectrum battle)では、双方が「電磁スペクトラム優越(Electromagnetic Spectrum Superiority)」および「電磁スペクトラム覇権(Electromagnetic Spectrum Supremacy)」、すなわち総称して電磁スペクトラム優越・覇権(E2S)と呼ばれるものを獲得し、維持するために闘いを繰り広げることになる[2]。
一方、電磁スペクトラム優越・覇権(E2S)は電磁機動(electromagnetic maneuver)によって達成される。キネティックなエネルギーに基づく機動と同様に、電磁機動(electromagnetic maneuver)もまた、無線周波数スペクトラム(radio spectrum)の内外を絶えず移動することで、敵対者に対して自軍の電磁能力を優位性ある位置に配置することを重視する[3]。
技術は、電磁機動(electromagnetic maneuver)および電磁スペクトラム優越・覇権(E2S)の実現において、引き続き決定的な役割を果たし続けている。本『Armada International』特別レポートでは、戦場における信号探知およびターゲティング・プロセスの一環として行われる通信インテリジェンス(COMINT)の収集・活用によって生じる、新たな電子戦(EW)の脅威について検証する。
本稿では、電子戦(EW)能力の影響を軽減するための従来のアプローチにおける限界がますます顕在化している現状と、それが現代の戦場における無人航空機(UAV)の使用および配備に及ぼしている影響について考察する。第3部では、無線周波数スペクトラム(radio spectrum)の利用を防護し、敵対的な電子対抗措置の影響を軽減することを狙いとした、新たな技術動向について論じる。
まず、モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)およびMIMOのアプローチについて解説した上で、Silvus Technologies社をはじめとする米国の主要産業基盤企業が、広範な電子戦(EW)防御ソリューションである「Spectrum Dominance 2.0」などの革新的なソリューションを開発することで、どのように対応しているかについて論じる。本レポートの結びでは、人工知能(AI)や機械学習(ML)といった将来の技術動向、およびこれらの技術が軍事通信、ひいてはマルチドメイン作戦(MDO)における電磁スペクトラム優越・覇権(E2S)に与える影響について考察する。
第1部 「スペクトラム包囲」:ロシアの戦術的電子戦戦役
前線に広がるジャミングとESMが、偵察・打撃のキル・チェーンに如何に形成するか
ウクライナに展開しているロシア陸上部隊(Russian land forces)は、前線の2キロメートル(1.2マイル)ごとに、戦術最前線に1基の電子戦(EW)システムを配備しているとされる。これらの電子戦システムには、主にウクライナの無線通信やネットワークを標的とする電子攻撃システム、あるいは電子支援措置(ESM)が含まれる[4]。
こうした電子支援措置(ESM)は通常、ウクライナの戦術無線機を検知し、その位置を三角測量によって特定する。電子戦(EW)の世界には、「無線を見つけられれば、そのアセットも見つかる(find the radio and you find the asset)」という格言がある。アセットには、車両、展開中の基地、兵器システム、センサー、そして個々の兵士などが含まれる。一旦発見されると、ロシアの電子戦部隊には2つの選択肢がある。すなわち、これらのアセットに随伴する無線機をジャミングするか、あるいはアセットの位置を砲撃で攻撃するかである。
ジャミングは、必要な電子対抗措置(ECCM)を備えていない無線機であれば、どのようなものであっても悪影響を及ぼす。後述するように、電子対抗措置(ECCM)は無線機が電子攻撃をかわすのを支援するためにデザインされている。この電子的防御対応は、2つの方法で実現される。第一に、無線信号を検知しにくくすること、第二に、信号がジャミングされにくくすることである。
戦闘における電子戦(EW)の活用は、ロシアの軍事ドクトリンに不可欠な要素である。ロシアは、戦いにおいて電子戦を初めて用いた国であると主張しており、特に1904年から1905年にかけての日露戦争において、ロシア海軍の水兵たちが日本帝国海軍の無線通信をジャミングしたことが挙げられる。これにより、日本帝国海軍の艦砲射撃を効果的に混乱させることに成功した[5]。
電子戦(EW)の有効性を確信したソ連、そしてその後のロシアでは、この分野が軍事思想において引き続き重要な役割を果たし続けた。「3分の1を消耗させ、3分の1をジャミングすれば、残りの3分の1は自ずと崩れる」というロシアの軍事格言は、同国の軍事哲学における電子戦の重要性を反映している。敵部隊(hostile force)の3分の1を(その規模の大小にかかわらず)物理的に無力化し、さらに3分の1を電子的手段でジャミングすれば、残りの部隊は闘いを継続できなくなり、崩壊状態に陥るだろう[6]。
北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、電子戦(EW)を、とりわけ陸上ドメインにおいては戦闘支援要素として、あるいは海上・航空ドメインにおけるプラットフォームの防護を強化する手段として捉えていると言えるだろう。一方、ロシア軍は電子戦を、その戦力構成に不可欠な要素と見なしている。この重要性は、ロシアの陸軍、空挺部隊、海軍、海兵隊、航空軍、宇宙軍、戦略ロケット軍がすべて、中隊から旅団規模の有機的な電子戦部隊を保有していることにも表れている。
これらの電子戦(EW)部隊は、ロシア軍の標準的な戦闘序列(orders of battle)の一部を構成している[7]。この大規模な電子戦部隊の配置により、ロシア軍は戦術的、作戦的、戦略的の各レベルで電子戦を展開することが可能となっている。より正確に言えば、ロシア軍はスペクトラム全体において、また紛争のあらゆるレベルで電子戦を展開している。
戦略的に見れば、ロシアの電子戦は、同国の情報戦作戦(information warfare operations)における重要な一環をなしている。ロシアの電子戦の究極の到達目標は、敵から情報を奪うことにある。無線機やそのネットワークに対する電子ジャミングは、情報の流れを混乱させることを意図している。
したがって、こうした通信の流れをジャミングすることは、指揮・統制(C2)や戦闘管理を阻害することになる。全地球航法衛星システム(GNSS)の位置・航法・時刻(PNT)に対するジャミングやスプーフィングにより、アクセスが遮断された区域が生じ、無人システムのオペレーターから、任務遂行に不可欠なインテリジェンス・監視・偵察(ISR)データが奪われることになる。
「情報こそが力(information is power)」であるならば、ロシアの電子戦要員たちは、敵対者からその力を奪い取ることを決意している。この理論は、戦略的競争の文脈においても関連性がある。そこでは、ロシアのハイブリッド戦(hybrid warfare)が、虚偽の情報を流布することで情報への信頼を損ない、地政学的なライバル国内の不安定化を図ろうとしている。同様に、この理論は戦場の文脈においても関連性があり、そこではロシアの電子戦要員たちが、敵対者の指揮・統制(C2)の流れやインテリジェンス・監視・偵察(ISR)活動の収集能力を可能な限り低下させようとするだろう[8]。
ロシアの陸上部隊は、いわゆる「偵察・攻撃複合体(Reconnaissance-Strike Complex)」の重要な要素として電子戦(EW)を活用している。この複合体の目的は、利用可能なあらゆる手段を駆使して情報を収集することにある。こうした手段には、無人航空機(UAV)、偵察部隊、前線観測員、信号インテリジェンス(SIGINT)の収集に加え、敵対者に関する情報を収集するための人的インテリジェンス(HUMINT)や画像インテリジェンス(IMINT)などが含まれる。
情報は収集され、インテリジェンスに変換され、それを必要とする者たちに提供される[9]。情報が提供されると、受け取った側は、その分析結果をどのように扱うかを判断することができる。例えば、そのインテリジェンスによって、これまで知られていなかった前線観測所が明らかになった場合、その後の行動方針(course of action)を決定するのは指揮官の裁量に委ねられる。
指揮所を放置すべきか、砲兵や地上機動部隊による攻撃を加えるべきか、あるいは指揮所の通信をジャミングすべきか、あるいはそのジャミングがキネティックな行動への前兆となるべきか。敵に対してあらゆるインテリジェンス収集手段を講じることができるのと同様に、あらゆる手段を用いて敵に打撃を与えることも可能である。これには、従来型の兵器から核兵器や化学兵器に至るキネティックな効果から、電子攻撃やサイバー攻撃までが含まれる[10]。
ロシアの戦争へのアプローチにおける電子戦(EW)の中心的な位置づけは、NATOおよび同盟軍にとって重大な意味を持つ。1965年から1975年にかけてのベトナム戦争への米国の関与以来、同盟諸国の軍は、いわば「電波スペクトラムを掌握(owned the spectrum)」してきたと言えるだろう。
敵対者は、バルカン半島やイラク、アフガニスタン、リビアなどの戦域において、同盟軍が利用しているスペクトラムに対して意味のある対抗措置(meaningfully contest)を講じることができていない。NATOとその同盟国は、指揮・統制(C2)、インテリジェンス・監視・偵察(ISR)、および航法のために、希望通りに無線周波数スペクトラム(radio spectrum)を利用することができてきた。
ロシアや、朝鮮民主主義人民共和国、イラン・イスラム共和国、中華人民共和国といったその他の戦略的ライバル諸国は、冷戦の終結以来、米国やNATOが主導する軍事作戦を注視してきた。
これらの国々は、NATOや同盟国が、自らが望む方法で闘うために無線周波数スペクトラム(radio spectrum)にどれほど依存しているかを正しく見抜いている。モスクワ、北京、テヘラン、平壌の政治・軍事指導部は、避けがたい結論に達した。すなわち、潜在的な敵対者から無線周波数スペクトラム(radio spectrum)を奪うことで、将来の紛争において、いわゆる「西側の戦争の方法(Western Way of War)」を機能不全に陥るほどに弱体化させることができるというのだ[11]。
要するに、この戦争のあり方は技術に依存しており、技術は無線周波数スペクトラム(radio spectrum)に依存している―後者を混乱させれば、前者を混乱させることになる(disrupt the latter and you disrupt the former)。
電子戦における通信インテリジェンス(COMINT)の台頭:戦略的インテリジェンス収集からリアルタイム・ターゲティングへ
通信インテリジェンス(COMINT)の一分野である信号インテリジェンス(SIGINT)は、微妙ながらも重要な変化を遂げつつある。従来、通信インテリジェンス(COMINT)は敵対的な通信システムや通信トラフィックの検知、識別、位置特定、および活用に重点を置いていた。
敵アセットの位置は、その無線機の位置情報から特定することができ、これにより、指揮官が戦闘空間に関する戦術的、作戦的、および/または戦略的な見通しをより充実させることができた。同様に、通信インテリジェンス(COMINT)を活用することで、赤部隊(red force)の意図や状況を推し量ることができた。
通信インテリジェンス(COMINT)による情報収集は、通信ジャミング(COMJAM)に活用される。これは、敵対的な通信システムやネットワークに対して電子的な攻撃を仕掛けたり、虚偽や誤解を招く情報を流し込んだりするプロセスである。
通信インテリジェンス(COMINT)の任務は現在、変化しつつある。「過去10年間で、通信インテリジェンス(COMINT)は、主に戦略的な収集アセットから、ターゲティング・プロセスおよびキル・チェーン・プロセスを支えるリアルタイムかつ任務遂行に不可欠な要素へと転換した」と、Silvus Technologies社の研究開発担当副社長であるマンスール・ラシッド(Mansour Rachid)博士は述べている。
ラシッド(Rachid)氏は、この変化は、センサー技術の進歩、エッジ・コンピューティングの登場、エッジにおける無線発信デバイスの増加、そして人工知能とそのサブ分野である機械学習の普及によってもたらされたと述べている。同様に、通信技術の進歩も、それに追いつくために通信インテリジェンス(COMINT)能力の進化を迫っている。
現在の戦術上の最重要課題は、「収集された情報(センシング・インテリジェンス)の迅速な分析とその活用」である。通信インテリジェンス(COMINT)は、「発見(find)、位置特定(fix)、追跡(track)、ターゲット(target)の各段階を通じて、ますます重要なダイナミックな構成要素」となっている。その役割は、発信源の位置特定や行動様式(pattern-of-life)の分析への貢献から始まり、作戦テンポに合わせて様々な任務目標を支援するネットワークのマッピングや「具体的な攻撃ルートや手法(exploitation vectors)」にまで及んでいる。
「通信インテリジェンス(COMINT)は、全体的なターゲティング・プロセスに深く統合されており、『競争の激しい環境下での迅速な意思決定を促進する』ために、電子戦およびサイバー戦におけるマルチドメインのインテリジェンス・監視・偵察任務を支援している」と、ラシッド(Rachid)博士は続ける。
通信インテリジェンス(COMINT)の活用は、常に広範な電子戦(EW)任務の中核をなしてきた。紛争の全スペクトラムにわたって電子戦の重要性が高まるにつれ、「通信インテリジェンス(COMINT)は、電磁スペクトラム全体にわたる攻勢作戦および防勢作戦の両方において、不可欠な要素としての地位を確立している」。
その結果、通信インテリジェンス(COMINT)はもはや単なる補助的なインテリジェンス機能にとどまらず、「状況認識の維持、精密な攻撃の実現、および敵対者の指揮・統制をリアルタイムで混乱させる」という点において、決定的な作戦能力の原動力となっている。
第2部 伝統的な電子的対抗措置・対抗対策のアプローチとその限界
適応型電子戦時代における通信防護の再考
NATOとその同盟国にとっての重要な課題は、彼らが依存している電子対抗措置(ECCM)の手法の一部が、現代の電磁的戦闘空間にはもはや完全には適していない可能性があるという点である。通信のレジリエンスを支え続けている技術は、電子戦における探知技術、処理速度、および適応型ジャミング・アーキテクチャの進歩によって、ますますその限界が試されている。
一例として、周波数ホッピング・スペクトラム拡散(FHSS)は、通信の残存性戦略(communications survivability strategies)における中心的な柱であり続けている[12]。 主にアンチ・ジャミング技術としてデザインされた周波数ホッピング・スペクトラム拡散(FHSS)は、共有された擬似乱数列に従って信号を複数の周波数チャネルに急速にシフト(拡散)させることで、脆弱性を低減する。単一の周波数での滞在時間を制限することで、この技術は敵対者にホッピング・パターンの予測を強いるか、あるいはより広帯域の干渉を適用することを余儀なくさせ、それによって電力需要を増大させ、ジャミング効率を低下させる。
ただし、ジャミングに対するレジリエンスと低探知確率(LPD)を区別することが重要である。信号エネルギーを広い帯域幅に同時に分散させて電力スペクトラム密度を低減させる直接拡散スペクトラム(DSSS)とは異なり、周波数ホッピング・スペクトラム拡散(FHSS)は、ジャミング攻撃を回避または弱めるために、比較的狭帯域の電波を広いスペクトラム範囲にわたって急速に移動させながら送信する。
これにより、ターゲットを絞ったジャミングは困難になるものの、最新の広帯域受信機は、監視対象の帯域全体にわたる周波数ホッピングの活動を検出できるのが一般的である。その結果、こうした伝統的な手法を用いる防御側の優位性は、着実に薄れつつある。
現代の電子戦(EW)システムでは、広帯域デジタル受信機と高速処理機能、およびスペクトラムの広範囲を同時に観測できるソフトウェア定義アーキテクチャを組み合わせる傾向が強まっている。周波数ホッピング活動を単に検出するだけなら人工知能は必要ないが、機械学習技術を活用することで、信号の分類を高速化し、ホッピングの挙動を特徴づけ、反応型のジャミング対策を自動的に実行することが可能になる。その結果、探知から分析、そして干渉に至るまでの時間が短縮されている。
これまでの作戦経験も、この傾向を裏付けているようだ。ウクライナからの事例によると、1秒間に500回以下の頻度で周波数を変更する無線機は、容易に特定・ジャミングされる可能性があることが示唆されている[13]。こうした結果は、ますます高度化する信号解析技術を組み込んだ通信ジャミング(COMJAM)ソフトウェアの進歩に一部起因していると考えられている。
同時に、作戦部隊からは、現代のキル・チェーンにおけるインテリジェンス・監視・偵察(ISR)情報の配信、センサー融合、および時間的制約のあるターゲティングを支援するため、より高いデータ・スループットが求められている。ラシッド(Rachid)博士が警告するように、「敵対者の電子戦(EW)の脅威が高度化する一方で、現代のキル・チェーンにおけるデータ・スループットへの需要も高まっているため、伝統的な電子対抗措置(ECCM)技術だけでは、ミッション・クリティカルなネットワークを防護するにはもはや不十分である」。
この2つの傾向―敵対者の適応能力の高まりと、データ集約型の作戦の増加―により、スペクトラムの残存性をどのように確保すべきかについて再評価が進められている。軍事通信の計画担当者は、スペクトラムが争われる環境において、電子戦(EW)に対するレジリエンスと高いデータ・スループットの両方を維持するため、波形のアジリティ、周波数帯の適応性、および動的なネットワーク挙動を組み合わせたアプローチをますます検討している。
この見直しは、孤立した動きではない。防衛産業全体において、各社は、電磁的戦闘空間の変化する要求に応えるべく、通信の電子戦(EW)に対するレジリエンスを強化するようにデザインされた先進的な無線アーキテクチャに投資を行っている。
その一例として、Silvus Technologies社の電子戦防御ソリューション「Spectrum Dominance」スイートが挙げられる。このソリューションは、軍事作戦向けに特別にデザインされ、その軍事作戦での有効性が実証されている、多層的な低傍受確率・低探知確率(LPI/LPD)および対ジャミング能力をオペレーターに提供する。
「Spectrum Dominance」の重要な要素は、従来の電子対抗措置(ECCM)技術に伴う伝送セキュリティとデータ・スループットとのトレードオフを軽減するようにデザインされた、ソフトウェア定義アーキテクチャである。Silvus社の「Spectrum Dominance」は、スペクトラム認識アーキテクチャ(spectrum-aware architecture)を採用しており、作戦環境を感知し、リアルタイムで適応し、低傍受確率・低探知確率(LPI/LPD)およびアンチ・ジャミング技術の最適な組み合わせを動的に適用できるニューラル・ベースのネットワークを活用している。
例えば、モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)パワーコントロール(MAN-PC)などの低探知確率(LPD)能力は、Silvus社の「StreamCaster」モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)無線機の無線周波数(RF)フットプリントを低減することで、敵対者による検知リスクを最小限に抑える。具体的には、ネットワーク接続を維持するために必要な最小限の送信電力まで、動的に送信電力を調整する。
敵対的な干渉やジャミングが発生する作戦の地域において、「StreamCaster」モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)無線機は、内蔵のスペクトラム・アナライザを活用して、周波数および地理的範囲の両面においてネットワーク全体をリアルタイムで監視し、個々の無線機レベルではなく、ネットワーク全体として協調して対応できるようにする。
干渉が検出されると、「モバイル・アド・ホック・ネットワーク干渉回避(MAN-IA)」などのアンチ・ジャミング技術が、ユーザーの介入なしにネットワーク全体を最も干渉の少ない周波数へ自動的に移行させ、ネットワークの継続性を維持する。一方、「モバイル・アド・ホック・ネットワーク干渉キャンセル(MAN-IC)」は異なるアプローチを採用しており、干渉信号をサンプリングしてその空間的分布を解析した上で、デジタル・ドメインでヌル値を適用することで、ネットワークの接続性を維持しつつ、ジャミング信号を効果的に打ち消す。
ラシッド(Rachid)博士は次のように述べている。「Silvus Technologies社が他社と一線を画す真の理由は、「Spectrum Dominance」が、電子攻撃を受けている状況下であっても、通信距離、スループット、ネットワークの堅牢性を損なうことなく、こうした高度な電子戦(EW)へのレジリエンス能力を実現している点にある」。
第3部 主要な技術動向と近代化への取り組み
争われる戦闘空間で強靭な接続性を提供する戦術ネットワーク
近年、モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)という無線技術が登場し、今日のダイナミックに変化する戦闘空間において、現代の軍隊が通信を行い、情報データを共有し、システムを連携させる方法を再構築しつつある。
1970年代初頭に米国国防高等研究計画局(DARPA)によって開発されたモバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)は、通信ネットワーク全体でデータを形成・管理するその仕組みにより、通信分野に画期的な変化をもたらしてきた。
都市における伝統的な携帯電話ネットワークを例に挙げると、そのネットワークが機能し、ユーザーの各ノードを接続するためには、基地局や建物に設置されたアンテナ・アレイなどの専用のインフラが必要となる。これに対し、モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)のネットワークでは、集中型のノードや固定インフラは一切必要とせず、無線機器そのものだけで構成される。
モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)のネットワーク内の各無線端末は、送信機、受信機、中継器として機能し、近隣のノードを自動的に検出し、IPアドレス情報を共有し、耐障害性の高いメッシュ・ネットワークを形成する。すべてのノードがトラフィックを転送できるため、このネットワークには単一障害点がなく、例えばノードが破壊された場合など、個々の無線端末がメッシュ・ネットワークから離脱しても、運用を継続することができる。ラシッド(Rachid)博士が指摘するように、モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)のネットワークの最大の強みは、「その分散型アーキテクチャにより、ノードが動的に参加・離脱できるため、これらのネットワークが柔軟性、拡張性、そして耐障害性を備えている」という点にある。
この優位性を説明するために、広範囲にわたり運用される車載無線機によるモバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)のメッシュ・ネットワークのシナリオを考えてみよう。無線機Aが、直接の視界範囲をはるかに超えた場所にある無線機Eに戦場情報を送信する必要があるとする。問題は、この2つの無線機が50km(31マイル)離れていることである。無線機AとEはどちらも車両に搭載されている。
各車両には高さ2メートル(6フィート)の無線アンテナが1本ずつ装備されており、車両全体の全高もこれと同じで、アンテナの先端は地上から4メートル(13フィート)の高さに位置している。無線機AとEの視界内通信距離は、最大でも22km(14マイル)である。この距離は、要求されている50kmには到底及ばない。
しかし、まだ希望はある。無線機B、C、D、F、G、H、I、J、K、L、Mはすべて同じモバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)のメッシュ・ネットワークに属しており、いずれも車両に搭載されている。各車両は、互いに約5キロメートル間隔で配置されている。無線機Aは予定通りの送信を行い、その通信には宛先である無線機Eのアドレスが含まれている。
この送信データは「無線ネットワーク上(ether)」へと送り出され、すぐに無線機Bによって受信される。無線機Bのモバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)のソフトウェアは、そのトラフィックが無線機E宛てのものであると判断し、それをさらに先へ再送信する。その後、そのトラフィックは無線機Cによって受信され、無線機Dへと再送信され、というように、トラフィックが無線機Eに到達するまでこのプロセスが繰り返される。このプロセスは手間がかかりそうに見えるが、実際にはそうではない。
電波は光速(毎秒30万キロメートル/毎秒18万6000マイル)で伝播する。送信先のトラフィックのアドレスを識別し、それに応じて転送するために必要な処理には、数ミリ秒かかる。この処理によって生じる遅延はごくわずかであり、ほとんど気にならない程度である。
モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)のメッシュ・ネットワークは広範囲の通信範囲と耐障害性を実現するが、複雑な無線周波数(RF)環境におけるその性能は、無線機器が輻輳、干渉、およびマルチパス伝搬にどのように対処するかに左右される。都市部や障害物の多い戦場、移動体プラットフォームでは、無線周波数(RF)エネルギーが建物、車両、地形などで反射、回折、散乱されるため、信号経路が絶えず変化する。
従来のモバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)の無線機は、環境におけるマルチパス現象を回避するためにデータ・スループットを低下させざるを得ないため、こうした条件下では性能が低下する。この状況は、移動性によってさらに悪化する。その結果、トラフィックが不完全な状態で届いたり、遅延したり、判読不能になったりすることがあり、ユーザーが確実に通信を行ったり、状況認識を維持したりすることがますます困難になる。
Silvus Technologies社は、独自の「Mobile Networked MIMO(MN-MIMO)」波形を採用した「StreamCaster」モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)の無線機により、この課題に取り組んでいる。MN-MIMOは、マルチパス伝搬と闘うのではなく、それを活用する。送信機と受信機の両方に複数のMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)アンテナを使用することで、この波形は同一の無線周波数(RF)チャネル上で複数の独立した空間データ・ストリームを生成する。これにより、反射や間接的な信号経路は、干渉源ではなく、利用可能な伝送経路となる。
シナリオに戻ると、この密集した都市部の作戦環境において、無線機Eは無線機Aに応答しようとしている。無線機の信号は環境全体に伝播する過程で、直進経路と反射経路を組み合わせて受信側に到達する。高度な信号処理により、無線周波数(RF)環境の特性がリアルタイムで継続的に把握されるため、状況が変化したりノードが移動したりしても、受信機は元のデータを分離、再結合、再構築することができる。
この空間処理は動的に、かつ極めて高速に行われるため、混雑し、争われる環境や競合の激しい環境、さらには移動性の高い環境においても、信頼性の高い高スループットの通信を実現する。インテリジェントな信号ルーティングと組み合わせることで、各「StreamCaster」モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)の無線機は、ユーザー・トラフィックとネットワーク中継機能を同時にサポートし、個々のリンクがジャミングされたり、遮断されたり、一時的に利用できなくなったりした場合でも、接続性を維持する。
ウクライナのような作戦地域では、極めて複雑な地形に加え、混雑し、争われる無線周波数スペクトラム(radio spectrum)環境が特徴的である。「StreamCaster」モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)の無線機のアーキテクチャは、こうした環境下で真価を発揮し、敵対的な電子戦(EW)作戦をさらに困難にする。敵対者が特定のノードへのジャミングや遮断に成功した場合でも、メッシュ・ネットワークは自動的に影響を受けた無線機を迂回してトラフィックを再ルーティングし、オペレーターの介入なしにネットワークの完全性を維持する。
このケースでは、敵はジャマーを無線機GおよびFの近くに配置することに成功し、ジャミング信号を送信した。この際、これらの無線機は、ジャミングを無効化できた可能性のある「Spectrum Dominance」 – 「モバイル・アド・ホック・ネットワーク干渉回避(MAN-IA)」戦術を採用していなかった。とはいえ、敵の電子攻撃の効果はごくわずかであった。
ジャミングの影響で無線機GとFが一時的に使用不能となった際、モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)ベースのメッシュ・ネットワークは、ジャミングが収まるまでトラフィックを転送する際に、これら2台の無線機を自動的に迂回させた。無線機GとFはノードJおよびKに接続できなくなったものの、両方の無線機はノードHおよびIを経由してトラフィックの送受信を継続することができた。この自己修復型かつ適応的な挙動により、敵対者はネットワークの広範囲を同時にターゲットとせざるを得なくなり、その結果、電子攻撃の複雑さとコストが劇的に増加する。
こうした優位性は、地上車両にとどまらず、無人システムや自律システムにも及んでいる。UAVの運用において、モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)の無線機により、航空機は他の空中ノードや地上ノードを経由してデータを中継することが可能となり、極めて厳しい争われるスペクトラム環境でも、視界外での制御やデータ共有を実現する。利用可能な複数のチャネルと適応型ネットワークにより、レジリエンスがさらに向上し、ジャマーは絶えず変化する無線周波数(RF)の景観に対応せざるを得なくなる。
「StreamCaster」モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)の無線機は、幅広いフォームファクタ、出力レベル、周波数帯(300 MHz~6 GHz)に対応しており、最大100 Mbpsのデータ転送速度をサポートすることで、ミッション・クリティカルな音声、映像、およびIP通信を実現する。
AES-256暗号化およびFIPS 140-3レベル2のセキュリティ規格により、暗号化とデータセキュリティが確保されており、機密データを防護するための暗号モジュールに対する米国政府の最高水準のセキュリティ要件を満たしている。550ノード以上への拡張性が実運用で実証されている「StreamCaster」モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)の無線機は、MN-MIMO波形を採用しており、陸上、空中、海上を横断する大規模に拡張可能なメッシュ・ネットワークを構築することが可能である。
ラシッド(Rachid)博士が指摘するように、「Silvus社のアプローチは根本的に異なっており、高性能なMIMOベースのソフトウェア定義無線(SDR)ハードウェアと、独自の波形であるMN-MIMOを組み合わせている。MN-MIMOは、あらゆる作戦環境における戦術的な無線周波数(RF)上の課題を克服しつつ、クラス最高のスループット、通信距離、スケーラビリティを実現するよう、一からデザインされたものである」。
無人航空機(UAV)の効果
多数の無人航空機(UAV)が急速に普及していることは、現代の戦場に画期的な変化をもたらしている。無線信号は、無人航空機(UAV)と操縦者を結びつけ、無人航空機(UAV)が収集したインテリジェンス・監視・偵察(ISR)データを送信するために不可欠である。また、米国の全地球測位システム(GPS)などの全地球航法衛星システム(GNSS)コンステレーションから発信される測位・航法・時刻(PNT)信号も、無人航空機(UAV)の作戦において極めて重要である。
従来、民間用UAVでは、指揮、統制およびデータ伝送に2.4ギガヘルツ(GHz)および5.8GHzの周波数が使用されてきた一方、全地球航法衛星システム(GNSS)の位置・航法・時刻(PNT)信号には1.1GHzから1.6GHzの周波数が使用されている。現在進行中のウクライナ戦争は、少なくとも無人航空機(UAV)の制御に関しては、こうした区分をある程度覆す結果となっている。
例えば、ロシア軍は700メガヘルツ(MHz)から1GHzの周波数帯を使用していることが知られている。また、290MHzから340MHzおよび950MHzから1.1GHzの周波数帯も観測されている[14]。すべての軍隊が、無人航空機(UAV)の通信を維持するために、30MHzから6GHz、さらにはそれ以上の周波数帯を活用していると言っても過言ではないだろう。
上述の2.4GHzおよび5.8GHzを超える周波数帯域の拡大を後押ししている要因はいくつかある。第一に、無人航空機(UAV)、とりわけ戦術レベルで使用されるファースト・パーソン・ビュー(FPV)プラットフォームの数が膨大であるため、これらの周波数帯域の混雑がますます深刻化している。ウクライナだけでも、最大100種類もの異なるタイプの無人航空機(UAV)を開発・配備している可能性がある。
同国は2024年までにドローンの保有数を100万機に増やし、2025年末までに年間生産量を400万機に拡大する可能性がある[15]。作戦地域内では、いつでも数百機、場合によっては数千機のファースト・パーソン・ビュー(FPV)が飛行している可能性がある。すべての機体が2.4GHzおよび5.8GHzの周波数帯に限定して運用した場合、重大な干渉や信号損失を引き起こさずに済むだけの帯域幅は、そもそも確保されていない。
無人航空機(UAV)が信号リンクを失った場合、安全対策としてその場に着陸するか、出発地点に戻ることがあり、その結果、事実上闘いから離脱することになる。第二に、電子支援措置(ESM)は無人航空機(UAV)の制御周波数を捜索し、それをジャマーがジャミングする。電子攻撃が激化し、飽和状態になるにつれ、利用可能なスペクトラムの競争が、誰が空域の統制を維持するかを決定づける要因となってきている。
これらの課題をさらに深刻にしているのが、無人航空機(UAV)のペイロードによって生成される膨大なデータ量であり、これに対応するには堅牢で継続的かつ高スループットの無線周波数(RF)リンクが求められる。「戦術最前線における無人航空機(UAV)の急速な普及により、伝統的な電子対抗措置(ECCM)技術には大きな負担がかかっている。これらの技術では、スループット、遅延、あるいは指揮統制の信頼性を著しく低下させることなく、こうしたリンクを防護することができない場合が頻繁に見られる」と、ラシッド(Rachid)博士は警告している。
同時に、無人航空機(UAV)の密度が高まることは、電磁的なリスクと機会の両方をもたらす。ラシッド(Rachid)博士は次のように指摘している。「(空中に大量の無人航空機(UAV)が存在するという形で)電波発信源の数が増えると、敵対者が検知・悪用できる攻撃対象は広がる一方で、味方部隊が傍受・解析・位置特定できる信号の量もより豊富になる」。
この脅威に先手を打つため、無人航空機(UAV)のオペレーターは、指揮・統制(C2)およびネットワーク化されたデータ・リンクを防護するために、Silvus社の「Spectrum Dominance」などの高度な電子戦(EW)防御システムを導入している。「Wake on Wireless」などの低傍受確率・低探知確率(LPI/LPD)能力により、「StreamCaster」モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)の無線機は制御トラフィックを送信することなくデータを受信できるようになり、地上部隊は自らの位置を露呈することなく、空中の無人航空機(UAV)から重要な情報を収集することが可能になる。
「デュアル周波数リンク(Dual Frequency Link)」などのジャミング対策技術は、ある周波数チャネルで送信を行いながら別のチャネルで受信を行うことでレジリエンスを高め、これにより、無人航空機(UAV)のオペレーターは機体の制御と映像やセンサーのダウンリンクを分離することができ、複数の周波数で同時に行われる敵対的なジャミングを阻止することが可能になる。
Silvus社の「Spectrum Dominance」は、ミッション固有の要件に対応するために、複数の能力を同時に有効にする柔軟性もユーザーに提供する。例えば、「デュアル周波数リンク(Dual Frequency Link)」とモバイル・アド・ホック・ネットワーク干渉回避(MAN-IA)を組み合わせることで、送信側と受信側の両方で複数の周波数帯にわたって機能する多層的なジャミング対策技術を実現できる。
「Wake on Wireless」と「MAN-PC」を組み合わせることで、遠隔地の無人航空機(UAV)のオペレーターの位置を隠蔽し、機体の制御を引き継ぐ際の無線周波数(RF)放射を最小限に抑えることで、作戦の隠密性を高めることも可能である。ラシッド(Rachid)博士は、「これらのアプローチを総合的に活用することで、『無人航空機(UAV)が、極めて動的な電子戦環境においても、接続状態を維持し、隠蔽され、かつ生存性を確保できる』ことが保証される」と指摘している。
現代における電子戦上の脅威を凌駕する
現代の戦場がこれまで以上に分散化・機動化・相互接続化が進む中、モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)を基盤とした戦術通信ネットワークが、任務のスピードに合わせて部隊、センサー、意思決定者を統合するために、ますます活用されるようになっている。
しかし、敵対的な電子戦脅威がますます高度化する中、今日の争われる電磁的戦闘空間(electromagnetic battlespace)で作戦を展開するには、単一の手法や防御手段だけでは不十分である。ラシッド(Rachid)博士が述べているように、「優位に立つためには、作戦環境を感知し、リアルタイムで適応し、低傍受確率・低探知確率(LPI/LPD)、ジャミング対策、および高度な脅威防御能力を最適に組み合わせ、ネットワーク全体に動的かつ自動的に展開できる分散型ネットワークが必要である」。
Silvus社の「Spectrum Dominance」は、適応型かつ多層的な防御機能からなるスイートであり、こうした課題に対処するために特別にデザインされている。「StreamCaster」モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)の無線機は、スペクトラムやその他の環境・行動パラメータを分析し、ユーザーの監視を必要とせず、ネットワークのパフォーマンスを損なうことなく、電子戦(EW)の脅威を回避および/または軽減するための防御対策を動的に適用することができる。
スペクトラム支配の実現
「Spectrum Dominance」は単なるコンセプトにとどまらず、Silvus Technologies社が提供する革新的なアプローチであり、今日の戦場における電磁波関連の課題に対処するだけでなく、将来の課題を先取りして解決することを目的としている。
Silvus社のMN-MIMO波形を拡張するソフトウェア・ライセンス製品である「Spectrum Dominance」は、電子戦(EW)防御において多層的なアプローチを採用しており、敵対者が通信を混乱させるにはすべてのレイヤーを突破せざるを得ない仕組みとなっている。また、人工知能や機械学習といった新たな技術革新が台頭するにつれ、リアルタイムのスペクトラム・センシングや適応機能といった要素も、このアプローチに組み込まれていくことになるだろう。
「将来的には、AIや機械学習を統合し、これらのスペクトラム分析や対策アプリケーションのさらなる自動化を目指している。その際、ユーザーの介入なしに、適切なタイミングで適切な能力の組み合わせを適用する必要性も考慮に入れていく」とラシッド(Rachid)博士は付け加えた。
ウクライナ戦域から政策立案者や防衛計画担当者が学ぶべき電磁戦に関する教訓が一つあるとすれば、それは、同盟国の電磁スペクトラム優越・覇権(E2S)がもはや保証されていないということである。アジア太平洋地域や中東の潜在的な敵対者は、ウクライナ紛争を注視しており、将来戦争が勃発した場合、同盟国の通信を混乱し、拒否し、機能低下させ、破壊することが不可欠であると結論づけるだろう。
各省庁や国防省が、この脅威に対して事後対応に終始するだけでは不十分である。これらの組織は、「Spectrum Dominance」といったアプローチを活用し、将来の電磁環境においてどのように行動するかを計画するなど、先手を打つ姿勢が求められる。先手を打つためには、単一の技術や戦術に依存するのではなく、将来の脅威に追いつくだけでなく、それを凌駕するための、多層的で適応性のある防衛体制が必要である。
結論
現代の戦闘空間において、ある現実が紛れもなく明らかになっている。それは、電磁スペクトラムを掌握しなければ戦争に勝つことはできない、ということだ。第二次世界大戦を振り返り、イギリス陸軍のバーナード・ロー・モンゴメリー(Bernard Law Montgomery)元帥は、「もし空中での戦争で負ければ、戦争に負け、しかも瞬く間に負けることになる(if we lose the war in the air, we lose the war and we lose it quickly)」と警告した[16]。
彼の言葉は、無線周波数スペクトラム(radio spectrum)をめぐる争いにも同様に当てはまる。電磁作戦はもはや支援機能ではなく、決定的な役割を担うものとなっている。本特別報告書が示したように、皮肉なことに、スペクトルの完全な習得・支配(mastery of the spectrum)だけでは勝利を保証できない一方で、電磁スペクトラム優越・覇権(E2S)を達成できないことは撃破の前提条件となり得るのだ。
ウクライナの戦闘空間は、かつてNATOおよび同盟軍が享受していたと長らく考えられてきた優位性―ほぼ確実に保証されたスペクトラムのアクセスと優越―が、今や過去のものとなったことを示している。敵対者は現在、かつてない密度、速度、そして高度さで電子戦(EW)を展開している。
その結果、周波数ホッピング・スペクトラム拡散(FHSS)などの伝統的な電子対抗措置(ECCM)技術が戦場において限られた有用性しか持たない環境が生まれている。ウクライナの焼け野原となった状況は、混雑し、争われる無線周波数スペクトラム(radio spectrum)が、当面の間は続くことを示している。こうした現実において、「スペクトラム支配(Spectrum Dominance)」を達成することは、単なる選択肢ではなく、作戦上の必須要件である。
「Spectrum Dominance」は、統合されたレイヤー化された、適応型アーキテクチャに基づいて構築されている。このアーキテクチャは、モバイル・アド・ホック・ネットワーク(MANET)のレジリエンス、MIMOダイバーシティ、インテリジェント波形能力、低傍受確率・低探知確率(LPI/LPD)、ジャミング対策技術、および継続的なスペクトラム認識(spectrum awareness)を融合したものである。これが「電磁スペクトラム優越・覇権(E2S)」の基盤であり、Silvus Technologies社の「Spectrum Dominance」が実現するためにデザインされた基盤でもある。
これは、争われる電波環境下での生存性を確保するだけでなく、敵対的電子戦(EW)脅威をリアルタイムで感知・学習し、巧みに回避し、最終的には圧倒的な優位性を確立する能力を提供する。人工知能(AI)と機械学習が電磁的戦闘空間(electromagnetic battlespace)の様相を一変させる中、Silvus社の「Spectrum Dominance」は、単なる防御手段から攻勢的な優位性へと進化し、部隊がスペクトラムの闘いの条件を強いられるのではなく、その闘いの条件を自ら決定できるようになる。
将来の紛争の行方は、電磁スペクトラムにおいて決まることになる。この現実への備えを怠った軍隊は、指揮統制や通信能力を奪われた瞬間、航空、海上、陸上、あるいは無人といった最先端のプラットフォームが機能しなくなるだろう。多層的かつ適応性の高い「スペクトラム支配(Spectrum Dominance)」の電子戦(EW)防衛能力を採用した者は、決定的な作戦上の優位性―すなわち、最も過酷な電子戦環境下であっても、作戦のテンポ、一貫性、および致死性を維持する能力―を手にすることになる。
ノート
[1] 無線周波数スペクトラム(radio spectrum)とは、周波数3キロヘルツから3テラヘルツの範囲に及ぶ電磁スペクトラムの一部分である。この電磁スペクトラムの範囲は、従来の通信や衛星通信、レーダー、および全地球航法衛星システム(GNSS)の位置・航法・時刻信号に使用されており、これらは世界中の軍が依存している3つの能力である。
[2] 電磁的優越とは、敵意ある干渉が時折、散発的に発生するものの、一方の側が電波スペクトラムを自由に利用できる状態を指す。電磁的覇権とは、敵意ある行為主体が、敵対者の周波数帯の利用に対して、実質的な形で挑戦することができない状態を指す。出典:Withington, T, 「A Moving Experience: Evolving Theoretical Frameworks for Electromagnetic Manoeuvre(感動的な体験:電磁機動のための理論的枠組みの進化)」, 2021年3月18日 https://tdhj.org/blog/post/electromagnetic-manoeuvre/, 2025年8月20日閲覧。
[3] ウィジントン, T,(Withington, T)著 「機動戦と電磁スペクトル」, 『RUSIジャーナル』, 第6巻第6号, (ロンドン: ロイヤル・ユナイテッド・サービス・インスティテュート, 2023年12月).
[4] 2025年に、ウクライナの電子戦分野の上級専門家および実務担当者らと行った会話。
[5] サワント、M (Sawant, M)著 「無力化された兵器と困惑する敵対者」, 2021年7月13日 https://othjournal.com/2021/07/13/disabled-weapons-and-confounded-adversaries/, 2025年7月14日閲覧。
[6] 2022年から2025年にかけて、ウクライナの電子戦分野における上級専門家および実務担当者との会話。
[7] キリアック O(Chiriac, O)、ウィティントン T(Withington, T)著「ロシアの電子戦:歴史から現代の戦場まで」、2024年3月21日、https://irregularwarfare.org/articles/russian-electronic-warfare-from-history-to-modern-battlefield/ 2024年7月14日閲覧。
[8] ヴ― J(Voo, J)、ヴィクラム・シン・V (Vikram Singh, V)著「実践におけるロシアの情報対決ドクトリン(2014年~現在): 意図、変遷、およびその意味するところ」、2025年6月16日 https://www.iiss.org/research-paper/2025/06/russias-information-confrontation-doctrine-in-practice-2014present-intent-evolution-and-implications/、2025年7月14日閲覧。
[9] この議論において、インテリジェンスとは「文脈における情報」と定義することができる。
[10] 米陸軍訓練・ドクトリン・コマンド、「ATP 7-100.1、ロシアの戦術: 打撃と火力」、2025年4月3日 https://g2webcontent.z2.web.core.usgovcloudapi.net/OEE/Red Diamond/2APR2025_RD_ATP_7_100_1_RUS_Strike_Fires_anonymous.pdf. ダウンロード、2025年7月14日閲覧。
[11] 「西側の戦争の方法(Western Way of War)」とは、歴史家ジェフリー・パーカー(Geoffrey Parker)が提唱した用語である。彼は、この紛争へのアプローチが、技術とイノベーション、規律と攻撃的な軍事伝統、そして比較的少人数の軍隊を補う手段としての経済力を重視していると論じている。出典:パーカー、G(Parker, G)(編著)、「ケンブリッジ図説戦争史」(ケンブリッジ:ケンブリッジ大学出版局、1995年)、2~11ページ。
[12] 周波数ホッピング・スペクトラム拡散(FHSS)信号は、所定の帯域幅内で1秒間に数百回、場合によっては数千回も周波数を切り替える。したがって、1秒間に1,000回周波数を切り替える信号は、1ミリ秒ごとに周波数が変化することになる。周波数ホッピングの原理は、信号が無線周波数スペクトラム(radio spectrum)のごく一部を短時間のみ占有することで、特定の周波数の混雑を防ぎ、経済的なスペクトラムの使用を確保することにある。第二に、周波数ホッピング・スペクトラム拡散(FHSS)通信をジャミングすることは非常に困難になる。ホップの1つの周波数が特定される頃には、送信周波数はすでに変化しているからである。周波数ホッピング・スペクトラム拡散(FHSS)通信をジャミングできる唯一の方法は、ホップが行われている周波数帯を特定し、その帯域全体を妨害することである。ホッピングに使用される帯域幅が広いほど、信号を攻撃するために必要なジャミング出力は大きくなる。ジャマーに必要な出力が高くなればなるほど、ジャミングが可能な通信距離は短くなる。
[13] 2024年1月、ウクライナの通信将校との会話。
[14] クラコワ・M(Kulakova, M)、フロロワ・T(Frolova, T)著「ウクライナ、ロシアのドローンを妨害する革新的な電子ピストルを導入」、2025年5月27日 https://united24media.com/latest-news/ukraine-introduces-an-innovative-electronic-pistol-to-jam-russian-drones-8678、2025年7月15日閲覧。
[15] フランケ・U(Franke, U)「ウクライナにおけるドローン:西側諸国への4つの教訓」, 2025年1月10日 https://ecfr.eu/article/drones-in-ukraine-four-lessons-for-the-west/、 2025年7月15日閲覧。
[16] 「航空戦力に関する引用句」(https://secure.afa.org/quotes/quotes.pdf、2025年8月21日閲覧)


