米国予算の不確実性の中での米軍は仮想訓練プログラムの資金調達上の課題への取組み – Amid budget uncertainty, US Army may seek funding override for virtual training program –
12月6日の投稿、12月10日の投稿に関連する米陸軍の即応性(readiness)を向上させるための新たな訓練環境整備プログラムである合成訓練環境(Synthetic Training Environment:STE)についての記事を紹介する。米陸軍のSTEプログラムはこれまでの訓練の在り方を根底から作り変える事業であり、その全体像はとてつもない規模になると想像できる。即応体制(readiness)の早期確立が必要な米陸軍にとって、長期にわたる研究開発は馴染まないが、しかし失敗は許されない事業でもある。
STEプログラムは、米国防高等研究計画局(DARPA)の研究・開発プログラムなどで適用される「その他の取引に関する権限(Other Transaction Authority:OTA)を用いた方法で取り組まれているものである。
また、このSTEプログラムでは、これまでの大手企業ではなく、商用でのシミュレーション等の実績があったり、新しい技術を持つ企業が昨年からのコンペティションで選定されている。このことは、財務の体力のない中小企業にとって予算的な裏付けが必要となるのであるが、米国議会の予算審議の遅れが大きな影響を及ぼすことになる。
ここで紹介する記事(www.defensenews.com)は、これらの背景について米陸軍のSTE—CFT(合成訓練環境のための機能横断チーム)の責任者や、このプロジェクトを遂行するPEO-STRIの関係者の発言を通して説明しているものである。
米国予算の不確実性の中での米軍は仮想訓練プログラムの資金調達上の課題への取組み – Amid budget uncertainty, US Army may seek funding override for virtual training program –
By: Valerie Insinna[1]
December 2, 2019
再構成可能な仮想集成訓練装置の初期のプロトタイプを試用するカンザス州フォートライリーの兵士 (写真:米陸軍提供) |
12月の終わりまでに議会が2020年度の予算を承認しない場合、米陸軍は合成訓練環境(Synthetic Training Environment:STE)プログラムを現在のペースで進めることの許可のための免除を求めるかもしれない、と米陸軍関係者は月曜日に述べた。
「米陸軍は、19年度レベルでの資金調達の『継続決議(continuing resolution:CR)[2]』が合成訓練環境(STE)プログラムに与える可能性のある負の影響と、それらを改善する可能性について概説した」と合成訓練環境(STE)機能横断チームの米陸軍の責任者であるMaria Gervais米陸軍少将は、軍種間/産業界訓練・シミュレーション・教育会議(I/ITSEC)でのパネルディスカッションで述べた。
「何が起こるか予測できない。しかし、我々は非常に声高に語り、影響をレイアウトし、プログラムへの影響を評価している」と彼女は言った。
「その継続決議(CR)の影響を軽減する方法についても検討した。たとえば、継続決議(CR)が発生するたびに、ベンダー企業と協力して、継続決議(CR)がいつでも解除されることを認識して我々の努力を続ける方法はあるのか? 我々は現在、これらのすべてのオプションについて検討している」と付け加えた。
Gervais氏によると、これらのオプションの1つは「アノマリー(anomaly)」である。これは、新しいプログラムが予算合意に先立って資金調達を開始または増加できるようにする継続決議(CR)への、議会で認められた例外措置に与えられる予算用語である。
合成訓練環境(STE)プログラムを迅速に進めるために、米陸軍は業界とのその他の取引に関する権限(other transaction authority:OTA[3])の合意に依存している。OTAとして知られるこのメカニズムにより、米陸軍種は従来のプロセスよりも契約をより迅速に行うことができるが、多くのOTAは2月と3月頃に終了する予定である、と米陸軍のシミュレーション・訓練、計装担当のプログラム執行官のMichael Sloane米陸軍准将は述べた。
それが起こると、特定の企業は開発と実験を継続するためのリソースを失うことになる、と彼は言う。
以下の合成訓練環境(STE)の取組みは、OTAが早くも2月または3月に終了することになる。
・ 再構成可能仮想集成訓練装置(Reconfigurable Virtual Collective Trainer :RVCT)は、従来の航空諸兵科連合戦術訓練措置(Aviation Combined Arms Tactical Trainer)と近接戦闘戦術訓練装置(Close Combat Tactical Trainer)を新しい地上訓練装置および航空訓練装置に置き換えられる。 6月、Cole Engineering Services, Inc.はRVCTプロトタイプの構築において他の10社のベンダーを打ち負かした。すべてのオプションが実行された場合、契約は8,140万ドルになる。
・ 訓練シミュレーションソフトウェア(TSS)と訓練管理ツール(TMT)は、合成訓練環境(STE)を構成する複数のプラットフォームからのシミュレーション入力をまとめ、シナリオ生成用のユーザーインターフェイスを提供するものである。VT MAKは、6月にこれら2つの要素について9,500万ドルの契約を獲得した。
・ One World Terrain(OWT)により、兵士は地球上のあらゆる場所の地形を再現する高忠実度の環境でトレーニングできる。Vriconは6月にこのプロトタイププロジェクトを獲得した。すべてのオプションが実行された場合、9,500万ドルに相当する。
Gervais氏は、これらの取組みと合成訓練環境(STE)の兵器の最適化および実動訓練の取組みは、継続決議(CR)が12月を超えると負の影響を与える可能性があると述べたが、詳細は述べていない。
長期にわたる継続決議(CR)の影響を緩和するために、米陸軍は承認された資金を管理し、それをより長い期間にわたって広げるために現在のOTAの資金の流れを変更できるかどうかを評価している、とSloane氏は言った。
「これらの請負業者の多くは非伝統的な企業である。それが意味するのは、彼らが中小企業だということである」とSloane氏は言った。
リスクは、OTAの資金が尽きると、防衛請負業者が合成訓練環境(STE)プログラムから他のプロジェクトに人員を移動しなければならないことである。その結果、人材が失われ、プログラムの立ち上げが遅れる可能性がある。
「進歩を遅らせ、時間の経過に従って能力を提供することはできのか、しかし、それは1、2、3か月後なのか?」「その企業にいかなる有害な損害を与えることなく、その契約の拡張や契約ができるのか?」
もう1つのオプションは、1月/ 2月の期間内に議会に「アノマリー(anomaly)」を求めることである。これにより、企業は合成訓練環境(STE)の製造を続けることができる。しかし、Gervais氏は、そのような要請は米軍隊の首脳部によって承認されなければならず、救援を求めている他のプログラムよりも優先しなければならず、それでも決定的であることを指摘した。
ノート
[1] Valerie Insinnaは、Defense Newsの航空戦記者である。彼女は以前、National Defense Magazineのスタッフライターとしてほぼ3年間続いたDefense Dailyの海軍/議会を担当していた。それ以前は、東京新聞ワシントン支局の編集アシスタントとして働いていた経験を持つ。
[2] 継続決議(continuing resolution:CR)とは米国の予算制度で、本来なら米国の次年度開始(9月30日)までに成立すべき歳出予算法の遅れがあった際の必要な暫定予算は、両院共同の「継続決議」(continuing resolution)として議決される。
[3] その他の取引に関する権限(other transaction authority :OTA)は、特定のプロトタイプ、研究、および生産プロジェクトを実施する国防総省(DoD)の(10 U.S.C. 2371b)権限を指すために一般的に使用される用語である。その他の取引(OT)に関する権限、DoDに商業業界の標準とベストプラクティスを反映したビジネスプラクティスを採用し、その裁定計装に組み込むための必要な柔軟性を与えるために制度化されたものである。(https://acqnotes.com/acqnote/careerfields/other-transaction-authority-otaを参考)