米海兵隊の「遠征前進基地作戦(EABO)に関する暫定マニュアル」付録A(抜粋)
2021年2月に公表されている「遠征前進基地作戦に関する暫定マニュアル」について、「序文」および「第1章 はじめに」、「第2章 作戦上の思考態度」、「第3章 計画策定と組織へのアプローチ」、「第4章 インテリジェンス作戦」、「第5章 情報環境での作戦」、「第6章 航空作戦」、「第7章 後方支援と沿岸部の機動」、「第8章 沿岸部の作戦」と章ごとに紹介してきた。
ここでは、「遠征前進基地作戦に関する暫定マニュアル」の付録のうち「付録A:将来の戦力デザインと考慮事項」について、一部を除き紹介するものである。2030年の海兵沿岸連隊(MLR)の部隊編成イメージを理解する上での参考になれば幸いである。(軍治)
付録A:将来の戦力デザインと考慮事項:APPENDIX A:Future Force Design and Considerations
A.1 2030年の海兵沿岸連隊(MLR):2030 MARINE LITTORAL REGIMENT(MLR)
A.1.1 沿岸戦闘チーム(LCT):Littoral Combat Team(LCT)
A.1.2 沿岸兵站大隊(LLB):Littoral Logistics Battalion(LLB)
A.1.3 沿岸対空大隊(LAAB):Littoral Antiair Battalion(LAAB)
A.2 2030年の海兵遠征隊(MEU):2030 MARINE EXPEDITIONARY UNIT(MEU)
A.3 2030年歩兵大隊:2030 INFANTRY BATTALION:
A.4 2030年の海兵隊の火力部隊:2030 MARINE FIRES
付録A:将来の戦力デザインと考慮事項:APPENDIX A:Future Force Design and Considerations
A.1 2030年の海兵沿岸連隊(MLR):2030 MARINE LITTORAL REGIMENT(MLR)
2030年の海兵沿岸連隊(MLR)は、争われた海洋環境下で機動し、持続し、海軍遠征部隊の一部として海上拒否作戦(sea- denial operations)を展開し、艦隊の作戦を可能にする。そのためのデザインが必要である。
- 監視・偵察の実施
- 情報環境における作戦(OIE)の実施
- 遮蔽(screen)/警備(guard)/掩護(cover)の実施
- 海上の緊要地形(key maritime terrain)の拒否と統制
- 水上戦作戦の実施
- 航空ミサイル防御の実施
- 打撃作戦の実施
- 後方支援作戦の実行
- 前方武装・給油地点(FARP)作戦の実施
海兵沿岸連隊(MLR)は、火力(致死性および非致死性)を有する本部、沿岸戦闘チーム(LCT)、沿岸兵站大隊(LLB)、沿岸対空大隊(LAAB)で構成される。
図 A-1.2030年の海兵沿岸連隊(MLA)の組織 |
A.1.1 沿岸戦闘チーム(LCT):Littoral Combat Team(LCT)
沿岸戦闘チーム(LCT)は、海上拒否(sea denial)による艦隊の作戦を可能にするために、持続的な作戦を行う分散型の各遠征前進基地(EABs)を指揮・統制することができるタスク編成の海上沿岸部隊として運用される。
図A-2. 沿岸戦闘チーム(LCT)の編成 |
提案されたチームから大隊までの2030年の歩兵編成(2030 infantry formations)は、歩兵の中核的な任務遂行不可欠タスク(MET)を介して、さまざまな任務を支援する歩兵部隊(infantry units)を生み出すことになる。これらの編成は、大隊上陸チーム(Battalion Landing Team :BLT)や沿岸戦闘チーム(LCT)の中核部隊となる一方、従来の大規模戦闘作戦のために中核的な任務遂行不可欠タスク(MET)に熟達した歩兵大隊(infantry battalions)を維持する。
沿岸戦闘チーム(LCT)は、歩兵大隊を基礎に、火力要素(fires elements)を付加して編成される。沿岸戦闘チーム(LCT)は、海兵沿岸連隊(MLR)指揮官が沿岸戦闘チーム(LCT)本部の指揮・統制(C2)の下で、火力遠征前進基地(fires EAB)、前方武装・給油地点の遠征前進基地(FARP EAB)、またはこれらの組み合わせを含む複数の遠征前進基地(EAB)で作戦できるよう、タスク編成される。
A.1.2 沿岸兵站大隊(LLB):Littoral Logistics Battalion(LLB)
沿岸兵站大隊(LLB)は、遠征前進基地(EAB)を支援し、貯蔵所(cache sites)を管理し、作戦レベルの兵站に接続することで、有機的能力を超えて海兵沿岸連隊(MLR)に戦術的兵站支援を提供する。沿岸兵站大隊(LLB)の決定的な兵站能力は、有機的および契約的なトラックと有人/無人システムの組み合わせによる配給となる。また、購買権限の拡大、補給品の配給、現場レベルの整備、限定的な役割IIの医療支援も不可欠な能力である。
図A-3.沿岸兵站大隊(LLB)の編成 |
A.1.3 沿岸対空大隊(LAAB):Littoral Antiair Battalion (LAAB)
沿岸対空大隊(LAAB)は海兵航空団(Marine air wing)を母体とし、海兵航空団支援飛行隊(Marine wing support squadron)、海兵航空団通信飛行隊(Marine wing communications squadron)、海兵航空支援飛行隊(Marine air support squadron)、海兵航空統制飛行隊(Marine air control squadron)、地上航空防衛隊(ground-based air defense)の要素を含む複合大隊となる。
図A-4. 沿岸対空大隊(LAAB)の組織 |
A.2 2030年の海兵遠征隊(MEU):2030 MARINE EXPEDITIONARY UNIT(MEU)
2030年の海兵遠征隊(MEU)は、海上と遠征前進基地の両方から活動する前方展開型の全ドメイン海兵空地タスク部隊(MAGTF)を艦隊に提供することになる。この部隊は、海上拒否(sea denial)を可能にし、水陸両用作戦(amphibious operations)、危機対応作戦(crisis-response operations)、指定特殊作戦(designated special operations)を実施し、複数の各戦闘軍指揮官(combatant commanders)の要求を支援することができる。海兵遠征隊(MEU)は、以下を行うようにデザインされなければならない。
- 海上阻止作戦(MIO)の実施
- 秘密性の高い場所の探索活用(sensitive site exploitation)[1]の実施
- インテリジェンス作戦を計画し指示する
- 機動の計画(scheme of maneuver)と火力支援を一体化する
- 戦闘空間形成(battlespace- shaping)作戦の実行
- 情報環境における作戦(OIE)の実施
- 兵站作戦の計画と指示
- 避難支援の実施
- 統合、機関間、政府内、多国籍(JIIM)組織との一体化と作戦
- 全ドメイン部隊の指揮・統制(C2)の演習
- 海上作戦の計画と指示
2030年の海兵遠征隊(MEU)では、指揮の要素だけが固定された要素になる。
図A-5.2030年の海兵遠征隊の指揮要素(MEU CE)の組織 |
2030年の海兵遠征隊(MEU)は、水陸両用船、代替プラットフォーム、陸上基地を組み合わせて作戦することになる。3隻の艦船を持つ水陸両用即応群(ARG)だけに縛られることはない。しかし、上陸ヘリコプタ強襲揚陸艦(LHA/D)、上陸プラットフォームドック(LPD)、LPDフライトIIの水陸両用船と陸上基地の組み合わせは、最大数の任務遂行不可欠タスク(METs)を達成する最適な構成であり続け、2030年の水陸両用即応群(ARG)/海兵遠征隊(MEU)の基本水準を示すことになる。
各海兵遠征隊(MEU)の乗船面積は、水陸両用船、代替プラットフォーム、および陸上基地の特定の組み合わせによって異なる。海兵遠征隊(MEU)指揮官は、海兵師団(MARDIV)、海兵航空団(Marine aircraft wing :MAW)、および海兵兵站群(MLG)の司令官から情報を得たMEF司令官の指導の下に、具体的な乗船を決定することになる。
2030年の海兵遠征隊(MEU)は動的な本質を持っているが、その基本要素は以下のようなものである。
図A-6.2030年の海兵遠征隊の地上戦闘要素(MEU GCE) の組織 |
図A-7.2030年の海兵遠征隊の航空戦闘要素(MEU ACE) の組織 |
図A-8. 2030年海兵遠征隊の兵站戦闘要素(MEU LCE)の組織 |
A.3 2030年歩兵大隊:2030 INFANTRY BATTALION
2030年の海兵隊歩兵大隊は、将来の永続的な前方展開が可能な海軍遠征部隊の不可欠な構成要素である統合および海軍の複合武器編制に貢献することになる。コンタクト層での作戦に最適化されたこれらの歩兵部隊は、艦隊指揮官や海上構成部隊指揮官(maritime component commander)のために、しばしば特殊作戦部隊(SOF)パートナーと連携して、あるいはパートナーの支援を受けて、重要な任務のタスク(mission-critical tasks)を遂行することになる。
歩兵大隊は、その任務を遂行するために、分隊レベルから、弾力性のあるネットワーク通信と、人工知能によって実現される徘徊弾薬(loitering munitions)を含む精密火力能力を有機的に装備する必要がある。このような部隊は、軽量で移動性があり、分散型作戦が可能でなければならない。また、あらゆる種類の海軍艦艇や補助艦艇に乗船できなければならない。
また、海兵隊は、海軍と統合海上統制とアクセス保証の任務を支援するために、感知、合図、射撃が可能な有機的なシステムで武装しなければならない。このビジョンを達成するためには、成熟した有能な、高度な訓練と教育を受けた海兵隊員が、最新鋭の武器と装備を装備することが不可欠である。
歩兵大隊は、海兵沿岸連隊(MLR)の沿岸戦闘チーム(LCT)または海兵遠征隊(MEU)の大隊上陸チーム(BLT)として、ローテーションで配備される。西太平洋へのローテーション配備は、同盟国やパートナーを支援し、侵略を抑止し、攻撃された場合は戦って勝利するために、永続的な前方プレゼンスを維持するものである。また、歩兵連隊や特殊目的の海兵空地タスク部隊(special purpose MAGTF)の一部として、危機に対応して展開する。2030年の歩兵大隊の中核的な任務には、次のようなものがある。
- 遠征作戦の実施
- 攻勢作戦の実施
- 防勢作戦の実施
図A-9.2030年歩兵大隊の編成 |
図A-10.2030年歩兵中隊の編成 |
A.4 2030年の海兵隊の火力部隊:2030 MARINE FIRES
2030年の海兵隊の火力部隊は、海軍遠征部隊の一部として活動し、海上拒否(sea denial)と海上統制(sea control)の確保を支援し可能にするための火力を提供する。これは、艦隊の作戦を促進し、海上の緊要地形(key maritime terrain)を統制するために行われる。
図A-11.第3海兵師団内の2030年火力部隊の編成 |
図A-12.第1海兵師団内の2030年火力部隊の編成 |
図A-13. 第2海兵師団内の2030年火力部隊の編成 |
ノート
[1] 【訳者註】秘密性の高い場所の探索活用(sensitive site exploitation):作戦行動中に発見された情報、人員、物資を認識し、収集、処理、保存、分析するための一連の活動。(引用:https://mca-marines.org/wp-content/uploads/35-Why-Site-Exploitation.pdf)