ウクライナから将来の軍隊への教訓(第15章)(The Army War College)
MILTERMで、既に紹介しているウクライナから将来の軍隊への教訓(序章から第1章まで)、(第2章から第3章まで)、(第4章)、(第5章)、(第6章)、(第7章)、(第8章)、(第9章)、(第10章)、(第11章)、(第12章)、(第13章)、(第14章)に続き、第15章を紹介する。この章は、ウクライナ軍が黒海でロシアの主要艦船を無人水上艇などにより沈没させたことの背景やその手法などについてまとめられた内容である。ウクライナ海軍の創設経緯や劣勢と思われた海軍戦力であるが、何故ロシア海軍を震え上がらせることができたかなど、米陸軍の視点で、海洋上での艦船対艦船の戦いではない方策について海上統制の観点などからの分析を含んだ興味深い内容となっている。(軍治)
行動喚起:ウクライナから将来の軍隊への教訓
Call to Action: Lessons from Ukraine for the Future Force
第2章 1991年から現在までの米国とウクライナの安全保障協力:さまざまな記録
第14章 マルチドメイン作戦にとってのロシア・ウクライナ戦争の教訓
第15章 海での戦争からの教訓:Lessons from the War at Sea
Albert F. Lord Jr. and Thomas R. Kunish
キーワード:無人水上艇(unmanned surface vessel:USV)、海洋、沿岸、黒海、海上阻止、水陸両用(amphibious)、接近阻止/領域拒否、探知、電磁スペクトラム
ロシア・ウクライナ戦争は、大規模な地上戦闘作戦(LSCO)、絶え間ない空爆とミサイル攻撃、そして海上領域に影を落とす無人航空機システム(UAS)の使用を特徴としている。ロシアとウクライナの海上での作戦は、陸上や空中での目に見える(そしておそらくより重大な)作戦に比べ、議論や解剖がはるかに少ない。しかし、現代の全ドメイン戦の本質(nature of modern all-domain warfare)を考えれば、重要な海上戦の側面は、最終的な紛争の結果に大きく寄与するだろう。
ロシア・ウクライナ戦争は、全ドメイン戦(all-domain warfare)における海上統制(sea control)の確立と維持の重要性を示している。この章では、海洋領域(maritime realm)で支配性(dominance)を主張しようとする沿岸国が直面する複雑さと課題を説明する3つの主要な調査結果に焦点を当てている。沿岸海域の海上統制(sea control)を確立し維持することで海上側面が保護される、沿岸から海上への海上統制(sea control)の拡大により作戦範囲が広がり、敵対者の軍事力使用(force employment)の選択肢が制限される、無人水上艇(USV)が海上戦(maritime warfare)の将来である、というものである。
海軍作戦にとっての海洋ドメインの基礎的事項
沿岸(littoral)とは、一般的に「海岸、特に海辺に関係する、またはその近くに位置する」と定義される[1]。現代の軍隊は、この定義を海岸線の陸側と海側の両方の地域に拡大し、陸上ドメインと海上ドメインの重なりを表現している。言い換えれば、陸上部隊が海上部隊に影響を与えることができる距離と、内陸の海軍が地上作戦に影響を与えることができる距離、あるいは陸上のターゲットを脅かすことができる距離である[2]。センサーや兵器システムの射程距離や有効性が拡大し続けていることを考えると、これらの距離は地理や戦闘員の能力によって異なる可能性がある。
海上統制(sea control)と海上拒否(sea denial)のコンセプトは、沿岸地域における海軍の作戦を定義する。イギリスの海洋戦略家ジュリアン・コルベット(Julian Corbett)は、20世紀の変わり目にこのコンセプトを広めた[3]。アルフレッド・セイヤー・マハン(Alfred Thayer Mahan)の海戦指揮とは対照的に、決戦のためには大規模な戦闘艦隊と艦隊の集中が必要であり、コルベット(Corbett)は、目の前の任務を達成するためには、比較的限られた時間だけ海を利用すればよいと考えた[4]。重要なのは、ある海洋部隊が他の戦力の海の利用を拒否するために、必ずしも海を支配する必要がなかったことだ。潜水艦と海軍機雷は、海上拒否(sea denial)のための戦力の最たる例である。
ロシア・ウクライナ戦争の場合、ウクライナの沿岸における海洋優先事項は以下の通りである。
- 水陸両用攻撃から海岸線を守る(沿岸を支配し、敵対者にその使用を拒否する)
- 軍事部隊、人口集中地区、重要なインフラを守るため、海上でのスタンドオフの距離を確立する(海上拒否(sea denial))。
- 軍事および商業目的での海上後方連絡線の利用を確保する(海上統制(sea control))。
ロシアにとっての海洋優先事項は以下の通りである。
- ウクライナ沿岸に水陸両用攻撃を行い、あるいは威嚇することで、ウクライナ軍に他の場所で使用できる戦力を使用させる(海上統制(sea control))
- 黒海を陸上への海軍攻撃の避難所として利用する(海上統制(sea control))。
- ウクライナの黒海の後方連絡線を脅かし、海運または商船の移動を阻止または制限する(海上拒否(sea denial))。
海洋環境の特殊性から、海軍部隊には個別の性質と能力が求められる。ロシア・ウクライナ戦争では、海上統制(sea control)と海上拒否(sea denial)をめぐる4つの側面が相互に関連している。すなわち、水上作戦、水中作戦、海軍航空作戦、電磁スペクトラム(EMS)作戦である。これらの次元にはそれぞれ、物理学、センサー、兵器、交戦のタイムラインなど考慮すべき点がある。重要なのは、従来型の地上部隊や航空部隊も、こうした次元で行動する可能性があるということだ。陸軍と従来型の空軍の編隊は、能力があれば、海上統制(sea control)と海上拒否(sea denial)の任務を遂行できる。
水上作戦(surface operations)は、伝統的に海岸近くで活動する小型ボートから、公海上で岸からかなり離れた場所で活動できる大型ボートまで、さまざまな水上プラットフォームに対して実施される。艦船が大きければ大きいほど、センサーや兵器の能力、より長時間の作戦遂行能力が高くなる。より大型の水上艦は、4つの次元にまたがる能力を持ち、指揮・統制(C2)能力を含むこともある。
水中作戦(subsurface operations)は潜水艦と海軍機雷の範囲である。これらの作戦は通常、海上拒否任務(sea-denial missions)を含むが、ある種の機雷設置のような例外も海上統制(sea control)とみなされることがある。水中作戦への対処は、海上指揮官にとって最も難しい作戦のひとつである。潜水艦はステルス・プラットフォームの元祖とも言え、潜水艦の位置を特定し、追跡には、特に資源を必要とする。海軍の機雷除去も同様に非常に困難である。機雷を発見し除去するには、時間、専用船、高度に訓練された人員、許容された環境が必要である。
海軍航空作戦(naval aviation operations)には、インテリジェンス・監視・偵察・ターゲッティング(ISR-T)の実施、対潜水艦戦作戦の実施、水上艦艇や陸上ターゲットに対する打撃の実施、防御的・攻撃的な対空任務の実施、敵防空隊の制圧や空中給油、戦闘・非戦闘捜索救難の実施などの支援航空作戦が含まれる。有人または無人のプラットフォームが海軍航空作戦を行うことができる。
電磁スペクトラム(EMS)作戦は、効果的な海洋作戦に不可欠である。電磁スペクトラム(EMS)を自国の活動のために確実に使用し、敵対者にその使用を拒否することは、効果的な指揮・統制(C2)と部隊運用に不可欠である。最後に、海洋環境は、一部の人が信じているほど綺麗ではない。沿岸部では、交通、漁業、レクリエーションなどの商業利用が行われている。沿岸の浅瀬は、自然および人工的な発生源からの音響ノイズを集めるため、対潜水艦および機雷対策作戦を行うには難しい環境である。海上交通が密集しているため、海上でのターゲット識別が複雑になっている。ロシア・ウクライナ戦争における海上作戦は、黒海の物理的・政治的な特殊性にも左右される。
黒海
地理はすべての戦争を深く特徴づけるが、ロシア・ウクライナ戦争も例外ではない。黒海は、ウクライナ、ロシア、ジョージア、NATO加盟国のトルコ、ブルガリア、ルーマニアと国境を接する17万8000平方キロメートルの内海で、ロシア・ウクライナ戦争の海洋的側面を支配している[5]。黒海へのアクセスは、独自の国際協定に基づいて行われている。モントルー条約は1936年に調印された国際条約で、トルコ海峡(ボスポラス海峡とヘレスポント海峡)に対するトルコの支配権を確立した[6]。この条約は、平時における商業船舶の自由航行を保証しているが、地中海と黒海の間の軍艦の航行を規制している[7]。
2022年2月、トルコはロシアのウクライナ侵攻を戦争と宣言し、ロシア軍艦の海峡通過を制限した。モントルー条約は、黒海と黒海以外の艦艇の通航を規制している。(黒海諸国と呼ばれるのは、ウクライナ、ロシア、ジョージア、トルコ、ブルガリア、ルーマニアで、黒海に面している。)ウクライナとロシアにとって黒海の最も重要な商業利用は農産物の輸送である。ウクライナ侵攻とロシアの規制は、世界の食糧供給に大きな影響を与えた[8]。米国農務省によると、ウクライナはヒマワリ油の46%、大麦の17%、トウモロコシの12%、小麦の9%を世界に供給していた[9]。国連が仲介し、ウクライナ、ロシア、トルコが2022年7月に署名した黒海穀物イニシアティブは、ウクライナの食料品の黒海からの通過を可能にする[10]。ロシアの食料品輸出は影響を受けていないが、欧米の経済制裁はロシアの公開市場での取引能力に影響を及ぼしている。当事者はイニシアティブを見直し、定期的に延長する。
黒海での海洋戦争
黒海はロシアにとって常に地政学的に重要であり、それに応じてロシア海軍の存在も大きい[11]。クリミアのセヴァストポリ海軍基地はロシア艦隊の司令部として機能していた[12]。ソビエト連邦の崩壊とクリミアのウクライナへの返還に伴い、ロシアとウクライナは黒海艦隊が新生ウクライナ海軍に一部の艦船を提供し、ウクライナがロシア黒海艦隊のための海軍施設と支援インフラの継続使用を認めることで合意した[13]。ウクライナ海軍は1992年、ロシア海軍の老朽化した廃棄艦艇を使って創設された[14]。2013年から14年にかけてのウクライナ危機によって、ウクライナ海軍は解体された[15]。海軍の約70%がロシアに接収され、2014年3月以前の15,470人のうち、2015年のウクライナ海軍の兵力はわずか6,500人となった[16]。同様に、ロシアはすべての海軍が必要とする重要なインフラ(訓練施設、造船所、修理工場、補給基地)を手に入れた[17]。ウクライナ海軍の残党はオデッサやその他の港に逃げ込んだ[18]。
2022年2月のウクライナ侵攻は、ロシア海軍に主導性を与えた。ロシア海軍はウクライナ南部の陸上作戦を支援し、ウクライナ沿岸の封鎖を確立するために迅速に動いた[19]。この部隊は、アゾフ海の海上統制を確立し、陸上攻撃巡航ミサイルによる攻撃を実施し、ヘルソンに進攻するロシアの地上軍に防空を提供し始めた。スネーク島はウクライナ南東部沿岸22マイルの沖合にある戦略的だが脆弱な前哨基地で、侵攻当日に占領されたが、13人のウクライナ軍守備隊が降伏拒否をしたことで有名になった[20]。
ウクライナは直ちに海上防衛の改善に着手した。3月24日、アゾフ海にあるロシア占領下のベルディアンスク港への弾道ミサイル攻撃により、アリゲーター級揚陸艦「サラトフ戦車(tank Saratov)」が弾薬を積んだまま沈没し、他の2隻の船と付近の物資にも被害が及んだ。4月13日、ウクライナはロシアの黒海旗艦「モスクヴァ(Moskva)」に対して組織的な攻撃を行い、翌日、セヴァストポリに曳航中の同艦を沈没させた。この攻撃では、トルコ製のバイラクタルTB2(Bayraktar TB2)無人偵察機を使用し、ウクライナのR-360ネプチューン(R-360 Neptune)巡航ミサイル2発が「モスクヴァ(Moskva)」を攻撃し、モスクヴァ(Moskva)の防空網を囮にして大きな損害を与えた[21]。5月初旬、ウクライナ軍はスネーク島沖の船舶を攻撃した[22]。ドローンによる3回の攻撃で、2隻の哨戒艇が破壊され、水陸両用船と兵站船が損傷した[23]。これらの攻撃は、2月から続いていた定期的な航空攻撃に加えて、6月下旬にはスネーク島の避難を余儀なくした[24]。
こうした行動の結果、ロシア海軍はウクライナ沿岸部から撤退し、ヘルソン州のロシア陸上部隊への海上支援は打ち切られた。10月29日、セヴァストポリ港で海洋作戦に新たな展開が生じた。ウクライナの無人航空システム(UAS)と無人水上艇(USV)による調整攻撃が港湾防衛に侵入した。水上攻撃は、黒海艦隊の新旗艦であるロシアのフリゲート艦アドミラル・マカロフ(Admiral Makarov)と他の2隻の艦艇に損害を与えた[25]。ロシア艦隊はセヴァストポリ港の防衛を強化し始めたが、2023年3月と4月にウクライナが無人水上艇(USV)を使用した2回のさらなる攻撃を抑止することはできなかった[26]。
ロシアとウクライナの両国で実施された海上作戦を分析した結果、3つの発見があり、その結果、将来の軍種部隊、統合部隊、多国籍部隊の能力に関する提言が導き出された。
発見その1:近海における沿岸の海上統制
沿岸の海上統制(sea control)の確立と維持は、海上の側面を守る。陸上に近い海上統制(sea control)/海上拒否(sea denial)は統合部隊を防護し、海洋のインテリジェンス・監視・偵察・ターゲッティング(ISR-T)と海上の火力遂行能力を提供する。沿岸地域とは、海岸から海へ、海から陸へと広がる空・海・陸・電磁スペクトラム(EMS)の地域であり、軍事部隊と海軍部隊が伝統的な物理的ドメインを越えて、またそのドメイン内で作戦を行う場所である。
ウクライナ軍の海戦(naval war)の第一の要件は、前線を守る陸上部隊を出し抜く水陸両用作戦を防ぐため、海岸線を確保することである。敵が保持する領域に対する水陸両用作戦は、あらゆる軍事的取組みの中でも最も複雑で厳しいもののひとつである。水陸両用部隊は、戦闘においても、複雑な船から陸への移動においても、高い質と能力(competent)を備えていなければならない。水陸両用強襲揚陸艦も同様である。作戦を成功させるには、戦場を孤立させ、防御部隊による即時の増援を阻止し、侵攻艦隊を防衛するために、水陸両用作戦区域におけるほぼ全面的な航空優越(air supremacy)と海洋優越(maritime supremacy)が必要である。支援船は、陸上での戦闘力を迅速に増強できなければならない。支援部隊への脅威は、貴重な支援艦艇を沈没させたり、損傷させたり、増強の遅れを強いるかもしれない。
上陸しそうな地域の海側で防御的な機雷設置を行えば、近海の沿岸海上統制を達成できる(上陸海岸は、兵員、車両、貨物の搬入のために一定の物理的・水路的特性を備えていなければならない)。ミサイルや魚雷を搭載した高速哨戒艇のような小型攻撃艇は、致死性の火力を発揮できる。このような艇を発見し、対抗するのは難しい。移動可能で隠蔽可能な陸上を基盤とする対艦ミサイルは、水陸両用タスク・グループや支援部隊にとって特に困難な脅威である。侵略者の航空統制や支援に対抗できる防空も重要である。最後に、砲兵と移動型増援部隊の支援を受けた地上部隊による堅固な海岸防衛は、最初の上陸と上陸後の宿営地形成に対抗することができる。上記はすべて、効果的な指揮・統制(C2)能力と、攻撃地点からできるだけ遠くを防衛するための適切なインテリジェンス・監視・偵察・ターゲッティング(ISR-T)を備えていなければならない。
発見その2:沿岸域を超えた海上統制の拡大
沿岸から海上に海上統制(sea control)を拡大することで、作戦範囲が広がり、敵対者の部隊運用の選択肢が制限される。統合部隊の作戦範囲を、沿岸を越えて海上に拡大することは、敵対者の海洋の安全を脅かし、友軍部隊に拡張スタンドオフまたは接近阻止/領域拒否を提供する。敵対者が沿岸部に接近することを望むなら、敵対者は縦深防衛部隊の配備を撃破しなければならない。
海上統制(sea control)をさらに海上に拡大することは、沿岸安全保障(coastal security)の論理的な延長である。接近阻止/領域拒否という言葉は、多くの軍事や国家安全保障の専門家にとって馴染み深いものである[27]。海上統制(sea control)と海上拒否(sea denial)を拡大することは、敵対者に対して接近阻止/領域拒否を行使する方法である。「接近阻止(anti-access)」とは、作戦地域内への敵対者の移動を制限または阻止することである。「領域拒否(area denial)」では、名目上は友軍の統制下にある地域で、敵対者の部隊をリスクにさらす。領域拒否(area denial)は、海洋環境における海上拒否(sea denial)と密接な関係がある。しかしこの時点で、海上統制(sea control)と海上拒否(sea denial)は意味を混同し始める。軍隊は、敵がある地域で作戦する能力を拒否するのか?軍隊は防衛作戦を行うために地域を統制しているのか?この発見では、海上統制(sea control)のよりポジティブな目標が使われている。海上統制(sea control)とは、地上、地下、空中、電磁スペクトラム(EMS)の各次元で防衛作戦を行う能力を意味する。遠距離海上統制(distant sea control)の遂行とは、インテリジェンス・監視・偵察・ターゲッティング(ISR-T)を射程距離で実施する能力だけでなく、岸から離れた敵対者の艦船運航を打撃する能力を持つことを意味する。理想的なのは、これらの能力が発揮され、敵に敵部隊をリスクにさらして友軍部隊の統制域(一般に「兵器交戦域(weapon engagement zone)」と呼ばれる)に侵入する決心をするように強制することである[28]。
沿岸域を超えた海上統制(sea control beyond the littoral)とは、敵対者が陸上ターゲットの距離内で作戦することを防ぐことを意味する。敵対者が友軍の陸上ターゲットをリスクにさらすことは、効果的に防ぐ。さらに、友軍部隊はほぼ同じ方法で、部隊の海上後方連絡線を防護する作戦を実施することができる。沿岸域を超えた海上統制のための第一の要件は、船舶や航空機の探知、分類、識別、追跡を行う監視体制(surveillance regime)を整えることである。これらの活動は通常、陸上レーダー、電子支援手段(EMS監視・収集システム)、海上哨戒機(有人・無人の両方)、水上・潜水艦哨戒、そして可能であれば宇宙を基盤とするアセットという形で、能動的・受動的センサーの組み合わせによって達成される。監視する地域が広ければ広いほど、監視を行うプラットフォームの能力も高くなる必要がある。理想的なのは、この地域を常時監視することだが、常時監視が不可能な場合は、定期的に監視する効果的なシステムを作ることもできる。第二の要件は、海洋のターゲットを打撃する能力である。これは、(競合するEMS環境において)ターゲットと背景の海上航行を識別する指揮・統制(C2)構造と兵器システム、および海上火力を遂行するために必要な弾薬を有することを意味する。海洋火力は、陸上から(ロシア海軍旗艦「モスクヴァ(Moskva)」の沈没が最初の例)だけでなく、航空機、水上軍艦、潜水艦(有人、無人を問わず)からも遂行できる[29]。ロシア・ウクライナ戦争における無人水上艇(USV)の使用は特に注目に値する。
発見その3:無人水上艇
セヴァストポリのロシア艦隊と海軍施設に対するウクライナの攻撃は、戦争における、そしておそらく将来の海軍作戦の遂行における分岐点となる出来事だった。2022年10月29日、7~9隻の小型無人水上艇(USV)がセヴァストポリのロシア海軍基地に侵入し、攻撃を仕掛けた[30]。無人水上艇(USV)には約8機の無人航空機(UAV)が同行していた。フリゲート艦1隻(アドミラル・マカロフ(Admiral Makarov))と掃海艇少なくとも1隻が損害を受けた[31]。
必要性が発明の母となる環境において、ウクライナ軍は海での戦争に非対称的なアプローチをとるようになっている。ウクライナ軍は、ロシア海軍と直接交戦できるような大型の従来型の海軍艦艇を欠いているため、即席で資金を調達し、能力の高い小型の無人水上艇(USV)を建造した。これらの艦船は、インテリジェンス・監視・偵察・ターゲッティング(ISR-T)、部隊防護、火力の発揮など、沿岸域やそれ以外でも大きな優位性を提供する。
無人水上艇(USV)は、有人艇に比べていくつかの優位性がある。乗組員に必要な空間が不要になったことで、小型化とコスト削減が可能になり、脅威の高い環境で乗組員が危険にさらされる心配もなくなった。安全な通信リンクを備えた高品質のセンサーを使用することで、有人船舶と同様の指揮・統制(C2)能力を提供する。無人水上艇(USV)には、遠隔操作型、半自律型(マン・オン・ザ・ループ)、完全自律型がある。完全に自律的な運用は、電磁シグネチャを大幅に減らすだろう。セヴァストポリで使用されたような小型無人水上艇(USV)は、シルエットが極めて小さく、レーダー反射の少ない素材を使用すれば、事実上探知されない。相手部隊の目視範囲内で運用する場合でも、低いシルエットと偽装塗装によって、発見範囲と確率を大幅に減らすことができる。ウクライナは、このような無人水上艇(USV)を100機建造する計画と、25万ドルの単価を調達するためのクラウドファンディング・キャンペーンの両方を持っている[32]。
無人水上艇(USV)は、海上統制作戦(sea-control operations)と海上拒否作戦(sea-denial operations)において重要な役割を果たしている。従来の海軍艦艇は、ターゲットの防御も圧倒する多数の小型無人航空機(UAV)で可能な群れ戦術に対抗するようにはデザインされていない。米海軍は、イランの革命防衛隊海軍がホルムズ海峡付近で大量の小型高速攻撃機を使用する可能性を懸念している[33]。無人水上艇(USV)の大型化は可能であり、大型化によって能力容量と耐久性が向上する。米海軍の分散型海上作戦のコンセプトでは、争いの多い海洋環境でインテリジェンス・監視・偵察・ターゲッティング(ISR-T)と指揮・統制(C2)を提供するために多数の無人水上艇(USV)を必要としている[34]。
無人艇は水上艦隊に限らない。海軍は、海中インテリジェンス・監視・偵察・ターゲッティング(ISR-T)、海洋火力、機雷設置のための能力を大幅に拡大することが期待される無人海中艇で大きな進歩を遂げている。無人海中艇が海上統制と海上拒否に与える影響は明らかだ[35]。
提言事項と結論
海洋ドメインでの作戦は、海軍に限定されるものではない。ロシア・ウクライナ戦争は、沿岸部および沿岸部を超えた空、陸、海、そして電磁スペクトラム(EMS)の動的な統合(一体化)を示している。この戦争で海洋作戦を遂行する上で重要なのは、ウクライナが海上統制と海上拒否を行使するために革新的で即興的な能力を持つことである。ウクライナは、通常型の海軍力を持たないため、沿岸防衛とロシア軍を距離を置くための非対称海上作戦を強いられている。これらの戦略は主に、インテリジェンス・監視・偵察・ターゲッティング(ISR-T)のための無人航空機(UAV)の使用、対艦ミサイルや無人水上艇(USV)の運用を特徴としている。ウクライナがとっている作戦アプローチには、統合(一体化した)指揮・統制(C2)、海洋インテリジェンス・監視・偵察・ターゲッティング(ISR-T)、海上火力の発揮という3つの重要な能力が必要である。
これらの能力のうち最初のものは、すべてのドメインにわたって、そしてできれば同盟国やパートナーとも統合(一体化)できる、強固で復元性のある指揮・統制(C2)システムが必要である。将来的には、人工知能(AI)がより正確な画像をより迅速に提供し、センサーとシューターをリンクさせて意思決定を支援する。有能なインテリジェンス・監視・偵察・ターゲッティング(ISR-T)体制は、電磁スペクトラム(EMS)を含むすべてのドメインでセンサーを提供する。海岸に近い場所でより密に、ほぼ常時監視を行うレイヤー化されたアプローチは、小型ボート、無人水上艇(USV)、無人航空機(UAV)のような、より小型でステルス性の高いプラットフォームを防御する。不審な接触を調査するための水上パトロール(有人または無人)によってバックアップされる陸上レーダーやパッシブ・センサーは、キューイングに適している。ハイドロフォン・アレイ(直線配列の受波器)のような海上パッシブ探知機のネットワークは、海底環境を網羅することができる。海上では覆域密度が下がる可能性があり、より長距離の海上哨戒航空隊や、より長時間の水上哨戒艦艇が潜在的な脅威を探知・識別することになる。3つ目の能力は、海洋での海上・海中・空中からの火力発揮能力である。地対地および地対空ミサイルシステムは、沿岸防衛のための短距離(そして安価な)システムと、沿岸を越えて到達し、海上拒否を行うことができる長距離システムの混合を使用して、この能力を提供するだろう。
米陸軍にとって、ロシア・ウクライナの海洋戦争の評価から得られる発見と提言は単純明快だ。陸上戦力は、沿岸や海上での海上統制(sea control)に大きな影響を与えるだけでなく、海洋ドメインで作戦する際にいくつかの大きな優位性をもたらすことができる。1つ目は残存性である。よく訓練され、よく装備され、よく分散された、掩護、隠蔽、欺瞞(特にEMSにおいて)に長けた移動型の地上部隊は、インテリジェンス・監視・偵察・ターゲッティング(ISR-T)と致死性の火力を沿岸部やそれ以遠に提供することができる。敵対者の部隊は、探知、ターゲット、交戦、破壊が困難な地上部隊の範囲内で作戦することを警戒するだろう。復元性のある統合指揮・統制(C2)システムは、正確で包括的な共通作戦画像(COP)を、規模、距離、指揮階層で致死性・非致死性効果を与えることができる統合火力ネットワークに供給することができる。地上部隊の第二の優位性は、同盟国やパートナー部隊と統合(一体化)して、重要な指揮・統制(C2)、インテリジェンス・監視・偵察・ターゲッティング(ISR-T)、および火力能力を提供できることである。パートナー諸国は、200海里の排他的経済水域(EEZ)の限界まで及ぶ海洋権益を持っている。ほとんどのパートナー諸国は、自国の資源に対する管轄権をはるか沖合まで行使する能力を持っていないため、排他的経済水域の侵害や、中華人民共和国の場合は南シナ海での違法な主権主張によって、この地域の国々の権利を侵害している。米陸軍は、戦域安全保障協力と主要パートナーとのほぼ恒常的な演習参加に粘り強く取り組むことで、時間をかけて重要な沿岸海上統制と海上拒否能力を開発することができる。米陸軍がマルチドメイン作戦(MDO)とマルチドメイン・タスク部隊(MDTF)編成に重点を置いていることは、米陸軍が海洋安全保障上の問題に対処するために、統合部隊だけでなく同盟国やパートナーにも適切な能力を提供できることを示している。
ノート
[1] Merriam-Webster Dictionary, s.v. “ littoral,” n.d., accessed on July 30, 2023, https://www.merriam-webster.com/dictionary/littoral.
[2] Joint Chiefs of Staff ( JCS), Joint Campaigns and Operations, Joint Publication 3-0 (Washington, DC: JCS, 2022), IV-40.
[3] Julian S. Corbett, Some Principles of Maritime Strategy (Annapolis, MD: US Naval Institute Press, 1905), 94.
[4] Alfred Thayer Mahan, Naval Strategy Compared and Contrasted with the Principles and Practice of Military Operations on Land: Lectures Delivered at US Naval War College, Newport, RI, Between the Years 1887 and 1911 (Boston: Little, Brown and Company, 1911), 189, 199, 254.
[5] Encyclopedia Britannica, s.v. “Black Sea,” n.d., accessed on July 25, 2023, https://www.britannica.com/place/Black-Sea.
[6] Thomas A. Brooks, “Turkey, the Montreux Convention, and Russian Navy Transits of the Turkish Straits,” Proceedings 148, no. 3 (March 2022): 429; and Alpasian Ozerdem, “ What the Montreux Convention Is, and What It Means for the Ukraine War,” Conversation (website), March 1, 2022, https:// theconversation.com/what-the-montreux-convention-is-and-what-it-means-for-the-ukraine-war-178136.
[7] Encyclopedia Britannica, s.v. “Montreux Convention,” n.d., accessed on, July 25, 2023, https://www.britannica.com/event/Montreux-Convention.
[8] Nurith Aizenman, “ The Impact of the Ukraine War on Food Supplies: ‘ It Could Have Been so Much Worse,’ NPR (website), February 27, 2023, https://w ww.npr.org/sections/goatsandsoda/2023/02/27/1159630215/the-russia-ukraine-wars-impact-on-food-security-1-year-later.
[9] “Ukraine Agricultural Production and Trade,” Foreign Agricultural Service (website), April 2022, https://www.fas.usda.gov/sites/default/files/2022-04/Ukraine-Factsheet-April2022.pdf.
[10] “The Ukraine Grain Deal: What Has Happened to Food Prices Since It Ended,” BBC News (website), July 20, 2023, https://www.bbc.com/news/world-61759692.
[11] Seth Cropsey, “Naval Considerations in the Russo-Ukrainian War,” Naval War College Review 75, no. 4 (Autumn 2022).
[12] David L. Stein, “Ukraine Hits Headquarters of Russia’s Black Sea Fleet in Sevastopol,” Washington Post (website), September 22, 2023, https://www.washingtonpost.com/world/2023/09/22/ukraine-missiles-f leet-headquarters-sevastopol/.
[13] Steven Erlanger, “Russia and Ukraine Settle Dispute over Black Sea Fleet,” New York Times (website), June 10, 1995, https://www.nytimes.com/1995/06/10/world/russia-and-ukraine-settle-dispute-over-black-sea-fleet.html.
[14] Mykhailo B. Yezhal, “The Birth of the Ukrainian Navy,” USNI News (website), March 2000, https://www.usni.org/magazines/proceedings/2000/march/birth-ukrainian-navy.
[15] Greg Myre, “Ukraine Struggles to Rebuild a Navy Destroyed by Russia,” NPR (website), July 28, 2023, https://www.npr.org/2023/07/28/1190544651/ukraine-rebuild-navy-destroyed-by-russia.
[16] Ihor Kabenenko, “Large Russian Land-Air-Sea Exercises in Crimea Highlight Vulnerabilities in Ukrainian Navy and Coastal Defense,” Jamestown Foundation (website), April 12, 2017, https://jamestown.org/program/large-russian-land-air-sea-exercises-crimea-highlight-vulnerabilities-ukrainian-navy-coastal-defense/; and Marc Santora, “How Ukraine, with No Warships, Is Thwarting Russia’s Navy,” New York Times (website), November 12, 2023, https://www.nytimes.com/2023/11/12/world/europe/ukraine-navy-admiral-black-sea.html.
[17] Megan Eckstein, “After 2014 Decimation, Ukrainian Navy Rebuilds to Fend Off Russia,” Defense News (website), August 9, 2021, https://www.defensenews.com/naval/2021/08/09/after-2014-decimation-ukrainian-navy-rebuilds-to-fend-off-russia/.
[18] Eckstein, “Ukrainian Navy Rebuilds.”
[19] B.J. Armstrong, “The Russo-Ukrainian War at Sea: Retrospect and Prospect,” War on the Rocks (website), April 12, 2022, https://warontherocks.com/2022/04/the-russo-ukrainian-war-at-sea-retrospect-and-prospect/.
[20] Armstrong, “War at Sea.”
[21] Tayfun Ozberk, “Analysis: Chain of Negligence Caused the Loss of the Moskva Cruiser,” Naval News (website), April 17, 2022, https://www.navalnews.com/naval-news/2022/04/analysis-chain-of-negligence-caused-the-loss-of-the-moskva-cruiser/.
[22] “Video Shows Ukrainian Drone Destroying Russian Patrol Ship off Snake Island, Defense Ministry Says,” CBS News (website), May 2, 2022, https://www.cbsnews.com/news/ukraine-drones-destroy-russian-patrol-ships-snake-island-defense-ministry-says/.
[23] “Video Shows.”
[24] Olga Voitovych, Anna Chernova, and Tim Lister, “Russian Forces Have Withdrawn from Snake Island. But Both Sides Give Different Accounts,” CNN (website), June 20, 2022, https://www.cnn.com/2022/06/30/europe/snake-island-russia-ukraine-invasion-intl/index.html.
[25] H. I. Sutton, “ Why Ukraine’s Remarkable Attack on Sevastopol Will Go Down in History,” Naval News (website), November 17, 2022, https://www.navalnews.com/naval-news/2022/11/why-ukraines-remarkable-attack-on-sevastopol-will-go-down-in-history/; and Luke Harding and Isobel Koshiw, “Russia’s Black Sea Flagship Damaged in Crimea Drone Attack, Video Suggests,” Guardian (website), October 30, 2022, https://www.theguardian.com/world/2022/oct/30/russias-black-sea-f lagship-damaged-in-crimea-drone-attack-video-suggests.
[26] H. I. Sutton, “New Defenses Show Russia on Defensive in Sevastopol as Ukraine Attacks,” Naval News (website), April 24, 2023, https://www.navalnews.com/naval-news/2023/04/new-defenses-show-russia-on-defensive-in-sevastopol-as-ukraine-attacks/.
[27] “China’s Anti-Access Area Denial,” Missile Defense Advocacy Alliance (website), August 24, 2018, https://missiledefenseadvocacy.org/missile-threat-and-proliferation/todays-missile-threat/china/china-anti-access-area-denial/.
[28] Gary Lehmann, “Fight inside an Adversary’s Weapons Engagement Zone,” Proceedings 145, no. 4 (April 2019): 394.
[29] Ozberk, “Analysis.”
[30] Mariano Zafra and Jon McClure, “Sea Drones and the Counteroffensive in Crimea,” Reuters (website), July 17, 2023, https://www.reuters.com/graphics/UKRAINE-CRISIS/CRIMEA/gdvzwrmrlpw/.
[31] Harding and Koshiw, “Russia’s Black Sea Flagship.”
[32] Sam LaGrone, “Ukraine Launches Crowd Funding Drive for $250K Naval Drones,” USNI News (website), November 11, 2022, https://news.usni.org/2022/11/11/ukraine-launches-crowd-funding-drive-for-250k-naval-drones.
[33] Mehmet Cem Demirci, “How the U.S. Navy Can Defeat Iran’s Swarm Attacks?,” Naval Post (website), May 29, 2021, https://navalpost.com/how-the-u-s-navy-can-defeat-irans-swarm-attacks/.
[34] Megan Eckstein, “US Navy More Certain of Role for Medium Surface Drones Following Tests,” Defense News (website), January 12, 2023, https://www.defensenews.com/naval/2023/01/12/us-navy-more-certain-of-role-for-medium-surface-drones-following-tests/.
[35] Megan Eckstein, “ What’s Ahead for Navy Unmanned Underwater Vehicle Programs?,” Defense News (website), November 29, 2022, https://www.defensenews.com/naval/2022/11/29/whats-ahead-for-navy-unmanned-underwater-vehicle-programs/.