ウクライナから将来の軍隊への教訓(第14章)(The Army War College)

MILTERMで、既に紹介しているウクライナから将来の軍隊への教訓(序章から第1章まで)(第2章から第3章まで)(第4章)(第5章)(第6章)(第7章)(第8章)(第9章)(第10章)(第11章)(第12章)(第13章)に続き、第14章を紹介する。この章は、ロシア・ウクライナ戦争を米陸軍の作戦コンセプトであるマルチドメイン作戦の視点から分析した内容である。米陸軍が久しく経験してこなかった大規模な戦闘作戦に関してロシア・ウクライナ戦争は多くの示唆を得られる場でもある。2014年のクリミア併合を成し遂げた際のロシア軍の大隊戦術グループが、今回の戦争で効果を発揮できなかった事などを挙げ、諸兵科連合を前提とするマルチドメイン作戦への教訓を説いている。(軍治)

行動喚起:ウクライナから将来の軍隊への教訓

Call to Action: Lessons from Ukraine for the Future Force

まえがき

序章:ウクライナから将来の軍隊への教訓

エグゼクティブ・サマリー

第1章 ウクライナの歴史と展望

第2章 1991年から現在までの米国とウクライナの安全保障協力:さまざまな記録

第3章 ウクライナの場合:復元性による抑止

第4章 2022年のロシア・ウクライナ戦争における作戦術

第5章 インテリジェンス

第6章 火力

第7章 ミッション・コマンド

第8章 効果的な戦闘リーダーシップの維持

第9章 後方支援:兵站

第10章 大国間競争の時代における戦略的人的予備役

第11章 ロシア・ウクライナ戦争の機動についての教訓

第12章 防護:電子、航空、民間人、インフラ

第13章 ロシア・ウクライナ戦争での軍事医療適応

第14章  マルチドメイン作戦にとってのロシア・ウクライナ戦争の教訓:Russia-Ukraine War Lessons for Multidomain Operations

Steven L. Chadwick

キーワード:ロシア・ウクライナ戦争、マルチドメイン作戦、収束(convergence)、諸兵科連合(combined arms)、再構成

2008年の南オセチア紛争での不振を受け、ロシア軍は現代戦(modern warfare)の課題に立ち向かうため、軍隊の近代化と専門化を図る画期的な改革に着手した。ロシア軍の変貌と2013年から14年にかけてのウクライナ危機での意外な成功を考えると、2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻した際、ほとんどの分析官はロシア軍の急速な勝利を予測していた。しかし、ロシア軍は軍隊の近代化を図ったにもかかわらず、ウクライナで成功を収めることができず、紛争は消耗の戦争(war of attrition)に発展している。

ロシア・ウクライナ戦争は、マルチドメイン作戦(MDO)という新しいドクトリン上のコンセプトと、それを支える米陸軍の近代化の取組みを再評価する機会を米陸軍に与えている。1973年のヨム・キプール戦争後の変曲点(inflection point)と同様に、米陸軍はロシアとウクライナの作戦を研究し、ロシアとウクライナの競合するドクトリンを戦闘に適応させることで、マルチドメイン作戦(MDO)のドクトリンを検証する機会を得ている。

この評価は、ロシアのドクトリンと戦力デザインの見直しから始まり、それらがウクライナでの大規模戦闘作戦(LSCO)に備えてロシア軍をどのように準備するのに失敗したかを検討する。さらに本章では、2022年2月のウクライナ侵攻の初期段階におけるロシアのドクトリン適用と、ロシアの取組みが作戦的・戦術的成果を生み出せなかった理由を分析する。そして本章では、大規模戦闘作戦(LSCO)の現実に適応するためのロシアの課題と、ロシア軍がいかに消耗(attrition)への備えがなかったかを検討する。最後に、この評価は、ロシア・ウクライナ戦争がマルチドメイン作戦(MDO)に与えた教訓と、米陸軍の新しい作戦コンセプトの実施への示唆で締めくくられる。

マルチドメイン作戦の定義

米陸軍のフィールド・マニュアル(FM)3-0「作戦(Operations」で定義されているように、マルチドメイン作戦(MDO)とは「目標を達成し、敵部隊を撃破し、統合部隊指揮官に代わって利益を統合(consolidate gains)するために、相対的な優位性を作り出し、それを利用するための統合軍と米陸軍の能力の諸兵科連合の運用(combined arms employment)」である。統合能力(joint capabilities)は、最小限の死傷者と損失で任務を達成するために、ドメインを横断して戦闘力を使用する。大規模戦闘作戦(LSCO)のレベルでは、マルチドメイン作戦(MDO)は「陸軍部隊がどのように敵と接近し、敵を破壊し、敵の編成を撃破し、重要な地形を占領し、持続可能な政治的成果をもたらすために人口と資源を管理するか」である[1]

ロシアの戦争の方法

ロシアが2022年2月24日にウクライナに侵攻したとき、ほとんどの分析官は、ロシア軍が軍事物資と技術で大きく上回っているため、ウクライナ軍を簡単に打ち負かすだろうと考えていた。しかし、1年以上にわたる紛争を経て、ロシア軍は非常に意欲的なウクライナ軍に対して不利な戦いを強いられている。多くの分析官がロシア軍の劣勢を説明しようとしているが、その多くはロシアの失敗の原因を士気の低下、ロシア軍の即応性に関する誇張、リーダーシップの欠如、野心的すぎる作戦計画に求めている。ウクライナにおけるロシアの無力さのもう一つのあまり議論されていない理由は、ロシア軍が機能的にもドクトリン的にも闘うようにデザインされていなかった戦争に乗り出したことだ。最近の記事で、マックス・ブート(Max Boot)は、運用上厳格なロシア軍にとってのドクトリンの重要性について、「ロシア人は『教科書通りに』戦う。問題は、彼らが間違った教科書を使っていることだ」と述べている[2]。ロシア軍はウクライナの大規模戦闘作戦(LSCO)の現実への適応が遅れ、訓練された人員と物資の大幅な損失を経験している。

ドクトリンは、軍隊がどのように作戦を遂行するかについてのコンセプト上の基礎を提供するものである。その結果、ドクトリンは、軍隊が戦争に備えてどのように軍隊を訓練し、装備するかを大きく左右する。ドクトリンの定式化において、軍事思想家は将来の作戦環境を予測し、作戦を導くためのコンセプトを開発しようとする。ウクライナで観察されたように、軍隊がそのドクトリンにおいて、どのような作戦が実行されるかを予測しなかった場合、その結果は、採用された軍隊にとって悲惨なものとなりうる。現在のロシアのドクトリン上の戦略は「積極的防衛(active defense)」と呼ばれるもので、ロシアの戦略的目標とは根本的にずれており、ロシア軍がウクライナに大規模な地上侵攻を行うための準備もできていない。

ロシアのドクトリンは大規模戦闘作戦、積極的防衛、ハイブリッド戦のために構築されていない

2014年に発表された『ロシア連邦の軍事ドクトリン(Military Doctrine of the Russian Federation』において、ロシアはドクトリンを「国の安全を確保するための軍事政治的、軍事戦略的、軍事経済的基盤である。これは、潜在的な戦争の到達目標や性質、戦争の準備の仕方、戦争の防ぎ方などについて、公式に認められた見解や立場の体系を表している」と定義している[3]。ロシアの最新のドクトリン上の戦略は「積極的防衛(active defense)」であり、ロシアがどのように戦争を抑止するか、また、NATOや米国のような技術や総合的な軍事力で勝る敵と戦う場合の一般的な用兵の信条(warfighting tenets)について概説している。ロシア軍参謀総長のヴァレリー・ゲラシモフ(Valery Gerasimov)は、2019年のロシア軍事科学アカデミーの講演で、「積極的防衛(active defense)」を「国家の安全保障に対する脅威を先制的に無力化する」戦略と説明した。ゲラシモフ(Gerasimov)は、この戦略の信条を「奇襲性、決断力、戦略行動の継続性の達成」と説明した[4]

「積極的防衛(active defense)」は、紛争前の「脅威の時期」あるいは軍事的危機における予測行動の議論から始まる。予期行動には、ロシアが危機が潜在的な軍事衝突に向かいつつあると認識した場合に、抑止力として意図されるノン・キネティックな行動とキネティックな行動の両方が含まれる。ノン・キネティックな行動には、動員演習、軍事訓練演習、兵器試験などの軍事即応態勢のデモンストレーションが含まれる。キネティックな行動の例としては、ロシアに対する脅威を無力化するために、相手が戦闘力を結集するのを防ぐための限定的な精密攻撃がある。「積極的防衛(active defense)」で概説した抑止効果を達成するために、ロシアは部隊に高い即応性と展開可能性を維持させる必要がある[5]。積極的防衛ドクトリンはまた、一般に「新世代戦(new-generation warfare)」あるいは「ハイブリッド戦(hybrid warfare)」として知られる非軍事手段の支配的な役割と統合(一体化)を考慮する。

「新世代(new-generation)」とは、現代の戦争の性質の変化と、戦略的到達目標を達成するための非軍事的手段の優位性に関するロシアのコンセプトを表している。ゲラシモフ(Gerasimov)は、2013年の演説とその後発表された「科学の価値は先見の明にある」と題された記事の中で、「政治的・戦略的目標を達成するための非軍事的手段の役割は大きくなり、多くの場合、その有効性において兵器の威力を上回るようになった」と述べている[6]。ロシアにとって、新世代戦(new-generation warfare)で説明される非軍事的手段は、戦略的目標を達成するために政治的、経済的、情報的手段を軍事力と統合(一体化)する戦い(warfare)への全体的、政府全体のアプローチである[7]

ロシアのハイブリッド戦に関する戦争研究所の2020年の報告書は、ハイブリッド戦(hybrid warfare)における情報の優位性と、従来型の軍事部隊の使用を含むすべての行動が情報戦役(information campaign)に従属することを強調した。ロシアの理論家は、キネティックな作戦の前に情報の支配性が不可欠であり、伝統的な軍事行動はハイブリッド戦争における敵対者の最終的な敗北に重点を置くと主張する[8]。ハイブリッド戦争で概説された政府全体のアプローチに必要な行動の同期化を達成するために、ロシア連邦国防省は、シリアとウクライナでのハイブリッド戦争から学んだ教訓に基づき、ロシアが意思決定を一元化する必要があると判断した。防衛省は2014年、シリアとウクライナのハイブリッド戦争を統制するため、国家防衛統制センターを設立した[9]。しかし、モスクワで意思決定を一元化するという決定と、ロシアが2022年のウクライナ侵攻のために現地総指揮官を任命しないという最初の決定は、侵攻計画が頓挫し始めると、作戦・戦術上の意思決定に大きな支障をきたした。

戦時における「積極的防衛(active defense)」の基本コンセプトは、相手の作戦的・戦略的縦深全体にわたる絶え間ない反撃を伴う機動防衛(maneuver defense)である。「積極的防衛(active defense)」は、機動防衛(maneuver defense)を実行しながら、長距離火力を使って相手の重要な作戦能力を低下させようとするものである。機動防御の間、ロシア軍は決定的な交戦を避け、砲兵が攻撃してくる敵を消耗させる間、空間と時間を交換する[10]。機動防衛は、第一次世界大戦や第二次世界大戦のような陣地防衛や戦力が集中する戦線を想定していないが、これまでのロシア・ウクライナ戦争で見られた陣地防衛の多さを考えると興味深い。興味深いことに、「積極的防衛(active defense)」もまた、精密火力(precision fire)と集中火力(massed fire)の両方を駆使する長距離兵器の普及と、敵の側面が露出した状態での反撃のために、地形の掌握は現代戦にはあまり関係がないと考えている。

ロシアは数的不利の中で戦うことを想定していることを考えると、「積極的防衛(active defense)」の目標は、戦闘力を維持しつつ、紛争の初期段階で決定的な結果を得ることである。さらに、「積極的防衛戦略(active-defense strategy)」では、近代兵器の射程距離のために従来の作戦境界線はもはや意味をなさないという考えから、ロシア軍が攻撃的陸上作戦を使って敵対者の領土に侵入することは想定していない[11]。さらに、2003年のイラク戦争の初期通常段階、2008年のロシアのグルジア侵攻、2014年の前者のクリミアの急速な占領に関するロシアの観察に基づき、「積極的防衛(active defense)」は現代の戦争がより短くなることを想定している[12]。ロシアのウクライナ侵攻は、複数の進攻軸を持つものであり、「積極的防衛(active defense)」で明示された戦時行動に関するドクトリン上の記述から大きく逸脱したものであった。

ロシアの戦力デザイン:間違った戦争のためにデザインされた

長距離砲撃と非軍事的手段によって支配される短期間の防衛戦争という「積極的防衛(active defense)」の欠陥が、大規模なウクライナ侵攻を想定していないロシア軍を生み出した。「積極的防衛(active defense)」におけるロシア軍の考え方は、現代戦の要件を満たすために、より小型で、常時即応態勢を整え、長距離展開が可能な軍を構成することを意図した、以前のロシアの戦力デザインと制度変更を引き継いだものである。冷戦終結後、ロシア軍は、大量動員に依存する徴兵制部隊から、「入隊した専門職(enlisted professionals)」とみなされる契約兵士からなる小規模な常備志願制部隊へと変貌を遂げるため、一連の改革に取り組んできた[13]。しかし、ロシア軍は十分な契約兵を確保することができず、戦力構造の人員要件を満たすために徴兵制を維持しなければならなかった。その結果、戦闘力の発揮に重大な影響を及ぼす混成人員体制となった[14]

2010年代のロシアの改革には、旅団と大隊を中心とした戦力デザインへの移行が含まれる。この移行により、ロシア軍はソ連軍で一般的だった連隊や師団を基盤とする構造から脱却した。この改革は、連隊や師団規模の組織よりも展開しやすい柔軟な部隊の創設を意図したものだった[15]。2013年までに、ロシア軍は師団を復活させ、連隊、旅団、師団、および諸兵科連合軍を大規模戦闘作戦(LSCO)を実施するための構造をデザインし、人員を相応に増やすことなく兵力構造を強化した。人員不足と、職業将校、嘱託兵、徴兵からなる混成兵制に対応するため、ロシア軍は段階的即応システムを採用した。このシステムは、旅団と師団を70%から90%という低レベルの即応態勢に維持し、各連隊または旅団がより高い即応態勢に維持された2個大隊戦術グループを提供することを期待するものであった。ロシアの混成人事制度により、大隊戦術グループは契約兵のみで構成され、旅団で最高の装備を提供することになっていた。大隊戦術グループのこうした特徴により、ロシア軍は、混成人員システムが課す課題を軽減するとともに、徴兵された兵士が戦闘作戦に派遣されたり参加したりする際の制約を緩和することができた[16]

大隊戦術グループは、旅団の機動大隊のひとつを拠点として、迅速な展開と独立した作戦が可能な装甲、歩兵、砲兵、防空からなるタスク部隊を編成するタスク編成型の諸兵科連合編成である。通常、大隊戦術グループには約700〜800人の兵士が所属していたが、タスク組織や旅団の人員状況によって異なり、2つのグループを編成するには不十分なことが多かった。ロシア軍が大隊戦術グループの数を2019年の136から2021年の168に増やしたとき、これらの編成の規模と能力は軍によって大きく異なっていた。2022年のウクライナ侵攻の初期段階で見られたように、大隊戦術グループは、制約の多い都市地形で諸兵科連合作戦を実施するのに必要な歩兵が不足していることがよくあった。さらに、大隊戦術グループの参謀は、大規模戦闘作戦(LSCO)の間、グループに編入されたさまざまな付属部隊に対して適切な指揮・統制(C2)を行うのに必要な規模と技能を備えていない[17]

2014年から15年にかけてのウクライナのドネツ盆地での作戦で成功を収めたとされるロシアの大隊戦術グループは、広範な研究の対象となってきた。しかし、作戦の規模が限定的で、作戦地域の規模が小さい(2014年から15年にかけてのドネツ盆地作戦地域の幅は約420キロ、260マイル)ため、大隊戦術グループの能力に対する誇張された認識が生まれ、限定戦争から大規模戦闘作戦(LSCO)への規模拡大が困難であることが判明した[18]。ロシアの最近のウクライナ侵攻は、ウクライナでの組織デザイン、訓練、作戦遂行に大きな矛盾があることを示した。

ロシアは、ザパド(Zapad)やボストーク(Vostok)といった大規模な集成訓練(collective-training)で有機的編隊を採用し、編隊の諸兵科連合、統合一体化、指揮・統制(C2)、兵站の実行能力をテストした[19]。しかし、ロシアがウクライナに侵攻したとき、ロシアは大隊戦術グループに大きく依存し、旅団レベルの指揮・統制(C2)はほとんど見られず、兵站能力も限られていた[20]。その結果、ロシアの軍諸兵科連合軍は、その支配範囲を超える多数の大隊戦術グループを直接支配することになり、軍隊がドメインを横断して諸兵科を連合し、隣接部隊と連携し、作戦を維持する能力が制限されることになった。エイモス・フォックス(Amos Fox)、レスター・グラウ(Lester Grau)、チャールズ・バートルズ(Charles Bartles)のような著者は、ウクライナ侵攻時の大隊戦術グループが標準以下のパフォーマンスであったことから、大隊戦術グループはロシア・ウクライナ戦争には不適切な編成であり、大隊戦術グループは「低強度紛争や対反乱戦」に適していたと正しく強調している[21]。さらに、ロシアの戦術部隊は、厳重な作戦の安全を維持するため、侵攻の数時間前まで戦術的な命令を受けなかった。人員不足の旅団司令部や連隊司令部は、計画策定に要する時間が限られていたため、計画を作成して下位部隊に周知させることが難しく、大隊戦術グループを指揮・統制する司令部の能力がさらに制限された。

ロシアの適応への課題:マルチドメイン作戦にとっての教訓

ウクライナにおけるロシア軍のドクトリン、兵力構成、訓練、戦略的目標のずれは、大規模戦闘作戦(LSCO)の現実に適応する軍の能力を著しく制限している。ロシア連邦保安庁はウクライナの占領を計画策定する責任があった。戦前の連邦保安庁の評価では、ウクライナ人は文民指導部と国の方向性に不満を持っていた。さらに、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ人がロシアを好意的に見ていると考えていたし、ロシアとウクライナは歴史的につながっていた[22]。その結果、ロシアはウクライナの指導層が簡単に入れ替わると考え、親ロシア派のウクライナ人が侵攻を支持するようになった。ロシア軍もまた、ウクライナの防衛は効果がなく、戦場ではロシア軍が容易に優勢になると想定していた[23]

こうした前提に立ち、ロシア側は重要インフラと政府中枢を迅速に掌握し、ウクライナ側の抵抗能力容量を崩壊させるため、スピード重視の作戦計画を立てた[24]。(崩壊させるとは、敵の指揮・統制(C2)を混乱させ、敵の作戦の同期と結束を低下させることを意味する。崩壊は敵の取組みの統一を妨げ、敵の能力や闘う意思(will to fight)を低下させる)。ロシア側は、ロシアの積極防衛ドクトリンに従い、非軍事的手段の有効性を認識したため、短期決戦と最小限の死傷者での決戦勝利を予期していた。ロシアの想定は不正確であることが証明され、その作戦計画はウクライナに投入された部隊の能力をはるかに超えていた。

統合作戦で最初に失敗したロシア軍

当初、ロシアのウクライナ侵攻は、比較的弱体なウクライナ軍に対して大規模な効果をもたらすために、ドメイン横断的に能力を統合(一体化)した高度な統合作戦のように見えた。しかし実際には、ロシアの作戦にはドメインを横断した複数の能力の使用が含まれていたものの、ロシアは取組みの統一性を欠いていた。ロシアの同期がうまくいかなかった近因のひとつは、作戦的目標と戦略的目標に向かってドメインを調整する統合部隊指揮官と戦域レベルの司令部が不在だったことだ[25]。その結果、侵攻が停滞してロシアが資源を優先できるようになると、ロシアはさまざまな状況に対応する計画を立てることができなくなった。

ロシアの最初のウクライナ侵攻は、ウクライナの防空、指揮・統制(C2)アーキテクチャー、弾薬庫、固定軍事拠点、およびロシアの作戦深度全体にわたる既知の兵力集結地域に対する航空攻撃とミサイル攻撃を使用し、かつての積極防衛のドクトリンに大々的に従った。航空打撃やミサイル打撃を行う前に、ロシア軍は電子攻撃を行い、ウクライナの防空能力を低下させるために航空デコイを使用した[26]。こうした取組みにもかかわらず、ロシア航空宇宙軍は敵の防空網を効果的に制圧・破壊することも、ウクライナ上空で航空優越(air superiority)を達成することもできなかった。ロシアの失敗は、ウクライナ空軍に、トルコのバイラクターTB2(Bayraktar TB2)無人航空機(UAV)を使ってロシア軍を攻撃する機会を与えた[27]。さらにロシア側は、ウクライナの抵抗能力を制限し、ロシアの意思決定者を孤立させるためにサイバー作戦を統合(一体化)した。しかし、ロシアの攻撃は、ウクライナのサイバー防衛能力の向上と、西側諸国政府や民間企業からの外部支援により、意図した効果を達成することができなかった[28]。(ロシア・ウクライナ戦争の最初の1カ月間、ロシアのサイバー攻撃の40%以上が重要インフラをターゲットにし、さらに32%がウクライナ政府のサイトをターゲットにした)。ロシア軍の能力が広く研究されていることを考えると、軍の精密攻撃、サイバー、電子戦(electronic warfare)、心理戦(psychological warfare)能力の規模、規模、有効性は期待に応えられなかった[29]

ロシアの地上侵攻は、4つの異なる前線に沿って進行し、それぞれがロシア軍管区司令部(CP)の指揮下に置かれ、個々の前進軸はロシア軍諸兵科連合軍によって統制された[30]。ウクライナの首都キーウを中心とする2つの北部戦線は、それぞれ東部軍管区と中部軍管区によって統制されていた。西部軍管区が支配する東部戦線は、ハリコフに向かって攻撃を仕掛けた。東部戦線はドネツ盆地のウクライナ軍を固定する役割を担っていた。南部軍管区はクリミアからオデッサ、ザポリージャ、マリウポリに向かって攻撃を仕掛け、クリミアとロシアを結ぶ陸橋を作った。各戦線はほとんど協調することなく独自に作戦し、特にキーウ周辺の北部戦線では資源を奪い合うように見えた[31]

作戦レベルでの中央司令官がいないため、ロシアの統合効果は、作戦レベルの目標を犠牲にして、戦術レベルの地上部隊を支援するようにますます調整された。ロシアの航空作戦は中央管理されておらず、代わりに軍管区指揮所(CP)に従属する個別の航空部隊で運用されていたため、作戦レベルでのロシアの有効性は希薄だった。ロシアは、戦術的行動を可能にするために作戦レベルで戦場を効果的に形成する能力を示していない[32]。逆に、ウクライナ軍はハリコフとヘルソンでの反撃に備えて、作戦レベルの火力でロシア軍を孤立させることにかなりの成功を収めた。ロシアの空と地上との調整は行き当たりばったりで、地上部隊への直接的な支援は限られており、ウクライナのエネルギー・インフラへのミサイル攻撃はバラバラで、ウクライナの作戦レベルの能力を低下させるための機会形成の取組み(shaping efforts)はごくわずかである。

戦争が始まって6週間後に最初の総合司令官が任命されたにもかかわらず、ロシアの各ドメインにわたる指揮・統制(C2)と、大規模戦闘作戦(LSCO)環境に適応するロシアの能力は依然として課題である[33]。ロシアが戦争の初期段階において戦域レベルの司令部を設置できなかったことは、ロシア・ウクライナ戦争におけるこれまでのマルチドメイン作戦(MDO)にとって最も重要な見解のひとつである。ロシア軍がドメインを横断して効果を統合(一体化)し、同期させることができなかったことが、キーウの戦いでのロシアの大敗につながった。ロシアの敗北は、機動を可能にするために、各ドメインを横断した効果の収束(convergence)を達成するための統合作戦の重要性を強調している[34]。(収束(convergence)は、システム、編成、意思決定者、または地理的地域に対して効果を生み出すために、あらゆるドメインにおける決定的なポイントの組み合わせに対して、複数のドメインと指揮階層から能力を協調的に採用することによって生じる)。

ロシア軍は大規模戦闘作戦の現実への適応が遅れている

キーウの会戦(Battle of Kyiv)での敗北後、ロシアは戦略的目標をドネツ盆地に集中するように変更し、ウクライナ東部に打撃を受けた軍を集中させた。ロシアの作戦デザインにとって最も大きな変化のひとつは、複数の狭い前線での機動戦(maneuver warfare)から、単一の広い前線での消耗的モデル(attritional model)への移行だった。この変更により、ロシア軍はキーウの戦いにおけるロシアの敗北の原因となった持続性の課題の多くを軽減することができ、戦術レベルでも一定の成功を収めることができた[35]。さらに、ドネツ盆地の地形は、ロシアが前方の無人航空機(UAV)の監視によって可能になった砲兵システムにおける数的優越を活用することを可能にした。ロシア空軍も適応し、ドネツ盆地では出撃率の向上とともに限定的かつ局地的な航空優越を獲得した。しかし、精密誘導弾(PGM)、訓練を受けたパイロット、ロシアの統合端末攻撃統制官(joint terminal attack controllers: JTAC)に相当するものが不足しているため、空と地上との連携の有効性が制限され続けている[36]。このような制限と効果的なウクライナの防空は、ロシアが諸兵科連合とドメインを横断して効果を同期させる取組みを阻害し続けている。その結果、ロシア軍は作戦レベルで戦場に機動を取り戻すことができなかった。

ロシア軍は、戦術レベルで局地的優位を獲得するために、目標を準備するために大量の砲兵を使用し、火による機動(maneuver by fire)という古いドクトリン上の技法を採用した。ロシアの技法によって、ウクライナの防衛側は中隊規模以上の部隊を編成することができなかったが、ロシア軍は砲兵の支配性によって最大7対1という有利な戦力比を達成することができた[37]。大量に集中した砲兵によって、ロシア軍は双方にとって多大な犠牲を払いながらも、戦術的な利益(tactical gains)をゆっくりと得ることができた。現代の戦場の致死性の高さと、戦闘損失によるロシアの能力の低下から、ロシアは攻撃戦術を大隊戦術グループ規模の攻撃から分隊や小隊規模の突撃グループでの攻撃に変更した。

突撃グループ(多くの場合、民間軍事会社ワグネル・グループの部隊)は、複数のグループと連続した波状攻撃でウクライナの防衛を圧倒し、ドローンを使ってターゲットを特定し、指揮・統制(C2)を実施する。初期突撃グループは、ウクライナの防御陣地を確認するための偵察部隊として機能する。次にロシアは砲兵を準備し、より訓練された部隊である連続攻撃グループ(successive assault groups)が既知のウクライナの守備を攻撃する。効果的ではあったが、ロシアの突撃グループは、限られた戦術的利益のために多大な損害を被った[38]。ドネツ盆地でのロシアの作戦は、ロシア軍が大規模戦闘作戦(LSCO)の難題に適応できることを示しているが、この適応は主に戦術レベルで行われ、死傷者のことはほとんど考慮されていない。ロシアの作戦レベルおよび戦略レベルでの適応は依然として困難である。特に、訓練を受けた部隊を再生して作戦を維持する能力である。

ロシア軍は大規模戦闘作戦(LSCO)特有の消耗(attrition)に対する備えがなかった。戦争初期に訓練された部隊の多くを失ったロシアは、能力が低下した部隊を考慮して戦術や作戦デザインを適応させなければならない。ロシアの大隊戦術グループは、タスク編成部隊として発足したが、グループが契約兵士に依存しているため、主要な人員や装備を失った場合、戦闘効果を維持するのに苦労している。作戦を持続させるために、ロシア軍は大隊戦術グループ要素を統合(merge)しなければならず、持続力と通信に関する既存の課題を悪化させ、すでに課題の多い戦力デザインの有効性をさらに低下させた[39]

ロシアの戦闘損失(combat losses)は、消耗した部隊を再建するために部分的な動員を実施せざるを得なくなった。ロシアの動員要員は、個々の補充要員として部隊に送られる前に、最低限の訓練と装備を受ける。ロシア軍で最も尊敬されているいくつかの部隊は、現在、経験の浅い動員兵が主な人員となっており、部隊の諸兵科連合の機動を遂行する能力を低下させている[40]。ロシア・ウクライナ戦争の現時点では、いくつかの部隊が複数回再編成されている。例えば、高い評価を得ていた第1衛兵戦車軍は、戦争初期にチェルニヒフ(Chernihiv)で敗北した後と、最近ではウクライナのハリコフ反攻の後、2度にわたってベラルーシで師団規模の部隊を再編成しなければならなかった[41]。ロシアの戦闘損失と戦闘可能な部隊の再生は困難で、ロシアは民間軍事会社、とりわけワグネル・グループに頼って作戦を継続せざるを得なくなっている。近代的な大規模戦闘作戦(LSCO)の消耗(attrition)に適応するためのロシアの挑戦は、米軍とNATO同盟国への注意喚起となる。(大規模戦闘作戦(LSCO)の人材層の厚み(personnel depth)については第10章を参照)。

マルチドメイン作戦に対するロシア・ウクライナ戦争の教訓

ロシア・ウクライナ戦争は、1973年のヨム・キプール戦争がエアランド・バトル(AirLand Battle)のドクトリンに影響を与えたように、マルチドメイン作戦(MDO)に無数の教訓を与えている。ヨム・キプール戦争は、ソ連のドクトリンを使用するソ連装備のアラブ軍が、NATO兵器と西側のドクトリン・コンセプトを使用するイスラエル軍と対峙する様子を観察するまたとない機会となった。ウクライナ軍がNATO兵器の統合(一体化)を進めるにつれ、マルチドメイン作戦(MDO)実施のための教訓を得る機会が増えている。

ロシア・ウクライナ戦争は、ヨム・キプール戦争から得たいくつかの重要な教訓を思い起こさせる。その中には、現代の戦場に機動性(maneuver)を取り戻すために、脅威となる防空兵器や対戦車兵器を打ち破るという課題も含まれている。ロシア・ウクライナ戦争と1973年のヨム・キプール戦争のもうひとつの決定的な類似点は、近代兵器の致死性と、大規模な消耗という課題(challenges of attrition at scale)である[42]。ロシア・ウクライナ戦争がヨム・キプール戦争と異なるのは、近代的なセンサーによる戦場の比類なき透明性、情報作戦(information operations)の活用、指揮所(CP)や後方支援ノードの聖域をなくす長距離火力の能力である。マルチドメイン作戦(MDO)の応用は、各ドメインを横断した持続的な接触という課題に直面しなければならないだけでなく、統合収束(joint convergence)が戦術レベルでの諸兵科連合をどのように可能にするかという課題にも直面しなければならない。さらに米陸軍は、マルチドメイン作戦(MDO)の復元性に対する消耗の意味を考慮しながら、同軍の指揮所(CP)と後方支援ノードの脆弱性に対処しなければならない。

マルチドメイン作戦の収束は大規模戦闘作戦での効果的な諸兵科連合にとって必要である

「マルチドメイン作戦(MDO)」は、すべてのドメイン内の統合部隊と競合することが可能である脅威を撃破するために諸兵科連合のアプローチで指揮階層とドメインを越えて統合と米陸軍の能力の重要性を説明している[43]。マルチドメイン作戦(MDO)の基本的な考え方のひとつは、米陸軍が収束(convergence)を達成する能力である[44]。収束(convergence)に不可欠なのは、効果を方向づける決定的なポイントと目標を決めることだが、言うは易く行うは難し(easier said than done)。

作戦レベルで決定的なポイントと目標を特定することで、指揮官と参謀は戦略的目標を達成するために、時間、空間、目的において戦術的行動を整理配置(arrange)することができる。作戦の計画担当者にとっての共通の課題は、戦術レベルから作戦レベルまでの目標と効果の整合性である。戦術的目標がずれていると、その重要性が過大になり、不必要な戦闘損失が生じることがある。2022年夏に始まったロシアのバフムート(Bakhmut)市への固執は、最小限の利益のために甚大な戦闘損失をもたらした、作戦上も戦略上も限られた価値の戦術的行動の一例である。マルチドメイン作戦(MDO)の信条である収束(convergence)は、指揮官と参謀が戦術と作戦の両レベルで目標と効果を入れ子にすることで、戦術的目標が関連する作戦的目標と戦略的目標を達成できるように支援することができる。

ウクライナの大規模戦闘作戦(LSCO)で観察された致死性を考えると、収束(convergence)を達成することは、戦術レベルで諸兵科連合作戦を実行するために必要な条件かもしれない。ウクライナで観測された永続的な観測とターゲッティングの効果は、あらゆる階層における分散の重要性を再確認させるものであり、米陸軍と統合部隊は、戦闘力を大量に投入する方法を見直す必要があるだろう。統合参謀本部議長のマーク・ミリー(Mark Milley)大将は、「隠蔽、部隊の規模、戦場を移動する速度は、致死性の高い将来の戦場での残存率に直接貢献する」と述べ、分散(dispersion)の重要性を強調した[45]

米陸軍が最近発行したFM3-0では、集中した火力と精密火力のリスクを最小化するために、マルチドメイン作戦(MDO)のドクトリンの中で、すべての指揮階層における分散の重要性について論じている。ウクライナとロシアの地上部隊によって観察されたように、分散させる必要があるため、攻撃における戦闘力の集中に課題が生じた。加えて、分散が必要であることは、敵対者が防御における分散した要素を孤立させる機会を生み出す。このような見解から、米陸軍は、マルチドメイン能力の同期化と統合(一体化)が、地上部隊が一時的に戦闘力を結集し、近接戦闘で諸兵科連合を実現するための機会の窓をどのように確立できるかを検討し続けなければならない。

2022年5月にビロホリフカ近郊で失敗したロシア軍のギャップ・クロッシングは、分散性の低さだけでなく、各ドメインを横断した持続的な接触の意味を示す好例となっている。画像とドローンによる偵察で可能になったウクライナの集中砲兵火力は、川を渡ろうとしていたロシアの大隊戦術グループを破壊した。この場合、ロシア側はドローンによる対抗措置や、横断区域を隔離するための火力で作戦条件を設定するのに失敗した。さらに、ロシア軍は橋の建設中、渡河地点の近くに集結し、ウクライナ軍の砲撃のリスクを最大限に高めていた[46]。その結果、戦術的には惨敗となったが、ウクライナにとっては、情報ドメインでの成功とロシアの無能さを浮き彫りにする重要な機会となった。このギャップ・クロッシングの失敗は、対向したギャップ・クロッシングに最適化された米陸軍の新しくデザインされた浸透師団(Penetration Division)にとって貴重なケース・スタディとなった[47]。(セオドール・D・マーティン(Theodore D. Martin)中将は、浸透師団(Penetration Division)を「準備された防御を突破し、同等の敵対者とのギャップ・クロッシングを主導するなど、統合部隊の最も要求の厳しい作戦を遂行する」ために、強化された諸兵科連合装甲プロファイルを持つ独自の権限が与えられている部隊」と表現した。浸透師団(Penetration Division)は、マルチドメイン作戦(MDO)を可能にするため、追加の火力、師団レベルの偵察、および工兵能力を目的に構築されている)。

※ ギャップ・クロッシング(gap crossing):軍事的に移動の制限を伴う地形(地隙や河、湿地帯)を横断することをいう。

この教訓は、米陸軍がいかに諸兵科連合のコンセプトを広げ、マルチドメイン能力を活用し、戦術レベルで戦闘力と諸兵科連合を集中する機会の窓を作らなければならないかを強調している。収束(convergence)の統合(一体化)が作戦レベルで、また諸兵科連合が戦術レベルでもたらす最大の課題のひとつは、比較的動きの遅い地上部隊を使ったマルチドメイン効果のタイミングである。地上部隊は、宇宙、サイバー空間、空の各ドメインの能力によってもたらされる機会を利用するため、より高い機敏性(agility)を必要とする。逆に、作戦の計画担当者は、地形、天候、地上部隊の能力と限界の影響を考慮し、戦術編成のテンポに合わせて、各ドメインを横断して効果を同期させなければならない。

マルチドメイン作戦(MDO)のコンセプトが成熟し、技術が進歩し、米陸軍が浸透師団(Penetration Division)のような新しい組織構造を統合(一体化)するにつれて、指揮階層における役割と責任は、継続的な再評価が必要になる[48]。今後、人間の監視や指揮階層による優先順位の重み付けなしに、「どんなセンサーでも、どんな指揮・統制ノードでも」モデルを使用して、ターゲティング・プロセスを自動化しようとする取組みは、不注意にも戦術レベルの物資を枯渇させたり、作戦的ターゲットと戦略的ターゲットの選択肢を制限したりする可能性がある[49]。今後、米陸軍は、マルチドメイン作戦(MDO)の文脈の中で、収束(convergence)と諸兵科連合のコンセプトをどのように同期させるかについて、多指揮階層の訓練(multi-echelon training)を実施するための革新的な選択肢を検討すべきである。軍団(corps)や師団の用兵演習を戦闘訓練センターのローテーションと統合(一体化)することは、指揮階層でマルチドメイン作戦(MDO)訓練を提供する優れた場を提供することになる。

マルチドメイン作戦の最大の脆弱性は指揮所と後方支援ノードである

ロシア・ウクライナ戦争は、固定の指揮所(CP)の脆弱性を証明した。あらゆる指揮階層のロシアの指揮所(CP)は定期的に居場所を突き止められ、ターゲットとされ、その結果、経験豊富な上級指導者や参謀が失われている。第8諸兵科連合軍、第49諸兵科連合軍、第2諸兵科連合軍の指揮所(CP)を含め、米国の軍団(corps)や師団の参謀とほぼ同じ大きさのロシアの諸兵科連合軍(CAA)の指揮所(CP)が多数破壊された[50]。ロシアの指揮所(CP)の破壊は重大な懸念を引き起こすはずだ。なぜなら、米軍の指揮所(CP)はウクライナで日常的に破壊されてきたロシアの指揮所(CP)よりも大きく、機動性が低く、電磁シグネチャが大きいからである。後方支援ノードと指揮所(CP)は、その物理的サイズと電磁シグネチャを大幅に縮小し、脅威が指揮所(CP)や後方支援ノードをターゲットとする能力を緩和しつつ、迅速な移動能力を高めなければならない。マルチドメイン作戦(MDO)の実行に必要な2つの最も重要な能力は、効果的な指揮・統制(C2)と予測可能な後方支援である。

マルチドメイン能力の収束(convergence)と諸兵科連合の実行には、詳細で協力的な計画と実行における効果的なコミュニケーションが必要だが、指導者は小規模で分散した指揮所(CP)でマルチドメイン作戦(MDO)を実施することを学ばなければならない。さらに、米陸軍は、オーバー・ザ・ホライズン(OTH)通信と分散した調整を可能にする、電磁シグネチャを低減したより可搬型の通信システム(portable communications systems)を開発し続けなければならない。

ロシア・ウクライナ戦争での観察から、永続的な観測の意味を理解することの重要性と、戦術・作戦レベルでの大規模で無防備な指揮所(CP)と後方支援ノードがもたらす重大なリスクについて、数多くの事例が示されている。作戦レベルでは、ウクライナ側は弾薬備蓄、重要な指揮・統制(C2)、防空能力、航空機、整備資源を分散させることで、開戦時にロシアの長距離精密火力の影響を最小限に抑えた。逆に、ロシア軍は備蓄していた砲兵弾薬を分配しなかったため、ウクライナ軍は多数の弾薬庫を破壊することができた。ウクライナの攻撃はロシアの砲兵支援を大幅に低下させ、ハリコフ反攻の条件を整えるのに役立った。さらに、ウクライナ軍は定期的にロシアの指揮所(CP)を狙っており、システム的な指揮・統制(C2)の課題を悪化させている。ヘルソン反攻作戦の間、ウクライナ軍はロシアの指揮・統制(C2)を積極的にターゲットとし、ドニエプル川以北のロシア軍を孤立させるため、13の指揮所(CP)、補給基地、重要な河川横断路を攻撃したと伝えられている[51]。2022年9月初めまでに、ウクライナはヘルソンとクリミア全域で400発以上の高機動砲ロケット・システム(HIMARS)を発射し、ロシア軍を孤立させるために輸送インフラとロシアの兵站をターゲッティングした[52]

さらに、永続的観測と長距離精密火力の普及は、後方地域が脅威能力からの聖域となり得ないため、後方支援ノードに重大な影響を与える。米陸軍は、マルチドメイン作戦(MDO)を可能にする重要な維持能力を守るために、ドクトリン上の旅団支援地域と師団支援地域を再評価しなければならない。例えば、ウクライナでは、ロシアはドクトリンに従い、師団や陸軍規模の編隊の支援部隊を、ウクライナが運用するロシア製多連装ロケットシステムの射程圏内である接触線から50kmの地点に配置した。ロシアは適応が遅れ、2022年4月まで50km圏外に後方支援ノードを再配置しなかった。そして、米国製高機動砲ロケット・システム(HIMARS)の導入に伴い、100km圏外に後方支援ノードを移動させなければならなかった[53]。これらの観察結果は、マルチドメイン作戦(MDO)や米陸軍の後方支援作戦訓練方法にとって重要な意味を持つ。ウクライナの教訓は、米陸軍が重要な後方支援能力を作戦的縦深全体に分散させ、予測的後方支援に課題があるにもかかわらず、スループット配分(throughput distribution)の利用拡大を検討する必要性を示している[54]。(スループット配分(throughput distribution)は、複数の取り扱いを避けるために、供給システム内の1つ以上の中間供給指揮階層をバイパスする)。

FM 3-0「作戦(Operation」 の最新版では、指揮所(CP)と後方支援ノードの脆弱性を取り上げ、指揮所(CP)の残存性を向上させるために、テントの代わりに堅固な構造(hardened structures)の使用を推奨している[55]。残念なことに、規模や通信規律(communications discipline)が大幅に改善されない限り、捕捉された民間インフラに設置されたロシアの指揮所(CP)が破壊され続けていることからもわかるように、指揮所(CP)は依然としてターゲットにされやすい。ウクライナの教訓を踏まえれば、米陸軍は低コストのドローン対策、戦術的防空、偽の指揮所(CP)や後方支援ノードを作り出す欺瞞対策(deception measures)に多大な投資をしなければならない。訓練では、米陸軍は精密砲兵と集中砲兵の効果に対する敬意を取り戻し、FM3-0に概説されている部隊防護策をあらゆる機会に厳格に訓練しなければならない。

結論

ロシア・ウクライナ戦争は、第二次世界大戦後ヨーロッパで最大の戦争であり、1973年のヨム・キプール戦争後のように、米陸軍はこの新たな戦略的変曲点(strategic inflection point)から教訓を得ながら、米陸軍のドクトリンを振り返り、洗練させる機会を得た。戦争における無人航空機(UAV)とセンサーを基盤とする技術の普及は、戦場における比類なき透明性と砲兵の精度向上をもたらした。その結果、ロシア軍とウクライナ軍は、集中火力(massed fire)と精密火力(precision fire)の効果を軽減するため、小規模で分散したグループで作戦を展開している。

ロシア・ウクライナ戦争は、米陸軍の新しいマルチドメイン作戦(MDO)ドクトリンに多くの教訓を与えてくれる。マルチドメイン作戦(MDO)は、各ドメインを横断した消耗(attrition)と持続的な接触(persistent contact)を考慮しなければならない。ウクライナでの観察を踏まえると、米陸軍は、マルチドメイン作戦(MDO)のコンセプト、新技術、新しい組織構造を取り入れるために、各級指揮階層の役割と責任を見直さなければならない。マルチドメイン作戦(MDO)における収束(convergence)のコンセプトは、現代の戦場の致死性を考えると、戦術レベルでの効果的な諸兵科連合のために必要である。米陸軍はまた、統合演習、師団レベルの用兵演習、および戦闘訓練センターのローテーション間の連携を拡大し、マルチドメイン作戦(MDO) の文脈の中で収束(convergence)と諸兵科連合の同期を実践すべきである。特に、マルチドメイン作戦(MDO) における米陸軍の最大の脆弱性は、指揮所(CP)と後方支援ノードである。米陸軍は、電磁シグネチャを最小限に抑えながら、継続的な移動を可能にし、分散型の協業を可能にし、各用兵機能(warfighting functions)や各ドメインを横断して同期する指揮・統制(C2)システムと移動型指揮所(CP)を開発しなければならない。ロシア・ウクライナ戦争から学んだ教訓を取り入れることで、マルチドメイン作戦(MDO)の効果を大幅に高めることができるかもしれない。

ノート

[1] Andrew Feickert, Defense Primer: Army Multi-Domain Operations, Congressional Research Service (CRS) Report IF11409 (Washington, DC: CRS, updated January 2, 2024).

[2] Max Boot, “Opinion: Russia Is Fighting by the Book. The Problem Is, It’s the Wrong Book,” Washington Post (website), November 2, 2022, https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/11/02/max-boot-russia-military-doctrine-ukraine.

[3] Michael Kofman et al., Russian Military Strategy: Core Tenets and Operational Concepts, DRM-2021-U-029755-1Rev (Arlington, VA: CNA, October 2021), 4.

[4] Kofman et al., Russian Military Strategy, 10.

[5] Kofman et al., Russian Military Strategy, 11.

[6] Valery Gerasimov, “The Value of Science Is in the Foresight,” Military Review 96, no. 1 ( January- February 2016): 24.

[7] Gerasimov, “Value of Science,” 28.

[8] Mason Clark, Russian Hybrid Warfare (Washington, DC: Institute for the Study of War [ISW], September 2020), 15.

[9] Clark, Russian Hybrid Warfare, 18.

[10] Kofman et al., Russian Military Strategy, 12.

[11] Kofman et al., Russian Military Strategy, 13–14.

[12] Pavel Baev, Russia’s War in Ukraine: Misleading Doctrine, Misguided Strategy, Russie. Nei. Report no. 40 (Paris: French Institute of International Relations, October 2022), 14.

[13] Michael Kofman and Rob Lee, “Not Built for Purpose: The Russian Military’s Ill-Fated Force Design,” War on the Rocks (website), June 2, 2022, https://warontherocks.com/2022/06/not-built-for-purpose-the-russian-militarys-ill-fated-force-design.

[14] Kofman and Lee, “Not Built for Purpose.”

[15] Lester W. Grau and Charles K. Bartles, The Russian Way of War: Force Structure, Tactics, and Modernization of the Russian Ground Forces (Fort Leavenworth, KS: Foreign Military Studies Office, 2016), 33.

[16] Lester W. Grau and Charles K. Bartles, “Getting to Know the Russian Battalion Tactical Group,” Royal United Services Institute (RUSI) (website), April 14, 2022, https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/getting-know-russian-battalion-tactical-group.

[17] Kofman and Lee, “Not Built for Purpose.”

[18] Amos C. Fox, Reflections on Russia’s 2022 Invasion of Ukraine: Combined arms Warfare, the Battalion Tactical Group and Wars in a Fishbowl, Land Warfare Paper no. 149 (Arlington, VA: Association of the US Army [AUSA], September 2022), 4.

[19] Michael Kofman, “Zapad-2021: What to Expect from Russia’s Strategic Military Exercise,” War on the Rocks (website), September 8, 2021, https://warontherocks.com/2021/09/zapad-2021-what-to-expect-from-russias-strategic-military-exercise.

[20] Gustav Gressel, “Combined Farces: Russia’s Early Military Failures in Ukraine,” European Council on Foreign Relations (website), March 15, 2022, https://ecfr.eu/article/combined-farces-russias-early-military-failures-in-ukraine.

[21] Fox, Reflections, 4.

[22] Zack Beauchamp, “ Why the First Few Days of War in Ukraine Went Badly for Russia,” Vox (website), February 28, 2022, https://www.vox.com/22954833/russia-ukraine-invasion-strategy-putin-kyiv; and Peter Dickinson, “Putin’s New Ukraine Essay Reveals Imperial Ambitions,” Atlantic Council (website), July 15, 2021, https://www.atlanticcouncil.org/blogs/ukrainealert/putins-new-ukraine-essay-reflects-imperial-ambitions.

[23] Jack Watling and Nick Reynolds, The Plot to Destroy Ukraine (London: RUSI, February 15, 2022); and “Russia’s Army Is in a Woeful State,” Economist (website), April 30, 2022, https://www.economist.com/briefing/how-deep-does-the-rot-in-the-russian-army-go/21808989.

[24] Mykhaylo Zabrodskyi et al., Preliminary Lessons in Conventional Warfighting from Russia’s Invasion of Ukraine: February–July 2022 (London: RUSI, November 30, 2022), 8; and Headquarters, Department of the Army (HQDA), Operations, Field Manual 3-0 (Washington, DC: HQDA, October 2022), 3-20.

[25] Andrew S. Bowen, Russia’s War in Ukraine: Military and Intelligence Aspects, CRS Report R47068 (Washington, DC: CRS, September 14, 2023); and Seth G. Jones, Russia’s Ill-Fated Invasion of Ukraine (Washington, DC: Center for Strategic and International Studies, June 2022).

[26] Zabrodskyi et al., Preliminary Lessons, 24.

[27] Justin Bronk, “Getting Serious about SEAD: European Air Forces Must Learn from the Failure of the Russian Air Force over Ukraine,” RUSI Defence Systems 24 (April 2022); and Justin Bronk, “Russia Likely Has Local Air Superiority in Donbas, But It May Not Matter,” RUSI (website), April 19, 2022, https://rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/russia-likely-has-local-air-superiority-donbas-it-may-not-matter.

[28] Jones, Russia’s Ill-Fated Invasion, 7–8.

[29] Robert Dalsjö, Michael Jonsson, and Johan Norberg, “A Brutal Examination: Russian Military Capability in Light of the Ukraine War,” Survival 64, no. 3 (2022): 7–28.

[30] Jones, Russia’s Ill-Fated Invasion, 2.

[31] Bowen, Russia’s War in Ukraine.

[32] Zabrodskyi et al., Preliminary Lessons, 45.

[33] Ken Bredemeier, “Russia Names New Commander for Ukraine,” Voice of America (website), April 10, 2022, https://www.voanews.com/a/russia-names-new-commander-in-ukraine-/6523126.html.

[34] HQDA, Operations, 3-3.

[35] Bonnie Berkowitz and Artur Galocha, “ Why the Russian Military Is Bogged Down by Logistics in Ukraine,” Washington Post (website), March 30, 2022, https://www.washingtonpost.com/world/2022/03/30/russia-military-logistics-supply-chain/.

[36] Bronk, “Air Superiority in Donbas.”

[37] Jack Watling and Nick Reynolds, Ukraine at War: Paving the Road from Survival to Victory (London: RUSI, July 4, 2022), 15.

[38] Sergio Miller, “The Battle for Bakhmut – Wagner Trench Warfare Tactics,” Wavell Room (website), December 15, 2022, https://wavellroom.com/2022/12/15/the-battle-for-bakhmut.

[39] Zabrodskyi et al., Preliminary Lessons, 46.

[40] Karolina Hird et al., Russian Offensive Campaign Assessment ( Washington, DC: ISW, February 13, 2023).

[41] David Axe, “Beaten Twice in Ukraine, Russia’s Elite 1st Guards Tank Army Is Poised to Attack Yet Again,” Forbes (website), January 28, 2023, https://www.forbes.com/sites/davidaxe/2023/01/28/beaten-twice-in-ukraine-russias-elite-1st-guards-tank-army-is-poised-to-attack-yet-again/?sh=24e24dcf1055

[42] Nathan Jennings and Kyle Trottier, The 1973 Arab-Israeli War: Insights for Multi-Domain Operations, Land Warfare Paper no. 152 (Arlington, VA: AUSA, December 16, 2022).

[43] HQDA, Operations, 3-1.

[44] HQDA, Operations, 3-3.

[45] Patrick Tucker, “Ukraine War Offers Clues to Future War, Joint Chiefs Chairman Says,” Defense One (website), September 14, 2022, https://www.defenseone.com/threats/2022/09/ukraine-war-offers-clues-future-war-joint-chiefs-chairman-says/377150/.

[46] Yagil Henkin, The ‘Big Three’ Revisited: Initial Lessons from 200 Days of War in Ukraine, Expeditions with MCUP (website), November 1, 2022, https://www.usmcu.edu/Portals/218/EXP_Henkin_BigThreeRevisited  PDF.pdf.

[47] Army University Press, Way Point in 2028 – Multidomain Operations (Fort Leavenworth, KS: Army University Press, December 3, 2021), YouTube video, https://w w w.youtube.com/watch?v=OUZp01CjdiI.

[48] Nathan Jennings, Considering the Penetration Division: Implications for Multi-Domain Operations, Land Warfare Paper no. 145 (Arlington, VA: AUSA, April 26, 2022).

[49] Jesse L. Skates, “ Multi-Domain Operations at Division and Below,” Military Review ( January-February 2021).

[50] David Axe, “The Ukrainians Keep Blowing Up Russian Command Posts and Killing Generals,” Forbes (website), April 23, 2022, https://www.forbes.com/sites/davidaxe/2022/04/23/the-ukrainians-keep-blowing-up-russian-command-posts-and-killing-generals/?sh=45621988a350; and Alia Shoaib and Nathan Rennolds, “How the Russian Officer Elite Has Been Decimated in Ukraine—Here Are the Generals and Top Commanders Killed in Action,” Business Insider (website), July 16, 2023, https://www.businessinsider.com/ukraine-russian-officer-elite-decimated-9-who-were-killed-in-combat-2022-3.

[51] Leo Sands and Yaroslav Lukov, “Kherson: Ukraine Claims New Push in Russian-Held Region,” BBC News (website), August 30, 2022, https://www.bbc.com/news/world-europe-62712299.

[52] Bowen, Russia’s War in Ukraine, 20.

[53] Zabrodskyi et al., Preliminary Lessons, 43.

[54] HQDA, Operational Terms, Field Manual 1-02.1 (Washington, DC: HQDA, March 2021), 1-102.

[55] HQDA, Operations, 3-11.