ウクライナから将来の軍隊への教訓(第18章)(The Army War College)
MILTERMで、既に紹介しているウクライナから将来の軍隊への教訓(序章から第1章まで)、(第2章から第3章まで)、(第4章)、(第5章)、(第6章)、(第7章)、(第8章)、(第9章)、(第10章)、(第11章)、(第12章)、(第13章)、(第14章)、(第15章)、(第16章)、(第17章)に続き、最終章の第18章を紹介する。この章は、第17章までに挙げたロシア・ウクライナ戦争から得られる米陸軍の視点からの教訓を、まさに将来に向けての戦力を創造中である中にいかに反映すべきかを総じて論じた内容である。ウクライナ軍が成功を収めている新しい科学・技術の適用の影響や指揮・統制(ミッション・コマンド)、国内体制などの課題に注目が行くところである。(軍治)
行動喚起:ウクライナから将来の軍隊への教訓
Call to Action: Lessons from Ukraine for the Future Force
第2章 1991年から現在までの米国とウクライナの安全保障協力:さまざまな記録
第14章 マルチドメイン作戦にとってのロシア・ウクライナ戦争の教訓
第18章 ウクライナから将来の軍隊への教訓:Lessons from Ukraine for the Future Force
Gabriella N. Boyes, Jingyuan Chen, and Vincent R. Scauzzo
キーワード:戦略的変曲点(strategic inflection point)、米陸軍訓練ドクトリン・コマンド、ロシア・ウクライナ戦争、指揮所(command post)、人材層の厚み(personnel depth)、ミッション・コマンド、同盟国、無人航空システム(UAS)、人工知能、OSINT
ロシア・ウクライナ戦争は、国防総省(DoD)と国家全体への行動の喚起である。大規模戦闘作戦(LSCO)は依然として重要であり、戦争の本質-「別の手段による政治」-は変わっていないが、戦争が行われる方法と手段は進化している。米国は、数十年ぶりにほぼ同等な大規模戦闘作戦(LSCO)、人工知能(AI)とデジタル化された情報技術の戦いへの応用、そして米国の迫りくる脅威となる中国の台頭によって示される変曲点に立っている。
半世紀前、米陸軍訓練ドクトリン・コマンドは、軍がヨム・キプール戦争の教訓から学び、冷戦に勝利するために米軍を活性化させる手助けをした。米陸軍訓練ドクトリン・コマンドは、訓練とドクトリンの開発をすべて1つの司令部に統合(consolidate)し、調整と協力を強化した[1]。今日、マルチドメイン作戦(MDO)が重要性を増し、サイバースペースの悪い行為主体が軍事・民生インフラに脅威を与えるにつれ、戦争のあらゆる側面がますます結びついてきている。かつて米陸軍訓練ドクトリン・コマンドが新世代の戦争に備える軍を支援したように、今、コマンドは多次元的なアプローチを活用して、現代戦(modern warfare)に立ち向かう新世代の指導者を育成しなければならない。
この研究は、米国が将来の大規模戦闘作戦(LSCO)を抑止し、必要であれば勝利することに成功するためには、陸軍の文化を変えなければならないと判明した。技術的に劣る相手との数十年にわたる対反乱(counterinsurgency)によって、米軍は戦闘における情報化時代の影響の多くを無視してきた。非国家主体や小国家が無人技術によって力を行使する能力、通信安全保障に対する脅威の高まり、戦争のテンポの増加、オープンソース・インテリジェンス(OSINT)の複雑化などは、米軍が直面する前例のない課題のひとつである。
技術は物語の終わりではない。戦争は人間の営みであり、ウクライナの戦争は技術の背後にある人間の重要性を浮き彫りにした。現代戦(modern warfare)では、最適な条件下で利用可能な技術を駆使する一方で、その能力が損なわれたり破壊されたりした場合には、独立して機能する軍隊が求められる。さらに、大規模戦闘作戦(LSCO)での成功には、規律ある主導性(disciplined initiative)を取り、迅速に行動し、能力を補完する他の部隊と連携する用意のある、あらゆるレベルの指導者が必要である。最後に、作戦の成功には兵士と市民の協力(cooperation)が不可欠である。米陸軍は陸軍種の必要性、行動、動機を国民に知らせる責任があり、国民は大規模戦闘作戦(LSCO)の任務達成に協力する責任がある。この相互接続性なしには、OSINTも、規模に応じた製造も、物的・人的双方の復元性も不可能である。
この文化的な変化、つまり軍と民間の世界におけるニーズの再優先の再設定には、トップダウンとボトムアップからの賛同を必要とする。訓練ドクトリン・コマンドのマントラにあるように、「勝利はここから始まる(Victory starts here)」。勝利は、すべての市民と兵士が、利用可能なあらゆる能力で自分の役割を果たすことから始まる。この最終章では、戦争の3つの側面-技術、リーダーシップ、銃後(home front)-を検証する。これらは、これまでのロシア・ウクライナ戦争で見られた、軍事的・社会的な文化的変化の主な領域を包括していると我々は考えている。
技術と戦争の性質の変化
ロシア・ウクライナ戦争では、あらゆるドメインで新技術の出現と応用が見られた。新技術には、無人地上車両(USV)や人工知能(AI)から無人航空機システム(UAS)まで、あらゆるものが含まれる。一部の装備品は、世界最大の国防省や防衛省の発注で製造されている。その他の兵器は、民間の小売店で購入する。スターリンク衛星システムのように、さらに多くのハードウェアやソフトウェアが民間部門から提供され、非政府組織の幹部の意向で普及する[2]。新技術を理解し、応用することに失敗すれば、非国家主体、能力の劣る国家、民間の多国籍企業を認めないことに加えて、将来の戦い(future warfare)における敵対者に対する米陸軍の能力を低下させることになる。
非国家主体や劣勢国家の間で新しい技術が普及すれば、十分な訓練を受けていない侵略者でも安全な距離からより致死性の部隊を攻撃し、反撃を生き延びることが可能になるだろう。このような現象は、米国のイラクやアフガニスタンへの介入や、ロシア・ウクライナ戦争でも繰り返し観察されてきた[3]。過去数十年の紛争では、即席爆発装置(IED)が地上部隊に対する主要な低コストの脅威のひとつであったが、現代の大規模戦闘作戦(LSCO)が選択する新しい、安価でローテクな装置はUASである。ウクライナ軍もロシア軍も戦争で無人航空機システム(UAS)を使用し、後方支援地域、指揮所(CP)、戦場での作戦に関するインテリジェンスを効果的に収集した[4]。これらの装置は、一般市民が撮影や趣味として飛行させるために購入するようなドローンで、小型であり、飛行にほとんど訓練を必要としない。無人航空機システム(UAS)はサイズが大きいため、レーダーに映らず、いったん発見されると撃墜が難しい。将来の大規模戦闘作戦(LSCO)やあらゆる形態の戦闘に備えるため、米陸軍は無人航空機システム(UAS)による常時監視の脅威から軍を守るために必要な訓練やツールだけでなく、独自の最前線用無人航空機システム(UAS)に投資しなければならない。こうした投資を行うためには、米陸軍は簡単に飛ばせる無人機を製造する非政府組織や政府系以外の企業と協力しなければならない。無人航空機システム(UAS)は、伝統的に強力な部隊に対して信じられないほどの威力を発揮することが証明されている。したがって、米国は常備軍(standing power)として、無人航空機システム(UAS)のような新しい非従来型の脅威に対抗する方法を学ばなければならない。
米国は、敵対者による新技術の応用に備えるだけでなく、自国の技術的優位性を活用し、民間企業との官民パートナーシップを確立しなければならない。技術が向上し、インテリジェンスの収集と検索がより迅速にできるようになれば、OSINTは地域の情勢に関する情報を即座に軍事指導者に提供する上で、ますます有用になるだろう。兵器や機械の更新の必要性だけでなく、AIを組み込んだインテリジェンス管理システムは、将来の紛争でドメインを超えて情報を発信するために不可欠となる。米国が現在、機密のインテリジェンスに過度に依存していることは、同盟国、一般市民、企業との連携を困難にし、現代の大規模戦闘作戦(LSCO)の戦場で必要な情報の迅速な伝達を阻害している。現在のシステムはすでに、圧倒的な量のインテリジェンスを管理しなければならない。したがって、今後さらに大量のデータを処理するためには、民間企業の支援が不可欠となる。米軍と政府はOSINTに対する考え方を改め、情報量の増加に対応できる人材と機器への投資を増やす必要がある。
インテリジェンスを分析し、応用する重要な理由のひとつは、マルチドメイン作戦(MDO)に活用するためである。空、陸、海、サイバー、そして宇宙が各指揮階層を越えて収束(convergence)することで、軍隊が戦闘で利用できる資源のプールと選択肢の数を拡大することができるが、当然のことながら、さまざまな分野が大きく収束(convergence)することは、それなりの困難を伴う。多くの情報源がマルチドメイン作戦(MDO)の作成に反映され、インテリジェンスに基づいて下される決定には、同様に多様なセンサー、火力、人員のセットが使用され、任務が遂行される。この複雑さは、戦闘のペースを遅くする恐れがある。しかし、現代の大規模戦闘作戦(LSCO)ではこれまで以上に迅速な意思決定が求められる。スピードが求められるからこそ、意思決定プロセスは合理化され、可能な限り技術が適用されなければならない。
インテリジェンス、技術、そしクロス・ドメインのコミュニケーションには、極めて有能な指揮中枢(central hub of command)が必要だ。しかし、ロシア・ウクライナ戦争によって露呈した新たな脅威の中には、偵察用無人航空機システム(UAS)がもたらす脅威に加え、電子戦(electronic warfare)、衛星画像(satellite imagery)、電磁信号探知(electromagnetic signal detection)に対する指揮所(CP)の脆弱性がある。ウクライナの攻撃で指揮所(CP)や指揮官が不釣り合いなレベルの損害を被るのを目の当たりにしてきたロシア側にとって、指揮所(CP)への脅威はアキレス腱だった[5]。センサーは、電波やその他の信号を含む電磁スペクトル(EMS)上の物体を識別し、活動の拠点をより大きなリスクにさらすことができる。従来、米国の指揮所(CP)は、より静止し、より大きく、電磁波のフットプリントに無頓着であった。米国の指揮所(CP)は、活動を監視するために排出技術(emitting technology)にますます依存するようになっている[6]。こうした弱点は、将来の紛争で利用されるだろう。陸軍兵士は、電磁信号を発生させる機器なしで機能できなければならない。米国はロシアの失敗から学び、戦争の性質の変化に適応した解決策を開発しなければならない。
米陸軍は将来の紛争に備えるという難しい課題に直面している。一方では、米陸軍は敵の技術的進歩に後れを取らず、戦闘用の革新的なハイテク装置やシステムを開発し続けなければならない。米陸軍は迅速に行動し、あらゆる情報を駆使して作戦を遂行しなければならない。その一方で、戦場の指導者、兵士、装備には機敏さと柔軟性が求められる。指導者も兵士も、技術だけに頼ることはできない。というのも、技術は妨害電波に弱く、しばしば敵が追跡できる信号を発するからだ。米陸軍は今後、マルチドメイン作戦(MDO)を採用しながら戦闘に参加する場合、この難問に対する解決策を開発しなければならないだろう。
米国は、情報が飽和し、電光石火のごとく変化する現代の戦闘領域(sphere of combat)において、戦争の性質の変化に迅速に対応しなければならない。戦争がより高価になり、敵対者が戦術的、戦略的、作戦的、そしてあらゆる指揮階層でより高度になるにつれ、米陸軍は内部の非効率や技術的な頑迷さを戦場でのパフォーマンスの妨げにしてはならない。
リーダーシップとミッション・コマンド
ロシア・ウクライナ戦争は、火力と技術的適応における柔軟性とスピードの必要性を明らかにしたことに加え、指導者の適応能力、協力能力、コミュニケーション能力が、戦場でも、国内外での戦争努力への支持を集めるときでも、非常に貴重であることを証明した。ロシア・ウクライナ戦争の大規模戦闘作戦(LSCO)で指導者がどのように職務を管理してきたかを検証すると、米軍における開発のためのいくつかの重要なポイントが明らかになる。
ウクライナが旧態依然としたソビエト体制からの脱却を示すあらゆる方法の中で、同国のリーダーシップの手法の再編成と再構築ほどインパクトのあるものはない。ウクライナの軍事指導部は、ミッション・コマンドの哲学を採用し、権限を委譲する西側の方法を取り入れることで、過去10年にわたって現在の戦争に備えてきた。指導者たちが学んだ教訓は、この先何世代にもわたって生き続けるだろう。
ウクライナの上級指導者たちは、敵の戦略と戦術を知っているという特有の優位性もある。指導者たちは学校で戦略と戦術を学んだ[7]。敵の闘い方(methods of fighting)に対する深い理解に欠けることが多い米国にとって、敵に関する知識は改善の可能性がある分野である。ウクライナの上級指導者たちは、ロシアの軍事手法に精通することで、自分たちの手法を改善するための基準点を得るとともに、敵の振る舞いや作戦を理解するためのインテリジェンスでの優位性を得てきた。米国はウクライナの例と孫子の助言「敵を知る(now the enemy)」から学ぶべきだ[8]。
ウクライナはソ連のやり方を熟知しているが、米国やNATOが教え、採用しているリーダーシップの手法の多くを取り入れている。ウクライナが示した戦闘の有効性は、米国が教えているリーダーシップの原則に多くの変更を加える必要はないことを示唆しているが、平時にはより容易に適用する必要があるかもしれない。ウクライナの成功は、指揮・統制(C2)用兵機能の中で作戦を遂行しながら、ミッション・コマンドの哲学を受け入れることの重要性を強調している。米国とその緊密な同盟国は20年以上大規模戦闘作戦(LSCO)の紛争に関与していないが、ウクライナ軍の将官やその他の上級指導者は、米陸軍が支持する原則が大規模戦闘作戦(LSCO)で有効であることを示している。効率的で明確な双方向のコミュニケーションを維持しながら、下級指導者に主導性を取らせることで、ウクライナの上級指導者はロシア軍に対して最大限の効果を発揮している。
これとは対照的に、旧ソ連のトップダウン、マイクロマネジメント的な指導スタイルをいまだに保持しているロシア人は、非効率的で扱いにくい命令型の文化に対処しなければならなかった。ロシア軍には自然な信頼関係(natural system of trust)がないため、ロシアの上級指導者は最前線に行き、ウクライナの火力に身をさらすことを余儀なくされている。その代わり、下級指導者は上級指導者に従わざるを得ない。ロシア軍には効果的な双方向コミュニケーションシステムが存在しないため、作戦がうまくいかないときには上級指導者が直接介入しなければならない。そのことでより戦闘に近づき、より危険にさらされることになる。もちろん、ロシアはミッション・コマンドの哲学を受け入れなくても、過去に軍事的成功を収めている。戦争が進むにつれて、研究者たちはロシア式リーダーシップの有効性を判断するために分析を続けなければならない。というのも、1年闘っただけでは決定的な結論は出せないからだ[9]。
ウクライナがミッション・コマンドの原則を採用することに成功したことを踏まえ、米陸軍は、陸軍種の指揮・統制(C2)システム内に分権化(decentralization)を構造的に受け入れる勇気を示す必要がある。ミッション・コマンドのドクトリンを教え、訓練し、演習し、生活することは、この戦略的変曲点(strategic inflection point)における米国の変革を成功させるための主要な部分となる。ミッション・コマンドの分権化された柔軟な本質は、無人航空機システム(UAS)やAIを含む新技術の課題に対応する米陸軍の準備に役立つ。決定的に重要なのは、分権型指揮・統制(C2)システムは、敵対者が指揮所(CP)をターゲッティングした場合により強いということである。
ミッション・コマンドの成功は、中層から下層の指揮官と将校の訓練の質に最も大きく依存する。入隊当初からミッション・コマンドを教えることは、ミッション・コマンド・ドクトリンを制定し施行し、具体的な文化的変化を生み出すのに役立つ。
米陸軍は、指導者が戦闘での実績に基づいて解任され、交代させられるよう、説明責任を果たす手段を採用しなければならない。ウクライナ陸軍は、戦場以外での実績に基づいて指導者を降格させた例もあるが、現在のところ、ウクライナがどのように上級将校を解任・交代させているのか、その判断基準は確認できない[10]。ロシアの上級指導者は、会戦での実績と同じように、内部的、政治的な理由でその地位を解かれることが多い[11]。ロシア軍(そしておそらくウクライナ軍も)の性質上、解任の判断には疑問が残るが、米軍も頑固で不必要な指導者交代方法とは無縁ではない。ロシア・ウクライナ戦争が終結すれば、ウクライナ軍がどのように上級指導者を管理しているのか、さらなる情報が得られるだろう。その一方で、米国は戦場での実績に基づいて指導者を交代させる方法と資格を再評価しなければならない[12]。
米国は、将来の大規模戦闘作戦(LSCO)に必要なすべての変更を構想し、成功裏に実施することができるかもしれない。しかし、同盟国が戦闘における国際協力のためのドクトリンと準備を適応させる意思がなければ、闘いはそれぞれの国家にとってさらに負担とコストがかかるものとなる。同盟管理は、欧州とアジア太平洋地域における米国のグローバル政策にとって戦略的に不可欠である。地球上で米国ほど強固で影響力のある同盟ネットワークを持つ国はない。ロシア・ウクライナ戦争中、米国はNATOやEUの加盟国と協調し、戦略的に重要な物資をウクライナ軍に届けることに成功した。戦車や無人航空機(UAV)からスティンガーやジャベリンに至るまで、米国とNATOの物資は、持続可能なウクライナの兵站システムを維持する上で不可欠な役割を果たしてきた[13]。
同盟陸軍は、効果的な多国間マルチドメイン作戦(MDO)を実施するために、用兵方法(warfighting way)のあらゆる段階において互いに協力し合う態勢を整えておかなければならない。大規模戦闘作戦(LSCO)に必要な大量の火力のために、NATO軍はNATO諸国の軍隊と紛争中の他国から兵器を受け取る軍隊の両方のために兵器と弾薬の生産を増やさなければならない。パートナー国の武装は安全保障協力に死活的であり、ドクトリン、整備、弾道についての共有化された理解を持つことは、国際的な効率性、相互運用性、戦闘における信頼を高めることになる。多国籍パートナーによる訓練演習や、共同ターゲッティング(combined targeting)・空域管理システムの使用もそうだ。加えて、NATO軍は同盟として将来の戦闘にどのように従事するかについて合意しなければならず、共有火力プラットフォームはNATO軍の合意の重要な部分である。
戦闘前に情報を共有し、信頼関係を築くことが、指揮・統制(C2)とミッション・コマンドの理念をより効果的なものにする。互換性のある指揮・統制(C2)システムを形成することで、米国とその同盟国は、実際の戦時シナリオにおいて高い作戦効率を達成することができる。米国とその同盟国間の装備、資源、兵站の統合(一体化)は、前者の同盟ネットワークの優位性をさらに最大化する。
国際的な団結を育むのに役立つ手法のひとつは、戦争のナラティブを統制することであり、これは米軍と政府がウクライナの経験から学べる分野である。ウクライナは、戦略的かつ意図的にインテリジェンスを公開し、国土を守らなければならない理由を明確にすることで、国民の大きな支持を集めた[14]。紛争が始まってすぐ、先進国のほとんどがウクライナ側についたのは偶然ではない。本書の第2章では、ウクライナとロシアの関係の歴史が描かれている。戦争が始まって以来、ウクライナとロシアとの関係の歴史に対する理解は世界中に広まり、ウクライナの土地はウクライナのものだという主張への支持が高まっている。今後差し迫った、あるいは現在進行中の紛争においても、米国は同様にナラティブを作り出し、統制しようとしなければならない。ウクライナの政府と軍は、公共部門や商業部門と協力し、同国の大義に世界中を巻き込むことに成功した[15]。情報や誤った情報(misinformation)へのアクセスはかつてないほど容易になっている。ソーシャル・メディアを活用し、報道機関と協力し、必要かつ有益な場合には一般市民と連携することで、大規模戦闘作戦(LSCO)を成功させるために不可欠な関係である一般市民や同盟国から、より大きな支持を得ることができる。
米国はウクライナ戦争から価値ある教訓を学んでいる。しかし、米国がウクライナ軍やロシア軍から教訓を得るには、他国の成功や失敗を分析するだけでは不十分である。米国は、この新たな戦略的変曲点(strategic inflection point)から脱却する間に、他国の変化に対応する解決策を見いだし、可能な限り有利な立場に立つ準備ができているかどうかを判断しなければならない。
銃後
軍隊は銃後(home front)のために闘い、戦争はそこで勝敗が決まる。ウクライナ人の愛国心と献身は、彼らの成功と闘う意欲(willingness to fight)に不可欠であった。個人の財産を失ったり、愛する人を失ったりと、個人的な犠牲が大きいにもかかわらず、ウクライナ人は大義への献身によって前進し続けることができるもし米国が将来の紛争で同じようなリスクに直面した場合、銃後(home front)での不屈の精神(fortitude)が不可欠となる。大規模戦闘作戦(LSCO)では社会のあらゆる側面が問われる。従って、米国は維持し、防護し、強化する準備ができていなければならない。軍隊は、敵を打ち負かすのに必要な兵器、インテリジェンス、リーダーシップ、戦略的知性をすべて備えているかもしれないが、その軍隊が守る国民の支持を得なければ、決して勝利することはできない。
今日、米軍は採用の危機に直面している。軍務に就くことを希望しているのは、軍務年齢にある米国人のわずか9%であり、軍務に就く資格があるのはわずか23%である[16]。米国国民は軍と距離を置きつつあり、軍に従軍する人の中には軍人の血を引く人が増えている[17]。数十年にわたる米国の例外主義の後では、数十年の安全を脅威の不在と勘違いしたくなる。現状では、志願兵だけの米陸軍は米国の抑止力を維持するのに苦労しており、この軍種は大規模戦闘作戦(LSCO)が必要とする取組みを維持することはできないだろう。
加えて、米国には大規模戦闘作戦(LSCO)を支える産業基盤がない。ウクライナへの供給でさえ、現在の軍需品製造を上回っている。長年の「ジャスト・イン・タイム配送(just-in-time delivery)」がサプライ・チェーンを弱体化させた[18]。グローバリゼーションは避けられないし、信じられないことではあるが、米国は戦略的産業を意識し、「今日安くても明日は禁輸」という貿易をしてはならない。現在の紛争では、ウクライナは外部の援助に依存している。ウクライナは幸いなことに、パートナー国が積極的に供給を行ってくれているが、それでも大規模戦闘作戦(LSCO)の需要に追いつくのに苦労している。とはいえ、米国が大規模戦闘作戦(LSCO)に関与する場合、他国が自国の兵器を使用する必要がある可能性が高く、将来の敵が補給線を危険にさらす可能性もあるため、外部からの支援は絶対ではない。マイクロチップや軍需品製造のような産業で事業の継続性を確保するためには、米国は、危機時に供給を制限したり、競争者に売却したり、米国に対抗して技術を使用したりする可能性のある国ではなく、自国か、最低でもカナダのようなアクセスしやすく信頼できる同盟国の領土内で製造能力を維持しなければならない。国内では、防衛企業の数を増やし、能力と競争の両方を向上させることが不可欠である。さらに、米国は調達・取得手続きを合理化し、小規模企業からの調達を容易にしなければならない。多様化は、より良い品質、より安い価格、より強力なサプライ・チェーンを意味する。より多くの米国人が防衛インフラの仕事にアクセスできるようになって初めて、米国は大規模戦闘作戦(LSCO)シナリオにおいて自国と同盟国の両方に必要な兵站上の能力容量を持つことになる。
米国国民が直面している課題は、物理的なものばかりではない。多くの場合、サイバー的なものなど目に見えない課題の方がより狡猾である。ロシア・ウクライナ戦争が証明したように、米国の敵対者は民間・軍事インフラを問わずサイバー戦(cyberwarfare)を仕掛ける能力があり、また仕掛ける意思もある。新たなサイバー・ドメインは、民間人が積極的な役割を果たさなければならない転換点となる。サイバーセキュリティは米国のインフラに組み込まれなければならない。バイデン(Biden)のホワイトハウスが提案するように、「ボルトで固定するのではなく、中に入れよう(Bake it in, don’t bolt it on)」[19]。企業や個々の米国人が使用するシステムを近代化し、標準化することは、サイバー攻撃から身を守るのに役立つ[20]。自らの情報を保護し、国家の秘密保護に協力する意欲のある国民だけが、国家安全保障のギャップを埋めることができる。
安全保障はハードウェアやサイバースペースを超えて、人々の心や精神にまで及ぶ。ウクライナ人は、自分たちの独立の遺産、主権の権利、そしてロシアの侵略の本質的な不道徳さと不法性という真実に固執してきた。ウクライナ国民は、脅威が存在そのものであることを知りながら、心を一つ(one heart and mind)にして対応し、それが極度の逆境下でも国内外の支援につながった。応急処置の訓練を受けることからOSINTに貢献することまで、ウクライナ人は戦争の取組みを支援する責任を担ってきた[21]。米国が次の戦争に勝つためには、米国人は共通のナラティブと共通の大義に賛同しなければならない。米国による侵攻の早期警告や、ヴォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領による毎晩のビデオ演説は、ウクライナの大義に対する広範な国際的支持を集めた。このような行動は、指導者や戦争の取組みに対する信頼を高める。米国がほぼ対等なレベルの脅威に直面した場合、米国民の心をつかむことが不可欠となる。
米国は南北戦争以来、国内で戦争の代償を払ったことはない。米国人は、シェルターに座って頭上で爆弾が爆発するのがどんなものか知らない。窓に吊るされた金星を覚えている米国人はほとんどいないし、配給や不足という考え方は米国の消費文化にとっては異質なものだ。暴力、スーパーヒーロー、SF戦争がスクリーンを支配しているとはいえ、愛する人を戦争に送ることの痛みを知っている米国人はほとんどいない。ウクライナでの死傷率は、第二次世界大戦以降、米国が経験したことのないようなもので、ベトナム戦争、アフガニスタン戦争、イラク戦争は比較にならない[22]。米国が大規模な紛争を成功させるには、経済的、制度的、人的なコストに直面する覚悟が必要である。
結論
バジル・リデル・ハート(Basil Liddell Hart)卿は、戦争の目的は「より完全な平和(more perfect peace)」を作り出すことだと述べた[23]。平和は常に不完全なものであり、米国はどの欠陥を許容できるかを決めなければならない。ヨーロッパの多くの国では、その政権がソ連であれナチスドイツであれ、あるいはウクライナの場合はその両方であれ、独裁政権下の平和の記憶が今も残っている。ウクライナ国民の多くは、ナチスやソ連の占領下で独裁政治を経験し、再び独裁政治に耐えることを断固として拒否してきた。ウクライナ国民の勇気と模範は、米国人に今日の戦争に備える勇気を与え、将来の自由を守ることができるはずだ。
ノート
[1] Del Stewart and Benjamin King, Victory Starts Here: A Short 50-Year History of the US Training and Doctrine Command (Fort Leavenworth, KS: Combat Studies Institute Press, 2023), 2.
[2] Michael Sheetz, “Elon Musk’s SpaceX Sent Thousands of Starlink Satellite Internet Dishes to Ukraine, Company’s President Says,” CNBC (website), March 22, 2022, https://www.cnbc.com/2022/03/22/elon-musk-spacex-thousands-of-starlink-satellite-dishes-sent-to-ukraine.html.
[3] Christina Schori Liang, “ Terrorist Digitalis: Preventing Terrorists from Using Emerging Technologies,” Geneva Centre for Security Policy (website), March 15, 2023, www.gcsp.ch/publications/terrorist-digitalis-preventing-terrorists-using-emerging-technologies; and Ori Swed and Kerry Chavez, “Off the Shelf: The Violent Nonstate Actor Drone Threat,” Air & Space Power Journal (August 2020).
[4] Samya Kullab, “How Ukraine Soldiers Use Inexpensive Commercial Drones on the Battlefield,” PBS NewsHour (website), September 26, 2023, https://www.pbs.org/newshour/world/how-ukraine-soldiers-use-inexpensive-commercial-drones-on-the-battlefield.
[5] Kullab, “Inexpensive Commercial Drones.”
[6] Mark Pomerleau, “Army Wants to ‘Reimagine’ Electromagnetic Signature Management,” DefenseScoop (website), October 11, 2023, https://defensescoop.com/2023/10/11/army-wants-to-reimagine-electromagnetic-signature-management/.
[7] Serhii Salkutsan and Al Stolberg, “The Impact of War on the Ukraine Military Education System: Moving Forward in War and Peace,” Connections: The Quarterly Journal 21, no. 3 (2022).
[8] Sun Tzu, The Art of War (Minneapolis: Filiquarian Publishing, 2007).
[9] Mason Clark, The Russian Military’s Lessons Learned in Syria (Washington, DC: Institute for the Study of War [ISW], 2021).
[10] Siobhán O’Grady and Isabelle Khurshudyan, “ Ukraine Demoted Commander Who Gave Interview about Ill-Trained Troops,” Washington Post (website), March 16, 2023, https://www.washingtonpost.com/world/2023/03/16/ukraine-commander-demoted-interview-pessimism/.
[11] “Top Russian General’s Dismissal Reveals New Crack in Military Leadership,” PBS NewsHour (website), July 13, 2023, https://www.pbs.org/newshour/world/top-russian-generals-dismissal-reveals-new-crack-in-military-leadership.
[12] Thomas E. Ricks, The Generals: American Military Command from World War II to Today (New York: Penguin Books, 2013).
[13] Bureau of Political-Military Affairs, US Security Cooperation with Ukraine (Washington, DC: Department of State, December 2023).
[14] “Ukraine Will ‘Fight until the End,’ Declares Zelensky on Independence Day,” Le Monde (website), August 24, 2022, https://www.lemonde.fr/en/international/article/2022/08/24/ukraine-will-fight-until-the-end-declares-zelensky-on-independence-day_5994588_4.html.
[15] “Ukraine Will ‘Fight.’ ”
[16] Michelle Kurilla, “ The President’s Inbox Recap: The US Military Recruiting Crisis,” Water’s Edge (blog), June 16, 2023, https://www.cfr.org/blog/presidents-inbox-recap-us-military-recruiting-crisis.
[17] Kurilla, “President’s Inbox”; and Pew Research Center, The Military-Civilian Gap: Fewer Family Connections (Washington, DC: Pew Research Center, November 2011).
[18] Nancy Benecki, “ Industrial Base Strength Necessary for Future DoD Success,” U.S. Department of Defense (DoD) (website), May 9, 2023, https://www.defense.gov/News/News-Stories/Article/Article/3389621/industrial-base-strength-necessary-for-future-dod-success/.
[19] White House, FACT SHEET: Act Now to Protect against Potential Cyberattacks (Washington, DC: White House, March 2022).
[20] “Executive Order on Improving the Nation’s Cybersecurity,” Cybersecurity & Infrastructure Security Agency (website), n.d., accessed on January 4, 2024, https://www.cisa.gov/topics/cybersecurity-best-practices/executive-order-improving-nations-cybersecurity.
[21] “OSINT for Ukraine,” OSINT for Ukraine (website), n.d., accessed on December 7, 2023, https://www.osintforukraine.com/.
[22] “ Troop Deaths, Injuries in Ukraine War Nearing 500,000 —NYT Citing US Officials,” Reuters (website), August 18, 2023, https://www.reuters.com/world/europe/troop-deaths-injures-ukraine-war-nearing-500000-nyt-citing-us-officials-2023-08-18/.
[23] Basil Liddell Hart, Scipio Africanus: Greater than Napoleon (Cambridge, MA: Da Capo Press, 1926), 152.