遠征前進基地作戦 (Marine Corps Gazette • December 2022)
MILTERMでは、機動戦論者論文(Maneuverist Papers)を、2020年8月号の「米海兵隊の機動戦―その歴史的文脈- Maneuverist #1」から2022年9月号の「機動戦理論の進化 Maneuverist #23」まで紹介してきている。また、米海兵隊の変革に関わる考え方等についても「米海兵隊総司令官計画策定指針」、「米海兵隊戦力デザイン2030」や「米海兵隊の『スタンド・イン・フォースのコンセプト』」で取り上げてきているところである。
機動戦論者論文(Maneuverist Papers)をリードするマリヌス(Marinus)は、米海兵隊のドクトリンのあり方を論ずることを狙いとしているが、その中核は、米海兵隊の用兵哲学としての「MCDP 1 Warfighting」である。米海兵隊のあらたな作戦コンセプトであるとされる「Expeditionary Advanced Base Operations(遠征前進基地作戦※)」は、マリヌス(Marinus)にとっては、長年築いてきた米海兵隊の用兵哲学を大きく揺るがすものと捉えている。
※ Expeditionary Advanced Base Operationsは、陸上自衛隊HPでは、「機動展開前進基地作戦」と呼んでいる。
ここでは、その問題とされる内容はどのようなものなのかを端的に述べられている米海兵隊ガゼット誌(Marine Corps Gazette)の論稿を紹介する。(軍治)
遠征前進基地作戦
米海兵隊は機動戦を放棄するのか?
Expeditionary Advanced Base Operations
Is the Marine Corps abandoning maneuver warfare?
by Marinus
Marine Corps Gazette • December 2022
マリヌス(Marinus)は、米海兵隊のドクトリンの過去、現在、将来に関心を持つ退役軍人や元米海兵隊員のグループである。ジョンF.シュミット(John F. Schmitt)、ブルースI.グドムンドソン(Bruce I. Gudmundsson)、P.K. ヴァン・リパー米海兵隊中将(LtGen P.K. Van Riper)、エリックM.ウォルターズ米海兵隊大佐(Col Eric M. Walters)、ジェームズK.ヴァン・リパー米海兵隊大佐(Col James K. Van Riper)が所属している。
「機動戦論者論文(Maneuverist Papers)」※は、米海兵隊のドクトリンに関する会話を促進することを試みてきた。その際、常に出発点としてきたのがMCDP 1「用兵(Warfighting)」であり、これは1989年に初版が発行されて以来、基本的に変わっていない。その目標は主に2つある。
※「機動戦論者論文(Maneuverist Papers)」は、マリヌス(Marinus)のメンバーが、米海兵隊ガゼット誌上に2020年8月号から掲載している。
第一に、現在の状況(where you are)と今後の方向性(where you are going)を理解するためには、これまでの経緯(where you have been)を理解する必要があるという前提のもと、今日の米海兵隊員に機動戦のドクトリンの起源を理解してもらうことである。第二に、30年以上前、まったく異なる時代に公布されたドクトリンが、現在および将来の米海兵隊のニーズに応え続けることができるのかについて、議論を促すことである。
この問題に関する「部屋の中の象(あるいは竜と言った方がいいかもしれない)」は、遠征前進基地作戦(Expeditionary Advanced Based Operations:EABO)という新しい作戦コンセプトで、ベトナム戦争後、米海兵隊が経験した最も重要な構造的変化の根底にあるものである。
遠征前進基地作戦(EABO)に関する権威ある情報源は「遠征前進基地作戦(EABO)に関する暫定マニュアル(Tentative Manual for Expeditionary Advanced Base Operations:TMEABO)」[1]で、それによると「遠征前進基地作戦(EABO)は遠征戦(expeditionary warfare)の一形態で、海上拒否の遂行、制海権の支援、艦隊の後方支援のために、争われた海域内の陸上または沿岸の一連の厳しい一時的な場所から移動性、低シグネチャ、持続性で比較的維持・継続が簡単な海軍遠征部隊を採用することを含む」ことを意味する[2]。もう一つの重要な文書は、そのコンセプトを実行するために意図された将来の米海兵隊を記述した「戦力デザイン2030(Force Design 2030)」である。
遠征前進基地作戦(EABO)は遠征戦の一種で、一時的な位置で作戦する小規模で移動的な米海兵隊部隊を採用し、海上拒否や関連任務を実施する。(写真:サラ・ピッシャー(Sarah Pysher)米海兵隊1等兵) |
まず、新しい作戦コンセプトは、一般的に言って、既存のドクトリンに準拠する義務はないことを確立する必要がある。作戦コンセプトが現実の作戦要求に対応するものであると仮定すれば、そのコンセプトに準拠すべきなのはドクトリンである。
しかし、1つの注意点は、「機動戦論者論文」が主張したように、機動戦(maneuver warfare)が戦争の基本的本質に直接対応するものであるならば、遠征前進基地作戦(EABO)が機動戦(maneuver warfare)と矛盾する場合、戦争の本質とも矛盾しないことを確認する必要がある。(効果に基づく作戦(Effects-Based Operations)のような最近の統合および軍種の作戦コンセプトの多くは、戦争の現実と矛盾している)。
重要なのは、この点である。遠征前進基地作戦(EABO)が米海兵隊の将来になるのであれば、遠征前進基地作戦(EABO)を支援するために我々の用兵ドクトリン(warfighting doctrine)を変える必要があるのだろうか?
暫定マニュアル(Tentative Manual)には、MCDP 1で示された哲学に対する明確な攻撃は含まれていないが、その提案する方法は、機動戦(maneuver warfare)の信条に反する戦争の本質に関する仮定に基づいている。さらに、実行中の遠征前進基地作戦(EABO)コンセプトは、機動戦(maneuver warfare)をほとんど使用しておらず、その結果、この用兵哲学(warfighting philosophy)は、ドクトリン上でなくとも実践上、比較的短期間のうちに消滅することが予想される。
戦略的文脈:The Strategic Context
遠征前進基地作戦(EABO)を理解するためには、遠征前進基地作戦(EABO)を生み出した戦略的文脈を理解することが必要である。遠征前進基地作戦(EABO)は、中華人民共和国(PRC)との太平洋戦争における「列島線戦略(Island Chain Strategy)」という文脈の中で考案されたものである。「列島線戦略(Island Chain Strategy)」とは、冷戦時代、西太平洋に一連の海軍基地を置き、そこから米国の海軍戦力を誇示し、ソ連と中国の海上接近を拒否することによって、ソ連と中華人民共和国(PRC)を封じ込める計画として初めて提案されたものである。
中華人民共和国(PRC)との戦争の文脈では、東シナ海や南シナ海から中国軍が脱出するのを防ぐために、一つまたは複数の島々の連鎖に沿った位置から長距離精密火力を用いることである。「列島線戦略(Island Chain Strategy)」は、消耗的で、コスト賦課戦略である。その考えは、中国にとって、一連の接近阻止能力による戦力の投射を法外に高価にすることである。
最も重要なのは、北はカムチャッカ半島(Kamchatka Peninsula)から千島列島(Kuril Islands)、日本、琉球列島、台湾、フィリピン北部を通り、南はボルネオ島に至る第一列島線(First Island Chain)(南のアンカーとしてベトナム南部を含む場合もある)である。
その中で最も重要なのは台湾であり、台湾の所有は中華人民共和国(PRC)の主要な政策目標として認識されている。第二列島線(Second Island Chain)は、日本から小笠原諸島(Bonin Islands)、火山列島(Volcano Islands)、マリアナ諸島、カロリン諸島を経て、西ニューギニアに至る列島である。
「列島線戦略(Island Chain Strategy)」の論理を最も簡潔にまとめると、こうなるのかもしれない。
この考えは、中国に対して接近阻止/領域拒否(A2/AD)方程式を逆転させるという魅力的な論理を持っている。米国防総省(DoD)は、諸島を「ヤマアラシ(porcupines)」に変えることで、中国の海洋進出に対して何重もの制約を加えることを狙っている。この戦略は、少なくとも理論上は、経済的かつ復元性がある。中国と船隊船(ship-for-ship)で対峙し、中華人民共和国(PRC)の接近阻止/領域拒否(A2/AD)能力によって戦力を失うリスクを冒すよりも、群島防衛(archipelagic defense)は米国とその同盟国をコスト賦課戦略の正しい側に置こうとするものである。
陸上のレーダーと移動式対艦ミサイルを組み合わせれば、致死性がありながら安価な組み合わせになる可能性がある。さらに、西太平洋には島が少なくないので、「縦深の防衛(defense in depth)」のチャンスでもある。米国の武装軍種もこの戦略を積極的に受け入れている。特に米海兵隊と米陸軍は、インド・太平洋での妥当性を確立するために努力している[3]。
この戦略には支持者もいるが、我々は問題があると主張する[4]。
戦域戦略としての「列島線戦略(Island Chain Strategy)」は、ある種のマジノ線の質を持っている。マジノ線は、敵に迂回路を探させる効果がある。冷戦の例は啓蒙的である。冷戦の例では、主な紛争は常に中央ヨーロッパであると予想され、米陸軍は半世紀近くにわたって複数の軍団をこの戦域に投入した。
幸いなことに、そのような大規模な紛争は発生しなかったが、周辺では他の紛争(および他の危機)が数多く発生し、米海兵隊は国家の即応部隊(force-in-readiness)として、そのほとんどに深く関与していたのである。
冷戦時代のヨーロッパで起こったように、この戦略を実行するには、何年も何十年もこの地域に戦闘部隊を投入することになるかもしれない。中国は、勝利を保証する条件が整うまで辛抱強く待ち、長期戦(long game)を展開する傾向があるようだ。中国の戦略思想の祖である孫子は、次のように書いている。
古来、戦に長けたと呼ばれる者は、簡単に征服される敵を征服した。それゆえ、戦の達人による勝利は、知恵に対する評価も勇猛さに対する功績も得られない。なぜなら、彼は間違いなく勝利を収めるからである。
「間違いがない」とは、何をやっても必ず勝つということであり、すでに撃破している敵を征服することである。したがって、熟練した指揮官は、自分が負けることのない位置を占め、敵を制する機会を逃さないのである。このように、勝利する軍隊は会戦を求める前に勝利を手にし、闘いに敗れる運命にある軍隊は勝利を願って闘うのである[5]。
この戦略を実装するには、敵対行為の開始前に遠征前進基地(EAB)を配置する必要がある。「遠征前進基地作戦に関する暫定マニュアル(TMEABO)」によると、「米海兵隊は、争われた地域に進入して闘うようにデザインされた部隊ではなく、米海軍戦役の重要な構成要素として、前方で持続的に作戦できる部隊を構築している」[6]。(米海兵隊は強行突入能力を放棄しているのだろうか?)このコンセプトの論理では、もし米軍部隊が陣地に入るために中国の接近阻止包囲網の中で闘わなければならないとしたら、コスト負担の計算が逆転してしまう。
さらに、中華人民共和国(PRC)に身動きが取れないと感じさせるほどの強さで、部隊を敵対行為の前に移動させることは、特に台湾の占領に関する戦力比が誤った方向に進んでいると中国が見た場合、抑止しようとする紛争を誘発する可能性がある。
また、このような戦略を実施するには、大きな政治的ハードルがある。ホスト国は、自国の領土に米軍を無期限に駐留させることを承認しなければならないだろう。欧州の対ソ防衛は強力で統一された同盟によって行われたが、西太平洋にはそのような条件は存在しない。
米国は紛争前の基地を個々の国家と取り決める必要があるが、その手配は困難であろう。例えば、台湾は基地として魅力的な場所だが、中国共産党(Chinese Communist Party)は台湾を中国の国土とみなしているため、米国がそこに配備すれば中国の猛烈な反発を招くだろう。
フィリピンも南シナ海に浮かぶ多くの島々を持つことから魅力的だが、フィリピン政府は米国とのつながりを警戒しており、軍事力も弱く、中国の圧力に極めて弱い。ベトナムも米軍部隊を受け入れてくれるかもしれないが、北の隣国の巨大な力を認識して中立を保とうとしている。
日本は米国と条約で結ばれており、多くの米軍基地があるが、日本の領土を直接攻撃していない紛争に関与することは望まないかもしれない。オーストラリアは米軍基地を認めているが、紛争が起きそうな場所から遠く離れている。
米軍基地を容認する国は、中国から強制(coercion)と誘惑(inducements)の両方の形で、米軍基地の権利を否定するような継続的で強い経済的圧力を受けることになる。中国は、自国の利益が対立すると考えた場合、この点で冷酷さを発揮している。(最近、台湾大使館を「台湾人」と呼んで中国市場へのアクセスを失ったリトアニア人や、中国共産党に何度も屈服して中国市場へのアクセスを維持している全米バスケットボール協会に聞いてみればいい)。
このように、基地システムを維持することは、仮に成功したとしても、継続的な外交的課題である。紛争が発生した場合、米国は、中国と対峙する膨大なリスクを冒してまでホスト国が喜んでくれるかどうか、確信が持てないのである。
西太平洋における中国との戦争は、単独で考えることはできない。「列島線戦略(Island Chain Strategy)」が、この地域あるいは地球上の他の戦略的要請とどのように整合するかという問題がある。例えば、朝鮮民主主義人民共和国は、米中間の戦争を南の隣国を侵略する口実にすることはほぼ間違いないだろう。そのような場合に朝鮮半島に援軍を送るという要求に、第1列島線(First Island Chain)に沿った防衛線を確立することがどのように適合するのだろうか。
このような取組みは、結局は間違った場所に焦点を当てることになるかもしれない。中国は間違いなく米国の国家安全保障上の国益に対する最大の脅威であり、太平洋地域における中国との従来型の高強度の紛争は、可能性ではないにせよ、あり得ることである。しかし、中国、ロシア、イラン、あるいはその他の国によるものであれ、地球上の他の場所でそれほどでもない紛争が起こることは確実である。ジョン・ブロリク(John Vrolyk)は、「戦争ではなく、反乱こそが中国の最も可能性の高い行動方針である」という、非常に洞察力に富んだ、興味をそそられるタイトルの記事を書いている。
中国との競争は、西太平洋での大国間戦争を含むかもしれないが、米国と中国の利益が衝突する世界各地での代理戦争や反乱との闘いになることはほぼ確実である。
… 今日の大国間の紛争は、第二次世界大戦が比較にならないほど高烈度の戦闘(high-intensity combat)を伴うだろう。一方、大国間の競争は、経済的な対立からインテリジェンス活動、本格的な代理戦、世界で最も重要な後方連絡線に焦点を当てた反乱戦役に至るまで、新しい時代の厄介なグローバルな縺れを伴う可能性がある[7]。
ジョン・ブロリク(John Vrolyk)によれば、中国が米国に代わってこの地域の支配的な力(dominant power)となることを狙う最も合理的な方法は、「極超音速や核による交換よりも、いじめや代理人、反乱に頼ること」だという[8]。
「列島線戦略(Island Chain Strategy)」の潜在的な抑止力を認めたとしても、これは米海兵隊部隊の最善の活用法とは言い難い。このコンセプトのバックボーンとなる陸上ミサイル部隊は、米陸軍の方がはるかに優れた準備と装備を持っている。
米海兵隊がそうであるならば、誰が即応部隊(force-in-readiness)の役割を果たすのだろうか?「どんな気候や場所(any clime and place)」にも迅速に展開できるように、また、あらゆる紛争(spectrum of conflict)全体の戦いに対応できるように作られた限られた米海兵隊を、起こらないかもしれない戦争を想定して無期限に拘束することは、国益になるのだろうか?
現在の米海兵隊は、戦間期の米海兵隊がオレンジ戦争計画に基づき水陸両用能力を開発したのと同じことを行っているだけだと言う人もいるかもしれない。しかし、決定的な違いは、それらの水陸両用能力は、第二次世界大戦のほぼすべての戦域で、またそれ以降も数多くの事例で有用性を発揮したのに対し、遠征前進基地作戦(EABO)は西太平洋の海上の地形の極めて特殊な一点に適用されているように見える点である。
このコンセプトの背景には、20年間、実質的に第二の陸軍として活動してきた米海兵隊を、米海軍の原点に戻したいという理解できる思いがあるのだろう。しかし、米海兵隊を単一戦域内の狭い任務に縛り付けることなく、これを実現する方法は他にもある。
間違いなく、その動機の一部は、余興ではなく、主要な闘いの一部になりたいというものである。しかし、冷戦時代、米海兵隊は、欧州の中央戦線に特化するのではなく、グローバルな即応部隊(force-in-readiness)としての態勢を維持していたことを忘れてはならない(欧州戦域に関連する能力は維持していたが)。このアプローチは成功した。国家と国防機関は、米国がグローバルな責任から逃れることはできないことを認識していた。
作戦的文脈:The Operational Context
遠征前進基地作戦(EABO)の作戦的文脈は、前進する中国海軍部隊を探知し、長距離精密火力で交戦するようにデザインされたセンサーとシューターの一体化されたネットワークによる制海権/海上拒否の海上戦役である。遠征前進基地(EAB)は、そのネットワークの中で基本的に無生物ノードとして機能し、敵の兵器交戦圏内の生存可能な位置から、敵の接近阻止能力を内側から攻撃するために運用される。作戦コンセプトとして、これは整然とした会戦/消耗戦の流儀に完全に合致するものである。
「遠征前進基地作戦に関する暫定マニュアル(TMEABO)」は、防空・ミサイル防衛、前方後方支援、前方指揮・統制、前方武装・燃料補給地点活動など、遠征前進基地(EAB)のいくつかの任務とタスクを特定している[9]。しかし、遠征前進基地(EAB)の最も重要な任務は、遠征前進基地(EAB)から発射される陸上砲列や無人水上艦からのミサイルで敵艦船を交戦することを期待されており、最も劇的な構造変化をもたらすものであることは明らかである。
遠征前進基地(EAB)は、遠くのターゲットに対艦ミサイルを発射する火力基地として機能する。ネットワーク化されたセンサー・システムがターゲットを探知し、ネットワーク化された米海軍の司令官が交戦の決心を下す。遠征前進基地(EAB)は、米海軍の艦船や米空軍、米海軍、米海兵隊の航空機に搭載されている多数の発射セルを補強する、ネットワーク上の一連の発射装置のひとつに過ぎない。
新しいコンセプトはうまく説明できるかもしれないが、いくつかの大きな欠点がある。第一の問題は、根本的なものである。これは戦いが決闘するキル・ウェブ、巨大なランチェスター方程式としての戦いに還元されたもので、純粋な数学的形式による消耗戦であることはほとんど指摘する必要がない[10]。(機動戦論者第10号「撃破(敗北)メカニズムについて」MCG、2021年7月参照)
これは、戦争を基本的に技術の衝突とみなす米海軍や米空軍では珍しくない考え方を反映しているが、MCDP 1「用兵(Warfighting)」で述べられている戦争の本質とは根本的に矛盾しているのである。
第二の問題は、諸兵科連合の機動を軽視していることである。遠征前進基地作戦(EABO)は、遠距離で敵の前進を打ち負かすことを前提とした火力ベースのコンセプトである。このようなコンセプトの下では、戦術的な機動は意味をなさない。(遠征前進基地(EAB)の指揮官が警戒目的のために行う配置や再配置の自由度は、機動(maneuver)とは言い難い)。しかし、これが非現実的であることは分かっている。歴史が物語るように、ある時点で敵軍は味方の接近阻止の柵を突破し、そうなれば、劣勢で孤立した小海兵隊は、カノン砲や戦車の支援の手当てなしに生存をかけて闘い続けることになる。
第三に、遠征前進基地(EAB)の警戒が問題となる。遠征前進基地(EAB)は、移動性、隠蔽性、および低シグネチャによって、探知されないことに依存すると予想される。「遠征前進基地作戦に関する暫定マニュアル(TMEABO)」によれば、遠征前進基地(EAB)は小規模、簡素、かつ一時的なものであり、その根拠は、人民解放軍(PLA)の兵器交戦圏内に準備された配置は発見され破壊されやすいというものである。この論理には問題がある。
先ず、一定期間、その場に留まった拠点には、インフラが蓄積され始める。ベトナムの火力基地がそうであったように、当初は一時的な位置づけであったものが、時間の経過とともに、安全性、快適性、機能性を徐々に高め、より精巧なものとなっていった。想定されているように、遠征前進基地(EAB)のスタンド・イン・フォースが敵対行為に先立って安全保障協力活動に従事する場合、その存在は現地住民によく知られることになる。その住民には、ほぼ間違いなく人的インテリジェンス源が潜入しているだろう。
第四に、兵站支援(logistic support)も問題である。補給任務やその他の兵站面での接触は、遠征前進基地(EAB)の位置が知られてしまうリスクがあるため、遠征前進基地(EAB)はほぼ自給自足が前提となっている。YouTubeで米海兵隊基本学校(TBS)の中尉が豚の屠殺やローストについて教えているのを見たが、現地での後方支援とは、主に作戦契約支援を強化し、現地経済で生活していくことだと理解している。
安全保障協力活動がそうであるように、自己維持は主要な作戦上の安全保障上のリスクをもたらす。地域住民との交流により、遠征前進基地(EAB)は人的インテリジェンスによって発見される可能性がある。遠征前進基地(EAB)は、ハイテクのセンサーで探知された場合と同様に、ピンポイントで探知される可能性が高い。
戦力デザイン2030の実装:The Implications of Force Design 2030
遠征前進基地作戦(EABO)コンセプトを実現するための戦力をデザインする際に、「戦力デザイン2030(Force Design 2030)」は劇的な構造変化を要求している。米海兵隊の精神的支柱であり、基盤となる地上機動部隊の歩兵大隊は、人数、兵力ともに大幅に削減される。
米海兵隊の声明によると、この決定は作戦上の必要性を分析したものではなく、予算削減の欲求によって行われたものである。現役の大隊の数は24から21に減らされる。そのうち1個大隊だけが第3海兵師団に常駐することになる。
第1海兵師団は12個の歩兵大隊を有するが、うち6個は米海兵隊沿岸連隊(MLR)と米海兵隊遠征部隊(MEU)のローテーションに充てられ、他の任務(commitments)のために6個大隊を残すのみである。第2海兵師団は8個歩兵大隊を有するが、そのうち4個は米海兵隊沿岸連隊(MLR)と米海兵隊遠征部隊(MEU)のローテーションに充てられ、他の必要条件にはほとんど連隊が残らない[11]。(図1参照)。
図1[12](図は筆者提供) |
「遠征前進基地作戦に関する暫定マニュアル(TMEABO)」は、米海兵隊がこのような大幅な変更を加えても、法定任務を果たすことができると主張しているが、我々は納得できない[13]。このように歩兵構造が減少した米海兵隊が、世界的な要求を満たせるかどうかは疑問である。米海兵隊が戦争計画から外されているのでなければ、この数字は腑に落ちないようだ。
歩兵大隊の正確な編成はまだ開発中であり、現在も実験中であると理解しているが、「遠征前進基地作戦に関する暫定マニュアル(TMEABO)」によると歩兵大隊の兵力は965人から648人へと3分の1が削減される予定である[14]。これは、対等な競争者との戦争で予想される死傷者数に直面して、大隊の復元性に劇的な影響を与える。
歩兵大隊の縮小に伴い、米海兵隊総司令官の計画策定指針(Commandant’s Planning Guidance)では、航空などの支援もほぼ比例して削減されることになっている。砲兵隊は小型化し、変貌を遂げる。米海兵隊総司令官の計画策定指針(Commandant’s Planning Guidance)によると
しかし、悪意ある活動や紛争を抑止するのに十分な射程と精度を持ち、近い将来に実用化できる地上発射型の長距離精密火力の開発には、まだ大きな遅れがある。我々の能力開発の焦点は、歩兵と地上機動(ground maneuver)を支援するのに十分な射程と致死性を持つ能力に定着させられる。
このような単一焦点は、もはや適切でも容認できるものでもない。我々の陸上を基盤とする火力(ground-based fires)は、艦隊指揮官や統合部隊指揮官にとって適切なものでなければならず、潜在的な敵に対してオーバーマッチをもたらすものでなければ、無意味になる危険性がある[15]。
これは実質的には、カノン砲からロケットやミサイルへの移行を意味する。これらの部隊は、コンセプトにある制海権/海上封鎖を支援する精密な対艦火力を提供するという任務を果たすことが期待されている。「遠征前進基地作戦に関する暫定マニュアル(TMEABO)」によると、現役部隊のカノン砲は合計5つの砲列に減らされることになる[16]。
明らかに、米海兵隊総司令官の指針は、地上機動(ground maneuver)を支援するための火力からの転換を示唆している。この任務には、大規模で持続的な地域火力(area fires)が必要であり、1発200万ドル近くする精密ロケットやミサイルには適さないものである。カノン砲の砲列数が減れば、制圧火力、マーキング、照明火力、隠蔽火力といった従来の火力支援任務の遂行能力はほぼゼロになる。
さらに、今や事実上すべての米海兵隊員が知っているように、戦車は在庫から完全に排除された[17]。戦車の廃止、大砲の大幅削減、歩兵大隊の数と規模の大幅縮小は、米海兵隊が将来、高烈度の地上戦闘(high-intensity ground combat)に参加する意図がほとんどないことを明確に示すものである。
敵の位置を特定し、接近し、破壊するという歩兵の任務は、明らかに過去のものになる。米海兵隊の歩兵は、ロケット/ミサイル砲列や航空・兵站アセットの警戒部隊(security force)に過ぎなくなるだろう。その結果、「すべての米海兵隊員はライフルマンである(every Marine a rifleman)」という米海兵隊の基本的な信念が損なわれるほど、その精神と文化に深刻な影響を及ぼすだろう。
再編成の目標の一つが、20年にわたる対反乱戦から脱却することであるのは皮肉なことで、西太平洋での米海軍戦役に最適化された米海兵隊沿岸連隊(MLR)を除けば、他の米海兵隊は高烈度(high-intensity)で諸兵科連合の戦闘ができない保安部隊(constabulary forces)に過ぎなくなりつつあるように見えるからである。
最後に、米海兵隊は、新しい能力がオンライン化される前に、能力を売却することで受け入れるリスクを考慮する必要がある[18]。米海兵隊が最終的にどのミサイルを購入するにせよ、その能力が実用化されるのは数年後である。しかし、売却は現在進行中であり、場合によってはすでに完了している。現在の米海兵隊は、わずか2年前の米海兵隊よりも能力が低下しており、能力の削減を続けている。もちろん、これは国家安全保障を損なうものである。
ミッション・コマンド:Mission command
ミッション・コマンドのコンセプトについては、特に言及する価値がある。これまで述べてきたように、任務戦術(mission tactics)(またはミッション・コマンド)は定義された機動戦(maneuver warfare)の特徴である(機動戦論者第12号「分散化について」MCG、2021年9月)。
暫定マニュアル(Tentative Manual)では、そのコンセプトに必要な首肯(しゅこう:うなづくこと)を与えている。
遠征前進基地作戦(EABO)を実施する沿岸部隊の行動には、計画から実行まで、機動戦(maneuver warfare)とミッション・コマンド・コントロールの原則が貫かれている。計画策定段階では、指揮官はミッション・コマンド・コントロールの基本要素である低い部隊階層レベルの主導性、共通に理解される指揮官の意図、相互の信頼、暗黙の了解とコミュニケーションに導かれて部下が行動できるような実行時の状況を作り出すことを目指す[19]。
しかし、マニュアルを読むと、ミッション・コマンドの必要性がどの程度あるのか疑問に思う。遠征前進基地(EAB)が、包括的なデジタル・ネットワークで結ばれた無数のセンサーとシューターからなる巨大なキル・ウェブの無生物火力ノードに過ぎないとしたら、低い部隊階層レベルの主導性にどれほどの自由度があるのだろうか。遠征前進基地(EAB)の指揮官の役割は、水平線の向こうで闘いが行われている間に、沿岸部の自分の位置を確保し、維持することに尽きる。
つまり、コンセプトが完全に失敗し、最後の防御火力(ちなみに、少数の81mm迫撃砲に限られるらしい)を撃つとき以外は、敵に対して機動することも、米海兵隊の歴史的強みである近接戦闘を行うこともない。移動は通常、発見や対砲兵火力の回避のための局所的な再配置にとどまる。
さらに、中央集権的なネットワーク中心アプローチの中でミッション・コマンドを信奉することには内部矛盾がある。この問題は、決して遠征前進基地作戦(EABO)に限ったことではない。過去10年間の実質的にすべての軍種または統合作戦コンセプトは、作戦を包括的なデジタル・ネットワークにますます依存させる一方で、ミッション・コマンドにリップ・サービスを行ってきた。
統合全ドメイン指揮・統制(Joint All-Domain Command and Control)は、最も新しい、そしておそらく最も野心的な取り組みに過ぎない。集中的な状況認識と情報技術による詳細な統制を特徴とするこのような指揮・統制(C2)環境において、ミッション・コマンドがどのように生き残るかを見ることは困難である。ネットワークがダウンしたときにミッション・コマンドが引き継ぐというのは現実的ではない。(そして、米国の情報ネットワークをダウンさせることが、どの戦争でも敵の主要な目標にならないと信じている人がいるだろうか)。
ミッション・コマンドは訓練と実践が必要で、ネットワークが暗くなったときに簡単にオンにできるようなものではない。厳重に管理され、高度に中央集権化された意思決定のもとで訓練と作戦を行ってきた部隊は、それに慣れてしまう。
結論:Conclusion
本論文の冒頭の問いに戻る。遠征前進基地作戦(EABO)が米海兵隊の将来像であるならば、遠征前進基地作戦(EABO)を支援するために用兵ドクトリン(warfighting doctrine)を変える必要があるのか?MCDP 1に反する戦争の本質に関する仮定に基づけば、遠征前進基地作戦(EABO)のコンセプトには機動戦(maneuver warfare)の必要性はほとんどない。
我々は、ドクトリンが変わることを信じている。遠征前進基地作戦(EABO)は、技術的・手続き的な熟練と制約された任務の遂行における限られた自由度に基づくドクトリンによってより良く機能すると考えるが、それは国家が米海兵隊に期待し、必要とするものではないとも考えている。
歴史は、次の闘いを正確に予測する実績が非常に乏しいことを物語っている[20]。中国が脅威であることは間違いないが、次の戦争が西太平洋での中国とのハイテクな闘いになると結論づけるには程遠い。しかし、遠征前進基地作戦(EABO)や「戦力デザイン2030(Force Design 2030)」によって、米海兵隊は他の任務の遂行に支障をきたす一方で、まさにその闘いに全力を注いでいるように思われる。
米海兵隊は、米陸軍と区別なく使用されてきた長い戦争期間から脱却するたびに、その存続を危ぶまれた歴史がある。米海兵隊総司令官は、将来の安全保障環境との関連性を高めることで、米海兵隊を守ろうと考えているのは間違いないだろう。米海兵隊総司令官は、大胆な行動をとることで、賞賛に値するし、また、賞賛を受けている。
大胆さは機動戦(maneuver warfare)の信条だが、「遠征前進基地作戦に関する暫定マニュアル(TMEABO)」と「戦力デザイン2030(Force Design 2030)」は、米海兵隊を可能性の低い特定の戦争に最適化したニッチな軍隊に変質させ、歴史が語るさまざまな種類の危機と紛争に対応する能力を失わせるリスクがある。
米海兵隊は、国家が長年期待してきた危機対応や戦闘任務の遂行能力を剥奪され、米海兵隊総司令官はかえって無用の長物、あるいはそれ以上の存在に追いやられてしまうかもしれない。用兵(Warfighting)の助言にあるように、「大胆さは、無謀さにつながらないよう、判断力をもって抑えられなければならない」のである[21]。
ノート
[1] Headquarters Marine Corps, Tentative Manual for Expeditionary Advanced Base Operations (TMEABO) (Washington, DC: February 2021).
[2] Ibid.
[3] ライル・ゴールドスタイン(Lyle Goldstein)著, “悪い考え:「群島防衛」で中国に対してA2 / ADを回す(Bad Idea: Turn A2/AD against China with ‘Archipelagic Defense’), Defense 360º, (December 2021), available at https://defense360.csis.org. 公正を期すために、ゴールドスタインはこのコンセプトの支持者ではない。その次の段落が始まる。「しかし、「群島防衛」は、政治的、経済的、環境的、軍事的な理由から悪い考えである」。
[4] 例えば、アンドリューF.クレペノビッチ(Andrew F. Krepenovich)著「中国を抑止する方法: 群島防衛の事例」, Foreign Affairs (February 2015), available at https://www.foreignaffairs.com. また、トーマスG.マーンケン(Thomas G. Mahnken)著「中国に対処するための海洋戦略」, Proceedings, (Annapolis, MD: U.S. Naval Institute Press, February 2022)も参照のこと。
[5] Sun Tzu, The Art of War, trans. by Samuel B. Griffith, (London: Oxford University Press, 1963).
[6] Tentative Manual for Expeditionary Advanced Base Operations.
[7] John Vrolyk, “Insurgency, Not War, Is China’s Most Likely Course of Action,” War on the Rocks, (December 2019), available at https://warontherocks.com.
[8] Ibid.
[9] Tentative Manual for Expeditionary Advanced Base Operations.
[10] ランチェスターの法則とは、2つの軍隊の消耗度合いから、両軍の戦力を計算する微分方程式である。第一次世界大戦の頃、イギリスのエンジニア、フレデリック・ランチェスターによって開発された。
[11] この数字は、3個大隊のローテーションではなく、2個大隊のローテーションに基づくもので、6ヶ月の勤務と6ヶ月の休暇を意味し、米海兵隊は以前、米海兵隊遠征部隊(MEU)のローテーションを維持できないとしていることは注目に値する。作戦テンポを緩和するために3個大隊ローテーションに切り替えた場合、直ちに展開できる歩兵大隊の数はさらに少なくなる。
[12] Tentative Manual for Expeditionary Advanced Base Operations.
[13] Ibid.
[14] 1980年代半ば以降、歩兵大隊の数が27から21に減り、その規模も縮小されたため、歩兵大隊に所属する海兵隊員の数は実質的に半減している。
[15] Gen David H. Berger, 38th Commandant’s Planning Guidance (Washington, DC: July 2019).
[16] Tentative Manual for Expeditionary Advanced Base Operations.
[17] また、戦車とともに、能力を再構築するために必要なスキルも、他のMOSへの移行を望まない海兵隊のキャリア戦車兵が陸軍への転属を余儀なくされているためである。
[18] もちろん、売却して得た利益を他の能力で回収することができないリスクもある。
[19] Tentative Manual for Expeditionary Advanced Base Operations.
[20] See, for example, Lawrence Freedman, The Future of War: A History (New York, NY: Public Affairs, 2017).
[21] Headquarters Marine Corps, MCDP 1, Warfighting (Washington, DC: 1997).