マイクロマネジメントの排除とミッション・コマンドの取り込み (Military Review)

MILTERMでは、米陸軍の「ミッション・コマンド」の取組みや考え方などについてMilitary Reviewの論文から「ミッション・コマンドへの道」、「米陸軍のミッション・コマンドへのアプローチを再活性化する‐その1」、「同‐その2」、「同‐その3」、「ミッション・コマンドを理解する」と紹介している。ここで紹介するのは同じくMilitary Reviewの論文として掲載された「Eliminating Micromanagement and Embracing Mission command」である。

この論文は、冒頭に近年VUCA(変動性:volatility、不確実性:uncertainty、複雑性:complexity、曖昧性:ambiguity)と呼ばれている予測不能な現代の特性を取り上げ、ミッション・コマンドの重要性をADP6-0「Mission Command」で述べられているミッション・コマンドの7つの原則‐能力(competence)、相互信頼(mutual trust)、共有された理解(shared understanding)、指揮官の意図(commanders’ intent)、任務命令(mission orders)、規律ある主導性(disciplined initiative)、リスク受容(risk acceptance)‐の視点から述べるとともに、組織・社会学の観点から権限を委譲することの効果などについて論じており、興味深い。(軍治)

マイクロマネジメントの排除とミッション・コマンドの取り込み

Eliminating Micromanagement and Embracing Mission command

Military Review September-October 2022

Maj. Justin T. DeLeon, U.S. Army

Dr. Paolo G. Tripodi

 

2018年3月22日、ポーランドのベモウォ・ピスキエ(Bemowo Piskie)訓練場付近で多国籍分隊実戦検証演習に参加しながら移動準備をする第2騎兵連隊第3飛行隊鉄部隊隊長のテレンス・シールズ(Terrence Shields)大尉。バトルグループ・ポーランドは、米国、英国、クロアチア、ルーマニアの兵士からなるユニークな多国籍バトルグループで、ポーランド第15機械化旅団とともに、NATOの強化された前方プレゼンス(Enhanced Forward Presence)を支援するポーランド北東部の抑止力として活動している。(写真:サラ・スタルベイ(Sara Stalvey)米陸軍3等軍曹)

限定的な不測事態、危機対応、大規模な戦闘作戦(large-scale combat operations)のいずれを実施する場合でも、米陸軍は今後も、高いレベルの「変動性(volatility)、不確実性(uncertainty)、複雑性(complexity)、曖昧性(ambiguity)(VUCA)[1]」を特徴とする環境で作戦することになる[2]。「変動性、不確実性、複雑性、曖昧性(VUCA)」が中心的な役割を果たす状況では、タイムリーで効果的な決心を行うことが、成否を分ける重要な要素となる。

米陸軍は、意思決定を行う(make decisions)のに最も適した、最も効果的な指揮官が、必ずしも指揮系統(chain of command)の最上位者ではなく、「変動性、不確実性、複雑性、曖昧性(VUCA)」の意味を最もよく理解できるような状況で作戦を行っている。このような環境下で戦術的レベル、作戦的レベルで作戦する指揮官は、2つの重要な決心点(critical decision points)に直面する。

まず、思いがけず敵に大打撃を与えるチャンスに遭遇することがある。しかし、そのような機会の優位性を生かすためには、上級指揮官の意図(intent of their senior commander)の中にいながら、受けた命令から外れる、つまり「背く(disobey)」ことが必要になるかもしれない。

第二に、受け取った命令を実行することが、任務全体に悪影響を及ぼす可能性があることを明確に理解している状況に直面することがある。この場合も、受け取った特定の命令を無視する決断をしなければならないかもしれない。米陸軍の指導者は、指揮系統(chain of command)の即時的な検証を受けることなく、こうした決心を下さなければならないという不愉快な状況に置かれるかもしれない。

さらに、マルチドメイン作戦は、時間と主導性(initiative)が重要な「変動性、不確実性、複雑性、曖昧性(VUCA)」環境における部隊の指揮・統制に複雑さを加えている。したがって、米陸軍は、最高の立場にある指導者に重要な決心を下す権限を与えるミッション・コマンド哲学(mission command philosophy)を心から受け入れるべきである。

米陸軍がミッション・コマンドを正式に採用したのは2000年代初頭のことである。今日、米陸軍ドクトリン出版物(ADP)6-0『ミッション・コマンドMission command):米陸軍部隊の指揮・統制(Command and Control of Army Forces』は、指揮官が戦術的レベルと作戦的レベルで効果的に主導するために必要な手段を提供する。米陸軍ドクトリン出版物(ADP)6-0 では、ミッション・コマンドの原則を、能力(competence)、相互信頼(mutual trust)、共有された理解(shared understanding)、指揮官の意図(commanders’ intent)、任務命令(mission orders)、規律ある主導性(disciplined initiative)、リスク受容(risk acceptance)の7つと定めている[3]

これらの原則が正しく一体化され、採用されれば、「変動性、不確実性、複雑性、曖昧性(VUCA)」環境で必要とされる主導性(initiative)と分権的な意思決定(decentralized decision-making)が可能になる。しかし、指導者達(leaders)はしばしばマイクロマネジメントの傾向に悩まされ、米陸軍の組織文化は指揮の哲学(command philosophy)を完全に受け入れていない。

ミッション・コマンドとマイクロマネジメント:Mission command and Micromanagement

米陸軍のドクトリンにミッション・コマンドを追加することは重要なステップであるが、その採用は確実ではない。指導者達(leaders)は、規律ある主導性(disciplined initiative)を奨励する環境を醸成するよりも、ドクトリン上のタスクのチェックリストに従う能力で評価されることがあまりに多い。これは、米陸軍のミッション・コマンド哲学(mission command philosophy)に反するものであり、しばしば指導者達(leaders)の極端なリスク回避を招く。さらに、マイクロマネジメントを助長し、部下から目的を奪い、指導者(leader)の焦点を全体像から遠ざけてしまうことにもなりかねない。

ニコ・カナー(Niko Canner)とイーサン・バーンスタイン(Ethan Bernstein)によると、マイクロマネジメントは、「委譲の基本が崩れている」のだそうである[4]。創造性を鈍らせ、意思決定を遅らせ、部隊が戦場で反応する速度を低下させる。ニコ・カナー(Niko Canner)とイーサン・バーンスタイン(Ethan Bernstein)は、マイクロマネジメントが「目標と責任が複雑に入り組んでいる」組織で特に威力を発揮することを指摘している。部下が出したものが、自分が出したものに影響し、さらに指揮系統(chain of command)の上に影響するため、全員がやり遂げるようにという圧力が、あらゆるところにかかる」[5]

マイクロマネジメントに悩む指導者達(leaders)は、作戦のあらゆる側面を個人的に管理し、過剰な統制を図りたいと考えている。また、彼らは部下の指導者達(subordinate leaders)が自分の意図通りに動いてくれることを信じず、仕事を進めるプロセスや方法にまで関与するようになる。

また、マイクロマネジメントは、若手の指導者達(junior leaders)が自律的に業務を管理する機会を制限し、育成に悪影響を与える可能性がある。レイモンド・ノウ(Raymond Noe)は、従業員の成長は仕事中に行われると述べている[6]。現在のスキルセットから外れた仕事に挑戦することが、最も成長する機会なのである。レイモンド・ノウ(Raymond Noe)はこれを「ストレッチ・アサインメント(stretch assignments)」と呼び、新しいスキルを身につけ、自信を持つために、定期的に自分の能力を超えたチャレンジをすることを勧めている[7]

効果的な指導者達(leaders)の育成に取り組む学習する組織では、仕事、権限、意思決定の委譲を奨励している。権力や権限を委譲することで、部下は自分の決心の重さを実感しながら、責任感を身につけることができる。

ダニエル・ピンク(Daniel Pink)は、マイクロマネジメントの悪影響と、それに対抗するためにモチベーションが果たす潜在的な役割について調査している。ダニエル・ピンク(Daniel Pink)は、モチベーションを高める方法として、2つの競合する方法を挙げている。「モチベーション2.0」と「モチベーション3.0」である[8]。「モチベーション2.0」とは、部下が目標を達成できるように統制する、一般的に受け入れられている管理原則のことで、外発的な動機付けの手法に依存するものである。「モチベーション3.0」は、内発的モチベーションを重視し、部下に大きな自律性(autonomy)を与える[9]

部下をより統制したいと願う指導者達(leaders)は、個人の行動に対して報酬や罰を与える外発的動機付けによって指導する傾向がある。ダニエル・ピンク(Daniel Pink)が「ニンジンと棒(carrots and sticks)」と呼ぶこのタイプのモチベーションは、しばしば個人の焦点を狭め、創造性を阻害する[10]

部下が目の前の仕事をこなし、将来のビジョンを考えることができないため、パフォーマンスや生産性が低下することが多い。さらに、このようなモチベーションは、不良行為や非倫理的行為につながる可能性があると主張している。外発的報酬で動機付けされた人は、たとえ疑わしい近道を通らなければならないとしても、タスクを実行するために可能な限り最短のルートを探したくなるかもしれない[11]

「モチベーション3.0」では、人は自分の決心を統制することを望み、それに対して責任を持つことを望んでいると論じている[12]。ダニエル・ピンク(Daniel Pink)は、内発的に動機付けされた人は、活動そのものから報酬を受け、そこから高められた学習と経験を受け取ると主張している[13]

そして、そのプロセスに駆り立てられ、誇りと責任感から卓越するように動機付けられた個人が、より効果的な成果を生み出す。また、部下にとっても、作戦全体をよりコンセプト的に理解することができるようになるなど、自律性(autonomy)の利益は大きい。さらに、自律性(autonomy)は個人と集団の生産性を高め、仕事の満足度を向上させる[14]

部下に自律性(autonomy)が与えられると、創造性が育つだけでなく、全体のパフォーマンスが上がる傾向がある。ダニエル・ピンク(Daniel Pink)は、部下が職務を遂行するための技術を統制できるようにする必要性を強調している。これは、部下に規律ある主導性(disciplined initiative)を行使する自律性(autonomy)を提供するミッション・コマンド哲学(mission command philosophy)と共鳴する。内発的・自律的なモチベーションによって、人は選択する力を持ち、それがパフォーマンスに強く影響する。

エドワード・デシ(Edward Deci)とリチャード・ライアン(Richard Ryan)は、自律的モチベーションの利点を強調し、「一貫して、自律的規制は、より大きな持続性、よりポジティブな感情、パフォーマンスの向上、特に発見的活動(heuristic activities)、およびより大きな心理的幸福と関連している」と記している[15]

また、自律性(autonomy)があることで、大きな目的を持たずに仕事をこなすだけの部下ではなく、チームのパートナーとしての自覚を持つことができる。このパートナーシップの考え方は、ジェームズ・マティス(James Mattis)米海兵隊大将も実践している。第一海兵師団を率いていたジェームズ・マティス(James Mattis)は、すべての部下を対等に見ることに細心の注意を払った[16]。ジェームズ・マティス(James Mattis)は、第一海兵師団を率いていたとき、すべての部下を対等な立場で見ることに細心の注意を払い、指揮官の統一グループを作り、自分を上から指示するのではなく、チームの一員としてプレーを指示するクォーターバック(quarterback)と称したのである。

この指揮の哲学(command philosophy)は、指導者達(leaders)のモチベーションを高め、権限を与えるとともに、指揮所内の信頼関係を促進するのに役立った。ジェームズ・マティス(James Mattis)のアプローチは、エドガー・シャイン(Edgar Schein)の「文化の島(cultural island)」のコンセプトに似ている。エドガー・シャイン(Edgar Schein)によれば、「文化の島(cultural island)」とは、リーダーが創り出す空間であり、そこでは、「社会的なルールの一部が停止され、通常なら差し控えるようなことも、よりオープンになることが奨励される」のだという[17]

エドガー・シャイン(Edgar Schein)は、「このようなチーム状況では、正式な地位や階級は、ある瞬間に誰が誰に依存してタスクを達成するかというパターンよりも重要ではなくなってしまう」と指摘しているように、これはチームの学習にとって重要な経験である[18]。組織のパフォーマンスに関する理論は、信頼とオープンなコミュニケーションが果たす役割を強調するが、文化的な障壁がしばしばそのプロセスを混乱させることを認めていない。

そのため、指導者達(leaders)は、チームのメンバーが非難を恐れずにオープンにコミュニケーションできる「文化の島(cultural island)」を、いつ、どのように作り出すかを理解する必要がある[19]。そうすることで、指揮系統(chain of command)の上下に信頼が生まれ、オープンなコラボレーションと対話が促進され、より大きな共有された理解(shared understanding)を得ることができる[20]

過度の中央集権化とフランス軍文化の米陸軍への影響:Overcentralization and the Influence of French Military Culture on the U.S. Army

米陸軍は、ミッション・コマンド哲学(mission command philosophy)に沿うよう努力しているにもかかわらず、その組織文化が、フランスの軍事文化に由来することもあって、依然として過度の中央集権的であることを認識することをしばしば怠っている。第一次世界大戦中に米軍がヨーロッパに展開すると、米陸軍将校は主にフランスの軍事学校で指導を受け、ドクトリン上の基準や原則に厳格に従うことで中央集権的に戦うことを教え込まれた。

この方法は戦場での短期的な有効性を向上させたかもしれないが、米陸軍は作戦・戦術レベルでのスピードと主導性(initiative)を欠いていたのである。1918年5月、アメリカ遠征軍の最初の攻撃で、第28歩兵連隊がカンティニーの会戦(battle of Cantigny)で柔軟性を欠いたため、その影響が現れたのである。

ドイツ軍は敗北したが、硬直的で過度の集権的な計画策定によって多くの死傷者を出し、主導性を得るためのいくつかの機会を生かすことができなかったのである[21]。第一次世界大戦後、米国は、そのドクトリン上のコンセプト(doctrinal concepts)をフランスのそれと一致させることを続けた。

ドナルド・ヴァンダグリフ(Donald Vandergriff)によれば、「戦間期にフランスが方法論的な戦闘を展開すると、米国はそれに付随するプロセス重視の教育をすべて模倣した」のである[22]。さらに、米陸軍は1920年代から1930年代にかけて、直線的なフランス流の戦術と指導者育成を制度化した[23]

フランスの影響は、今日でも、米陸軍の軍事意思決定プロセスや米海兵隊の計画策定プロセスの厳密な使用に見られるものである。いずれも、第一次世界大戦後、プロセス指向の分析と計画策定を推進するために実施されたフランスのデカルト的アプローチがベースになっている。

これらのプロセスは効果的な計画策定の枠組みとなりうるが、ドナルド・ヴァンダグリフ(Donald Vandergriff)は、計画者が内向きになり、環境に適切に立ち向かうのではなく、上司を喜ばせる結果に努力を集中させることになりかねないと主張している[24]。複雑な環境下でこうした直線的な計画策定手法を用いると、指導者達(leaders)は戦争のカオスを統制できると誤解してしまうかもしれない。

統制への願望と統制を維持するための科学的な方法と原則を開発することは、指導者達(leaders)のマイクロマネジメントを促すことになりかねない。実際、ドクトリンがあまりにも厳格に適用され、指導者達(leaders)が戦場で適切なレベルの創造性を発揮することが許されない場合、システムそのものがマイクロマネジメントの道具になる可能性がある。

ドナルド・ヴァンダグリフ(Donald Vandergriff)は、米陸軍の大規模な訓練は今日でも過度に硬直的であると指摘する[25]。確かに、米陸軍がマルチドメイン環境での大規模な戦闘作戦に備えるには、教育・訓練によって、新たなドクトリン上のコンセプト(doctrinal concepts)に集成的習熟度を促進する必要がある。ドクトリンに習熟していれば、戦場で曖昧な環境に直面したとき、指揮官が部下を信頼することができるのは確かである。

しかし、米陸軍の訓練はバランスを取りながら、ドクトリン上のコンセプト(doctrinal concepts)に基づく指導者達(leaders)が革新性と創造性を発揮して問題を解決できるようにしなければならない。米陸軍ドクトリン出版物(ADP)3-0「作戦(Operations)」は、「ドクトリンは固定された規則ではなく、行動の指針として機能する」ことを示唆している[26]

ドクトリンは、過去の紛争から学んだ教訓と、将来の紛争がどのようなものになるかという予測に大きく基づいている。したがって、将校はドクトリンを批判し、訓練における仮定に挑戦するよう奨励されなければならない。このようなアプローチにより、米陸軍の指導者達(leaders)は、ドクトリン上のコンセプト(doctrinal concepts)を繰り返し改良し、将来の戦いに備えて部隊をよりよく準備することができるのである。

リスク回避:Risk Aversion

米陸軍がミッション・コマンドの実装とマイクロマネジメント傾向の排除に苦労しているのは、指導者達(leaders)間の極端なリスク回避に起因していることもある。組織的なリスク回避により、軍事組織はしばしば、マイクロマネジメントと意思決定権限の過度な集中化を促進する文化を確立している。過度にリスクを嫌う文化が意図的に、あるいは不注意に確立されたにせよ、このような環境では、戦場の内外で部下の信頼を培うことが難しくなる。

トーマス・レバック(Thomas Rebuck)米陸軍少佐は、米陸軍は「官僚的で管理的な考え方を持ち、不確実性を病的に恐れ、リスクを嫌がる」ことに苦しんでいると主張している[27]。その結果、指導者達(leaders)は戦場に秩序を押し付けたいという非現実的な願望を持ち、マイクロマネジメントへの極端な強迫観念が生まれる。また、リスク回避は信頼感の欠如にも起因し、指導者達(leaders)が部下を育成し、適切なレベルの自律性(autonomy)を与えることを阻害する可能性がある[28]

さらに、指導者達(leaders)の出世主義が、信頼が欠如した文化を発展させることもある[29]。指導者達(leaders)は、部下の失敗から自分を守るために、硬直した統制を行うことがある。そして、その方針は、チームとして成功に向かって努力するのではなく、失敗を避けるために常に緩和を行使するゲームになってしまう[30]

その結果、将校はマイクロマネジメントの手法に頼り、部下の指導者達(subordinate leaders)に自律性(autonomy)を与えず、失敗から学ぶことを敬遠するようになるかもしれない。ジェームズ・マティス(James Mattis)が警告しているように、「リスクを取る者が罰せられれば、リスクを避ける者ばかりが仲間に残ることになる」のである[31]。これは、悪い意図(ill intent)を持ってやっているわけではなく、「欠陥ゼロの組織文化(zero-defect organizational culture)」の結果かもしれない。

リスク回避志向が強いとマイクロマネジメントが助長されるが、リスクの誇張はその弊害を拡大させる。リスクを誇張しすぎると、部下に過剰なパラメーターを与えてしまい、複雑な問題群を解決したり、予期せぬ機会を追求したりするための機敏な行動や主導性(initiative)を発揮させることができなくなる[32]

米陸軍ドクトリン出版物(ADP)6-0 は、「命令は部下の領域に踏み込んではならない」と強調している。命令には、部下が任務を遂行するために知っておかなければならないことがすべて含まれていなければならないが、それ以上のことは書かれていない」と強調している[33]。さらに、リスクの過大評価は、部下の作戦能力を侵害し、主導性(initiative)を発揮できる範囲を過度に制限する。リスクを過大に表現すれば、意図は部下が行動する余地を与えず、決心は本来あるべきレベルよりも高いレベルで行われることになる。

これは、ミッション・コマンド哲学(mission command philosophy)を損なうと同時に、意思決定プロセスを遅くし、米陸軍の機敏性を低下させる[34]

組織文化とミッション・コマンド:Organizational Culture and Mission command

2019年の軍の組織文化に関する研究で、ピーター・マンスール(Peter Mansoor)とウィリアムソン・マレー(Williamson Murray)は、「文化は明らかに軍の組織の有効性に対する決定的な決定要因である」と強調している[35]。エドガー・シャイン(Edgar Schein)は、集団の文化を 「その集団が外部適応と内部一体化の問題を解決する際に蓄積された共有された学習(accumulated shared learning)であり、それが有効であると考えられるほど十分に機能し、したがって、それらの問題に関連した知覚、思考、感情、および行動の正しい方法として新しいメンバーに教えられるもの」と定義している[36]。指導者達(leaders)がどのように部下を管理し、指導するかには、組織文化が極めて重要な役割を果たす。

政策、規制、成文化された制度は、あらゆるレベルで指導者達(leaders)の行動を促す。組織文化は、効果的な指導者達(leaders)を育成し、マイクロマネジメントのような否定的な管理スタイルを最小限に抑えるための鍵である。エドガー・シャイン(Edgar Schein)は、組織が指導者達(leaders)を昇進させるために選択する方法が、組織文化の形成に重要な役割を果たすと指摘している[37]

したがって、部下の権限移譲(empowerment of subordinates)が昇進の検討材料になれば、指導者達(leaders)はその実践を継続するよう動機付けられ、マイクロマネジメントの傾向は弱まり始める。このような理解がないと、部下の権限移譲(empowerment of subordinates)は、個人指導者(individual leader)の信念や価値観によって様々に変化する[38]

ルイジアナ州フォートポークにある統合即応訓練センターでの作戦中の2020年9月19日の記者会見後、ハンヴィーのボンネット上の地図を介して防衛計画を説明する第101空挺師団第1旅団戦闘チーム(空襲)指揮官のロバート・ボーン大佐(ブライアン E. ウィンスキー総指揮官、ケンタッキー州フォートキャンベル所属)。(写真:米陸軍二等軍曹ジャスティン・モーラー)。

歴史には、マイクロマネジメントの危険性を理解し、分権的な意思決定アプローチ(decentralized decision-making approach)を採用した賢明な指導者達(leaders)や組織が素晴らしい結果を残した例がある。彼らは、ミッション・コマンドを採用することの有益な影響を理解しただけでなく、そのような哲学を組織が受け入れるようにしたのである。ミッション・コマンドは、今でもドイツのアプローチである「Auftragstaktik:訓令戦術」と強く結びついている。

しかし、1870-1871年の普仏戦争で「Auftragstaktik:訓令戦術」が導入される何十年も前に、ホレイショ・ネルソン(Horatio Nelson)提督は、指揮系統(chain of command)の指導者達(leaders)に権限を与える指揮哲学を導入していたのである。ホレイショ・ネルソン(Horatio Nelson)にとって最も重要なトラファルガー海戦では、「イギリス海軍がネルソン最大の勝利を収める一方で、提督自身は甲板下で失血死してしまった」[39]。彼は、指揮官の意図(commanders’ intent)を伝え、分権的な意思決定プロセス(decentralized decision-making process)を効果的に強化したため、彼自身の存在はイギリス海軍の成功に無関係になったのである。

戦間期は、分権的な指揮の哲学(decentralized command philosophy)が作戦的レベルと戦術的レベルでの効果的な革新を促進し、中央集権的なアプローチが逆効果になることを示す強力な証拠となる。この時期、ドイツ軍は戦争、戦術、作戦に関して、将校の間で批判的思考(critical thinking)と議論を奨励する文化を確立していた[40]

このため、組織としては、ドクトリン上のコンセプト(doctrinal concepts)を繰り返し評価し、時間をかけて改善していくことができた。さらに、ドイツの「指揮文化(command culture)」は、戦場で学び、適応する権限を与えられた将校団を育てた[41]。逆に、フランス軍は中央集権的な指揮の哲学を好み、フランス軍大学校にドクトリンの策定を任せ、より広い将校団からのインプットは限られていた[42]

また、フランス軍の上級指導者達(senior military leaders)は、ドクトリン上のコンセプト(doctrinal concepts)に関する議論を抑制した。モーリス・ガムラン(Maurice Gamelin)フランス軍大将のリーダーシップの下、フランス軍では異論が許されず、開かれた言説が少なくなった。その結果、統制のとれた作戦を重視する「理路整然とした戦い(methodical battle)」というドクトリンが堅持されることになった[43]

一方、ドイツ軍のアプローチは、電撃戦の作戦コンセプトを発展させ、諸兵科連合戦(combined arms warfare)のパラダイムを転換させることができた。一方、フランス軍のやり方は、作戦の柔軟性に欠けるものであった。このことが、1940年5月のドイツ軍の攻勢に対応できなかった一因である。

ジェームズ・マティス(James Mattis)の第一海兵師団指揮官としての経験は、ミッション・コマンド哲学(mission command philosophy)が適切に適用されていることを示す啓蒙的な例である。ジェームズ・マティス(James Mattis)は指導者達(leaders)に判断力と自発性を発揮するよう強く求めた。彼は、過度の統制がもたらす有害な結果を理解していた。戦場でのチャンスは一瞬であり、分権的な意思決定(decentralized decision-making)と規律ある主導性(disciplined initiative)によってのみ、米海兵隊はその機会を生かすために必要なスピードを達成することができるのである[44]

また、米海兵隊の将軍は、戦場で予想外の変動要因に直面した場合、指揮官の意図(commanders’ intent)の範囲内であれば、当初の計画から逸脱する自由があることを部下に明示した[45]。このようなアプローチは、部下が常に指揮官の意図(commanders’ intent)を理解できるよう、明確でオープンなコミュニケーションの必要性を強調するものであった。

指揮官の意図(commanders’ intent)は、非常に明確で、容易に理解でき、価値ある情報を提供するものでなければならない。ジェームズ・マティス(James Mattis)によれば、部下指揮官は「命令の背後にある目的を理解していなければ、つかの間の機会を 捉えることはできない」のである。独立した行動(independent action)を正しく行うには、指揮官と部下の間で、任務と任務の達成を期待する指揮官の意図(commanders’ intent)の両方について、「共通の理解(common understanding)」[筆者強調]が必要である」と述べている[46]

ジェームズ・マティス(James Mattis)の考えでは、「共通の理解(common understanding)」はあらゆるレベルで真に共有されなければならない[47]。「前線にいる伍長が私の意図を伝えられないとしたら、それは私の失敗だ。私が時間をかけて明確にしなかったか、部下が指揮系統(chain of command)の中で効果的に伝えていなかったかのどちらかだ」と彼は書いている[48]

ジェームズ・マティス(James Mattis)の信念は、スタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)米陸軍大将が「複雑な環境に挑むチーム・メンバーは、全員がチームの状況と包括的な目的を把握しなければならない。各自が任務の到達目標とそれに適合する戦略的背景を理解してこそ、チーム・メンバーはその場でリスクを評価し、チームメイトとの関係でどう行動すべきかを知ることができる[49]」と強調したのと同じである。

ジェームズ・マティス(James Mattis)とスタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)の見解は、米陸軍ドクトリン出版物(ADP)6-0に沿ったものであり、指揮官の意図(commanders’ intent)は明確でなければならず、成功とはどのようなものかを説明する包括的な目的を提供するものである[50]。さらに、効果的な指揮官は、意図を明確かつ簡潔に伝えると同時に、すべてのメンバーが共有された理解(shared understanding)を得られるような協力的な環境を醸成している。

現代の戦場でのミッション・コマンド:Mission command on the Contemporary Battlefield

技術と通信の進歩により、指導者達(leaders)はこれまで以上に効果的に部下を指揮・統制することができるようになった。しかし、瞬時の状況把握と通信は、マイクロマネジメントの誘惑を増大させ、ミッション・コマンド哲学(mission command philosophy)を損ねる。新しい技術と作戦のテンポが増すにつれ、指導者達(leaders)は過度に中央集権化し、戦争の低いレベルに属する決心に不当に影響を与えることがある[51]

分権的な意思決定(decentralized decision-making)の強力な提唱者であるスタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)は、その著書『チーム・オブ・チームズ:複雑な世界のための新しいルール(Team of Teams: New Rules of Engagement for a Complex World』の中で、この問題について徹底的に議論している。統合特殊作戦コマンドの指揮官であったとき、スタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)は、この組織が効率の問題で苦しんでいることを認識した。

技術や通信の発達により、下位レベルの指揮官が管理するはずの作戦を、自分も含めた上級の指導者達(high-level leaders)が統制できるようになったのである。スタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)は、「マイクロマネジャーにとって、遠く離れたところから操り人形の糸を引くことができる新しい機会だった」と認めている[52]

下級指揮官は、特定の任務を遂行するために、官僚的な承認プロセスを経ることを余儀なくされた。そのため、意思決定が遅くなり、機械を逃していた。この問題を解決するために、彼は、意思決定の権限を適切かつ最も効果的なレベルにまで委譲する「権限を委譲された実行(empowered execution)」という方針を打ち出した。スタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)は、「権限を委譲された実行(empowered execution)」を採用することで、権力やリーダーシップに対する考え方が一変すると強調した[53]

この主導性(initiative)の一環として、彼はプロセスから完全に身を引くのではなく、可視性を維持し、必要なときにはいつでも自分の意図を明確にすることができるように努めた。この方針を支えるために、スタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)は、「共有された意識(shared consciousness)」と呼ぶ、高いレベルの共有された理解(shared understanding)を提唱するアプローチを採用した[54]

この「共有された意識(shared consciousness)」のコンセプト」によって、部下はすべての情報とインテリジェンスに接し、指揮官の意図(commanders’ intent)を常に把握することができるようになった。スタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)がこれを達成したのは、主に部下との朝のビデオ会議ミーティングであり、その間に部下はインテリジェンスと作戦指針の更新を受けた。

その結果、将軍は日々部下に影響を与え、環境の変化に応じて自分の意図を理解させることができた。また、朝礼は部下同士のコミュニケーションの場となり、部隊間の協力的な取組みを高めることにもつながった。このミーティングによって、スタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)と部下の間に「共有された意識(shared consciousness)」が生まれ、それまで自分のレベルで行っていた決心のほとんどを委ねることができるようになった。その結果は驚くべきものだった。

「権限を委譲された実行(empowered execution)」、「共有された意識(shared consciousness)」の方針の結果、1カ月あたりの襲撃回数を10回から300回へと驚異的に増やすことができた[55]。これらの方針により、スタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)は致死性かつ効率性ある組織を作り上げ、分散型作戦(decentralized operations)が現代の戦場にもたらすプラス効果を実証したのである。

しかし、技術や通信が進歩すればするほど、指揮官はマイクロマネジメントを行い、必要以上に高いレベルで意思決定権限を保持したくなるかもしれない。米陸軍は、すべての指揮官がスタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)のように意思決定を委ねる覚悟と自信を持つことを望むだけではいけない。

米陸軍の文化は、ミッション・コマンドを支援し、指揮官がそれぞれの組織内で意識を共有するプロセスを開発するよう奨励しなければならない。指導者達(leaders)は、状況認識を維持するために、技術と通信の進歩を利用すべきであるが、部下の指揮官を妨げるようなことがあってはならない。また、スタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)の「アイズ・オン・ハンズ・オフ」の考え方を取り入れるべきである。

また、指揮官の意図(commanders’ intent)や組織全体の任務を伝える、明確にする、議論する、言い直すなど、あらゆる機会を利用して、永続的な「共通の理解(common understanding)」を得るようにしなければならない。

ミッション・コマンドの将来:The Future of Mission command

スタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)とジェームズ・マティス(James Mattis)のそれぞれの組織における指揮に対する先見性のあるアプローチと、彼らの知的考察の啓発は、ミッション・コマンドの将来について多くの考えを促している。アンソニー・キング(Anthony King)は、2017年のParametersの記事「Mission command 2.0」で、技術と任務の種類の進歩により、ミッション・コマンドが変化したと論じている。

彼は、「今日のミッション・コマンドは、単なるローカルな個人の主導性(initiative)ではなく、レベルを超えた指揮官間の深く永続的な相互依存関係を含んでいる」と述べている[56]。アンソニー・キング(Anthony King)の見解は、ダニエル・ピンク(Daniel Pink)の「モチベーション3.0」と自律性(autonomy)に関する議論に呼応する。ダニエル・ピンク(Daniel Pink)は、自律性(autonomy)とは、部下が独立して行動することを意味するのではなく、部下が他者と相互依存的に働く方法を選択する力を与える選択の自由を持つべきであると指摘している[57]

アンソニー・キング(Anthony King)は、この議論を裏付けるために、スタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)の「共有された意識のコンセプト(shared consciousness concept)」を参照し、スタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)の全体的な意図に沿うようにしながら、指揮官間の協力的な取組みを促進するものである。また、アンソニー・キング(Anthony King)は、ミッション・コマンドの進化において、ジェームズ・マティス(James Mattis)を例として挙げている。彼は、ジェームズ・マティス(James Mattis)と彼の参謀が、第一海兵師団が戦場で目にする可能性の高い決心点(decision points)を特定する専門知識を身につけたと述べている。

アンソニー・キング(Anthony King)によれば、ジェームズ・マティス(James Mattis)の部下は、決心や2次、3次の効果がすでに具体化されていたため、「個人の主導性(initiative)や本能(instinct)で行動したわけではない」という[58]

アンソニー・キング(Anthony King)の分析は、現代のミッション・コマンドの実践に明晰さをもたらしているが、彼の結論にはある程度、欠陥があるのかもしれない。将来の決心点(decision points)を予測する参謀の能力に対する彼の過信は、戦争が本質的に予測不可能であることを無視している。さらに、彼は「変動性、不確実性、複雑性、曖昧性(VUCA)」が作戦環境に及ぼす影響を認識していない。「変動性、不確実性、複雑性、曖昧性(VUCA)」は定期的に環境の偶然の変化を引き起こし、指導者達(leaders)は事前に計画も予測もできなかったような決断(make decisions)を迫られる。

その結果、アンソニー・キング(Anthony King)は、スタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)の「共有された意識の主導性(shared-consciousness initiative)」を語るには多大な取組みを払っているが、「権限を委譲された実行(empowered execution)」についての議論には深みがない。彼の分析は、アフガニスタンの国際治安支援部隊、統合特殊作戦コマンド、第一海兵師団などの上位コマンドのレンズを通してのみ、ミッション・コマンドを捉えているのである。

フィールド・マニュアル(FM)6-0 は、ミッション・コマンドの焦点は戦術指揮官であることを正しく述べている[59]。このような上位コマンドのレンズを通してミッション・コマンドを分析するだけでは、通信がますます困難になる戦術的レベルでの実施を正確に表現できない場合がある。

2017年10月10日、ドイツ・ホーエンフェルスで行われたスウィフト・レスポンス17演習で、第173空挺旅団に所属する落下傘兵が計画を立てる。スウィフト・レスポンスは、同盟空挺部隊が相互運用可能な多国籍チームとして危機的状況に迅速かつ効果的に対応する能力に焦点を当てた、米陸軍ヨーロッパ主導の年次演習。(写真:アレクサンダー・C・ヘニンガー(Alexander C Henninger)米陸軍二等軍曹)。

また、アンソニー・キング(Anthony King)の主張は、イラク戦争とアフガン戦争にのみ言及するものである。マルチドメイン環境で大規模な戦闘作戦を行う米陸軍が直面する厳しい現実を認識していない。将来の戦場では、米陸軍は分散した方式で作戦しなければならず、また、敵対的な行動により、通信が遮断されたり、妥協されたりするような劣化した環境で作戦せざるを得ないことを、指導者達(leaders)は認識しなければならない[60]

このことは、分権的な意思決定(decentralized decision-making)を促進する真のミッション・コマンド哲学(mission command philosophy)を導入する必要性を強調している。意思決定の権限が高すぎると、作戦に大きな支障をきたし、意思決定プロセスも遅くなる。戦後のこの時期に、米陸軍は自己満足に浸っている余裕はない。イラク戦争やアフガニスタン戦争でもたらされた高度な技術や通信の利便性に依存することはできず、潜在的な対等者同士の紛争(peer-on-peer conflict)の発生時には、環境が大きく変化することになるからである。

結論:Conclusion

米陸軍とミッション・コマンドの全面的な採用の間に立ちはだかる最大の障害は、米陸軍自身の文化である。ドナルド・ヴァンダグリフ(Donald Vandergriff)は、「米陸軍が制度上の文化の欠点を現実的に認識するまでは、ミッション・コマンドを受け入れ、実践することは決してできないだろう」と説明している[61]

米陸軍が現代の戦場で成功を収めることを望むなら、あらゆるレベルのマイクロマネジメントをやめ、戦場のあらゆるレベルで非効率的なリーダーシップを排除しなければならない。この解決策の一環として、米陸軍は、過度の中央集権的指揮の危険性を伝え、指導者達(leaders)の間に変革への緊急性を喚起する必要がある。さらに、ミッション・コマンド哲学(mission command philosophy)を育む将校を登用しなければならない。

あらゆるレベルの指導者達(leaders)は、このような哲学は、任務を遂行するだけでなく、将来の紛争を理解し計画することができる創造的で先見性のある指導者達(leaders)を育成し、組織をより効果的にする可能性があることを認めている。しかし、米陸軍は、意図せずとも、あるいは無意識のうちに、ミッション・コマンドの実用化に対して抵抗感を抱いたままである。マイクロマネジメント、リスク回避、そして、上下・左右の信頼を十分に促進できない文化が、依然として障害となっているのである。

ミッション・コマンドを効果的に導入するためには、ジェームズ・マティス(James Mattis)やスタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)のような先見性のある指導者達(leaders)が開発した、「共通の理解(common understanding)」、「共有された意識(shared consciousness)」、「権限を委譲された実行(empowered execution)」といった重要なコンセプトを取り入れるべきである。これによって、米陸軍が戦闘中に必要とする適応力のある指導者達(leaders)を育成すると同時に、平時の革新性(peacetime innovation)を培うために必要な思想の自由(freedom of thought)を生み出すことができるのである。

組織の全構成員が、自分たちを従属的な実行者としてだけでなく、さまざまな役割を果たすチームの一員であると考える強力な組織文化を創造するためには、「共通の理解(common understanding)」と「共有された意識(shared consciousness)」が鍵となる。「共通の理解(common understanding)」は、強い信頼文化を確立し、維持するために重要である。この文化によって、部隊のすべてのメンバーは、自分たちが任務を所有していると感じるだけでなく、その任務の達成のために重要であるという共有されたオーナーシップの感覚を促進する。

ジェームズ・マティス(James Mattis)とスタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)は、「共通の理解(common understanding)」と「共有された意識(shared consciousness)」がいかに重要であるかを明確にした。彼らは、チームの価値、指揮官の意図(commanders’ intent)とその伝達が果たす重要な役割、そして、あらゆるレベルでの情報共有の重要性を強調した。

エドガー・シャイン(Edgar Schein)の「文化の島(cultural island)」のコンセプトは、ジェームズ・マティス(James Mattis)やスタンレー・マクリスタル(Stanley McChrystal)の哲学に沿った率直な対話とコラボレーションを実現するための実践的なアプローチを指導者達(leaders)に提供する。「文化の島(cultural island)」は、あらゆるレベルの指導者達(leaders)にとって、信頼文化を確立し、部下の指導者達(subordinate leaders)と親しくなる機会である。そして、指揮官の意図(commanders’ intent)を非公式に理解する場となるのである。

チーム内の「共通の理解(common understanding)」や「共有された意識(shared consciousness)」は、さまざまな場で展開されるが、エドガー・シャイン(Edgar Schein)の考えでは、「共有された学習の成果である」組織文化の創造には、「文化の島(cultural island)」が重要な役割を果たすとされている[62]。エドガー・シャイン(Edgar Schein)は、組織が共有された学習(shared learning)を受け入れるとき、グループのアイデンティティと結束力(cohesion)が、「グループにとって我々は誰であり、我々の目的や存在理由は何か」を定義する強い役割を果たすと強調した[63]

共有された学習(shared learning)と効果的なコラボレーションを重視する組織にとって、「共通の理解(common understanding)」と「共有された意識(shared consciousness)」は非常に重要である。しかし、指揮官が「文化の島(cultural island)」のようなアプローチを用いて、部下が非難されることを恐れないようなコラボレーションや対話を促進することによってのみ、理解は達成される。

信頼の文化と、「共通の理解(common understanding)」と「共有された意識(shared consciousness)」がアイデンティティとなる組織を手に入れた指導者達(leaders)は、決心が最も効果的に行われるレベルに権限を委譲する、真に分権的な意思決定プロセス(decentralized decision-making process)を採用することの価値を理解するはずである。「権限を委譲された実行(empowered execution)」は、リスク回避を抑制しつつ、マイクロマネジメントを最小化または排除するミッション・コマンドを強力に採用するための次のステップである。

さらに、このアプローチは、指導者達(leaders)が外発的動機づけの使いすぎに抵抗し、部下にもっと自律性(autonomy)を与えるのに役立つ。ジェームズ・マティス(James Mattis)は、「私の若い連中は、いつも私を窮地から救ってくれたが、それは彼らがその権限を持っていたからだ…。だから、あなたがほとんど不快に思うほど委任しなさい…。決心を下す(make decisions)の権限をどんどん下のレベルに押し付けていけば、そのうちに報われるだろうう。最終的には4つ星の将軍にさえなれるだろう[64]」と強調した。

指導者達(leaders)は、「権限を委譲された実行(empowered execution)」が自分と組織に大きな利益をもたらすことを理解し、マイクロマネジメントの誘惑に負けることなく、リスクに対する許容度を高めていく必要がある。指導者達(leaders)がマイクロマネジメントの誘惑に負けてしまいそうな「不快(uncomfortable)」な瞬間だが、「共通の理解(common understanding)」と「共有された意識(shared consciousness)」に基づく強い信頼文化を持つ組織であれば、その衝動に耐えることができる。

著者について:About Authors

ジャスティン・T・デレオン(Justin T. DeLeon)米陸軍少佐は、ハワイのスコフィールドバラックスにある第25歩兵師団のG-35計画担当者である。ミシガン州立大学で経営・戦略・リーダーシップの理学修士、米海兵隊大学で軍事学修士、高等軍事研究大学院で芸術・軍事作戦学修士を取得した。第1騎兵師団でインテリジェンス将校、米陸軍士官候補生コマンドで軍事教官、第172分隊歩兵旅団でライフル小隊長を務めた経験がある。ドイツ、韓国、アフガニスタンにて海外勤務を経験。

パオロ・G・トリポディ博士(Paolo G. Tripod)は、米海兵隊大学ルジューン・リーダーシップ研究所の倫理・リーダーシップ教授および倫理部部長である。論文や本の章を多数執筆しており、「戦争における海兵隊員:アフガニスタンとイラクの物語(Marines at War: Stories from Afghanistan and Iraq)」「リーダーシップの側面(Aspects of Leadership)」の共同編集者でもある。倫理、法律、精神性 歩兵将校として訓練を受け、イタリアのカラビニエーリに所属。

ノート

[1] 【訳者註】『VUCAとは何か。VUCA時代を生き抜く企業に必要なこと』(https://www.i-learning.jp/topics/column/business/vuca-era.html

[2] Kirk Lawrence, Developing Leaders in a VUCA Environment (Chapel Hill, NC: UNC Kenan-Flagler Business School, 2013), 2, accessed 2 June 2022, https://www.cfmt.it/sites/default/files/af/materiali/Developing-leaders-in-a-vuca-environment.pdf.

[3] Army Doctrine Publication (ADP) 6-0, Mission command: Command and Control of Army Forces (Washington, DC: U.S. Government Publishing Office [GPO], 2019), 1-7.

[4] Niko Canner and Ethan Bernstein, “Why Is Micromanagement So Infectious?,” Harvard Business Review, 17 August 2016, 2.

[5] Ibid., 3.

[6] Raymond A. Noe, Employee Training & Development, 8th ed. (New York: McGraw-Hill Education, 2020), 418.

[7] Ibid.

[8] Daniel Pink, Drive: The Surprising Truth About What Motivates Us (New York: Riverhead Books, 2009), 75.

[9] Ibid., 75, 87.

[10] Ibid., 54.

[11] Ibid., 49.

[12] Ibid., 105.

[13] Ibid.

[14] Ibid., 89.

[15] Edward Deci and Richard Ryan, “Facilitating Optimal Motivation and Psychological Well Being Across Life’s Domains,” Canadian Psychology 49, no. 1 (2008): 17.

[16] Anthony King, “Mission command 2.0: From an Individualist to a Collectivist Model,” Parameters 47, no. 1 (Spring 2017): 15.

[17] Edgar H. Schein with Peter Schein, Organization Culture and Leadership, 5th ed. (New Jersey: John Wiley & Sons, 2017), 28.

[18] Ibid.

[19] Ibid., 120.

[20] ADP 6-0, Mission command, 1-8.

[21] Charles E. Heller and William A. Stofft, America’s First Battles (Lawrence: University Press of Kansas, 1986), 330.

[22] Donald Vandergriff, Adopting Mission command (Annapolis, MD: Naval Institute Press 2019), 49.

[23] Ibid., 50.

[24] Ibid., 49.

[25] Donald Vandergriff, “The U.S. Army Culture is French,” in Mission command: The Who, What, Where, When, and Why, ed. Donald Vandergriff and Stephen Webber (self-pub., CreateSpace, 2017), 116.

[26] ADP 3-0, Operations (Washington, DC: U.S. GPO, 2019), 1.

[27] Thomas Rebuck, “Mission command and Mental Block: Why the Army Won’t Adapt a True Mission command Philosophy,” in Vandergriff and Webber, Mission command, 88.

[28] Ibid., 93.

[29] Joe Labarbera, “The Sinews of Leadership: Mission command Requires a Culture of Cohesion” in Vandergriff and Webber, Mission command, 4.

[30] Ibid., 13.

[31] James N. Mattis and Francis J. West, Call Sign Chaos: Learning to Lead (New York: Random House, 2019), 45.

[32] Ben Summer, “Slow, Inflexible, and Micromanaged: The Problems of a Military that Overstates Risk,” Modern War Institute at West Point, 9 May 2017, accessed 2 June 2022, https://mwi.usma.edu/slow-inflexible-micromanaged-problems-military-overstates-risk/.

[33] ADP 6-0, Mission command, 1-10.

[34] Summer, “Slow, Inflexible, and Micromanaged.”

[35] Peter Mansoor and Williamson Murray, eds., The Culture of Military Organizations (New York: Cambridge University Press, 2019), 3.

[36] Schein, Organization Culture and Leadership, 6.

[37] Ibid., 194–95.

[38] William Oncken Jr. and Donald Wass, “Management Time: Who’s Got the Monkey?,” Harvard Business Review (website) (November-December 1999), accessed 28 September 2020, https://hbr.org/1999/11/management-time-whos-got-the-monkey.

[39] Graham Scarbro, “’Go Straight at ‘Em!’: Training and Operating with Mission command,” Proceedings 145, no 5. (May 2019), accessed 2 June 2022, https://www.usni.org/magazines/proceedings/2019/may/go-straight-em-training-and-operating-mission-command.

[40] Williamson Murray, “Armored Warfare: The British, French and German Experiences,” in Military Innovation in the Interwar Period (New York: Cambridge University Press, 1996), 47.

[41] Ibid., 48.

[42] Ibid., 31–32.

[43] Ibid., 32, 34.

[44] Michael L. Valenti, The Mattis Way of War: An Examination of Operation Art in Task Force 58 and 1st Marine Division (Leavenworth, KS: United States Army Command and General Staff College Press, 2014), 43–44.

[45] Ibid.

[46] Mattis and West, Call Sign Chaos, 45.

[47] ADP 6-0, Mission command, 1-8. The term “common understanding” is referred to as “shared understanding” in ADP 6-0.

[48] Mattis and West, Call Sign Chaos, 44–45.

[49] Stanley McChrystal et al., Team of Teams: New Rules of Engagement for a Complex World (New York: Penguin, 2015), 99.

[50] ADP 6-0, Mission command, 1-10.

[51] Rosario Simonetti and Paolo Tripodi, “Automation of the Future of Command and Control: The End of Auftragstaktik?,” Journal of Advanced Military Studies 11, no. 1 (Spring 2020): 127.

[52] McChrystal et al., Team of Teams, 218.

[53] Ibid.,198.

[54] Ibid., 20.

[55] Ibid., 218.

[56] King, “Mission command 2.0,” 8.

[57] Pink, Drive, 88.

[58] King, “Mission command 2.0,” 20.

[59] ADP 6-0, Mission command, viii.

[60] U.S. Army Training and Doctrine Command (TRADOC) Pamphlet 525-3-1, The US Army in Multi-Domain Operations (Fort Eustis, VA: TRADOC, 2019), 20.

[61] Vandergriff, “The U.S. Army Culture is French,” 103.

[62] Schein, Organization Culture and Leadership, 6.

[63] Ibid.

[64] Charlie Dunlap, “A Conversation with General Jim Mattis about Leadership … and Much More!,” Lawfire, 14 March 2021, accessed 2 June 2022, https://sites.duke.edu/lawfire/2021/03/14/a-conversation-with-general-jim-mattis-about-leadership-and-much-more/.