マルチドメイン作戦(MDO)を「行う」のは誰か? (modern war institute)
MILTERMでは、米陸軍のマルチドメイン作戦に関する記事をいくつか紹介してきたところである。また、2022年10月に公表された「FM 3-0 Operations」を付録部分を除いて、以下のとおり紹介してきている。
ここで紹介するのは、「Modern War Institute」のサイトに投稿された記事である。この記事は現役の米陸軍大尉によるもので、戦術レベルの視点でマルチドメイン作戦(MDO)を考察しているものである。マルチドメイン作戦(MDO)における各部隊階層の役割や「multidomain operations」と「operating in multiple domains」の違いなどに関して、「FM 3-0 Operations」を解釈したうえで鋭く指摘しているものである。この指摘を読み、上記の「FM 3-0 Operations」の各章を読むとまた違った理解が得られるのかもしれない。(軍治)
マルチドメイン作戦(MDO)を「行う」のは誰か?マルチドメイン作戦(MDO)は米陸軍の戦術部隊にとって何を意味し、何を必要とするのか。
WHO “DOES” MDO? WHAT MULTI-DOMAIN OPERATIONS WILL MEAN FOR—AND REQUIRE OF—THE ARMY’S TACTICAL UNITS
Rebecca Segal | 03.10.23
レベッカ・セガール大尉は野戦砲兵士官で、アマースト大学を卒業し、マサチューセッツ州出身である。
記載された見解は著者のものであり、米国陸軍士官学校、陸軍省、国防総省の公式見解を反映するものではない。
画像:ジュリアン・パドヴァ(Julian Padua)3等軍曹 |
「無線通信が拒否され、携帯電話を使うと殺され、GPSが機能しているとしても不正確な情報を提供しているかもしれない環境で活動する覚悟が必要だ」。
このような訓練指導は、2014年に予備役将校訓練(Reserve Officers’ Training Corps :ROTC)を通じて、初めて野外実動演習を行ったときから聞いていた。その時点では、地図とコンパスを使った陸上ナビゲーションや暗号化された無線操作の訓練を頻繁に行うことを正当化する意味合いが大きかったように思う。最近では、米陸軍の新しい作戦コンセプトであるマルチドメイン作戦(multidomain operations :MDO)を説明するために使っている人を見かけるようになった。
この一連の環境特性は、米陸軍の全体的な作戦コンセプトの基本的な基礎を示すと同時に、最下層の部隊が直面する課題を記述し、全体像と小部隊の活動の間に、ある意味で結合組織(connective tissue)を提供していることは重要である。
しかし、作戦コンセプトから戦術への転換は、まだ十分に検討されていない。マルチドメイン作戦(MDO)を、戦術的な闘い(tactical fight)に重点を置く旅団戦闘チームレベルやそれ以下にどのように変換するのだろうか。
米陸軍が最近発表したフィールドマニュアル(FM)3-0「作戦」では、全ドメイン(all domains)で常に接触し、敵対者は弾薬として使用するデータを収集し、聖域がないような作戦環境(operating environment)を説明している。直接火力や間接火力の兵器圏外にいても、宇宙やサイバーの脅威から安全であることを意味しない。
前線の作戦基地に戻って、接触がないと合理的に考えることは、もはやできない。さらに、敵対者の能力への投資により、接触しているときにドメインの優越(domain superiority)を持っていると考えることはもはやできない。
敵対者は、我々がいつでもどこでも監視の危険にさらされ、潜在的に接触できるように、攻撃的・防御的なネットワークを構築している。ネットワークは全ドメイン(all domains)で一体化され、我々のターゲッティングに対してより強く、我々をターゲッティングする上でより致命的なものとなっている。このような現実に対処する緊急の必要性を認識した米陸軍は、FM 3-0を頂点とする闘い方(how we fight)への変革を推進した。
マニュアルの序文で、米陸軍参謀総長のジェームズ・マコンヴィル(James McConville)米陸軍大将は、あらゆる階層の指導者がマルチドメインの原則を理解し、そのフォーメーションに適用することを強く求めている。マルチドメイン作戦(MDO)は、エアランド・バトル(AirLand Battle)、フル・スペクトラム・オペレーション(Full Spectrum Operations)、ユニファイド・ランド・オペレーション(Unified Land Operations)といったこれまでのコンセプトを進化させたものである一方、戦術レベルも含めて根本的に異なる考え方が必要である。
例えば、自分の位置を隠すために必要なことがある。スピーカーの周りに転がっているポテトチップスの袋の振動を高速ビデオで撮影し、部屋の中で何が話されているのかを聞き取ることができる機能がある以上、フェイス・ペイントとうまく配置された棒で偽装するだけでは全く不十分である。
新コンセプトの重要な側面の1つは「コンバージェンス(convergence)」であり、敵対者の一体化された防御・攻撃能力を攻撃するための米陸軍のソリューションである。「FM 3-0によると、「コンバージェンス(convergence)とは、システム、フォーメーション、意思決定者、または特定の地理的領域(geographic area)に対して効果を生み出すために、いかなるドメインにおける決定的な地点の組み合わせに対して、複数のドメインと階層からの能力を協調的に運用することによって生まれる結果である」。
コンバージェンス(convergence)のコンセプトの鍵は、複数のドメインからの攻撃能力の一体化(integration)と、ターゲットまたはシステムに対する一体化された効果のセットの運用(employment)である。コンバージェンス(convergence)のコンセプトを一体化することは、マルチドメインの作戦環境において攻撃を成功させるために不可欠である。
マルチドメイン作戦(MDO)を戦術レベルで適用するとどのようになるかという問題に戻ると、まずもっと根本的な問題がある。マルチドメイン作戦(MDO)を行うのは誰なのか?この問いは、コンバージェンス(convergence)を構成する2つの重要な要素、すなわち一体化と運用(integration and employment)に分解することができる。
最初の部分は、マルチドメイン作戦(MDO)の一体化はどの部隊階層(echelons)で行われるのか。宇宙、サイバー、空、陸、海の各ドメインの能力を一体化し、同期させ、収束(converge)させるために必要な多大な参謀の仕事を考えると、複雑な作戦の計画策定業務を処理できる参謀が必要である。米陸軍は、軍団をこのための最適な部隊階層(echelon)と評価している。そして、これらの部隊階層(echelons)の下には、マルチドメイン作戦(MDO)を支援するために、複数のドメインにまたがる能力を運用する部隊がある。
FM 3-0では「すべての作戦はマルチドメイン作戦である」とされているが、マルチドメイン作戦(MDO)とマルチドメインで作戦(operating in multiple domains)には違いがあり、その違いを理解することは、各部隊階層が自分の役割を明確に定義し、準備する上で重要である。
繰り返しになるが、マルチドメイン作戦(MDO)にはコンバージェンス(convergence)が必要である。したがって、単に無線を妨害したり、コンピュータをハッキングしたり、ターゲットに野戦砲を撃ったりすることは、たとえ同時に発生したとしても、マルチドメインで作戦(operating in multiple domains)することにはなるが、必ずしもマルチドメイン作戦(MDO)を行うことにはならない。
つまり、敵対者のシステムの無線を妨害しながら、その防御レーダーをハッキングして条件を整え、そのシステムに対して砲撃を行う必要がある。さらに、GPSやコンピュータのような異なるドメインから引き出されるインテリジェンス能力に依存するだけでは、ある作戦が突然マルチドメイン作戦(MDO)としてカウントされることはないだろう。
しかし、マルチドメイン作戦(MDO)とマルチドメインでの作戦(operating in multiple domains)が違うからといって、新しいFM3-0の採用により、師団以下の部隊階層(echelons)が新しい環境でうまく作戦を展開し、マルチドメインにわたる能力を運用できることが重視されないということにはならないだろう。部隊は、全ドメイン(all domains)の能力が低下している環境で作戦することを認識しなければならない。
さらに、戦術レベルの部隊は、全ドメイン(all domains)で常時接触することになり、指揮統制能力に影響を与えるだけでなく、より緊急に、残存性に対する大きな脅威となる。
地形で位置を隠す、頻繁に移動する分散したフォーメーションで行動する、上空にどんな衛星があるのか把握して味方のフォーメーションを観察できるようにする、最低限の無線パワーで通信する、フィールドでの電話を防止するなど、このような環境で生き残る方法を理解するのはほんの一歩に過ぎない。
技術的には、宇宙アセットに依存する通信システムの使用、統合サイバー・アセットの活用、あるいは局所的な電子戦妨害の実施など、以前からマルチドメインで作戦(operating in multiple domains)していたかもしれないが、必ずしもマルチドメイン作戦(MDO)を行うことにはならない上に、これらの実践は、全ドメイン(all domains)で発生する膨大な量の接触を正確に反映していないのだ。
将来的には、我々の新しい作戦コンセプトは、部隊がノン・キネティックなドメイン(nonkinetic domains)で戦術レベルの攻撃能力を得ることで、生き残るだけでなく、任務を遂行できる可能性を高めることを意味するかもしれない。
例えば、ある軍団参謀がマルチドメイン作戦(MDO)の考え方を用いて、空挺作戦の条件を整えることが考えられる。特に、敵対者の防御力や対空能力を無力化するために、利用可能なすべてのアセットを用いて、飛行機を争われた空域(contested airspace)に通すことに焦点を当てる。
これを成功させるためには、軍団は複数のアセットを単一のターゲット・セットに一体化する必要がある。電子戦を使って通信機能を破壊する、敵対する衛星ナビゲーション・システムが機能しないようにする宇宙効果、レーダーシステムのコンピュータへのサイバー攻撃、対空システム自体への準備射撃などの組み合わせが考えられる。
綿密な計画、ターゲット・システムの分析、複数のドメインのレイヤー化により、航空機はその後、空挺部隊を降下させることができるようになる。
地上では、師団、旅団、大隊が全ドメイン(all domains)で接触を経験することになる。-無線は妨害され、銃撃され、GPSは信頼できなくなり、シグネチャを出すたびにいずれのドメイン(every domain)で常に監視されることになる。ただ単に、隠したり、分散させたり、離散させたりして、生き残るために闘っている。
しかし、戦術レベルではそれ以上に、各ドメインで生き残るだけでなく、立ち向かう(fight back)ようにすることが必要だろう。この例では、軍団は能力を一体化してマルチドメイン作戦を行い、師団以下は複数のドメインにまたがる能力を一体化して運用することでマルチドメイン作戦(MDO)に参加している。
FM 3-0が描く新しい作戦環境に備えるには、師団以上のレベルでは、マルチドメイン作戦(MDO)を師団や軍団の戦闘員(warfighters)に完全に一体化することが必要である。それ以下のレベルでは、兵士にマルチドメイン作戦(MDO)で果たす役割を理解させるとともに、重要なこととして、大規模な戦闘作戦(large-scale combat operations)を特徴とする現代の環境において戦場がどのようになるかを想定した現実的な訓練(realistic training)を行うことが必要であろう。
部隊は、戦場の全ドメイン(all domains)で自分たちの姿を確認し、全ドメイン(all domains)で攻撃的、防御的に作戦する方法を理解する能力が必要である。さらに、指導者は、FM3-0が強調している電磁放射マスキング、無人システムに対抗するツール、欺瞞的なエミッターなどの能力を利用し、敵が自分たちにしていることに対して何かできる能力を持つ必要がある。
教室でライフル銃の訓練だけをしていても戦闘にならないし、そのような方法でノン・キネティックな一体化(nonkinetic integration)の訓練だけをしていても戦闘にならない。
どの部隊にどのような能力が必要なのか、例えば戦術的な宇宙とサイバーの能力の内訳を正確に把握し、その能力を適切な人の手に渡すには時間がかかるだろう」。
しかし、適切な統制された環境と訓練イベントで実験を開始しない限り、マルチドメイン作戦(MDO)で成功するために不可欠な部隊からの賛同を得ることはできない。今こそ、このような取り組みをさらに強化し、米陸軍全体に行き渡るようにする時なのである。
予備役将校訓練(ROTC)の野外訓練で言われた、あの否定された環境(denied environment)は、必ずしも間違ってはいない。確かに、次の闘い(next fight)で経験する可能性のあることの一部を描いている。しかし、それは我々が経験することになる接触の幅と量の両方を反映しておらず、マルチドメイン作戦(MDO)のすべてを捉えていないことは確かである。新しいFM 3-0のコンセプトを明確にし、役割を定義することで、我々は作戦環境(operating environment)に対してより良い準備をすることができる。
あなたの役割がマルチドメイン作戦(MDO)の一体化することであれ、マルチドメイン作戦(MDO)の一部として能力を用いることであれ、あるいは単に環境の中で生き残り作戦することであれ、我々は皆、米陸軍の新しい作戦コンセプトの中で果たすべき役割を担っている。これは将来のコンセプトではなく、今起きていることであり、根本的に異なるものであり、我々は準備をしなければならない。